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この世界ではお金で生きています 三章6

 三章ロストアイ討伐6


 長めの縄梯子を下り、アレックは地下の地面へと足を付ける。


 周囲は薄暗く、目が慣れるまでは周囲の状況を知ることができない。アレックは右手を上げると照明魔法のライトを唱え、周囲を明るく照らす。


 地下の通路は人の手で掘られた洞窟のような感じになっており、横一メートル、高さ二メートル程の空間に彫られてあった。


「いったい何処に繋がっているのだ」


 生唾を飲み込み、アレックは慎重な足取りで地下通路を歩く。


 暫く地下を歩き続けると行き止まりとなり、横穴だったのが今度は縦穴に変わっていた。そして、神殿から地下に降りる際に使われたのと同じ縄梯子が掛けられており、もうすぐ地上へと出られることを表していた。


 縄梯子を上り切ると天井に辿り着いた。魔法の光を天井に向けて照らすと天井は地面ではなく、円形の鉄板であることが分かった。


 力を振り絞り、鉄板をゆっくりと押し上げる。勢い良く押し上げないのは、この先が何処に繋がっているのかが分からないからだ。もし、この先が犯人が根城だった場合、犯人と鉢合わせとなる可能性だってありえる。そうなった場合は逃げ道が殆どないこの状況では不利でしかない。


 鉄板を二センチ程持ち上げ、周囲を見渡すと雑草が見える。どうやら外と繋がっているようだ。


 僅かに見える隙間からは、長く生長した雑草しか見えず、人の姿は見当たらない。


 周囲には人がいない。そう判断しながらも、アレックは細心の注意を払いながらゆっくりと鉄板を横にずらし、確実に人がいないことを確認すると地上に上がった。


 地上に出ると、前方に二階建ての建物の壁が見えた。


 成長した雑草を邪魔臭く感じながらも、掻き分けて建物の壁の前に進むと壁沿いを歩き、この建物がなんなのかを調べる。扉の前に宿屋の看板が置かれているのが見え、アレックは自分が出てきたのは宿屋の裏であることを知る。


「宿屋の裏、確かにあそこであれば気付かれることなく、穴を掘ることが可能だろうな」


 宿屋の裏は、アレックの腰の長さまでに雑草が生長しており、腰を屈めながら穴を掘れば姿を見られることもない。


 宿屋の裏の雑草に関しては何度もマッシュに注意を促していたが、ズボラな彼は雑草を取り除くことをしなかった。


 雑草が生い茂っている場所は、彼の私有地であり、勝手に雑草を取り除くことが出来ずに今に至る。


 あれだけ長く生長をした雑草の中を歩きたくはない。犯人はその心理をも突いて、あの場所を選んだのだろう。


 これであの穴が何処に繋がっているのかが分かった。次は門番に話しを聞きに行くとしよう。


 そう考え、一歩右足を前に出した時だ。


「おや、代表ではないですか。こんな所で何をしているのですかな」


 突然背後から声をかけられ、アレックは驚くと振り向く。そこには、宿屋の店主であるマッシュが立っていた。


「マ、マッシュか。突然背後から声をかけるではない。心臓が止まるかと思ってしまったぞ」


「ハハハ、すみませんな。で、どうしてこんな所に居るのです」


「そ、それはだな、さ、散歩だ。ロストアイ討伐が気になってだな、居ても立っても居られないいられなくて、身体を動かしたい気持ちだったからな」


「そうですか、散歩ですか」


 マッシュは顎に手を置くと、目を細めてアレックの顔を見る。まるで自分のことを怪しんでいる目付きだ。


「それよりも、お主こそどうしてここに居る。ワシはてっきり避難しているものだと思っておったぞ」


「いやー、最初は避難しようと思っていたのだが、やっぱり宿屋に残っていようと思って、彼らを残して自分だけ避難するのは勝利を信じていないような気がしたので」


 マッシュの様に敢えて避難をしない者も少なくない。


 討伐に出ている兵士達を信じている者、街と共に自信の滅びを選ぶ者、怪我や病気などで家から出ることが出来ない者など理由は様々だ。


「そうか。ワシも彼らの勝利を信じてるぞ。ワシは散歩の続きをしてくる。無事にロストアイの討伐が完了すれば、酒を一緒に飲もう」


 それだけ伝えるとアレックはその場から離れる。


 宿屋の裏にある隠された地下通路について訊こうかとも考えていたが、マッシュが犯人という可能性もある。


 あまり変なことを訊いて刺激しない方が良いだろう。


 宿屋から離れると南門へと向かう。森の奥にある関所はロストアイの出現により、現在封鎖されている。


 余所者がこの街を訪れるのであれば、南門からしか出入りすることができない。


 南門に到着するとアレックは、最近この街に出入りをした人物を尋ねた。


 すると、三人の人物がこの門を通って街に入ったと門番は教えてくれた。


 一人目は見たこともない服装をした長い黒髪に黒色の瞳の女の子。


 二人目はスーツ姿の貴族の出だと言う黒髪に黒色の瞳の若い男性。


 三人目はローブ姿でフードを被り、素顔は見えなかったが、声からして女性であるとのことだ。


 一人目は長い黒髪に黒色の瞳と言う特徴からおそらく、勇樹が榛名と呼んでいたあのお嬢さんだろう。


 二人目の男性も同じく黒髪に黒色の瞳の貴族。黒髪に黒色の瞳と言う特徴から勇樹のようにも思えるが、彼は異世界から来た男の子だ。それに門番は男の子ではなく、男性と表現した。つまり、成人した男性と言うことになる。


 しかし、この街に貴族が来たのであれば、噂ぐらいは広まってもおかしくない。その貴族はこの街を訪れた後、何処に消えた。


 貴族の行方は分からないが、もしかしたら避難所にいる可能性もある。後で避難所に向かってその人物がいるのか確認してみるとしよう。


 三人目に関しては誰も思い浮かばない。


 この街に訪れた人物三人の内、協力者の可能性が高いのは貴族の男とローブ姿の女の二人だ。


 それにしても勇樹のことを門番が知らないのは何故だ?もしかしたら忘れているだけかもしれない。もし、忘れているだけであれば、何かのきっかけで思い出すかもしれない。


 アレックは勇樹の特徴と服装を門番に伝えるが、やはりそのような人物は訪れてはいないと言う。


 では、勇樹はどうやって街の中に入ることが出来たのだ?


 疑問は残るが、他にも調べることはある。


 アレックは次に避難所に向かい、スーツ姿の男とローブ姿の女性がいないかを確認することにした。


 避難所は森の奥にある切り拓いた丘の上になっている。多くの街の住人達がここに避難し、身を寄せ合いながら不安を口にしていた。


「あ、代表お疲れ様です。代表も避難されに来たのですか」


 避難所の警備を担当している兵士が、アレックの姿を見かけると駆け寄り、話しかけてくる。


「いや、気になることがあってな、それを確認しに来ただけだ。また街に戻る。それよりもこの避難所にスーツ姿の男とローブ姿の女性がここにいないか」


「いえ、自分は見かけてはいません。そのような人物であれば目立っているので、見逃すはずがないと思いますが」


「そうか。ではワシは街の人々に声を掛けてから戻るとしよう」


 兵士から離れるとアレックは住民達に話しかけながら情報を聞き出すことにした。


 短い時間であるが、可能な限り住民一人一人に話しかけ、情報収集に取り掛かるが、誰もスーツ姿の男とローブ姿の女性を見た者はいなかった。


 この情報から考えるに、その二人は既にいないか何処かに身を隠している可能性が高い。


 避難住民に紛れて門を出ることさえできれば、簡単に街から出ることが出来るだろう。


 協力者の方は既にいない者として考えた方が良い。


 これだけの情報ではまだ犯人の特定に至っていないが、取り敢えず今ある情報を整理しておこう。


・犯行が行われたのは一昨日の夜、詳細な犯行時刻は分かっていない。


・犯人は結界のことを知っている街の住人の誰かと、火炎系の魔法と氷結系の魔法を使える外部の人間の協力者の二人組。


・破壊された女神像は上半身を失い、下半身の状態となっている。下半身の縁には凍った痕と熱された痕が残っており、協力者が火炎系の魔法と氷結系の魔法を使用することができる者であることの証明になっている。


・見張りの兵士二人は、気が付くと宿屋の前におり、急いで持ち場に戻った。戻った際に神殿の鍵は施錠された状態であることを確認している。


・祭壇の前のタイルの一つは、他のタイルに比べるとふた回り小さく、横にずらすと手を入れることが可能であり、取り外すことができる。


・タイルの重さは一枚十キログラムあり、老人や力の弱い女性では取り外すだけでも一苦労する。


・タイルの奥に隠されていた穴は人一人が通れるぐらいの大きさであり、その穴の先には宿屋の裏に繋がっていた。


・宿屋の裏にある穴は、長く生長した雑草の中心にあり、隠されていた。


・神殿の見張りの兵士は時間差で発動する暗示魔法がかけられており、兵士が接触した人物はサンス、ミーシャ、マッシュ、ガルド、フゥーランド、グループのメンバーである。


・事件が起きる前にこの街を訪れた人物は三人、榛名とスーツ姿の男、ローブ姿の女性。しかし、勇樹がこの街を訪れた時の事を門番は知らない。


・スーツ姿の男とローブ姿の女性は避難する住民に紛れて既に去っている可能性がある。


「今分かるのはこれぐらいであるな」


 今分かるいる情報を整理するとアレックは小さく息を吐く。


 既に犯人に逃げられている可能性がある以上、情報を集めても無駄かもかもしれない。だが、仮に既に犯人に逃げられているとしても事件の真相を知っておきたいのだ。


 アレックは気合いを入れるために両の頬を叩くとプロットの街に引き返した。

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