この世界ではお金で生きています二章12
二章住み着いた魔物12
「では、具体的な作戦について話し会おうか」
「俺からの質問ですが、戦力はどのぐらいあるのですか」
ガルドがアレックに戦闘に出せる人数を尋ねるとアレックは渋い顔をする。
「負傷者を含めず、まともに戦えれる兵士の数は三十人と言ったところだ」
まともに戦えれる人数がたったの三十人、これは非常に少なすぎる人数だ。勇樹達を含めても三十三人しかいない。
「皆、ロストアイ討伐に出て負傷してきたからな。逆に言えばまだそれだけの人数が残っていたものだ」
「誰かこの人数でロストアイを討伐する良い作戦は思いつかぬか」
アレックが円卓会議のメンバーに視線を向けるとメンバー全員が俯く。
「流石にワタクシは只の道具屋にすぎませんわ。ロストアイ討伐のためにアイテムの提供はできますが、作戦を考えるなど、専門外ですわ」
「俺も経営者だ。そんなこと考えられるか」
ミーシャとマッシュが早くも考えるのを止め、自分の立場から無理だと伝える。
「分かった。では二人を除いて作戦を考えよう二人は戦う者達のために尽くしてくれ」
「分かっております。サポート用のアイテムを沢山用意しておきますわ」
ミーシャは了承するが、マッシュだけは何も言わず、無言でいた。
「作戦を考える前に、討伐対象となるロストアイの情報を知っている方がおられるのでしたら、情報提供してくれませんか。私達の世界では、相手を知り、己を知れば百戦危うからずと言う言葉があります。魔物の事を知り、自分達の事を考えた上で作戦を考えた方が良いと思います」
「そうだな。誰か、負傷した兵士からロストアイの情報を提供するように呼び掛けてくれぬか」
アレックが従者に言うと従者の一人が手を上げ、部屋を出て行く。
三十分程して部屋を出て行った従者が、人数分の紙を持ってくると全員に一枚手渡す。
紙にはロストアイの情報について書かれていた。
・ロストアイは目の部分が分からず、目が存在していないように思われる。
・聴力が発達しており、僅かな音でも獲物の位置を把握することができる。
・全長五メートルから八メートルあり、四足歩行の魔物、首が伸縮自在であり、離れた獲物でも食らいつくことができる。
・皮膚が硬く、斬れ味が悪い近接武器では、逆に得物を失う結果になる。
・ロストアイのあの姿は仮の姿であり、真の姿を隠し持っていると言う噂がある。
書かれている内容を読むと、勇樹の知らないことも書かれている。一番気になったのは最後に書かれていることだ。
あの姿は仮の姿であり、真の姿を隠しているとはどう言うことだ。噂とされていると言うこともあり、噂で終わる可能性も十分に考えられるが、万が一ということも考えられる。
接近戦は極力控えた方が良いが、自分はそう言う訳にはいかないだろう。
「残っている兵士の中で遠距離攻撃ができる兵士はどのぐらいいますか」
ロストアイの体質から考えると接近戦は極力控えた方が良い。遠距離を得意とする兵士の数により、戦い方も考える必要がある。
「ゼロだ」
今アレックは何て言った。遠距離攻撃ができる人数は一人もいないと言ったのか。
「すみませんが、今何と言いましたか」
「申し訳ないが、この街の兵士には近距離攻撃しかできない。そもそも、遠距離の武器はこの世界では重宝されておってな。なかなか入手することができないのだ。ワシもお嬢さんに渡したタコヤキしか持っておらぬ」
「そうだ。この世界では命を削るリスクの少ない遠距離の武器は貴重すぎる。もし、販売してあったとしてもそれは高額であり、一般人は到底手が出せない」
武器屋の店主、サンスがアレックに変わり説明する。
その説明を聞いて、そのような理由があるのであれば仕方がないと勇樹は自身に言い聞かせる。
遠距離からの攻撃が可能である人物は榛名以外いないということだ。
これでは接近戦をメインに榛名の遠距離を役立たせる作戦を考えなければならない。
「因みにロストアイは皮膚が硬く、斬れ味が悪い武器では得物を失うと書かれているのですが、ロストアイにも通用する武器はどのぐらいありますか?」
ここに書かれている武器を失うと言う意味は想像できる。石に木の棒を打つけると折れてしまうように、硬い皮膚を持つロストアイ相手に斬れ味の悪い武器で挑んでも、刀身を折る結果になると言うことを指している。
「それなのだか、この街にある全ての武器を試してもロストアイに傷を付けることができなかった」
申し訳なさそうにアレックは語り、それを聞いた勇樹は絶望の底に叩き落とされた気分になった。
「おい坊主よ、確信はないが、俺が交換した天空鳥の剣ならロストアイの硬い皮膚にも斬り裂くことができると思うが」
「それは本当ですか」
サンスの言葉を聞き、勇樹はマジック袋から天空鳥の剣を取り出す。
「断定は出来ないが、可能性はある」
「俺の大剣、大雅は斬るよりも重さで砕く武器だ。硬い皮膚には通用しないかもしれないが中の骨は違うはず。俺の武器も僅かに通用するはずだ」
「となると、実際にはロストアイ討伐に向かえるのは私に榛名、そしてガルドの三人だけ、となれば他の兵士はロストアイ以外の魔物の侵入を防ぐ役割をしてもらうしかないですね」
「そのようになってしまうな。すまない、こんなことになると分かっていたのなら、もっと強い装備を用意していた。だが、他の魔物なら兵士達でも十分に相手にできるはず」
「次にするべきは具体的な作戦を決めることだな」
「では、今からロストアイ以外の魔物の相手をする部隊の隊長役に成り得る人物を呼ぶ。それまで休憩としよう」
休憩に入ると、勇樹はサンスの下に向った。
「よう、坊主。まさかお前がここに現れるとは思わなかったぜ」
勇樹は一瞬、どのように接しようか考えた。さっきまで円卓会議が行われ、勇樹は敬語を使い、一人称も俺から私へと変えていた。だが、サンスにはあまり敬語を使ってはいない。ここはいつもの自分を出す感じで接した方が良いだろう。
「俺もですよ。それでサンスさんに聞きたいことがあるのだけど」
「やっぱり、お前はその口調がしっくりくるな。さっきまで違和感が全開だった。それで何が聞きたい」
「これだけど、正規の手入れの仕方がわからなくて」
勇樹はマジック袋から天空鳥の剣を取り出し、サンスに見せる。
「こいつでマッシュに坊主を斬れと聞いた時は肝を冷やした。それなら後で俺の店に来い、手入れをしてやる。その時に手入れの仕方の書かれた紙と必要な道具をついでに渡してやる」
「ありがとう。助かる」
「失礼します」
サンスと会話をしていると鎧姿の一人の兵士が部屋に入ってきた。見た目は二十代前半の青年で、端正な顔立ちに青い髪、髪と同じ色の瞳をしており、長い髪を纏めている。
「おお来たかフゥよ」
「もう子供ではないので、その呼び方はおやめ下さいと何度も言っていますでしょう」
「初めての者もいると思うが、ワシの子供、フゥだ」
「フゥーランド・オルメシアと申します。今回魔物討伐の部隊長に任命されました。宜しくお願い申し上げます」
フゥーランドは丁寧に自己紹介をすると会釈する。
「では、会議を再開させよう。先程の休憩時間に椅子を用意させた。これで全員が座れよう」
会議の再開をアレックが宣言すると勇樹は戻り、ガルドの隣に座ると榛名はその隣に座る。
そして数時間にも及ぶ作戦会議が行われた。
その結果、街の兵士が他の魔物を相手している間に勇樹達がロストアイを誘導し、街から離れた場所で討伐することになった。
そのような形で作戦が固まり、会議に終わりが見えた頃、フゥーランドが円卓を叩き、席を立つ。
「私はこのような作戦を認めません。ガルド殿はともかく、異世界から来たと言う信じ難い発言をする冒険者にロストアイの討伐を任せられません。失礼を承知の上で申し上げますが、彼は実力がないように見受けられます」
「だが、我々の武器ではロストアイに傷を付けることができない。彼の持つ天空鳥の剣でなければならないのだ」
「では、私が彼の剣を借り、この手でロストアイを討伐させてみせましょう。私なら二人を見事に指揮し、ロストアイの討伐を現実にする自信があります」
「榛名は反対です」
フゥーランドの言葉に榛名は立ち上がり、異を唱える。
「例え実力があったとしても、榛名は信頼できる勇樹さん以外の人から指示を受ける気がありません。榛名達のことを信用しない人と一緒に行動しても、安心して背中を預けて討伐することができませんので」
榛名はフゥーランドに睨み付けるように視線を向けるが、フゥーランドは嘲笑すると興味がないと言いたげな顔で勇樹に視線を向ける。
「お嬢さん、君の意思などどうでも良いのだよ。肝心なのはこの男が私に剣を貸すかどうかだ。君は剣の腕はあまり良くはなさそうだが、利口であると見た。君ならどうするのが一番なのか分かるよね」
彼の言う通りだ。自分はまだ戦闘経験の少ない未熟者である。仮に自分が指揮をして挑んだとしてもおそらく勝率は少ない。だが、この男に天空鳥の剣を渡せば勝率が上がるのは目に見えている。
「分かった。この剣を貸そう」
「勇樹さん」
「賢明な判断だ。この街の平和を守りたいと思うのであれば、当たり前のことだ」
「だが、条件がある。俺もロストアイ討伐のメンバーに加えることが条件だ」
「良いだろう。交渉成立だな。では詳細な戦法は明日伝えるとして、今日はお開きとしましょう」
満足な顔をすると、フゥーランドは両手で二回叩くと会議の終了を告げる。すると、勇樹、榛名、ガルド、アレック以外のメンバーは立ち上がると部屋を出て行った。
「では明日の朝十時、ここで待っているから、剣の手入れをしておくことをお願いするよ」
そう勇樹に伝えるとフゥーランドも部屋を出て行く。
彼の姿が部屋からいなくなったのを確認すると、アレックは溜め息を吐き、申し訳ないと言った表情で勇樹を見た。
「我が侭な子で申し訳ない。小さい頃に母親をなくしてな、母親の分まで愛情を注いだからか、男一人で育てたせいか、我が侭な性格に育ってしまってな」
「大丈夫ですよ。私的にもこれが最良であると判断したから提案に乗っただけです。アレックさんが謝る必要はありませんよ。では私達も帰らせてもらいます」
勇樹が席を立つと榛名に続いてガルドが席を立つ。
ガルドはいつもと変わらない表情であったが、榛名は不機嫌そうな顔で勇樹を見ると小言を言ってくる。
「榛名は納得できません。勇樹さんの考えもわかりますけど、やっぱり榛名は嫌ですよ」
「お嬢ちゃん、その辺にしてやれ、勇樹は疲れている。それに俺も勇樹の判断は正しいと思う」
「この裏切り者!良いですよ、榛名は意地を張ってでもあの人の言うことは聞きませんから」
榛名はそっぽを向くと早足で廊下を歩く。
二人はやれやれと肩をすくめると榛名の後を追いかけた。




