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この世界ではお金で生きています 三章3

 三章ロストアイ討伐3


 フゥーランドの後を追い、闘技場を訪れるとそこには魔物討伐に参加する兵士達が、時が来るのを待ちながら訓練に励んでいた。


「ようやく来たか。俺は何時も通りに訓練していたぜ」


 愛用の大剣、大雅を数回振り回すと背中に帯刀させ、ガルドがこちらに来た。


「これで役者は揃ったな。では、具体的な作戦を伝える前にそこのお嬢さん名前は確か…………」


「榛名です。霧島榛名」


「そうそう、榛名だったね。君の実力を知っておきたい。離れた場所に君専用の訓練場を設けさせてもらったからそこで私に見せてくれ」


 着いて来いとフゥーランドは三人に告げると、榛名は不満顔を作り、彼の後を歩く。


 訓練をしていた兵士達から離れた場所に、弓道などで使われる的が複数置かれているのが見えた。おそらく榛名の武器のことを考えると、ここで実力を確認するのだろう。


 勇樹の予想通りに複数の的が置かれている場所の前に来ると、フゥーランドの足が止まる。


「ここで榛名の腕前を確認させてもらう。簡単なことだ。君の武器であの的を攻撃し、命中させてもらう」


「榛名のことを呼び捨てにしないでください。貴方に許可を与えた記憶はありません」


「許可など必要はない。どう言おうが私の自由だ。討伐の間とはいえ、私は榛名の上司となる。上司の命令は絶対だ」


 さも当たり前であると言った態度でフゥーランドは言うと、榛名は目を釣り上げ、彼を睨んだ。


「榛名、君の気持ちは分かるが、この討伐の間だけだ。ここは我慢してくれ」


「いくら勇樹さんのお願いでもそれは嫌ですよ。何で榛名がこの男の指示に従わないといけないのですか」


 指先をフゥーランドに向けながら、榛名は自分が思っていることを勇樹に言い放つ。


 そんな彼女を見て、勇樹は小さく息を吐くと榛名の耳元で、素直に言う事を聞いてくれる魔法の言葉を囁く。


「榛名は不本意ですけど、勇樹さんがそこまでお願いするのであれば仕方がないですね」


 口調的には仕方なくと言った感じであったが、彼女の顔はほころんでいる。代償は大きかったが、チームを結束させるためだと考えれば安いものだ。


 勇樹の思惑通りに榛名は的の直線上に移動してくれた。


「勇樹さん、タコヤキをお願いします」


 タコヤキを出すように言われると勇樹はマジック袋から五つの球体を取り出し、榛名の足元に置く。


 準備が完了すると、榛名はアレックから教えてもらったことを思い出しながら球体に魔力を注ぎ込む。


 魔力が注ぎ込まれた球体五つは、浮上すると五つ全てに一つ目が現れ、榛名を囲むようにして円を描く。


 人の目には見えないが今、榛名と五つの球体は魔力の糸で繋がっている。


 今球体に送っている魔力は、球体を動かすために必要な最低限の魔力だけ注ぎ込んでいる。目の前にある球体のみに更に魔力を送ると、球体の目に魔力が集まり、弾丸の形状を形成する。そして榛名のみに見える照準器が出現し、照準を的の中央に合わせると、魔力を圧搾し、最大限まで圧搾させると魔力の弾丸が膨張しようとする圧力に耐えきれなくなり、射出させると一直線に的に向かい、触れた瞬間、的は爆発でも起きたかのように木っ端微塵になり、破片が辺りに散らばる。


 その破壊力を目の当たりにした勇樹は開いた口が塞がらなかった。銃弾などでは生温い。まるで砲弾のような威力を誇っていた。


「何て威力だ。あのような素晴らしい武器を私に黙って隠していたとは、父上も人が悪い。だけど、あの威力さえあれば必ずや、ロストアイを討伐することができるだろう。榛名よ、他の的にも当ててみよ」


 フゥーランドの言葉に少しは反抗するかと思っていたが、榛名はそのような態度は見せずに素直に彼の指示に従う。余程勇樹の言葉が効果的だったのだろう。


 球体を時計回りに移動させ、次の球体が榛名の前に来ると先程と同じ要領で次々と的を破壊していく。


 五発全て撃った所で榛名は力を使い果たし、膝から崩れ落ちるとその場に倒れた。


「榛名!」


 倒れた榛名に駆け寄り、勇樹は声をかける。


「大丈夫…………な訳ないよな。起き上がれるか」


「ごめんなさい。肩をお借りすることできますか」


「肩と言わずに全身を貸してやる。乗れ」


 勇樹はしゃがむと榛名は弱々しく立ち上がり、彼の背中に身体を預ける。


「どうやら威力が高い分、消費する魔力は高いようだ。連続で撃って三発が限界のようだな。インターバルを挟むとした場合、どれぐらいで魔力は回復するのだろうか」


「おい、榛名を休ませる場所はあるか」


「私に話しかけるな。今訓練の結果を元に作戦の詳細を変えなくてはならなくなったのだ。後で案内するから待っておれ」


 訓練の結果を分析し始めているフゥーランドに、榛名を休ませる場所を訊くが邪険にされてしまう。仲間の体の心配よりも、分析を優先にする彼の姿に勇樹は苛立ちのようなものを感じるが、今は言い争う暇はない。


「俺は榛名を休ませる場所を探して来る」


「闘技場に設置されているテントが休憩スペースになっていたはずだ。おそらくベッドも置いてあるはず」


「分かった。ありがとう」


 背中に背負った榛名を気遣いながらテントへと向かうと、中にいる女性衛生兵に事情を話し、榛名をベッドに休ませる。


「すみません、ご迷惑をおかけして」


「仲間なんだから気にするな。今は身体を休ませることだけを考えてくれ」


「見た所、魔力切れのようですね。これなら暫く休んでいれば大丈夫です」


 女性衛生兵に榛名を見て貰い、休めば治ると聞かされ、勇樹はホッとする。


「ここに居たか。私が案内するまで待ってくれと言っただろう。たかが魔力切れなのだ、急ぐ必要はない」


「お前な、いくら何でもそれは言い過ぎだ」


「おい、勇樹待て!」


 テントに入って来たフゥーランドが、開口一番に放った言葉に勇樹は癇に障り、彼に掴みかかる。その姿を見てフゥーランドの横にいたガルドが制止の声を上げるが、彼の言葉は勇樹に届かなかった。


「ほう、ではお前に訊くが、もし今のうちに限界を知らないままロストアイの討伐に出て、戦闘最中に限界が訪れて倒れた時はどうする」


「その時は榛名を庇いながら戦うまでだ」


「お荷物を抱えながら倒せる相手なら、既に討伐されている。実際の戦闘はお前が考えている程甘くはないんだよ。良いか、自分よりも格上の存在を相手する時は仲間を気遣う程の余裕はないんだ。一人でも場を乱せば、連携が取れなくなり、勝てるはずの戦いも勝てなくなる」


 フゥーランドの言っていることは間違ってはいない。頭では分かっている。だけど彼の言い回しに心の方が受け入れようとはしないのだ。


「だが、限界を知った上でそのことも考慮し、作戦を考えれば無理をさせることもなく、討伐に専念できる。分かったのならその手を離してくれないか」


 勝ち誇ったような表情でフゥーランドが勇樹を見ると、勇樹は奥歯を噛み締めながら手を離す。


「では、今から私の考えた作戦を説明する」


 フゥーランドの立てた作戦はこうだ。まず、街に近付いた魔物の集団を兵士達が相手にしている間に、勇樹達でロストアイを湖の方へと誘導し、フゥーランドとガルドで近距離で攻め、次に榛名が近距離攻撃を行い、勇樹が隙を見てサポートをすると言ったものだ。


 出演しているメンバーに違いはあるが、作戦の内容は勇樹が見た夢の内容に似ていた。


 いや、只似ているだけであって、夢の通りに起きるとは限らない。正夢になる確率は人によって違うが、おそらく夢が現実に起きる可能性は低いはずだ。


「まぁ、こんな感じだな、榛名が連続で攻撃できるのは三回まで、魔力が回復するまでのインターバルがある以上、接近戦である私とガルド殿が奮闘しなければならないが、問題ないだろう」


「失礼します。隊長、例の物をミーシャさんより受け取ってきました」


 説明を終えると、テントの中に一人の兵士が木箱を抱えて入って来た。口ぶりからして、フゥーランドの部下なのだろう。


「ご苦労、そこに置いてくれ」


「ハッ!」


 指示を受けると、兵士は指定されたテーブルの上に木箱を置き、一礼するとテントから出て行く。


「勇樹、そこに討伐に必要なアイテムが入っている。君にはそのアイテムを使い、サポートをしてくれ」


 来た木箱の蓋を開け、確認すると中には掌サイズの水晶のように透き通っている球体が全部で六つ、液体の入った小瓶が八つ入っている。


「これは」


「爆音玉と女神の涙だ。爆音玉は地面など硬い場所に投げつけると破裂し、中から魔物のみに有効な音波が飛び出す仕組みになっている。女神の涙は中の液体を飲むことにより、魔力を瞬時に回復させることができる。こいつを使えばインターバルを気にしなくともあの砲撃を撃つことが可能だ」


 アイテムの説明を聞き、勇樹は使用する状況を考える。


 女神の涙は榛名の魔力が尽きかけた時に使用するが、いつ尽きてしまうのかはおそらく彼女自身にしか分からないだろう。それならば、榛名にこの女神の涙を渡しておいたほうが良いはずだ。


 次に爆音玉だが、ロストアイは視力の代わりに聴覚が発達している。つまり、音には敏感なはずだ。この爆音玉を使うことでロストアイの聴覚を狂わせることが出来れば、隙を突くことだって可能になってくる。タイミング的には、仲間がピンチに陥った時に使うのが望ましいだろう。


「なるほど、使い方は分かった」


「魔物がこの街に押し寄せて来る予想時間は午後一時頃だ。それまで身体を休め、英気を養っておくのだな。私は席を外す。時が来たら門の前で合流するとしよう」


「待ってくれ、フゥーランドに言っておきたいことがある」


 木箱の中身全部をマジック袋に収納すると勇樹はテントを出ようとしたフゥーランドを呼び止める。


「言っておきたいことだと」


「武器屋の店主が言っていたことだが、人が武器を選ぶように武器もまた人を選ぶ、他の人が使いこなしているからと言って、自分も使いこなせるとは限らない」


「なるほど、私が君から天空鳥の剣を借りたところで、使いこなすことができないと言っているのか。それなら別に構わない。力尽くでも言うことを聞かせてやるまでだ。だが、一応忠告としては受け取っておこう」


 勇樹の言葉を半信半疑で聞くとフゥーランドは今度こそ部屋から出て行く。


「フゥーランドの態度は相変わらずだな。そうだ勇樹、小さいが丸腰でいるよりかはマシだろう。討伐中はこいつを装備しておけ」


 ガルドが布袋を開けると中から短剣サイズのナイフを取り出し、勇樹に手渡す。ガラスのように透き通っており、受け取ると天空鳥の剣を握ったときのように軽く、手に馴染む。


「ありがとう。暫くの間借りておくよ」


「そいつは俺の嫁さんが使っていた武器でよ、エンジェルフェザーと言う。だけど、それは俺にとって大事なものだ。絶対になくしたり、壊したりするなよ。そのときはお前を半殺しの刑に処すからな」


「おい、そんな大事なものを貸すなよ。余計なプレッシャーがかかるじゃないか」


「ハハハ、冗談だ。場を和ませようとしただけだ」


 高笑いを上げるとガルドは勇樹の頭をワシャワシャと撫でる。


「子供を相手にするみたいに頭を撫でるな」


 ガルドの腕を振り落とすと、勇樹はベッドで横になっている榛名の前に向かい、彼女に話しかける。


「身体の方がどうだ」


「はい、大丈夫です。少しですが、ベッドで横になっていたら楽になりました」


「それは良かった。話しは聞いていたと思うけど、女神の涙は榛名が持っていたほうが良いと思うから、榛名の布袋の中に入れておくよ」


「はい、お願いしますね」


 べッドの上に置かれている榛名の布袋を取り、紐を解いて開くと中には彼女のコインケースが入っていた。それを見た勇樹はチャンスだと思った。艦鋼石の売却の一部でもある20000Qの内、半分の10000Qを榛名に渡そうとしたが、彼女が受け取るのを拒否し、受け取ってもらえないままでいた。


 今、榛名はベッドで横になっている。彼女に背を向けて見えないようにすれば、コインケースに10000Qを入れることが可能だ。


 榛名に見られないようにこっそりとコインケースを開け、中に10000Qを入れるとばれないように布袋に直し、続いて女神の涙を全て入れると紐を結んでベッドの上に置く。


「そろそろ昼になるから弁当を食うとするか。討伐の前に腹ごしらえをしようぜ」


 何時の間にかガルドは弁当を持っており、勇樹と榛名に渡した。


「それじゃあ食べるとしようか」


 弁当の蓋を開け、中身を食べる。この弁当は道具屋で買ったあの弁当と同じであり、あまりおいしいとは言えない味付けだった。


「この味、あまりおいしくはないですが、ちゃんとしたお肉の味がします。紙のような味が全くしません。勇樹さんと仲間になって本当に良かったと思います」


 弁当を食べていた榛名がいきなり大声を上げたかと思うと、涙を流しながら次々と弁当を食べていく。


 正式に勇樹と榛名が仲間となった証である契約の腕輪を身に付けたことにより、勇樹の持つエミリーの羽の効果が発動し、彼女の特殊状態に味覚機能の強化が追加され、味が分かるようになった。


 彼女の満腹度があったときの舌の感じが分からない。だから、彼女の気持ちがあまり分からないが、相当なものなのだろう。


 弁当を食べ終えると榛名の身体の調子も戻り、作戦開始時間が近づいたところで森の門の前に三人で向かった。

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