表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/19

十五話 貧しい町

 イオリは自身の剣にウルーの肉を突き刺し、そのまま火にかざして焼き続けていた。それは非常に重い上に、常に一定の高さを保たなければならないため、腕の血管が浮き出ていた。


「なぁおい。俺の剣は串か?」


「あんたのせいでしょ?」


「お前が支え木燃やしたせいな?」


「はい。回転」


 くるっと回すイオリ。なんだかんだ言うことを聞きながら肉汁が落ちるまで焼いていた。苦労したとあってかイオリは焼き上がったウルーの丸焼きを美味しそうに頬張る。


 切り分けたりもしない大雑把な丸焼き。その反対側からエリーが当然のようにガブッと噛みついてきた。至近距離で見つめ合う形になり、イオリは思わず顔を赤らめた。


「おいしーっ! ね、イオリ」


「そ、そうだな。めっちゃうまい」


 言い淀みながらウルーの肉を食べきった翌日。二人は野営地を片付け、また歩き出す。時間にしておおよそ半日ほどで目的の町へとたどり着いた。ポツリと、イオリが感想をこぼす。



「人口少なめだなぁ」


 夕闇が迫る村へと、二人は足を運び入れる。エリーの故郷もそんなに大きくはなかったが、それよりも小規模な村を見ながら、彼女は言った。


「そうみたいね。農村部って感じかな。お店も少ないし。居心地は良さそうだけど……でもなーんか、覇気が無いって言うの? 元気がないというか」


 エリーは買い物をしていた中年の女性に声をかける。


「こんにちは。宿屋とかってありますか?」


「えぇ。一つありますよ。珍しいですねこの村に足を運ぶ人がいるなんて。場所はこの大通りに面していて、しばらく歩けば見えてくるはずですよ」


 エリーは小さく頭を下げながらお礼を言いつつ問いかけた。


「ありがとうございます。一つお聞きしたいんですけど、なにかありました?」


「あー……」


 中年の女性は少し困ったような顔をしながら言った。


「それがね。前に勇者様が来たんだけど、催促をされてかなりの大金を渡したんだよ。だからみんな今年はお金がないのさ。


 それに……不幸が重なってね。畑に魔物が現れるようになったのよ。希少な魔物らしいっていうんで、ギルド協会の方から依頼を出してもらってるんだけど……なかなかね。こんな町に来たがるのはいないから……」


「そうなんですね……分かりました。ありがとうございます」


「いいんだよ。この町はなんもないけど、ゆっくりしていってね」



 中年の女性と別れ、エリーとイオリは教えてもらった宿へと足を踏み入れた。店番をしていた女の子がパァーッと顔を明るくする。


「いらっしゃい!! やったぁー! ご飯が豪華になる!!」


 イオリはエリーの顔を見ながら苦笑いする。エリーは名簿に名前を書きながら彼女に話しかけた。


「こんにちは。一部屋なんだけどいい?」


「もちろんっ! まぁー私たちからすれば二部屋取ってほしいとこだけどねー。料金部屋単位だしっ」


「ごめんね……私たちもそんなにお金ないから」


「いいよいいよ! うちの方がお金ないしっ。ていうか二人一緒ってことは……ムフフッ」


 ――コツンッ!! 奥の扉から声を聞きつけて出てきた父親が、背後から女の子の頭を拳骨で軽く小突く。


「セラ。失礼なことを聞くんじゃない」


「いったぁぁぁあ!!」


 エリーは気にしてませんよと手を振った。父親は頭を下げながらセラに部屋を案内してくるように言った。セラはまるで気にしてないという様子で二人を呼び寄せた。


「こっちこっちー! 二階だよついてきて!」


 案内された部屋は質素でシンプル。けれど野営に比べれば豪邸である。エリーとイオリはベッドに腰掛け、緊張の糸をほどいた。


「エリー……部屋っていいな」


「そうねー……野営だと警戒するし」


 イオリは気まずそうにセラに視線を向けた。なぜならセラがドアの前で立ち止まったまま、ずーっと自分たちを見続けているからだ。


「えっと……セラちゃんだっけ。どうかした?」


「いや、いつチューするのかなって」


 イオリとエリーはついお互いを見た。思ったよりも触れそうなほど近い距離に慌てて、バッと距離を取る。そして、ブンブンと顔を振って否定する。


「「しないよ?!」」


「おー。息ピッタリ。そういう関係じゃないの? あっ、ここ壁薄いから気をつけてね?」


 二人は顔を隠すように俯いて、互いに視線を反対側へと移した。イオリはため息をつきながら話題を変える。


「あーこほん。なぁセラ。なんでご飯が豪華って話をしたんだ?」


「あのこと? あれはね。夜ご飯がお客さんに出すのと同じものになるからさっ。最近はご飯も質素でさー。なんかママが全部高いーって嘆いてたし。私は子供だからどうしようもないしって感じ」


「そっか。やっぱ勇者の影響か、魔物のこともあるしな」


 セラは体を大きく傾けて、人差し指を顎に当てた。


「? よくわかんないけど、仕方ないんじゃない? だって勇者様でしょ? 世界の為に戦ってるんだから私たちもできるだけ支援して一緒に戦う。ってだれかが言ってたよ?」


「まぁ……そうなるよな」


 エリーがイオリを見て無言の合図をする。その瞳には、勇者の身勝手なしわ寄せを食っているこの村を、放っておけないという強い意志が宿っていた。イオリは深く頷いた。


「よっしゃ。まぁやるだけやってみるか」


 セラは首をかしげて「なにがー?」と不思議そうに見ていた。



 ――翌日。二人は小さいギルドハウスへと来ていた。エリーが掲示板から依頼書を探していく。指先で一つ一つ読みながら目的の依頼を見つける。


「んー、あっ、これね。ミキューの討伐依頼」


 ベリベリッとその依頼書を剥ぎ取る。自分たち以外に冒険者すらいないギルドハウスに寂しさを感じながら、エリーはそれを持って受付へと向かった。


 コンコンッと机を叩く。机に突っ伏して寝ていた受付嬢がよだれを垂らしながら目を覚ます。あまりにも巨大過ぎる胸がカウンターに乗っていた。


「ん……あら、冒険者?」


 ダウナーな声でそうつぶやく。エリーはチラッとイオリを見た。イオリの視線の先をじーっと追っていく。その巨大過ぎる胸に、イオリの視線が吸い寄せられていった。


 ピキッ、とエリーの額に青筋が浮かぶ。


「ふんっ!!」


 嫉妬と怒りに任せたエリーの拳が、イオリの顎を正確に捉えた。アッパーから始まる流れるような猛攻。受付嬢はぼーっと、イオリが虚空へ殴り飛ばされるのを見ていた。


「おー……すごい。三連コンボ……一度も地面についてない」


 死体のように横たわったイオリを無視してエリーは依頼書を渡す。


「この依頼を受けたいのよ。いい?」


「わー……珍しいですねぇ。ギャンブルですよ?」


「そうみたいね」


 まるでエリーを覗き込むように受付嬢は説明を始める。


「では一応説明を……ミキューはうさぎのような形をした二足歩行モンスターです。数は尋常じゃありません。ですがその肉は極上とも言われます。まぁでも市場にはなかなか出回りませんね。家畜化出来ませんし。


 では本題です。


 彼らは畑の作物を食い荒らしたり……他の魔物の死骸などを放置しています。結果畑などが汚染されている状況です。


 次に、なぜギャンブルか。それはミキューが光り物を好むという特性があるためです。もし巣が分かれば、もしかしたら……いくつかの宝物が見つかるかもしれません……この時に見つかった宝物は討伐したものが所有者となります。


 ですが、当たりを引く確率なんてほとんどありません。よろしいですか? ふぅ……」


 まるで久しぶりに話したかのように受付嬢は疲れを見せて目を伏せた。その間も、床ではイオリが頭をさすりながら未だにうじうじと転がっている。受付嬢は気にせず依頼書にハンコを押して、写しをエリーに渡した。


「それでは頑張ってくださいね」


「えぇ。任せて」


 エリーは横たわっているイオリの近くでしゃがんだ。頭を優しく撫でる。


「ほら、いつまで拗ねてんのよ。行くわよ。外での初依頼なんだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ