この世界ではお金で行きています二章11
二章住み着いた魔物11
ガルドに続き、部屋に入って来た勇樹達を見て、彼のことを知っている人物は驚きの表情を作った。
「まさか、お主が勇者であったとはな。だが、これで色々と納得した」
「代表は勇樹のことを知っているのですか」
「ああ、全員を呼ぶ前にこの者と会談していたのでな。だが、彼なら安心して部隊を任せれるだろう」
「部隊だと」
アレックはガルドが部屋から出た後に起きた出来事を語り出す。
その内容は勇者を部隊の部隊長に任命し、勇者の指揮によりロストアイを討伐することを決定したとのことだった。
「なるほど、実は代表に謝らないといけないことがあります。彼は……」
ガルドが言葉を言いかけると勇樹は彼の腕を掴み、首を左右に振ると一歩前に進み、ガルドの横に並ぶ。
「実は私はアレックさん、いえ、この街の住人全てに嘘を吐いていました。なので今から真実を話します。ですが、この真実はとても幻想的なので信じることがおそらくできないと思います」
前置きすると勇樹は小さく深呼吸をする。そしてこれまでの経緯を話した。
「私とこちらの彼女、榛名は地球と言う別の世界で死に、死後の世界で天使エミリーと出会い、こっちの世界に送られたのです」
勇樹の一言により、円卓会議のメンバー達は驚愕し、辺りがざわめき出す。
「皆の者静粛に、まだ話しは終わっておらぬ」
このままでは話しが進まないと判断したアレックが、静まるように言い放つと、数秒後に会話が止まり、全員が勇樹の顔を見る。
続きを言うようにアレックから視線を向けられると、勇樹は続きを語る。
「送られた理由は謎のままですが、私はおそらくこの世界にいる魔王を討伐するために、この世界に送られたのだと思います。情報収集するために集会場へと訪れ、そして一時の失いを初めて体験しました」
今度は勇樹の言葉に口を挟む者はいない。全員が話しの続きが気になり、耳を傾けている。
「そこで、ガルドと出会ったのですが、真実を話したところで信じてもらえるとは思えないと判断した私は、記憶喪失だと嘘を吐きました。その方が都合が良いと思ったからです。ですが私の思惑とは裏腹に、ガルドが私を勇者と勘違いしてしまいました」
「何と!」
アレックは本日何度目になるか分からない驚愕の顔をすると額に手を置く。
「ああ、本当だ。俺が早とちりをしてしまい、広めてしまった。だからこいつは王様が魔王討伐に送り込んだ勇者ではない。だけど実力はまだまだだが、磨けば光る逸材だと俺は思っている」
「その後、私はこの世界の冒険をしている冒険者を演じてこの街で依頼を受け、今日に至ります」
一部分真実を語っていないが、これが信じてもらえれる限界の範囲だろうと判断した内容だ。
勇樹の話しが終わるとメンバー達は再びざわめき出す。
そんな中、宿屋の店主マッシュが円卓を叩くと勇樹に人差し指を向け言い放った。
「そんな絵空事信じる訳がないだろう。何が天使にこの世界に送られただ。そんな事現実に起きる訳がない。きっとこいつが結界を壊した犯人だ。誰かこいつを引っ捕らえろ」
「落ち着けマッシュ、確かに信じ難い内容であるが、ワシはこの者が犯人ではないと思っておる」
「この男が余所者だからですか。だが、この街の誰かとグルになっているのなら話しが別だ。例えばガルド、あんただ。あんたとこの男がグルになれば結界の場所を知らせ、破壊することだって可能だ」
「おい、マッシュ!何だその言い草は!俺が勇樹とグルになって結界を壊す訳がないだろう」
マッシュの言葉にガルドが額に青筋を立てながら円卓を乱暴に叩く。
「ガルド落ち着け」
勇樹がガルドの肩に手を起き、落ち着かせるように言うが、ガルドは頭に血が上っているのか乱暴に勇樹の手を振り解く。
「落ち着いていられるか、証拠もないのに決めつけやがって」
「だけど、所詮空想でしかない。無実であることは俺達が一番知っている。今から彼自身にも俺達が犯人ではないことを分からせてやる」
そう言うと勇樹はマッシュの前に移動するとマジック袋から天空鳥の剣を取り出し、マッシュに差し出す。
「何のつもりだ」
「もし、貴方が私を疑うのであれば、この剣で私をお斬りください」
「なっ!」
勇樹の放った一言により、この場の空気が一変する。
ガルドと榛名は驚愕の表情で二人を見た。他のメンバーも目の前に起きている出来事に驚き目を丸くしている。
だが、一番驚いていたのはマッシュだ。
何故この男は自分に剣差し出す?何故そのような行動に出れる?分からない。この男の考えている事が何一つ分からない。
マッシュの手は震え、額から脂汗が噴き出すとダラダラと流れ出した。
「どうしたのですか、貴方は私を犯人だと思っているのでしょう。なら簡単な事です。言われた通りにこの剣で斬りつければ良い」
勇樹の瞳を見た瞬間、マッシュは背筋が凍ったかのような感覚に襲われる。
「もう良いではないか。マッシュが剣を取り、お主に斬りかからない。それはお主が犯人ではないと感じ取ったからであろう」
二人を止めに入ったのはアレックだった。マッシュの顔を見て戦意を失ったことを察知すると、それ以上の醜態を晒さないために止めに入った。
「アレックさんはマッシュさんが私は犯人ではなと認めたと言っているのですが、本当ですか」
勇樹の問いにマッシュは歯をガタガタと震わせ、首を前後に動かすと勇樹は彼から天空鳥の剣を返してもらい、マジック袋に入れる。そして踵を返すとガルドの下に戻った。
「ちょとこっちに来い」
戻って来た勇樹の腕を掴み、ガルドは扉を開けて廊下に出ると榛名も続く。
「おい、今のはどう言う冗談だ」
壁沿いに勇樹を立たせるとガルドは右手を勇樹の顔の横に置き、壁ドンをする。
「どう言う冗談って見ての通りだ。あの人は見た所剣を扱ったことがないと判断した。だから剣を差し出し、斬れと言えば怖がって何も出来なくなると思っていた。俺の予想通りに彼が…………」
「バカ野郎!」
勇樹が説明を終えるよりも前にガルドは彼の左頬に拳をぶつける。
「お前、自分が何をしたのか分かっているのか。相手が臆病者のマッシュだったからあのような結果になったが、一歩間違えれば本当に斬られていたのだぞ」
「イテェな!何しやがる!」
突然殴られたことに怒りを感じ、勇樹は感情的になってガルドの顔面を殴ろうとする。
「もう止めてください!」
勇樹の拳がガルドの顔面に触れる寸前で、榛名が叫び声を上げると勇樹の拳はピタリと止まった。
「どうしてあんな危ないことをしたのですか。榛名達は本気で心配したのですよ。もし、勇樹さんが斬られてしまったらと思うとハラハラして心臓がはち切れる想いでした」
榛名の目から大粒の涙が流れ落ちる。その光景を見た瞬間、勇樹は力が抜け、振り上げた拳を下に下ろした。
自分の泣き顔を見られたくないのか、榛名は勇樹の胸に顔を埋めると力強く彼を抱きしめる。彼女の力強さでどれだけ心配させていたのかが伝わってきた。
「すまない、あの人に犯人ではないと認めさせることだけを考えていた。反省している。だからもう離れてくれ」
「嫌です。もう二度とあのようなことをしないと誓ってください。でなければ榛名は離しません」
誓うまで離さない意思を示しているのか、榛名は更に強く抱き締める。
痛くはないが、このままにしておく訳にはいかない。
「分かった。二度とあんな危険なマネはしないと約束するよ」
「約束ですよ、もし約束を破ったら榛名の言うことを何でも聞いてもらいますから」
「分かった。流石に何でもは無理だから、俺が叶えられる範囲で望みを叶えるよ」
勇樹は榛名の頭を優しく撫でながら宥めると彼女はようやく勇樹から離れ、笑みを向ける。
「ガルドも悪かったな、心配をかけて」
「いや、俺も感情的になりすぎた。いくら何でも殴る必要はなかった。すまない」
勇樹がガルドに謝罪すると彼も謝り、頭を下げる。
「それでは戻りましょうか。話しの途中で退場してしまいましたし」
「そうだな、アレックさん達にも謝らないといけない」
扉を開け、三人が部屋に戻るとアレックが勇樹に語りかける。
「大丈夫か、何やら揉めていたようだが」
「いえ、大丈夫です。ご心配をおかけしました。場の空気を壊してしまった制裁を受けていたので、問題ありません」
「そうか、お主がそう言うのであれば、取り敢えずは何も聞かなかったことにしよう」
アレックは咳払いをすると、円卓に座っている全員に視線を向けた。
「驚きの発言を聞き、話しが脱線してしまったが、一度話しを戻すとしよう。犯人の事は後日調べるとして、問題は外来魔物ロストアイの接近をどう防ぐかだ」
「ロストアイと言うのは、Bランク指定で森に生息するようになった。あの目のない魔物のことですよね」
小さく手を上げて勇樹は質問をするとアレックはうむと答え、頷く。
「俺からの提案なのですが、勇樹は勇者ではないが、部隊長を任せてやってくれないですか。彼なら上手く部隊を纏めることができると思います。勿論彼は初心者冒険者ですが、戦闘のサポートは俺が全力致します」
「彼とは数時間過ごしただけであるが、それなりの素質を持っているとワシも思っている。彼が引き受けてくれるのであればワシはその提案を受け入れよう」
「とのことだが、勇樹、お前はどうしたい。お前の考えを聞かせてくれ」
ガルドから問われ、勇樹は思案すると自分の意見を伝える。
「正直に言うのであれば、私の実力は自信が一番知っているつもりです。それから考えるとその役目は私にとって力不足だと思います。まだ一度だけですが、ソロで依頼を受け、仲間との依頼を受けたことがありません。なので、連携を取りながらとなると経験不足から上手く指示を出すことができずに、無駄に命を散らせることになると私は考えております。ですが、ガルドが推薦してくれたことには感謝し、誇りに思っています」
「成程、お主の意見はわかった。ワシも無理強いはするつもりはない、部隊を指揮するのは別の人間に任命することにしよう」
アレックが自分の意思を尊重してくれたことに勇樹は安堵する。できるだけ無駄に血を流させるようなことは避けたい。
「フン、自分のミスで責任を取らされるのが怖いのか。とんだ臆病者だな」
さっきのことを根に持っているのか、マッシュが嫌味たらしく言葉をぶつける。
「確かに私は臆病者です。ですが、臆病者で何が悪いのですか。冒険者なら戦って死ぬのが本望とか言う人もおられるでしょう。ですが、臆病であることで一早く危険を察知して仲間に知らせることにより、被害を最小限に抑えることだってできます」
「そんなのただの言訳にしか過ぎない」
腕を組み、マッシュは首を横に向ける。
「マッシュよ、次に話しの腰を折るようなことをすれば悪いが出て行ってもらおう」
「どうして俺ばかり責められるのですか」
アレックの言葉にマッシュは反論するが、睨み付けるような視線を向けられるとマッシュは舌打ちし、ふてくされる。
「他の者はどうだ」
「彼の正体のことは別問題として、戦力は少しでも多い方が良い。俺は賛成だ」
「ワタクシも賛成ですわ」
「俺も異論はない」
アレックがメンバーを見渡すとサンスが認め、続いてミーシャ、エレンも認めた。
「では、続いて具体的な作戦について語るとしようか」




