この世界ではお金で生きています二章7
二章住み着いた魔物7
休憩所で榛名が売店から戻ってくるのを待っていると闘技場の方からガルドが現れ、勇樹に気付くとこちらにやってくる。
「ガルドは今鍛練が終わったのか」
「ああ、今日は調子があまり良くなくってな。納得する前でやっていたらこんな時間になってしまった」
「もう良い年なんだからあんまり無理するなよ」
ガルドの実年齢は分からないが、見た目は三十代前半と言った所だろう。まだ若い分類には入るが、自身の身体のことも考え出した方が良い年代でもある。
「お前とは身体の鍛え方が違う。そう簡単に潰れてたまるか。それじゃあ俺は温泉で汗を流してくる」
勇樹の右肩を叩くとガルドは男湯の方へと向かった。
「それにしても榛名は遅いな」
女の子の買い物には時間がかかると聞いたことがあるが、それでも遅い、この休憩所のベンチに座ってから三十分経過していた。
様子を見に行ったほうが良いだろうか。もしかしたら何かトラブルに巻き込まれている可能性だってある。だけど、ただ単に時間がかかっているだけだった場合、それぐらいの時間を待てない度量の狭い男として思われるかもしれない。さて、どうするべきか。
「遅くなりました」
様子を見に行くべきか悩んでいると休憩所に榛名がやって来た。
「思っていたより時間がかかっていたけど、何かトラブルでも起きた?」
「ちょっとですね。好みの下着があったのですけど、サイズがなかったので探してもらっていたら時間がかかってしまいました。それにしても売店は高いですね。800Qもしました」
下着の金額を聞いて勇樹は思わず噴きそうになる。
「いくら何でもぼったくりすぎないか。あと、200Qを足せば宿屋に一晩泊まれるぞ」
800Qもあれば勇樹が購入した服を二着も買うことができる。それから考えると勇樹の着ている服を作ったメーカーは本当に庶民の味方だと言えるではないか。
「まぁ、榛名が気に入ったのなら別に良いんじゃないか。それに今回は緊急事態だったし、仕方がないと思うしかないよ」
「そうですね。今回は勉強料も含めた金額だったとプラスに思うようにします。ところでこれからどうします」
「今から依頼受付所に行ってアスハに依頼クリアの報告に行こうと考えている。昨日バタバタしていて依頼の報告をしていなかったからな」
「そうですね。榛名も迷惑をかけてしまったので謝りに行きます」
二人は依頼のクリアを報告するために依頼受付所へと向かう。
扉を開けて中に入ると受付カウンターでアスハが業務を行っている姿が見えた。
業務に集中しているのか、彼女は勇樹が近づいて来ていることに気付いていない。
「すみません。依頼を終えたので報告に来たのですけど」
「あ、すみません。お客様が来ていたのですね。…………って霧雨さん遅かったですね」
「まぁ、色々ありまして。これが依頼内容の薬草です。それと」
マジック袋から薬草の入った籠を取り出すとカウンターの上に置く。そして首を左に向けて合図を出すと彼の後ろから榛名が顔を出し、気まずそうにアスハを見た。
「霧島さん無事だったのですね。良かった」
「その節は大変ご迷惑をおかけしました。こちらの勇樹さんに私の捜索をお願いして下さったようで」
榛名は深々と頭を下げ、誠意を見せているのか頭を下げ続けた。
「いえ、彼に貴方の捜索を依頼したのは私の保身のためです。心配していたのは自分の立場だけだったのでそんなに頭を下げないでください。私が居た堪れない気持ちになります」
「いえ、理由はどうあれ貴方が私のことを知らせてくれなかったら、私は今頃死んでいましたし、勇樹さんと知り合えるきっかけをくださいました。それだけでもお礼を言う十分な理由になります」
「分かりました。分かりましたから頭を上げてください」
お願いするとようやく榛名が頭を上げ、色々な意味でアスハはホッとした。
「二度とこのようなことをしないでくださいね」
「はい、これからはこちらの勇樹さんと依頼を受けることにしましたので安心してください。勇樹さんの許可なしでは、かってなことをしないつもりですので」
「それを聞いて安心しました。これからは二人で依頼を受けるということなので、チームを作ってもらうことになります」
「「チーム?」」
二人の言葉が重なる。
「はい、複数人で依頼を受ける場合はチームで行動してもらうことになります。詳しいことはこちらに書いてありますのでお読みください」
二人は手渡された書類に目を通す。
複数人で依頼を受ける場合はチームで行動する必要がある。その理由は複数人で依頼をクリアした場合、依頼を受けた代表のみが報酬を受け取ることができるが、協力者となった者は報酬を受け取ることができない仕組みになっている。
この世界の法律により、正式に仲間となった人物以外に報酬の譲渡をした場合、拘束又は所持金の九割の没収となる。しかし正式に仲間となった者に対しての山分けは可能とのことだ。
チームを作成するには依頼受付所で書類を貰い、記入することでチームを結成することが可能となる。
しかし、これはあくまで書類上の手続きである。この他にもチームの仲間であることを証明する契約の腕輪が必要になってくるが、それはチームを結成する側の人間が用意しなければならない。
「契約の腕輪ですか。それはどこで入手することができますでしょうか」
榛名が尋ねるとアスハは一枚の紙をカウンターの上に置く。
「こちらの紙に必要人数分の個数を書いていただければ用意することができます」
カウンターの上に置かれた紙を見るとそこには二種類の契約の腕輪のサンプルが表示され、それぞれに値段が書かれている。しかし、その値段を見て二人は驚かされた。
「代表者の契約の腕輪3000Q、契約の腕輪1000Qだと」
「はい、チームを結成するのであれば代表者の腕輪は必須になります。契約の腕輪の方も仲間である証となるのでご用意しなければなりません。これは国が定めた値段となっておりますので、値引きするようなことはできません」
さて、どうしたものか。ガチャの結果で契約の腕を持ってはいるが、代表者の契約の腕輪というものは購入しなければならない。
しかし、3000Qも出してしまっては、自分の命は余命を宣告された癌患者のような状態になってしまう。
なら、等価交換を持ちかけてみるか。
「なぁ、契約の腕輪に関しても等価交換は適用されるか」
「はい、等価交換はこの世界では多く使われている入手方法ですので、この契約の腕輪も等価交換は可能です」
「それなら、これを見てもらいたいんだ。価値が分からないから、どれぐらいの価値なのか教えてもらいたいのだけど」
勇樹はマジック袋から虹色に光る石、艦鋼石を取り出すとカウンターの上に置く。
「こ、この虹色に輝く石はもしかして艦鋼石!ほ、本物を見たのは初めてです」
アスハが驚愕の表情を見せる。そんなにこの石は凄いものなのだろうか。
「そんなに凄いものなのか?」
「ええ、この世界にはこんな伝承があります」
アスハは世界に伝わる伝承を話し出した。
「艦鋼石を五つ集めし時、天空より神の使いが舞い降りて、其方の願いを叶えるだろう。この伝承が古くからこの世界に伝わっております」
アスハの話しを聞き、勇樹の頭には大人気バトル漫画の作品が思い浮かんだ。
「集めれば願いが叶うってロマンチックですね」
「これは噂程度なので本当なのかわかりませんが、実際に五つ集めたことがある人達がいるらしいのです。その人達の話しでは、強い武器が手に入ったとか、冒険の仲間が増えたとか言っているらしいです」
「それで、これは等価交換の対象となり得るのか?」
それほど凄い物ならかなりの値打物のはずだ。だが、等価交換は同じ価値であるもの通しの交換ではない限り、成立しない。
「そうですね。私も艦鋼石を見たのが初めてなので何とも言えないのですが、こちらにある契約の腕輪を全て渡しても補えるかどうか」
「因みに在庫は幾つある」
「そうですねおそらく、百個は用意されているはずです」
1000Qの商品が百個、計100000Q以上の価値があることになる。
「流石に百個もいらないからな。ここまで価値のあるものだとは思わなかった」
「となると売却でしょうか」
榛名のように考えが売却の方へと向いてしまうのは普通の流れだろう。しかし、この世界では等価交換が主に行われている。売却できると期待することができない。
「少々お待ちください。今、この町の代表者に連絡しますので」
カウンターに置かれている連絡用端末を取るとアスハは代表者の屋敷へと電話をかけた。
電話に出たのは使用人らしく、若い女性の声だった。アスハは代表者に変わるように伝えると暫くして声の低い男性の声が聞こえ、その人に用件を伝えると男性から指示があり、通話を終えると連絡用端末をカウンターの上に置く。
「お待たせしました。この街の代表者がお見えになるので、奥の部屋でお待ちください」
二人はアスハに案内され、奥の部屋に移動した。扉を開けると中は八畳程の広さの部屋だ。中央には円卓があり、複数の椅子が置かれている。
勇樹と榛名は一番近い席に座ると代表者が訪れるのを待つ。
十五分程経つと部屋の扉が開けられ、初老を先頭に複数人の従者らしき人物が部屋の中に入って来た。
先頭の初老がこの街の代表者なのだろう。
威厳を感じさせる顔をしており、長い顎髭は三国志に登場する美髭公と呼ばれた関羽を連想させる。
従者の人は両手で宝箱を抱えており、中には重たい物が入っているのか、苦痛の表情を見せる者いた。
代表者らしき人物が二人の対面の席に座り、二人を見据える。
「待たせてしまったな。話しは全て聞いた。では、本題に入ろうか」




