この世界ではお金で生きています三章
三章に入りました。この章から本格的にロストアイの討伐が行われる予定となっております。ですが、二章の時も思ったのですが、予定よりも内容が濃くなり、なかなか先に話しに進みません。ですが、少しでも読んでくれている人の為に頑張りたいと思います。
三章ロストアイ討伐1
集会場を出ると既に夜になっており、辺りは暗闇に包まれ、街灯の光が照らされている。
「もうこんな時間なのか」
「あの部屋には窓がなかったからですね、時の流れを感じることができなかったです」
夜になっていることを実感すると勇樹のお腹からぐうーと音がなり、空腹を知らせる。
「そう言えば朝食を食べてからは何も食ってはいなかったな」
「榛名の満腹度もそろそろ限界に近付いていますね。早く何か食べないと」
「なら、早く帰るとするか、明日から大変になるからな。腕を振るって美味い物を作ってやるよ」
夕食の話しをしながらガルドの家に向かっていると、勇樹はサンスと約束をしていたことを思い出す。
「悪い。サンスさんの所に行かないといけない用事があったのを思い出した。先に帰ってくれ」
「でしたら、榛名も付いて行きましょうか」
「いや大丈夫。そんなに時間は掛からないと思うから」
「分かった。勇樹が戻って来た時には晩飯が出来ているようにしておこう」
手を振ると勇樹は二人から離れ、小走りで武器屋へと向かう。
武器屋に着くと、扉を開け、来客が来たことを知らせるベルが鳴る。
「待っていたぜ」
「こんばんわ、サンスさん。これ、例の物です」
マジック袋から天空鳥の剣を取り出すとカウンターの上に置く。
「確かに受け取った。明日の朝九時頃に取りに来てくれ、それまでには手入れを終えて斬れ味を良くしてやる」
天空鳥の剣を受け取るとサンスは少し待っていてくれと言い、店の奥へと向かうと布袋を片手で掴み、ここに戻って来る。
「この中に手入れに必要な物と手順を書いた紙が入っている。坊主が一人でする時には紙を見ながらしてくれ」
「ありがとう。それで代金はどのくらいになる。手入れの料金も含めてだ」
流石に唯でもらう訳にはいかない。そう思い、金額を尋ねるが、サンスは首を横に振る。
「ロストアイの討伐をしてくれる人から代金を貰う訳にはいかない。これはサービスだ。だから、絶対にあの魔物を倒してくれよ」
「分かった。だけど、実際には俺ではなく、フゥーランドが俺の剣を使うことになったがな」
「坊主よりもあの男が相応しいのは分かる。だけど俺は坊主がロストアイを討伐すると思うぜ。おそらく、フゥーランドは天空鳥の剣を使いこなすことができない」
「どういう意味だ?」
サンスの言葉に疑問符を浮かべる。どうして彼はフゥーランドが天空鳥の剣を使いこなすことができないなど言うのだろうか。
「前にこの世界の武器、防具は使用者の熟練度によって進化するって話したよな。それは何でかわかるか」
装備品に関する質問をされ、勇樹は考えを巡らせるが理由が思いつかない。どうして武器、防具は使用者の熟練度をしり、それに応じて進化させることができるのだ。
「その様子だと、答えが分からないようだな。だが、答えはとても単純だ。答えは、装備品にも心が宿っているからだ」
「心が宿る?」
「装備品にも心があり、己が認めた主に力を貸すが、選ばれなければ力は発揮されない。俺が天空鳥の剣ならロストアイにもダメージを与えることができると言ったのは、天空鳥の剣が坊主を認めていると判断したからだ」
もし、サンスの言っていることが本当であれば、自分以外の人物が天空鳥の剣を使用しても意味がない。だけどそれは我が侭にしかすぎないと思う。
「もし、それが本当なら天空鳥の剣に選ばれたことは誇りに思う。だけど、今回は非常事態なんだ。俺の声が届いているのか分からない。だけど今の会話も聞いているのなら、好き嫌いなどしないでフゥーランドにも力を貸してあげてほしい」
勇樹の言葉を聞いた瞬間、サンスは吹き出し、笑みを浮かべながら笑いだした。
「ハハハ、坊主らしい答えだ。きっと坊主の気持ちは届いている」
店の壁時計を見ると、この店に入ってから三十分経過していた。あまり長居をし過ぎると二人が心配するかもしれない。
「それじゃあ、俺はこの辺で帰るよ。また明日な」
「おう、また明日な」
別れを告げると勇樹は武器屋を出てガルドの家に帰る。
◆◆◆◆
「おう、帰ったか。もう少しで料理が完成するからテーブルにでも座って待っていてくれ」
「今日の夕飯は榛名も手伝ったのですよ」
ガルドの家に帰るとガルドは台所から、榛名は食器を並べながら暖かく迎え入れてくれた。この雰囲気もおそらく明日で最後となると思うと、何だか寂しく思える。
「ただいま、今日の晩ご飯は何だ」
「明日は大事な討伐の日だからな、縁起を担いでトンウィンにしてみた」
トンウィンと言う料理名は知らないが、名前と縁起を担ぐと言う言葉からトンカツのような料理だろうと推測する。
台所から漂う美味しそうな匂いが鼻腔を刺激し、食欲がそそられる。
「お待たせしました。トンウィンですよ」
皿の上には野菜と家畜の肉を衣に付けて油で揚げた料理が盛られ、見た目はトンカツそのものだ。
「このブラックソースを掛けて食べるらしいです。多分榛名達のいた世界で言う所のウスターソースのようなものだと思います」
衣を纏った肉の上に、渡されたブラックソースをかけていく。
これで味の方は分からないが、見た目は何処からどう見てもトンカツにしか見えない。
全員分の料理が用意されると榛名とガルドもテーブルに着席し、三人で合掌をしてから勇樹はトンウィンを口に入れた。
外の衣はサクサクで中の分厚い豚肉は柔らかく、噛めば噛む程、豚肉の中に閉じ込められていた肉汁が口の中いっぱいに広がっていく。
その美味しさに勇樹は感銘を受け、口の中の肉がなくなると直ぐ次の豚肉に箸が進む。
「勇樹さんの顔を見る限り、本当は美味しいのでしょうけど、榛名には味がわかりません。勇樹さんが羨ましいです」
榛名は両の目から涙を流し、羨ましそうに勇樹を見る。
朝食を食べたとき、榛名は美味しくなくとも涙を流すようなことはしなかった。だけど今回は涙を流している。満腹度の仕様に悔しく感じているのだろう。
「今日は色々あってチームの登録を逃してしまったからな、明日にでも登録をしに行くか。正式に仲間となれば俺の持つエミリーの羽の効果で、榛名にも味覚機能の強化が追加されて、味が分かるようになるだろうから」
「本当ですか!では、明日の朝一番に依頼受付場に行きましょう。約束ですよ」
彼女の気持ちを考えると、それ程急ぎたくなる気持ちは分かる。だけど、効率を考えるのであれば先に武器屋で天空鳥の剣を受け取り、集会場の依頼受付でチームの登録を済ませ、奥の部屋に向った方が良い。
だけど、登録に時間が掛かってしまう可能性も考慮すると、時間を少し無駄にしてしまうが、順番を入れ替えて先に登録を済ませた方が良いだろう。
「分かった。なら、明日の朝一番に登録をしに行こうか」
「はい」
満面の笑顔を榛名は浮べると彼女は残りの料理を食べ始める。
◆◆◆◆
「ここは譲れない」
「それは榛名のセリフです。いくら勇樹さんでもこの件に関しては榛名も譲るつもりはありませんので」
夕食を食べ終わった後、勇樹と榛名は子供部屋に戻り、どっちがベットを使用するのかで口論となっていた。
只のベッドの取り合いなら何処の家庭でも見られる光景であるが、勇樹達のは違う。お互いに譲り合い、相手にベッドの使用権を与えようとしていたのだ。
勇樹は女の子を床で寝せる訳にはいかないと発言しており、榛名の方は年長者がベッドで寝るべきと言い張る。
お互いに自分の主張を取り止めないまま膠着状態が続いて行く。
「お前ら五月蝿いぞ、何を揉めている」
二人の声があまりにも五月蝿かったのだろう。隣の部屋にいたガルドが子供部屋に入って来ると仲裁に入った。
「ガルド聞いてくれ、榛名がおとなしくベッドを使ってくれないんだよ。ガルドからも言ってくれ」
「ガルドさん聞いてください。勇樹さんがおとなしくベッドを使ってくれないのですよ。ガルドさんからも言ってください」
ガルドが尋ねた瞬間、二人は同時に事情を説明するが、二人の声が重なり、全部聞き取ることができない。
「待ってくれ二人同時に話すな。何て言っているのか分からないから一人ずつ話してくれ」
順番に二人の意見を聞くとガルドは溜め息を吐き、額に手を置く。
「お前ら、どれだけ仲が良いんだよ。そんなくだらないことで揉めやがって」
「くだらなくはないぞ。睡眠はとても大切なことだ」
「そうですよ。どれだけ安眠することができるかで、翌朝の体調が変わってきます」
「ああ、もう!分かった!なら二人でベッドを使えば良いだろう。この布団があるから喧嘩するんだ。全く、大きい子供が出来た気分だぜ」
吐き捨てるように言うとガルドはお客様用の布団を抱え、部屋へと戻って行く。
一時唖然とした勇樹だったが、直ぐにガルドを追いかけると隣の部屋のドアノブに手を掛ける。しかし、鍵が掛かっているようでドアノブを回しても開けることが出来ない。
「おい、ガルド開けてくれ。二人で一つのベッドを使えれる訳がないだろう」
「俺は嫁さんがいた時は一緒に同じ布団で寝ていたぞ」
扉越しにガルドの声が聞こえる。
ガルドが言っていることは夫婦であるからこそ可能な行為である。家族でもなく、恋人でもない異性と同じベッドで寝ることなど到底できない。
「分かった。謝るから、榛名ともう一度話し合うから布団を返してくれ」
扉を叩きながら訴えるが、ガルドの返事はない。
勇樹は諦めて子供部屋に戻るしかなかった。
「勇樹さんどうでしたか」
部屋に戻ると榛名が心配気な顔で聞いてくる。
「ダメだ。ガルドの奴、聞く耳を持ってくれない」
これ程後悔するのであれば、ガルドが来る前に榛名の提案を受け入れていれば良かった。だけど今更悔やんだところで現状が変わる訳がない。布団が一つ減ったことにより、新な口論が生まれる。おそらく榛名も同じことを考えているはずだ。
「なぁ、もし俺が床で寝ると言ったら榛名はどうする」
この質問をした場合の榛名の答えは予想できている。おそらくそのような行動に出る前に止めるはずだ。
「そんなこと榛名が許しません。勇樹さんが床で寝るぐらいなら榛名が床で寝ます」
予想通りの答えに勇樹は頭を悩ませる。
どうにかして榛名だけがベッドで寝る方法を考えなければ。
考えを巡らせていると榛名はベッドに上がると横になり出した。
諦めて榛名の方から折れてくれたのだろう。そう思い、勇樹は安堵の溜め息を吐くが、その後彼女の口から衝撃的なことを告げられる。
「何しているのですか。早く勇樹さんもベッドに上がってください」
「あのう、榛名さん。それはどういう意味でしょうか?」
彼女の言葉の意味が分からず、勇樹は敬語口調で榛名に質問する。
「今からこのベッドで一緒に寝るんですよ。ガルドさんが布団を返してくれない以上、指示通りにするしかありません」
「いやいやいや、何でそうなる」
何故そのような結論に至るのか勇樹には分からなかった。普通なら少しはお互いに意識し、抵抗があるはずだ。だが、榛名にはそれがない。考えられるのは勇樹を信頼しているから、同じベッドで寝ても大丈夫と判断している。もう一つは男として認識されていない。この二つが考えられる。
前者は自分のことを信頼してくれていることに嬉しさを感じるが、自分だけ緊張しているのがバカに思える。後者の場合は男として情けなく、ショックである。
どちらにしろ、僅かながらも心にダメージを負うのは明白だ。
「何をしているのですか。女性を待たせ、恥をかかせるつもりですか」
榛名の口調が強くなった。このままでは再びガルドがこの部屋を訪れ、更に気まずい方へと話しを持っていかれる可能性だって出てくる。そのような事態を回避するには彼女の言うことを素直に聞くしかない。
勇樹は小さく息を吐くと部屋の電気を消す。部屋の中は薄暗く、窓から入る月の光だけが照らされる。
失礼しますと言って勇樹はベッドに上がり、榛名の隣で横になった。
ベッドはキングサイズなどではなく、普通のサイズだ。お互いに端の方に寄ったとしても肩が触れてしまう。
「榛名から言っておいてアレですけど、ちょと緊張してしまいますね」
「なら、俺が床で寝ようか。それならゆったりと寝ることができるだろう」
「それだけは許しません。硬い床で寝てしまっては身体を痛めてしまう可能性だって十分にあります」
「それならお互いに背を向けて寝るか。それなら少しは広くなって寝やすくなるかもしれない」
「そうですね。そうしましょう」
勇樹の提案に榛名は賛成するとお互いに背を向け合う。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
就寝の挨拶をすると勇樹は瞼を閉じ、寝た振りをする。
おそらく、緊張して寝るに寝れない状況になる。榛名が完全に眠ってしまったのを確認してから、床で寝ることにしよう。
そう考えていたが、瞼を閉じていると疲れが溜まっていたからか、睡魔に襲われ、勇樹はそのまま眠りに就いた。




