この世界ではお金で生きています二章10
二章住み着いた魔物10
勇樹達が榛名の服を選んでいる頃、依頼受付所の奥の部屋には街の代表者アレックを含め、呼ばれたメンバー達が集まっていた。
「俺達に招集がかかるなんて珍しいではないか。何か面倒なことでも起きたのか」
「サンスよ、それは全員が揃ってから話す。まだ一人来てはいないからな」
サンスと呼ばれた男がアレックに尋ねる。彼は武器屋の店主であり、勇樹に天空鳥の剣を渡した人物だ。
「武器屋に防具屋、道具屋に、宿屋、街の商売人達ですわね、その中でも冒険者と多くの交流を行う商売をしている人物達が呼ばれているようですわね」
右手に扇子を持ち、自分に扇いでいる女性、道具屋の女店主ミーシャがこの場にいる全員の顔を見ながら言葉を洩らす。
「集められたメンバーなどどうでも良い、早く話をしてくれないか。俺は店を休んできているのだぞ。早く終わらせて仕事をしなければならない」
宿屋の店主、マッシュがアレックを睨み付けるように視線を向け、投げつけるように言葉を放つ。
「おい、代表に失礼だぞ!…………それにお前の宿屋には誰も泊まりに来る者などいないだろう。そんなに急ぐ必要はあるまい」
防具屋の店主、エレンがマッシュの失言に怒鳴り声を上げ、席を立つと自身の失態に気付き、着席するとマッシュに聞こえるように嫌味を言う。
「俺の店に客が来ないのはこの街が寂れているのが原因だ。それは代表の祭りごとのやり方が良くないからだ」
エレンの言葉が癇に障ったのか、マッシュは運営の責任をアレックに押し付けた。
「おい、良い加減にしろ。俺達が集められた意味を考えろ」
「全くもって見苦しいですわ」
エレンとマッシュのやり取りに痺れを切らせ、武器屋の店主サンスがテーブルを拳で叩き、道具屋の女店主ミーシャが溜め息を吐く。
「遅れて済まない。ちょっと用事で離れていてな、戻るのに時間が掛かってしまった」
扉を開け、中に入って来たのはガルドだった。彼は汗だくになり、額から汗が流れると頬を伝い、床に落ちる。
「貴方汗だくではありませんか。これでお顔を拭きなさい」
ミーシャが席を立つとガルドに花柄のハンカチを手渡す。
「済まない、ミーシャ」
ガルドが額の汗を拭うと洗って返すと言い、空いている席に着席する。
「全員揃ったな、では今より円卓会議を行う。会議の議題は…………」
「結界の消失による魔物の襲撃の恐れだろう」
アレックが言い切るよりも早く、ガルドが彼の言おうとした言葉を言う。
「お主、どうしてそれを」
「偶然にも慌てた兵士を見かけてな、事情を聞いた俺は、結界の具体的な情報を得るために現場に向かっていた」
「それで、どうだった」
真剣な表情でアレックはガルドに続きを言うように促す。
「神殿の奥にある女神像の上半身が破壊されていた。そして中に収納していた結界の核が木端微塵になっていたな」
「何と!」
「だけど、結界の中にある核は魔物供に破壊することなど不可能ではないか…………まさか」
サンスの脳裏にあることが思い浮かんだ。それはできることなら唯の勘違いであってほしいと願いたいぐらいだ。
「そのまさかだ。結界内に入ることが出来るのは人間だけ、となればこの俺も含め、この街にいる全員が容疑者の可能性がある」
「そんな馬鹿なことがあるか、この街の住人が自ら苦しむようなことはしないはずだ。街の結界を破壊したのは余所者に決まっている」
ガルドの言葉にマッシュが反論する。確かに一般的に考えるなら、余所者が一番怪しいと考えるのは普通だろう。
「いや、その可能性は低いだろう。結界の核が女神像の中にあることは、街の住人しか知らないはず」
「なら、この街の住人に裏切り者が居ると言うことだ。誰だ魔物供に街を売った不届き者は」
「落ち着くのだマッシュ。今は犯人探しよりも街の安全の確保が最優先だ」
感情的になり、暴走仕掛けて居るマッシュをアレックがなだめる。
「そうですわね。昔からこの街周辺に住み着いて居る魔物は街の兵士達で抑えることができるでしょうが、問題は」
「外来魔物のロストアイか」
「そうです。そうです。もし、あの魔物がこの街に攻め入ったら街は壊滅してしまいますわ」
ミーシャがロストアイの姿を思い浮かべているのか、顔を青ざめ、自身の肩を抱いている。
「さて、どうしたものか」
この場にいる全員が悩み、考え、暫く沈黙が流れる。数秒後、沈黙を破るかのように一人の兵士が扉を開けるとアレックの下に駆け寄り、小声で何かを伝えた。
「何!」
兵士の言葉を聞いた瞬間、アレックは渋い顔をすると、この場にいる全員の顔を見渡す。
「皆の衆、残念なお知らせだ」
「残念なお知らせって、結界が破壊されたこと以外に残念なことってあるのか。もしかしてロストアイがこの街に向かっているなんて言うんじゃないよな」
「サンスは勘が良いな。そのまさかだ。結界が壊されたことを知ったかのように複数の魔物を引き連れ、ロストアイがこの街に近付いている情報が入った」
「マジかよ」
「だが、まだ絶望するのは早い、風の噂で聞いたのだが、この街に王様が魔王退治に送り込んだ勇者がいるらしい。もし、まだその人物がこの街に滞在しているのであれば勇者にロストアイの討伐をお願いしようと思う」
アレックの言葉にガルドは勇樹の顔を思い浮かべた。
勇樹はガルドの勘違いにより、王様の送り込んだ勇者だと言うことになっている。もし、勇樹の正体を言わなければこのままロストアイ討伐に駆り出されることになる。それに勇樹は戦闘経験が殆どない初心者冒険者だ。今の勇樹がロストアイに挑んだところで返り討ちに合う可能性の方が大きい。しかし、勇樹はこれから経験を積むと化ける可能性を秘めている。この討伐が彼の能力の開花に繋がるのであれば、危険な賭けではあるが挑んでもらいたい気持ちもある。
「その勇者だが、俺に心当たりがある」
「そうか。では、今直ぐにこの場に連れて来てくれないか」
「了解した。直ぐに連れてくる」
ガルドは部屋を出ると勇樹を探しに集会場を後にする。
どちらにしろ選ぶのは勇樹自身だ。もし、彼がロストアイの討伐依頼を受けないのなら、勇樹の正体をアレックに伝え、別の方法で魔物を討伐する方法を考えてもらうようにしよう。
そう考えながらガルドは勇樹の姿を探した。
◆◆◆◆
男性用の服を見ながら榛名が選び終わるのを待っていると、背後から榛名の声が聞こえ、振り返る。すると勇樹は息を呑んだ。
「勇樹さんお待たせしました。これなんかどうでしょう」
彼女は白のブラウスに丈が膝までの薄い黄色のスカート姿であり、その清楚さ、美しさに勇樹は見惚れてしまう。
「良いんじゃないか。凄く似合っているよ」
勇樹は人差し指で頬を掻きながら、照れ顔を見せないように横を見る。
「そうでしょう、そうでしょう。この私がコーディネイトしたのですから間違いありません。私の観察眼は凄まじく、一度たりとも間違ったことなどありませんから」
榛名の横に立っている店員が、自身の実力を自慢するように勇樹に語る。彼女は勇樹の服を選んだあの店員であり、勇樹とも顔見知りである。
「確かに見惚れてしまう程の良い服を選んでもらって嬉しいけど、スカートでは魔物との戦闘の際に動き難いのではないか」
「ご安心を、このスカートは鳥の羽のように軽く、繊維も細かく編み込まれていますので、木の枝に引っ掛かったとしても破れることはありません。スカートの丈が気になるのであれば、自分で調整することもできます」
そんなに自信があるのか、店員さんは力説し、圧力を感じる眼で勇樹を見つめる。
「なら、これをもらいます」
「分かりました。代金はアレックさんが支払うとのことですので、メイドさんに伝えておきますね」
勇樹と榛名は店を出る前にお礼を言うためにメイドさんを探す。彼女は女性用の衣服を見ており、二人はメイドさんに近付いた。
「ありがとうございました。お陰で良い物を貰えました。アレックさんにもお礼を言っておいてください」
「いえ、私は自分の仕事をしただけですので、それに服は貴方様が持ってこられた艦鋼石の残りの代金代わりですので、お礼を言うことではありません」
「それでもありがとうございます」
メイドさんにお礼を言うと軽く会釈し、扉へと向うとドアノブに手を伸ばそうとした。その瞬間、扉が開き、外からスキンヘッドのおっさんが現れる。
「うわっ、ガルドか、ビックリさせるなよ」
「勇樹、こんなところにいたのか。悪いが俺に着いて来てくれないか、事情は歩きながら話す」
ガルドの真剣な表情を見て、只事ではないと悟った勇樹は無言で頷くと榛名に視線を向ける。
「榛名は大丈夫です。行きましょう」
「悪いな、巻き込んでしまって」
ガルドは集会場の方へと歩きながら、先程起きた出来事を勇樹に話す。
「と言う訳だ。もし、勇樹が討伐に参加したくないのなら、その意思を尊重して俺からアレックに伝えるが」
「結果はどうあれ、勘違いをさせるきっかけを作ったのは俺だ。自分の尻拭いぐらいはするさ。それに、俺達はいずれこの街から出て行くためにあの魔物を討伐しなければならない。その機会が早まったと考えるさ」
「ありがとう。正直、お前には参加してほしくない気持ちはあるが、心強く思う」
そんな会話をしていると集会場に着いた。中に入り、依頼受付の奥の部屋の扉をガルドが開ける。
「待たせたな、約束の人物を連れて来た」
「お主は!」
ガルドに続いて部屋に入って来た二人を見て、アレックを含め、勇樹のことを知っているメンバーは驚きの表情を見せた。




