この世界ではお金で生きています二章9
二章住み着いた魔物9
集会場を後にして勇樹と榛名は服屋へと向かっていた。
アレックとの会談にかなりの時間を費やしていたようで、太陽は現在一番高い位置にあり、お昼を過ぎていることが分かる。
「お腹空いたな。榛名は大丈夫なのか?」
「今朝、朝食を食べたので満腹度はまだ半分ぐらいは残っています」
時間と共に空腹を感じる。それは生き物としては普通のことであるが、今直ぐに食事が取れない場合は満腹度があった方が良かったと思ってしまう。
だけど、榛名からしたらこのような悩みは贅沢だと思われるだろう。
そんなことを考えていると榛名が心配そうな顔で勇樹を見る。
「もし限界なら、先に勇樹さんの食事をしてからで榛名は構いませんよ」
「いや、大丈夫だ。その内空腹を忘れると思うから」
人間不思議なことに、空腹であっても暫く時間が経過すると空腹を感じなくなる。おそらく脂肪が燃焼され、栄養分が体に吸収されるからだろう。
「それにしても緊張したな。まさか、この街の代表者と面会することになるとは思っていなかったからさ。頑張って敬語を使ったけど、あの圧迫感はなれないな」
「そうですね、勇樹さんの変貌ぶりには榛名も驚かされましたけど、やっぱり社会人だなぁ、凄いなぁて思いました。」
「そうだ!忘れない内にこれを渡しておかないと」
勇樹は思い出し、マジック袋からコインケースを取り出し、1000Qを十枚取り出すと榛名に渡そうとする。
「はい、半分の10000Q、これを自分のコインケースに入れておいて」
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけで十分です。それは勇樹さんの持っていた石で手に入れたお金です。勇樹さんが持っていてください。それに榛名は武器も貰いましたし、これから服まで頂けるのですよ。だからこれ以上貰う訳にはいかないのです」
首を横に振り、榛名はお金を受け取ろうとはしない。正確な手続きはまだ行ってはいないが、榛名は正真正銘の仲間だ。だから仲間に気を使う必要がない。
「榛名の気持ちは嬉しいよ。でも、もう仲間だ。仲間に気を使う必要はない。これからは助け合うことばかり起きるだろうからさ、だから受け取ってくれ」
気を使う必要がない。だから受け取ってくれと榛名に懇願するが、それでも彼女は頑なに受け取ろうとはしなかった。
仕方がない。これだけは使いたくはなかったが、最終手段に移るしかない。
「そこまでして頑なに受け取らないのなら俺にも考えがある。今からこのお金を受け取らなければ、榛名の胸を揉むぞ」
自分の身体を榛名は大切にしているはずだ。これならば、仕方なく受け取ろうとするはずだ。
セクハラ発言をすると勇樹は手をわきわきと動かす。
「良いですよ。勇樹さんが榛名の胸を揉みたいのなら、満足するまで揉んでください。…………だけど、初めてなので、できれば優しく、人気のないところでお願いできますか」
榛名は頬を朱色に染め、自分のセリフに羞恥心を覚えたのか両の瞼を閉じながらも胸を張り協調する。
浴衣の隙間から手を入れれば彼女の豊満な胸に触れることができる。そんな状況に置かれた勇樹は戸惑いを隠せなかった。
ど、どど、どうしてこうなってしまった!おかしいだろう。そこでは嫌がって仕方なくお金を受け取るはずなのに、どうしてこういう展開になってしまう。お、落ち着け俺、これは榛名が仕掛けているに決まっている。おそらく俺が本当に紳士であるか試しているのかもしれない。
確かに男と女の二人旅になってしまう。いくら関係が良くなったからと言って男はオオカミと思うはずだ。今後安心して旅をするためにも最終確認を行っているのだ。
そう脳内で結論付けると勇樹は榛名の両肩に手を置き、優しく語りかける。
「大丈夫だ。榛名のことは大切に思っている。だけど、君が考えているようなふしだらなことはけしてしないよ。そんなことをしたら一緒に旅を続けることができなくなってしまう」
変に親密になりすぎて、お互いを意識するようになってしまっては旅に支障ができる。対等であってこそ、お互いに背中を預けれる仲になるのだ。いくら榛名が可愛くとも勇樹はそれ以上の関係になるつもりはない。
「どうして勇樹さんはこの手に関してはニブチンなのですか。勇樹さんのアホ、鈍感、ヘタレ、天然ジゴロ、チキン!」
勇樹の言葉を聞いた瞬間、榛名は顔を真っ赤に染めながらも勇樹の胸筋を軽く叩く。
「おいおい、何だよそれ、アホやヘタレなのは俺自身も知っていることだけど、鈍感ではないぞ。それに天然ジゴロとかチキンって何だよ。おじさんには若い子の現代使われている言葉なんてわからないよ」
「わからないなら自分で調べてくださいよ。あと、チキンに関しては先程の言葉のどれかが当てはまりますので」
榛名は小さく舌を出すと勇樹に背を向け、歩き出す。
「おい、待ってくれ」
道も知らないはずなのに先に進んでいく榛名を追いかけ、どうにかして機嫌を良くしてもらおうと話しかけるが、彼女はガン無視し、勇樹の声を聴こうとはしない。
小声であまり聞こえないが、榛名は独り言のようにブツブツと呟いている。何か考え事でもしているのだろう。勇樹は榛名の後ろを従者の如く着いて行くしかなかった。
「据え膳食わねば男の恥と言うのに、どうして勇樹さんは行動に出てくれないのでしょう。普通の男性なら喜んで榛名のおっぱいを触ると思うのに、もしかして勇樹さんは貧乳の娘が好みなんでしょうか?それともロリコンや人には言えない性癖の持ち主…………まさか、ゲイなんてことは…………いやいや、それはないはず。そもそもそんなの榛名が認めません…………きゃ」
考え事をしていたからか、榛名は自分がだんだん道の端の方に移動していることに気付いておらず、路肩の斜面で足を踏み外し、そのまま転倒しそうになる。
「危ない!」
榛名の背後を歩いていた勇樹は、転倒しそうになった彼女の腕を掴むと力一杯引き寄せ、抱きしめる恰好を取る。
榛名の目には勇樹の胸しか見えず、自分が彼に抱きしめられていると実感すると鼓動が激しくなり、意識すると自身の心臓の音が大きく聞こえる。
「大丈夫か、ちゃんと前を向いて歩かないとダメじゃないか」
「すみません。ちょっと考え事をしていたので」
「その考え事をだま続くのか」
「まだ続きます。もしかしたら永遠のテーマになるかも」
「それは大変だな。ならさ」
勇樹は腕を離し、榛名から一歩分距離を置くと彼女の手を握る。
「また考え事をして、さっきみたいにこけそうになっても困るから手を繋ごう。これならこける心配がないから」
自分と勇樹が繋がっている手を見て、榛名は再び頬を朱色に染める。
「勇樹さんは今、狙ってしましたか?」
「何を狙っているって?別に俺は何も狙ってはいないけど、どういう意味だ?」
勇樹の返答に榛名は小さく息を吐く。
「やっぱり勇樹さんは天然ジゴロじゃないですか。ですが、それも勇樹さんの魅力の一つかもしれないですね。もしかしたらまた考え事をしてしまうかもしれませんので、勇樹さんが迷惑でなければこのままお店まで手を繋いだままでもよろしいでしょうか」
「迷惑ではないさ。それにそのつもりで手を繋いだから」
彼の手からぬくもりを感じる。このぬくもりを感じることができたのも彼が自分の胸を触ろうとしなかった結果に起きたことだ。自分を大切にしてくれている。それは一人の女ではなく、仲間として大切だと彼は言ったのだろう。だけど今はそれだけで十分だ。それ以上のことを求めてはいけない。小さな幸せだと思える彼との出来事の一つ一つを大切にしていこう。
暫く歩くと服屋の看板のある建物が視界に入ってきた。あそこに着くと勇樹と手を離さないといけなくなる。
距離が近づく度に名残惜しさが強くなっていくが、時の流れには逆らえない。それにこれが最初で最後という訳ではないのだ。手を握る機会なんて他にもいくらでもある。
服屋の前に着くと榛名の方から手を離した。自分から先に手を離さなければ未練が残る、そんな気がしたからだ。
勇樹が扉を開けると扉の前にメイドさんが待ち受けていた。彼女の姿には見覚えがある。服屋の伝言役を申し出たあのメイドさんだ。
「お待ちしておりました。この店のオーナーには話しを付けておりますので、気に入った物があれば好きなだけ選んで構いませんので」
メイドさんは軽く会釈し、店員に視線を向けると入れ替わるようにして店員が二人の前に来る。
「お話しは聞いております。どうぞこちらに」
「俺は適当に店内をぶらついているから、決まったら教えてくれ」
そう言うと勇樹は男性の服が展示されている方へと歩き出そうとする。だが、いきなり手首を握られ、振り返ると榛名が勇樹の腕を掴んでいた。
「一緒に来てくれないのですか。勇樹さんの意見も取り入れて選ぼうかと思っていたのですけど」
「いや、俺は服にはあまり興味がないからセンスがない。だから店員さんに相談しながら選んだ方が良いと思う」
「榛名はそれでも構わないですけど」
「せっかくアレックさんの計らいで良い服を選べれるようになったからさ、良い服を選んであげないと逆に失礼になるんじゃないかな」
おそらく、安物を選んでしまったとしてもアレックなら機嫌を損ねるようなことはしないだろう。だが、この場から解放されるためにはそれしか方法が思いつかなかった。
「なら、イメージだけでも教えてくれないですか。どんな感じのが榛名に合うと思いますか」
榛名も食い下がる。勇樹はイメージを伝えれば隣で意見を聞かれずにすみ、この場から離れることができるのならと考え、榛名の似合いそうな服をイメージする。
「榛名は長い黒髪だし、清楚系のお嬢様ってイメージがあるから、清楚な服が似合うじゃないかな。スカートとかきっとピッタリだと思う。だけど、スカートだと戦闘では邪魔になるだろうから、その辺も考えるならズボンの方が良いだろうね」
「わかりました。それなら選んで来ますね」
榛名は店員の後を着いて行き、勇樹も買う気はないが時間潰しに男物の服を見ることにする。
男物の服が展示されている場所へ向かおうとすると、メイドさんと視線が合った。お互いに軽く会釈をすると勇樹は男物の服のあるエリアへと移動した。
しかし、あのメイドさんは何時の間に先回りをした。確実にあのメイドさんよりも集会場を出たのは勇樹達で間違いない。それに集会場から服屋までは一本道となり、追い越した場合は気付くはずだ。もしかして勇樹達が知らない近道でもあるのだろうか。
そんなことを考えつつも、勇樹は榛名が服を選び終えるのを待つことにする。




