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この世界ではお金で生きています。三章7

 三章ロストアイ討伐7


「榛名逃げろ!」


 狙いを榛名に定めたロストアイが彼女に接近する中、間に合わないと判断した勇樹は、これから起きるであろう惨事に目を背けた。


 急接近するロストアイの大口に、榛名は咄嗟に身動きすることができなくなり、その場に硬直してしまった。


「えっ!」


 榛名は急に態勢を崩され、地面に倒れた。


 タコヤキの自動防御オートガードが発動し、使用者の身の危険を感じた球体が榛名の背中にぶつかり、態勢を崩して攻撃を回避した榛名に変わって球体の一つがロストアイの牙の餌食となる。


 ロストアイの牙が球体に食い込んだ刹那、球体が光ったかと思うと爆発し、ロストアイの口内にダメージを与えた。


 突然口内に起きた爆発の痛みにロストアイは耐えきれなくなると悲鳴を上げる。


「榛名!大丈夫か」


「ええ、ですがタコヤキが」


「タコヤキは榛名を救うという武器としての役目を終えんだ。残念だけど、悲しんでいる暇はない」


「そうですね、タコヤキは榛名を守るために犠牲になったのですよね。タコヤキの命を無駄にしないためにも必ずロストアイを討伐しなければ」


 タコヤキは無機質の武器であり、命はない。だけど、武器にも魂が宿ると言われている以上、命はないが、生きているとも言えるだろう。


「タコヤキは後四機、もうタコヤキを失うことは決してしません。もう失敗を恐れない。榛名には背中を守ってくれる信頼できる仲間がいるのですから」


 一機が犠牲になったことで榛名は吹っ切れたようだ。先程とは違い、彼女の顔には一切の迷いがない表情をしている。


「ガルドさん、榛名に考えがあります。貴方の武器を取り戻すので、離れてください!」


「お、おう。俺にも考えがあったが、上手くいく保証はない。ここはお嬢ちゃんに任せる」


 榛名の声の覇気に気圧されたガルドは、素直にその場から離れるとロストアイの間合いの外で結果を見守る。


「行きます。タコヤキ、ターゲットを狙ってください」


 四機ある内の一機をロストアイの背後に移動させると、照準を大雅が食い込んでいる後ろ足とは逆の後ろ足に合わせる。


 照準が合った刹那、榛名は銃弾を作るための魔力を送り、タコヤキの前に魔力の弾丸が生成される。


「撃ちます。当たってください」


 射撃の合図を送ると完成した弾丸を撃つ放ち、狙い通りに反対側の後ろ足に着弾すると、爆発してロストアイにダメージを与えた。


 爆発により生まれた爆風の衝撃で、後ろ足に食い込んでいた大雅は吹き飛ばされ、明後日の方に飛んでいくとガルドは駆け出し、自分の得物が地面に落下する前にキャッチした。


「お嬢ちゃんありがとうよ。フゥーランド隊長行くぞ」


「言われなくとも分かっている。この私が立てた作戦なのだからな」


 今が攻撃のチャンスと思ったガルドは、フゥーランドに呼び掛けるとロストアイに接近しようと地を蹴った。


「グオオオオォォォォォォォン」


 二人がロストアイに接近しようとした刹那、ロストアイは大きく息を吸い込むと咆哮する。今までの悲鳴をあげる鳴き声ではなく、鼓膜に響く程の轟音であり、身体を屈めて両手で耳を塞がないと意識が失いそうになる程だった。


 まるで自身に近付けさせないとする防御壁のようにも感じとられる。


 しかし、いくら長時間咆哮したとしても永久的に声を上げ続けることは不可能だ。いずれ終わりは訪れる。


 意識を保つことに必死になるが、それがとても苦痛に思えた。いっそうのこと、このまま意識を失った方が楽じゃないかと思える程に。


 だけど、こんな状況で意識を失っている場合ではない。もし、意識を失ってしまえば、それこそフゥーランドの言ったことが現実に起きてしまい、戦況が悪い方へと傾いてしまう。


 ロストアイの咆哮は一分間程続いた。しかし、待たされている勇樹達にとっては、とてつもなく長く感じとられた。


 咆哮が終わると、勇樹達は立ち上がるが今ので鼓膜にダメージを負ったようだ。


 キーンという耳鳴りしか聞こえなくなり、仲間の声や周囲の音を聞き取ることができない。


 この現状をどう打破するのか、勇樹は考えた。


 どうする。このような情報はなく、事前に対策をしていない。聴覚を封じられた以上、自分達の声は相手に届くことはない。言葉の変わりとなるのはジェスチャーとかで知らせることになるが、相手に伝わらなければ、困惑させるだけとなり、より危険を高めてしまう。


 他に良い方法はないのか。おそらく、この耳鳴りも長い事は続かないだろう。聴覚が元に戻ればまた声を掛け合ってサポートをすることができるが、時が来るのを逃げながら待つこは、何の解決にもならない。


 それにロストアイの知能が、どれだけあるのか知らないが、全員が声を掛け合っている音をロストアイの聴覚が捉えれば、また同じ攻撃を仕掛けてくるはずだ。


 そうなってしまってはイタチごっことなってしまう。


 何か、何か方法があるはずだ。


 ロストアイを注視していると魔物は突然首を下げ、地面に這いつくばった。


「もしかして、あの攻撃はロストアイ自身にもダメージを負っているのか」


 その可能性はおそらく高い、ロストアイは視力が退化している変わりに聴覚が発達している魔物だ。人間相手にあれ程の威力を発揮したのだ。人類よりも発達した敏感な聴覚では、自身の声さえも拾ってしまうのだろう。


 見たところ、ロストアイが直ぐに動く気配がない。ロストアイ自体がどのような状況に陥っているのか分からないが、このチャンスを見逃しはしない。


 今の間が正確に魔物の口を攻撃し、ダメージを与えるチャンスだ。運が良ければあの魔物の咆哮を封じることができるかもしれない。


 勇樹は榛名に向けてマジック袋から何かを取り出す動作をする。勇樹の手には何もなく、空を掴んでいた。今度はそれを口元に持っていき、飲む真似をすると、ロストアイの顔面に人差し指を向けた。


 声が届かない以上、このジェスチャーで彼女に伝わるのかは賭けであったが、榛名は手をポンと置く動作をすると、布袋から女神の涙を取り出し、瓶の蓋を開け、中の液体を飲み干す。


 液体を飲み干した瞬間、榛名は力が湧き上がってくるような感覚を覚え、魔力が回復したことを実感すると、照準をロストアイの顔面に合わせ、弾丸を発射させた。


 顔面に着弾した魔力の弾丸が爆発すると、黒煙が広がり、中からロストアイの鳴き声が聞こえた。


 黒煙の中ではまともに呼吸ができない。息苦しさを感じたロストアイは、縮んでいる首を空に向け伸ばすと黒煙を突き破り、新鮮な酸素を体内に取り入れる。


 黒煙から突き出たロストアイの顔面は赤く爛れ、痛々しく、グロテスクに感じさせられる。


 だけど、いくら可哀想に思えてもこればかりは仕方がない。外来魔物という脅威を野放しにしておく訳にはいかないし、ロストアイが存在しているだけで多くの人の生活が変えられてしまっているのだ。


 この世界も弱肉強食であることは変わらない。プロットの街の人々を安心して生活させるには魔物相手にそのような感情を向けてはいけないのだ。


「フゥーランド、今から爆音玉を投げる。ロストアイの頭部が下がったら顔面を狙ってくれ」


 声を出しながら勇樹はフゥーランドに、爆音玉を取り出すと投げるジェスチャーを行い、ロストアイの顔面に人差し指を向ける。


「私に指図をするな。だが、お前の考えは先ほどの榛名の攻撃で予想した。サポートしかできないお前に変わって攻撃をしてやるから、ありがたく思いやがれ」


 フゥーランドは勇樹に人差し指を向けると、天空鳥の剣を構え、いつでも飛び出せる体勢を取る。


 ちゃんと伝わったのか不安を感じるが、今は彼を信じるしかない。


 勇樹は爆音玉を投げるタイミングを伺った。ロストアイの頭部は黒煙の上だ。今爆音玉を投げれば、驚いたロストアイは首を縮め、黒煙の中に顔を隠すことになる。そんな中フゥーランドを突撃させる訳にはいかない。


 黒煙が消えるのを待っていると風が吹き、黒煙は風下の方に流される。


「今だ!」


 手に持っている爆音玉をロストアイの頭部に向けて投げ付ける。


 しかし、頭部を狙ったものの腕力とコントロール力が弱く、飛距離が足りなかった。


 どんどん高度が下がっていき、爆音玉はロストアイの首筋に当たると破裂し、魔物にだけ有効な音波が周囲に轟く。


 狙いは外れてしまったが、不幸中の幸い。兎に角頭部に近い位置で破裂させることには成功した。


 不快な音波をキャッチしたロストアイは、首を左右に振りながら首を縮め、顎を地面に擦り付けるようにして倒れるとフゥーランドは一気に駆け出す。


 そして、顔面ど真ん中を縦一文字に斬り裂いた。


「何、傷が浅いだと!」


 いくらロストアイの皮膚が硬いと言っても、足の皮膚よりも顔面の方が柔らかいはずだ。それに顔面は爆発により焼け爛れ、肉を斬り裂きやすくなっている。どうして思った程の手応えがない。


「クソッ、もう一度だ」


 今度は天空鳥の剣を横に構え、横一文字に斬り裂く。


 ロストアイの顔面にはクロス型の傷が付くが、先程の攻撃よりも手応えがあまり感じられなかった。


「どうしてだ。どうして思うようにダメージを与えられない」


 何度も顔面を攻撃し、ダメージを与えていくが、攻撃する度に天空鳥の剣は斬れ味を失っていき、今では棒で叩いたかのように反動で剣が跳ね返されている。


 武器は敵を斬る度に斬れ味は落ちていくが、いくら何でも早すぎる。数回敵を斬っただけで使い物にならなくなるなど、普通ではありえないのだ。


「どうして、こんなに早く斬れ味が落ちる」


 困惑していると、フゥーランドは勇樹が言っていた忠告の言葉を思い出す。


「私は、天空鳥の剣に認めてられていないと言うのか。…………おい、ここでお前が役立たずに成り下がれば、ロストアイの討伐は不可能となる。あんなひよっ子が貴様を使った所で、ロストアイを倒すことなど出来ないのだ。わかったのなら、早く力を発揮しろ」


 天空鳥の剣に向けて、フゥーランドは怒鳴り散らすように言葉を投げ付け、もう一度ロストアイの顔面を斬りつけようと腕を振り下ろす。


 しかし、結果は弾かれてしまい、その反動でフゥーランドは体勢を崩し、転倒してしまう。


 フゥーランドが転倒したのと同時に、爆音玉の効果が切れたロストアイが立ち上がると、口を大きく開けて息を吸い込み始めた。


 不味い、またあの咆哮が来る。


 マジック袋から爆音玉を取り出し、勇樹は対抗しようとしたが、それよりも早くロストアイは鼓膜に響く程の咆哮を行い、勇樹達の行動を一時的に封じる。


 息を吸い込むモーションを見たフゥーランド達は、咄嗟に両の耳を塞ぎ、耳に受けるダメージを軽減させることが出来たが、マジック袋に手を突っ込んでいた勇樹は間に合わず、直に轟音を受けてしまい、そのまま意識を失った。

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