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この世界ではお金で生きています二章8

 二章住み着いた魔物8


「ワシの名はアレックこの街の代表を務めている。まずはお主の持っている艦鋼石を見せてくれ」


 街の代表者と名乗る長い髭を蓄えた初老の男、アレックが従者の一人に視線を送ると、両手に清潔感を漂わせるシルクのハンカチを持った従者の一人が勇樹の側に近付く。


 このシルクのハンカチの上に置けと言うことだろう。


 マジック袋から艦鋼石を取り出すと勇樹はシルクのハンカチの上に置く。ハンカチの上に置かれたことを確認すると、アレックの方へと向かい、彼の前のテーブルへと置いた。


 テーブルの上に置かれた艦鋼石を見て、アレックは両手を上げるポーズを取ると従者が二人前に出て、彼の手に鑑定人が使用する白色の手袋をはめた。


 そして、ガラス玉を扱うようにそっと艦鋼石を握り、様々な角度から見ていく。


「うむ、この輝きにこの硬さ、噂通りだ。本物で間違いないだろう。お主、これをどこで入手した」


 アレックは勇樹に鋭い視線を向けた。威厳のある顔から向けられる視線はまるで槍を向けられているかのように感じるが、勇樹は入手経路を話すつもりはない。そもそも、真実を話したところで彼は信じることができないだろう。


「残念ですが、企業秘密ですので、それは教えすることはできません。ですが、盗品でないことは私が保証します」


 勇樹は相手が目上の人であり、この街の代表者ということで敬語で話し、一人称も私に変える。


「ふむ、何処で入手したのか知りたかったが、教えることができないのならそれなりの理由があるのだろう。その件についてはもう触れない。それでお主はこの石を売却したいと」


「ええ、私達は冒険者です。冒険者とは魔物との戦いに命を削りながら生きていますので、できることなら現金で取引をさせてもらえると嬉しいのですが」


「成程、お主が現金での売却を願い出る理由はわかった。だが、お主も分かっている通り、この世界の金は命そのもの、お主に金を渡すと言うことはワシの命を削ってお主に渡すと言うことだ。いくら艦鋼石であっても何処の馬の骨ともわからない人間に命を分け与える価値があると思っているのか」


 アレックの言い分は理解できる。やはりそう簡単に命を分け与えるなんて思い切ったことはできないのだろう。


「貴方はそれでもこの街の代表者なのですか。彼はこの街で依頼を受けている冒険者なんですよ。確かにまだ薬草取りなんて簡単なことしかできないですけど、それでも突然出くわした魔物と命の削り合いをしてこの街に貢献しているのですよ。貴方は冒険者ではないからそんなことが言えれるかもしれないですけど、魔物との戦いは本当に危険なんですよ。怖い思いをして、それでも立ち向かいながらこの街の平和のために頑張っているのですよ。そんな姿を見て貴方は何も思わないのですか」


 榛名が席を立ち、弾丸の如くアレックに言葉をぶつける。


 そんな彼女の姿にアレックも勇樹も一瞬言葉を失う。


「申し訳ありません。仲間が無礼な真似をして、彼女には私からきつく言っておきますのでどうかご容赦を、罰を受ける必要があるのなら、変わりに私が受けますのでどうか彼女だけは許して頂けませんでしょうか」


 直ぐに我に変えた勇樹はこのままではまずいと判断し、席を立つと身体を九十度に曲げて謝罪する。


 今ので確実に街の代表者の機嫌を損ねてしまった。艦鋼石の売却に関する交渉ができなくなってしまっただけなら不幸中の幸いと言えるが、もし自分達に対する風当たりが強くなれば、この街にいられなくなる。しかし、この街から出るには森に住み着いた外来魔物を討伐し、封鎖を解かなければならない。それまでは肩身の狭い思いをしながらこの街に留まらなければならない。


 だからと言って、榛名を叱る訳にもいかない。彼女も彼女なりに思うことがあり、我慢できなくなって感情が爆発してしまったのだろう。


 おそらく勇樹のことを想って言った言葉のはずだ。


「ガハハハッ、愉快だ。愉快な客人だ。イヤー、意地悪なことを言って悪かったな。艦鋼石を持っている程の人間がどのような人物なのか知りたくってな。つい意地悪なことを言ってしまった。本音を聞き出すには相手を怒らせるのが一番だからな。まずは先程不快に思われるようなことを言ってしまったことに対して詫びよう。済まなかった」


 アレックは勇樹達と同様に席を立つと頭を下げ、先程の失言を詫びた。


 その姿に勇樹達は驚かされ、従者達もざわめき出す。


「ささ、お二人共席に座りなさい。交渉の続きをしようじゃないか」


 何が起きたのかわからないまま、勇樹は促された通りに着席し、榛名もそれに続く。


 取り敢えず分かっていることは、今の失言で彼は機嫌を悪くしていないという事だ。勇樹はその事に安堵する。


「実はワシの知り合いにも冒険者がいてな。彼から冒険者であることの過酷さなどを嫌と言う程聞かされている。だからその苦労も知っているつもりだった。できることなら世界の平和のために頑張ってくれている冒険者の力になりたいと思っておるが、冒険者も人の子、中には自分達の立場を利用し、前金を要求しては依頼を受けずに金だけ持ち去る者もいる。だからワシはこの街の依頼の報酬に現金の謝礼をすることを禁じさせておった。信じた者に裏切られ、命を奪われた側は心に深い傷を負うのでな」


 アレックの話しを聞き、どうして依頼達成の報酬に現金の支払いがないのか納得した。しかし、これでは返って冒険者を苦しめていることに変わりがない。


 報酬に現金がなく、命を削る一方の環境の中で、それでもこの世界で生き抜くためにイヤイヤながらも依頼を受けなければならない。これではまるで、あの世界のブラック企業と同じじゃないか。


「すみませんが、発言を宜しいでしょうか」


「良いぞ、何を申したい」


「恐れながら、私が思ったことを言わせてもらいます。確かに貴方の気持ちもわかります。裏切られるのは確かに辛い。それが信頼している人からだった場合は尚更です。ですが、そのような対処の仕方では、冒険者の反感を買います。それにやる気をなくせば、依頼を受ける者が減り、この街の繁栄や平和にも影響が出てきます。私の物差しで計っているので私が正しいとは言えませんが、報酬に最低限の現金の報酬が必要だと思います」


 勇樹は話しを聞き、思ったことをアレックに伝える。もし、榛名が感情的になって発言をしていなければ、このような言葉を心の中で思っても発言はしなかっただろう。先程の榛名の行動に勇樹は相手に対して言うべき事を言う勇気をもらった。


「うむ、実はその事についてもこの街の問題になっていてな、昔は多くの冒険者で賑わっていたが今では殆ど冒険者が依頼を受けに来ず、寂れつつある。やはりお主もあやつと同じ事を言うのであるな。街の人々を守っているつもりが逆にこの街の発展を妨げていたとは、ワシの一番の願いはこの街の人々が健やかに過ごすこと、お主のお陰で考えを改める機会を設けることが出来た感謝する」


 アレックはもう一度頭を下げる。


「話しを戻そう。信じてもらえるかは分からないが、お主達に意地悪をするつもりはなかった。先程も言ったようにどのような人物であるか見定めるために敢えてあのような発言をした。恐らくお主達は信頼するに値する冒険者だ。気に入った。取引であるが、命を削る分、そんなに多くは渡せない。おい」


「はっ!」


 従者に視線を向けると一人の従者が勇樹の前に来ると彼の前にコインケースを置いた。


「20000Q、これがワシの命を削ってでも出せる精一杯の金額だ」


 中を開けると100Qが二十枚入っている。枚数が多いから多く見えるが10000Qにすればたったの二枚だ。だが、この世界では10000Qを使う者は殆どいないし、出されても店側が困るだけ、そのようなことも配慮した上でのことだろう。


「だが、それだけでは当然艦鋼石とは釣り合わん。他に望む物があるならばワシができる範囲で叶えてやろう」


「では、彼女に武器をお与えになってくださいませんか」


「武器であるか、お嬢さんはどのような武器をお望みであるか」


「え、榛名ですか」


 突然話題を振られ、戸惑う榛名ではあるが直ぐにメンバーズカードの武器の一覧を思い出す。


「そうですね、榛名はFPSのゲームをしておりましたので、射撃系の武器が恐らく得意かと思います」


「FPSゲーム?良く分からぬが、遠距離系の武器がお望みであるようだな。おい」


 アレックが従者に視線を向けると宝箱を持った従者が榛名の前に移動し、テーブルの上に宝箱を置く。


 目の前に置かれた宝箱を榛名が開けると中には白色の丸い球体が五つ入っていた。


「それは昔知り合いから頂いた物でな、オーダメイドの品で世界に一つしかない。武器の名はタコヤキと言ってな。こいつは魔力で稼働する遠距離の武器だ。しかも自動防御(オートガード)の機能も備えてな、使用者の危険を感じ取ると自ら守り、盾となってくれる優れ物だ」


「魔力で稼働って具体的にはどのようにして扱えば宜しいのでしょうか?そもそも榛名に魔力があるとは到底思えないのですが」


「魔力がない?はて、おかしいな。人間はこの世に生を授かった時から僅かながらでも魔力はあるはずだ。取り敢えず起動だけでもしてみなさい。身体の内から魔力を放出し、点と点を結ぶイメージでタコヤキに魔力を注いでみなさい」


 アレックの指示に従い、榛名は頭の中で自分と球体の武器を結びつけるイメージを描く。すると五つの球体は浮上し、空中に浮ぶと球体の一部に線が入り、開くと目のようなものが現れる。


「どうやら成功のようだな。思うように扱うまでには時間がかかると思うが、お主が気に入ればそれを譲ろう」


 アレックに問われ、榛名は思案する。


「そうですね、正直に言いますとデザインが可愛くないので抵抗があるのですが、勇樹さんの計らいでこの武器と出会うことになりました。きっと、これも運命だと思うのです。だから、榛名は頑張ってこの子達のことを扱えるようになって勇樹さんの力になりたいと思います」


「いやなら無理にこれを選ぶ必要はないんだぞ。アレックさんが他のを用意してくれるはずだから」


 自分に気を使っている。そう思った勇樹は榛名に無理に選ばなくても良いと伝えるが、彼女は首を横に振る。


「勇樹さんは優しいのですね。榛名に気を使ってくださるなんて、ですが榛名は大丈夫です。必ず勇樹さんのお役に立ってみせます」


 榛名は勇樹に笑みを向ける。そんな顔をされては自分の意思を折らなければならないと思ってしまう。


「分かった。そこまで言うなら榛名の思うようにすれば良いよ」


 勇樹は榛名からアレックに視線を向ける。


「それでアレックさん、もう一つお願いがあるのですが」


「宜しい申し出てみよ」


「彼女に新しい衣服を与えてくれないでしょうか。森の中で魔物と戦い、彼女の着ていた服がボロボロなのです」


「うむ、初めて会った時から浴衣姿であったことが気になっていたが、そう言う理由があるのならこの街で一番の服を用意させよう。誰か、後で服屋に伝言を伝えてくれ」


 従者の方に視線を向けるとメイド服姿の女性が一歩前に出ると手をあげる。


「では私が」


「宜しく頼む。お主はたしかそちらのお嬢さんが勇樹と言っておったか」


「はい、自己紹介が遅れてしまって誠に申し訳ありません。私の名は霧雨勇樹、そしてこちらが霧島榛名です」


 勇樹は立ち上がると軽く頭を下げ、自分の名前をアレックに教え、榛名の紹介をすると彼女も勇樹と同様に軽く頭を下げた。


「勇樹よ、さっきから彼女の物に関してしか頼んでいないが、お主が望むものはないのか。まだ欲を言っても良いのだぞ」


「いえ、私には既に武器を持っていますし、これ以上のことをお願いしても気が引けてしまいます。なので気にしないでください」


「あまり欲がないのだな。分かったではこれで交渉は成立したことにしよう。例の物を彼等に」


 アレックが両手を叩くと二人の従者が勇樹達の前に移動し、小箱を二人の前に置いた。


「これは先程の詫びの品だ。だから遠慮しないで受け取って貰いたい」


 二人は小箱を開けると勇樹の方は代表者の契約の腕輪が、榛名の方には契約の腕輪が入っていた。


「これは代表者の契約の腕輪!」


「お主達がチームを作ることも聞いている。これでチームを作るために必要な物は揃った。後で依頼受付の方で手続きを済ませるが良い」


「分かりました。ですが、どうして私の方に代表者の腕輪を?まるで私が代表者になることを示唆しているように見受けられるのですが」


 勇樹の言葉にアレックは首を傾ける。


「お主がチームの代表者になるのではないのか」


「いや、それはまだ決まっておりません。ですが、私は代表者のような先頭に立って導くような器ではありません。なので、こちらの榛名が代表者になるかもしれませんし、別の誰かに代表をお願いするかもしれません」


 自分が代表者になることを勇樹は否定した。自分は弱い、仲間が支えてくれなければこの世界で生きていくことが困難な程だ。そんな人間が代表者など周囲が見たら笑ってしまうだろう。


「そうか、だがワシはお主が一番チームの代表者に相応しいと思うがな。仲間の失態を庇い、その歳で礼儀や礼節を知っておる。おそらく小さい頃から英才教育を受けていたのだろう。そんなに仲間のことを想い、しっかりしているのだ。謙遜することなく堂々として居ればいい。ワシはお主がチームの代表になってくれることを願っておる」


「そうですよ。勇樹さんは自分が思うよりも器は大きいですよ。榛名が保証します。それに榛名はチームの代表になる気は全くないですし、勇樹さん以外の人が代表者になるぐらいなら、榛名はチームを脱退させて貰います」


 アレックに続き、榛名までが推薦してくる。この空気では断ることができない。それにせっかく仲間になってくれた榛名に脱退されては困る。


 小さく息を吐くと諦めるしかないと思い、勇樹は代表者の腕輪を小箱から取ると自身の腕に嵌めた。


「分かりました。私は代表者に相応しくないと思いますが、お二人の意思に応えたいと思います。未熟者ではありますが、自分でも誇れるような代表者なれるように努力致しますので今後も宜しくお願い致します」


 まるで会社で役員を決められたかのような雰囲気になり、勇樹は社会人だった頃の癖で一言挨拶をすると深々と頭を下げる。


 するとこの場にいた全員から暖かな拍手が送られ、勇樹は照れ臭い思いに耐えた。


「失礼致します」


 良い雰囲気をぶち壊すかのように廊下を駆ける音が聞こえると乱暴に扉が開けられ、一人の男が現れた。男はアレックと共に来た従者と同じ格好をしている。


「何だ騒々しいぞ」


 突然現れた男にアレックは睨みつけるような視線を向ける。男は申し訳ありませんと謝罪し、アレックの側に寄ると耳元で小さい声で伝える。すると伝えられた内容にアレックは驚き、額に手を当てた。


「何て事だ。だが、現実に起きてしまては対処するしかない。直ぐにメンバーをこの場を招集するように伝えろ」


「はっ!」


 男は軽く頭を下げると早足で部屋から出ていく」


「お主達、悪いが席を外してもらっても良いか。服屋には話しをつけてある。まずはそこで彼女の服を見繕ってからチームの手続きを行うが良い」


「ありがとうございます。では失礼致します」


 一体何が起きたのか気にはなるが、街の住人ではない勇樹が首を突っ込むことではないだろう。


 席を立つと二人は部屋から出て行き服屋へと向かった。

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