この世界ではお金で生きています三章2
三章ロストアイ討伐2
夢とは睡眠が浅くなるとレム睡眠となり、脳が覚醒し、記憶の整理がされているときに夢を見る。
前日にロストアイや榛名のことを考えていたからだろう。勇樹は榛名と共にロストアイを討伐する夢を見ていた。
榛名が離れた位置からタコヤキを操り、遠距離からの攻撃を行い、ロストアイが榛名に気を取られた隙に、勇樹が天空鳥の剣でロストアイの前足を斬り裂く。
そして勇樹に集中している間に今度は榛名が攻撃を放ち、ロストアイにダメージを与えていく。
二人の連携は凄まじく、ロストアイは防戦一方となっていた。
これなら勝てる。そう勇樹が確信した瞬間にロストアイは眩い光を放った。
ロストアイは光を纏い、逆光のせいで姿を認識することができないでいた。
そして、ロストアイは今までとは違い、機敏な動きで勇樹の横を抜けると一直線に榛名へと向かい、長い首を伸ばして、榛名の肉体に齧り付くとそのまま咀嚼していく。ロストアイの口の隙間から滴り落ちる榛名の血液を見た瞬間、勇樹は絶望し、絶叫を上げた。
「うわーっ」
悪夢から目が冷め、勢い良く上体を起こすと周囲を見渡す。
隣には榛名が気持ち良さそうに寝息を立ており、さっきまでのが夢であると実感すると安堵する。
「なんだ夢か」
悪夢を見ていたせいだろう。寝汗をかき、動悸が激しい。
顔でも洗おうか。そう思い、勇樹はベッドから出ようとすると服を掴まれた。
振り返ると悲しい夢でも見ているのか、榛名は勇樹の服を掴みながら一雫の涙を流す。
「安心してくれ。何があっても榛名を守るから。あの夢を現実にはさせない」
榛名の耳元で囁くように小さく言うと、勇樹の声が届いたのか、彼女は手を離してくれた。
子供部屋を出て、一階の洗面所に入ると蛇口をひねって水を出し、両手一杯になると顔にかける。
数回繰り返し、顔を洗い終えるとタオルで顔を拭く。
『デイリーボーナス、デイリーボーナス、アイテムをお受け取りください』
午前五時になったことを知らせるデイリーボーナスのアラームがなり、勇樹の足元に一つの布袋が現れる。
今まではベッドで起床していたので、アイテムはベッドの上で受け取ることになると勇樹は思っていた。だけど今回は洗面所でアイテムが出現した。となれば、デイリーボーナスのアイテムは、勇樹が午前五時にいる場所で受け取ると言うことだ。
このアラーム音で上にいる榛名が目を覚ましてしまうかもしれない。勇樹は布袋を開けると毛糸のような丸い物体が入っていた。
布袋の中はアイテムだけであり、いつものアイテムの説明の書かれた紙が同封されていない。
まるで勇樹がステータス画面を閲覧することが可能になったと知ったかのように、敢えてアイテムの説明の紙を入れていないように感じる。
アイテムの名前と効果を知る為に、勇樹はマジック袋にアイテムを収納し、テータス画面を表示するとアイテムの確認を行った。
アイテム名は魔蛾蜘蛛の糸、魔蛾蜘蛛の糸には二種類あり、攻撃のための糸と相手を拘束するための糸がある。今回勇樹が送られたのは後者の方だ。
アイテムの確認を終え、勇樹は洗面所を出て部屋へと戻ると榛名が起きており、眠気眼のまま勇樹の方を見る。
「あ、勇樹さんおはようございます」
「おはよう。早いお目覚めだな」
「勇樹さんこそ早いじゃないですか」
「最近俺はこの時間帯には起きている。まだ朝の五時を過ぎたばかりだから二度寝していても良いよ」
もしかしたら、この部屋にアラーム音が聞こえ、起こしてしまったのかもしれない。もしそうなら申し訳ないことをしたと思い、榛名に二度寝することを勧める。
「今日のことを考えるのなら、早く起きて脳の回転を良くしておくべきです」
人は目覚めてから脳がフルに稼動するまで三時間かかると言われている。
今からなら朝の八時には脳がフルに回転し、思考が良くなるが、討伐はおそらく午後からになる。最低でも後二時間は寝ていても問題はないが、榛名がそれで良いのであれば、無理に寝させる訳にもいかない。
「依頼受付所で登録ができるようになるまでは、まだ時間があるけどどうする。俺は今朝は食欲が無くてさ。朝食は抜こうと思うのだけど」
今朝の夢のせいか、勇樹は朝から食欲がない。とても食べたい気持ちにはならなかった。
「そうですか。勇樹さんは榛名とは違い、普通に食事をすることができるので、朝食はしっかり食べて頂きたいのですが、無理をさせる訳にもいきませんね。榛名はまだ満腹度はあまり減ってはいないので大丈夫です」
「それなら、集会場の温泉にでも入って時間でも潰そうか」
「はい、分かりました」
二人は温泉に入る準備を行うと一階に降りる。
テーブルにはパンが二つと置き手紙があり、朝食として食べるようにと書かれている。
二人は食べる気がなかったので、勇樹のマジック袋に保存しておくことにした。
マジック袋の空間には時間の概念が存在していない。なので、この袋の中に入れておけば食材などが腐ることなく、長期保存することができる。
マジック袋の中にパンを収納し、集会場に向かい温泉に浸かって時間を潰すと、依頼受付が開始される時間となり、二人は依頼受付所へと移動した。
「アスハさんおはようございます。早速ですが、チームの登録をお願いしたいと思うのですが」
「霧雨さん、霧島さんおはようございます。チームの登録とのことなので、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」
一枚の紙を渡され、用紙を覗き込む。用紙にはチームの代表者となる人物の名前とチームに所属するメンバーの名前、それにチーム名とエンブレムの記入の項目が書かれていた。
順番通りに項目を記入していき、代表者に勇樹の名前、所属するチームメンバーに勇樹と榛名の名前を書くが、次の項目で手が止まった。
チーム名は何するべきだ。
チームを作ると言うことは当然チーム名がいる。だけどロストアイ討伐の件で色々とあったので、チーム名を考える暇がなかった。
「榛名は何か良いチーム名を考えてはいないか」
何も浮かばず、勇樹は榛名に助けを求める。
「そうですね。正直、榛名も考えてはいませんでしたけど、勇樹さんが悩んでいるのでしたら、榛名がFPSのゲームをしていた時のチーム名で良いのであればそれにします?」
「何も浮かばないからそれにしよう」
榛名にチーム名を教えてもらい、チーム名の項目にファイブスターズと記入した。
そして、最後のエンブレムであるが、ここだけはオリジナルにしようと言うことになり、勇樹の天空鳥の剣と榛名がFPSのゲームをしていた時に使っていたアサルトライフルがクロスしている絵を書き、エンブレムを完成させる。
全ての項目に記入を終えて提出すると、今度を契約の腕輪の提出を言われ、勇樹は代表者の契約の腕輪を、榛名は契約の腕輪をカウンターの上にあるトレーに置くと、アスハは登録まで時間がかかることを告げてパソコン画面を覗きながら作業を始める。
部屋に置かれている時計を見ると、そろそろサンスと約束した時間になる。
勇樹は預けた天空鳥の剣のことを榛名に告げると、少し急ぎ気味で武器屋へと向かう。
武器屋の扉の前には張り紙があり、それには裏の作業場に居ます。御用の方はそちらまで来てくださいと書かれていた。
裏へと回り扉を開けて中に入るとサンスが天空鳥の剣の仕上がり具合を確かめていた。
「お、ちょうど良いタイミングで来たな。先程手入れを終えて最後の確認をしていたところだ」
手入れを終えた天空鳥の剣を鞘に納め、勇樹に手渡す。
「斬れ味は良くなった。後は武器の使い手と天空鳥の剣自身の問題だ」
「ありがとう。サンスは自分ができることをしてくれた。ロストアイの討伐で何かが起きてもサンスの責任ではないさ」
当たり前のことを伝えると勇樹は天空鳥の剣をマジック袋に収納する。
「自分の目で確認しなくて良いのか」
「最後の確認はサンスがしてくれた。俺はサンスを信じているからな。確認する必要がない。これからフゥーランドと会う約束をしているから俺はこれで帰るよ」
「ロストアイの討伐頑張ってくれよ。陰ながら応援している」
勇樹を見送るとサンスは作業場の椅子に腰掛け、木箱にある武器を取り出して手入れを始めた。
武器屋を出て集会場へと向かっていると、避難している団体と擦れ違う。
街はこの街の兵士が守るが、確実に守りきれる保証がない。そのため、人的被害を最小にするために住民達に避難勧告が告げられたのだ。
街の住人達はきっと、この街に戻って来ることを誓っているはずだ。彼等の帰る場所を失わせないためにもこの討伐は失敗できない。
もう一度この討伐の重要性を噛み締めると、勇樹は拳を強く握った。
依頼受付所に戻ると榛名と合流し、自分がいない間のことを聞くとまだ登録が完了していないようだ。
彼女と今日の討伐について話していると、アスハから登録が完了したことを告げられ、カウンター前に行くと契約の腕輪を返却される。
返ってきた腕輪には、チームの名前とエンブレムが刻まれている。
「腕輪に刻まれたチーム名とエンブレムが仲間である印となります。契約の腕輪には仲間へと報酬の譲渡以外にも必要な時があります。それと再発行には高額な手数料が発生いたしますので、絶対に紛失するようなことがないようにお気を付けください」
「分かりました」
二人は契約の腕輪を腕に装着すると、勇樹は昨日の部屋でフゥーランドと約束していることをアスハに伝える。
「かしこまりました。部屋の場所は覚えていますでしょうか」
「それに関しては問題ない」
「分かりました。では、奥の部屋でお持ちください。私は自分の仕事がありますので、部屋に案内することができません」
関係者以外立ち入り禁止と書かれた張り紙のある扉を開け、中に入ると前回アレックと会談した時に使用された部屋へと向かう。
アスハの口ぶりから、フゥーランドはまだ来ていないはず。
そう思いながら扉を開けて中に入ると案の定誰もいない。
「フゥーランドが来るまで座って待たせて貰おうか」
「そうですね」
上座の方にフゥーランドが座るだろうと判断し、勇樹はその対面である出入口から近い場所に座ると、その隣に榛名も着席し、彼が訪れるのを待つ。
しかし、いくら待ってもフゥーランドがこの場に訪れる気配がなかった。予定していた時間を過ぎ、最初は遅くなっているだけだろうと思っていたが、三十分過ぎても何も連絡がない状況が続き、次第に勇樹は焦りを感じた。
「いくら何でも遅過ぎですよ。あの人はいったい何をしているのですか」
長く待たされいるせいか、榛名は苛立ち、不満を漏らすようになっていた。
「まさか、約束を忘れている訳ではないと思うけど、流石に不安になってくるな」
いくら待っても連絡一つないままこの場にいては、時間を無駄にしてしまう。
「一度アレックさんの屋敷に向かってみるよ。何かあったのかもしれない。榛名は擦れ違いで彼が来るかもしれないから、ここで待っていてくれ」
「分かりました」
アレックの屋敷へと向おうと席を立った瞬間、部屋の扉が開かれ、フゥーランドが部屋に入ってくる。
「すまない。遅くなってしまった」
「貴方は…………」
フゥーランドに文句を言おうと榛名は席を立つ。そこで勇樹が手で制すると落ち着くようにアイコンタクトを送る。すると彼女は少し不満有り気な顔で口を閉じた。
「まずは遅れた理由を聞こうか」
「避難する街の住人達を誘導していたら、時間が過ぎていることに気付いてな。慌てて馬を走らせた」
理由を聞き、肩で息をしている彼の姿を見て、おそらく嘘を言っていないだろうと判断した勇樹はマジック袋から天空鳥の剣を取り出し、フゥーランドに渡す。
「取り敢えずこれはあんたに貸すよ」
「私の時は敬語ではないのだな。まぁ良い、私も貴様達冒険者と馴れ合うつもりはない。それでは場所を移そうか、闘技場でお前達の腕前を見せてもらう」
天空鳥の剣を受け取ると、鞘を腰に帯刀させ、フゥーランドは廊下へと出た。
勇樹達もその後を追い、彼の後ろを歩き、闘技場へと向かう。




