この世界ではお金で生きています三章4
三章ロストアイ討伐
魔物襲撃予測時間が近くなり、勇樹達は森の門の前に集まっていた。
「間も無くこの街に魔物共が押し寄せて来る。我々は結界が機能していた場所まで移動し、そこで魔物共の進行を食い止める。では、今から移動するぞ」
フゥーランドが参加者全員に言うと、開門の合図と共に門の扉は開かれ、彼を先頭に戦闘予測位置まで移動を始める。
結界が存在していた付近にくると、前方に魔物の群れが見えた。
一番大きい体格のロストアイは勿論のこと、勇樹が倒したオオトカゲの魔物ビックリザードの他にも、大猿の魔物、キラーファンキーや腐敗が進み、異臭を放つ動物の死骸が魔物となったアニマルゾンビもいる。
勇樹、ガルド、フゥーランド、街の兵士達はそれぞれの得物を構え、榛名はタコヤキに魔力を送り、いつでも射撃出来る準備を整える。
「副隊長、ここの指揮は任せた。プロットの街の兵士の誇りにかけて魔物共を街に入れるなよ」
「心得ております」
「では、戦闘開始だ。私に続け!」
一番に地を蹴って飛び出し、フゥーランドが先頭の魔物を斬りつけると続いて勇樹達も魔物の群れに突っ込んで行く。
戦闘が始まって間もない頃、早くも誤算が生まれる。
戦闘に入った魔物達の奇声が辺りにこだまし、発達した聴覚で複数の音を拾ったロストアイが困惑し、動かない状況に陥っていた。
このままではいずれ、ロストアイが兵士達に狙いを定めてしまうのも時間の問題だ。
エンジェルフェザーでビックリザードの腹部を斬り裂きながら、勇樹はロストアイのみを誘導させる方法を考える。
上手く行くかは神のみぞ知るだが、試してみなければ分からない。
勇樹はマジック袋から爆音玉を取り出し、地面に投げ付けると球体は破裂し、周囲に魔物のみに有効な音波が辺りに解き放たれる。
音波を感知した魔物の聴覚はその情報を脳へと送り、脳が嫌な音だと認識した途端に、脳の働きのない死骸の魔物であるアニマルゾンビ以外の魔物達が一斉に耳を塞ぎ、その場でしゃがみ込んで体勢を低くする。
アニマルゾンビは平然としているが、今ので殆どの魔物の動きを一時的に封じることができた。
「今だ!榛名よ、ロストアイに攻撃を」
フゥーランドの指示に、内心は嫌気を差しながらも榛名はロストアイの背後に回るとタコヤキを前方へと向け、照準を合わせ、魔力の弾丸を撃ち放つ。
魔力の弾丸がロストアイの左後ろ足に直撃し、小さな爆発が起きると、ロストアイは苦悶し、吠えると首を後方へと向けながら方向転換して榛名と向き合う。
自身が感じた痛みと負傷した身体の位置から、どこから攻撃されたのか判断したのだろう。
「よし、ロストアイの注意がお嬢ちゃんの方に向いた。後は湖まで誘導するだけだな」
「さぁ、こっちに来い!」
勇樹達が大声をあげて獲物の位置を知らせると、ロストアイはフゥーランドに狙いを定め、縮めていた首を伸ばし、大きな口を開けて迫って来た。
ロストアイの口がフゥーランドに触れる寸前で、彼は後方に跳躍し、攻撃を回避する。
空振りとなったロストアイはそのまま地面に顔を突っ込むと地面を叩き割り、窪みを作る。
「全員湖まで走るぞ!少しでも街との距離を離すのだ」
フゥーランドの掛け声により、勇樹達は湖へと向け走り出した。
誘導の際にポイントとなるのは自分達とロストアイとの距離だ。
ロストアイは鈍足の魔物であり、全力疾走をしなくとも逃げ切れることができる。しかし、だからと言ってあまり距離が近いと、今度は伸縮自在の首の間合いに入り、咀嚼されてしまう。おそらく、首の長さは伸びきった状態で十メートルはあるはず、と言うことは十メートル以上の距離を保ちつつ誘導しなければならない。
だが、逆に距離を開けすぎてしまうとロストアイが自分達の音を拾うことが出来ずに見失ってしまう。
上手いところ距離を開け、誘導するのは思っていたのよりも難しい。
距離を保ちつつ誘導していると、榛名がロストアイに襲われそうになった現場である崖付近に来た。
「湖までもう直ぐだ。気を抜かないでくれよ」
「それは私のセリフだ。勝手に仕切るのではない」
少しでも皆んなを励まそうとして言った言葉であったが、フゥーランドは勇樹が出しゃばったかのように捉えられ、注意を促す。
崖を過ぎ、湖の音が耳に入ると勇樹はあともう少しだと自身に言い聞かせ、走ることに集中した。
湖に辿り着くと勇樹と榛名、ガルドとフゥーランドのペアーに別れて左右に移動すると足を止め、その間をロストアイが駆け抜け、やがて足を止めると辺りを見渡す。
首を左右に振り、獲物の音が聞こえなくなり、逃してしまったと判断したのだろう。
首を下に下げ、ゆっくりとした足取りで来た道を引き返す。
榛名は、フゥーランドからの合図を待っていた。タコヤキに砲撃用の魔力を送り、魔力の銃弾を生成すると照準をロストアイの頭部に合わせ、時が来るのを待つ。
ロストアイと榛名が待機している位置が、横に直線上になるとフゥーランドは右手を上下に動かし、合図を送る。
彼から合図が送られたのを確認すると、榛名はロストアイ頭部に向け、魔力の弾丸を射出し、弾丸は時速1000キロの速さでロストアイの頭部に直撃し、爆発すると爆撃によるダメージにロストアイは悲鳴のような鳴き声を出し、巨体がよろめく。
「今だ、ガルド殿行くぞ」
「おう!」
不意を突いた今が攻撃のチャンスだと判断したフゥーランドは、地を蹴って走り出し、ガルドも続く。
まずフゥーランドが狙いを定めたのは、榛名が最初にダメージを与えた左後ろ足だ。
爆撃により、硬い皮膚には火傷で皮膚が焼け爛れている。その場所をピンポイントで狙い、フゥーランドは天空鳥の剣で焼け爛れた皮膚を斬り裂いた。
焼け爛れた皮膚は本来の強度を失い、剣の刃が内側の柔らかい肉にまで到達し、紫色の鮮血が噴き出す。
フゥーランドが左後ろ足を斬り裂いた後、右に跳躍してガルドの持つ大雅の間合いから離れると、続いてガルドが大雅を横に向け、突っ込むと刃を叩きつけるように腕を振り、開いた傷口に刃を当てる。
刃が肉に食い込み、傷口が更に広がると刃は骨に到達するもそれ以上斬り込むことが出来ない。
更に受ける苦痛にロストアイは悲鳴を上げ、ロストアイはその場に崩れ落ちる。
今のところは順調であるが、討伐は始まったばかりだ。それなりにダメージを与えてはいるも、身体の一部を損傷させただけであり、油断をするのはまだ早い。
「よし、行けるぞ!、この三人なら念願のロストアイ討伐も夢ではない。さぁ、どうした。Cランクの魔物はその程度なのか」
だが、フゥーランドは有利であるだけの現状であるが、自身では既に勝っていると慢心しているようだ。
その慢心が痛手にならなければ良いのだが。
「クソッ食い込んで抜けない」
ロストアイの左後ろ足に食い込んだ大雅を引き抜こうとガルドは力一杯引っ張るが、まるで張り付いたかのように大雅を引っこ抜くことが出来ない。
あの位置に留まっていてはロストアイの攻撃により被害を受けてしまう可能性だってあるし、味方からの攻撃の巻き添えを喰らい、ガルドもダメージを負ってしまう。
「ガルド!その位置は危険だ。早く離れろ!」
「何を言っている。得物が無ければ戦えなくなる。俺のことは気にしないで攻撃を続けてくれ」
ガルドの危険度が高く、遠ざかるように指示を出すが、彼は勇樹の指示に従わない。
彼の気持ちも分かる。だが、出来るだけ多くの血を流さないようにするには、危険なことは避けるべきである。
だが、自分が危険な状況に陥っていることはガルドも理解しているはず。それでも離れようとしないのは、彼なりに何か考えがあってのことだろう。
ここは自分も腹を括るしかない。
「榛名、ガルドが危険な状態になったら、タコヤキで攻撃して注意を他に向けるようにしてくれ」
「ですが、それではガルドさんにまで巻き添えを喰らう結果になってしまいます」
「そんなの分かっている。だけど、ガルドもバカではない。きっと何か考えがあるんだ。今はガルドを信じるしかない」
「分かりました。勇樹さんがガルドさんを信じるのなら、私はガルドさんを信じた勇樹さんを信じます。多分ですが、頭部を狙って攻撃すれば、ガルドさんのいる位置には被害が少ないと思いますので、頭部を狙いますね」
榛名はロストアイと対面する形になるように移動し、頭部を狙いやすい位置取りをすると照準をロストアイの頭部に合わせる。
しかし、ヘッドショットを成功させるのは難しい。今のところは百発百中であるが、それは比較的に狙いやすい部位を狙って攻撃したからである。
フゥーランドが合図を出した際に、一度頭部の側面の射撃に成功してはいるが、あの時はロストアイが警戒を解き、頭部があまりブレなかったからである。
現在は激しい戦闘に入り、ロストアイは首を前後左右に振り、頭部が様々なところに移動しているので照準が合わせ難くなっているのだ。
頭部を狙うには、確実に動きを止め、チャンスと感じた時にしか撃つことが出来ない。
だけど、タイミングを見計らいながら狙いを定めては、いざと言う時に撃つことが出来ずにガルドを救うことが叶わなくなる。
神経を集中させ、ロストアイの首の動きに合わせて照準器を動かし、頭部に照準を合わせ続ける。
失敗したら終わりだ。一発で成功させなければ、そう思った瞬間、思考は失敗の方へと変わっていった。
もし、ここで失敗して狙いを外してしまったらどうなる?あれ程の威力だ。もし、人などに命中すればひとたまりもないだろう。仮にも、照準がずれ、離れた場所に着弾し、爆発により生まれた熱で火災が起きれば、討伐どころではなくなってしまう。
絶対に失敗は許されない。
失敗することが出来ない。そう思い、外すことがないようにしっかり照準を合わせようとするが、失敗は許されないと言うプレッシャーが緊張を高め、鼓動が激しくなる。その影響なのか、照準器がブレ、ピンポイントで狙いを定めることが出来なくなっていた。
「榛名!避けろ!」
「え?」
狙いを定めることばかり考えており、周りを見ていなかった榛名は照準器内の標的が大きくなっていることに気付いていなかった。
運悪く、榛名の前を野兎が横切り、草が揺れ動く音を捉えたロストアイが榛名に向け首を伸ばして大きく口を開けていた。
勇樹は榛名を助けようと全力で駆け出す。彼の脳裏には夢で見た光景が映し出されていた。
このままでは夢が現実に起きてしまう。必死に走り、榛名を助けようとするが、距離が離れすぎており、どう考えても間に合わない。
夢の内容を忘れ、榛名の警護を怠っていた自分自身を恨みながら、これから起きるであろう現実を見たくなく、勇樹は瞼を閉じた。




