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この世界ではお金で生きています二章4

 二章住み着いた魔物4


 次の日の早朝五時、デイリーボーナスを知らせるアラーム音が鳴り響く。勇樹はその音に目が覚め、起き上ると足元に置かれていた布袋を取り、中身を確認する。中身は虹色に輝く不思議な石が一つ入っており、同封されている紙には艦鋼石と書かれていた。


 艦鋼石と言えば、エミリーとの取引の際に渡された紙にもそのようなものが十個セットで書かれていたものだ。


 いったいこの石は何に使うのだろうか?


 不思議に思いつつも勇樹は艦鋼石をマジック袋に仕舞うと額に手を添えて熱を確認する。熱は下がっているようで、額を触っても平熱ぐらいの熱量しか感じない。


「良かった。これなら今日からでも行動できるだろう」


 床の方へ向けると榛名はまだ寝ているようで寝息を立てていた。


 彼女が目を覚ますまではベットから起きられないし、目が完全に冴えてしまって二度寝する気も起きない。


 勇樹は今日の予定を立てることにする。


 まずは集会場の依頼受付けでアスハに依頼のクリア報告と、榛名の保護を告げた方が良いだろう。彼女も心配していたみたいし、早く安心させてあげたい。


 その後はまた別の依頼を受けて報酬を得たい所ではあるが、唯の薬草採取でもあのような事故が発生してしまった。もう、難易度なんて関係ない。次はもう少し難易度の高い依頼を受け、少しでも良い報酬を貰うようにしよう。


「あれ、霧雨さん起きていたのですか。身体の方はいかがですか」


 本日の予定を立てた所で榛名が目を覚まし、起き上がると勇樹の起床に気付き、声をかける。


「霧島さんが看病をしてくれたお陰でもう熱は下がった。それよりも霧島さんはこれからどうするの」


 勇樹の質問に榛名は右手の人差し指を顎に当て、思案する仕草をする。


「そうですね。本音を言うのであれば榛名はあの魔物を倒し、次の街に向かいたいのですが、榛名の今の実力では無理みたいなので、今の所はこの街であの魔物が討伐される日が来るのを待つしかないですね。暫くは簡単な依頼をこなしていくと思います」


「そうか、それなら俺と同じだな。…………そうだ霧島さん」


「榛名で良いです。私達年齢が近いみたいですので、呼び捨てにして構いません」


 勇樹は見た目十七歳であるが、中身は二十九歳のおっさんであることを榛名は知らない。


 本当の事を話すべきか一瞬迷ったが、勇樹は真実を伝えるのをやめる。


 ちょっとしたきっかけで出来た縁ではあるが、これからもずっと一緒にいる訳ではないのだ。それならば、わざわざ真実を打ち明ける必要もない。


「分かった。なら、俺の事も勇樹と呼んでくれ」


「分かりました勇樹さん」


 さんずけで呼ばなくて良いのだが、それでもそう呼ぶのであれば彼女なりのポリシーのようなものでもあるのだろう。勇樹はその件に関してはあまり考えないようにした。


「それで、榛名は初めてあった時に、俺が君を助けた目的は何なのか訊いてきたよな。人間の行動には裏があると」


「はい。榛名は昔、人の行為には裏があるような環境で人生を送っていました。なので、勇樹さんが榛名を助けたのにも何か目的があったのではと思ったのです」


 榛名からの告白で彼女の事情を知った勇樹は、やっぱり事実を伝えなければと思い、勇樹は話すことを決める。


「その通りだ。俺は依頼受付嬢のアスハに頼まれたんだ。榛名を連れ戻して来てほしいと」


「やっぱり」


 やはり彼は自分のことを頼まれていたのだ。これでどうして自分を助けたのか納得した。だけど、どうして彼は危険と隣り合わせのような依頼を受けてしまったのだろうか。私を連れ戻すことに対しての報酬が良かったからとかその辺りかもしれない。


 そう考えていたが、勇樹の次の言葉に榛名は驚かされる。


「報酬は弾むからとお願いされた。だけど、俺はアスハからの依頼を断った。自分には手の余る内容だ。だから他の人にお願いしてくれと」


 まさかそのような条件を出されても断っていたとは思わなかった。なら、どうして彼は自分を助けるような結果になってしまったのだろうか。


「森で薬草の採取依頼をしていた時、榛名の悲鳴が聞こえた。その時の俺は君を見捨てることを決めた。実際には怖かったんだ。助けに向かった所で自分に何ができる?わざわざ死にに行くようなものだ。自分の逃げ腰を正当化させて罪悪感を感じないようにした」


 見捨てると言う単語を聞いた時、榛名は再び驚かされる。しかし、彼の気持ちも分からなくない。誰だって本当は死ぬのが怖いんだ。死にたくないと思っている。自ら死を選ぶとき、それは生への疲れや現実からの逃走による逃げの心が生み出した悪魔の囁きに負けてしまったとき。


「その場から逃げようとした時、頭の中で過去の記憶が蘇ってしまった」


 勇樹は次に過去の出来事を語り出した。


     ◆◆◆◆


 勇樹には同い年の幼馴染の女の子がいた。彼女は最近変な視線を良く感じるようになったと勇樹に相談してきた。もしかしたら、ストーカーかもしれないと。


 勇樹は大丈夫、お前を襲うような変質者なんかいるか。お前みたいな色気のない女なんか誰も興味ないと言って安心させようとした。この時、勇樹は照れ臭さを感じていて正反対のことを言ってしまった。


 本当は年を重ねる毎に綺麗になって行く彼女を見て、時々ちょっとした仕草にドキッとしてしまう自分に気付き、彼女が女性らしくなっていくのを感じていたのだ。


 この時、彼女の言葉を聞いて真剣に悩みの相談に乗り、彼女を側で見守っておればよかったかもしれない。


 幼馴染からストーカーの話しを聞かされてから一ヶ月後、彼女は家の用事があると言って帰りのHPホームルームが終わると学校を出て行った。


 教室に残り、クラスメイトと談笑をしていると勇樹のスマホに着信音が鳴り、彼はスマホの画面を見ると幼馴染からの電話だった。


 クラスメイトに断りを入れ、教室の隅に移動するとスマホの着信パネルを押し、電話に出た。


 すると、今にも消え入りそうなか細い声で幼馴染が助けてと勇樹に伝える。


 勇樹の脳裏に幼馴染から聞いたストーカーが浮かび上がり、彼は事情を聞こうと幼馴染に呼びかけるが、それからは彼女の呼吸音しか聞こえることはなかった。


 どうすれば良いのかと思案を巡らせていると、通りゃんせのメロディーが聞こえて来た。このメロディーは商店街の近くの横断歩道を渡る際に信号機から発せられるメロディーだ。


 クラスメイトに先に帰ると伝えると勇樹は直ぐに学校を出て商店街の方へと走って行った。商店街なら人も多いし、助けを呼べる。隠れるところだってあるはずだ。幼馴染もそう考え、商店街の方へと向かっているのだろう。


 そう考え、幼馴染が商店街の方へと向かっていることを祈り、勇樹は走って行く。スマホは通話状態を維持したままだ。これなら、相手の方から通話を止めない限り、スマホを通して周囲の状況を知ることができる。


 勇樹は幼馴染を励まそうとして『今向かっている。大丈夫だ。頑張れ』と励ましの言葉を言い続けた。


 だが、商店街へと向かっている最中、妙なノイズが入ったかと思うと通話が途切れてしまった。


 不安を感じつつも、勇樹は無事でいてくれと心の中で叫び、幼馴染を探す。


 通りゃんせのメロディーが流れる信号を過ぎ、もう少しで商店街が見えるところで、一つの鞄が道に落ちているのを発見する。


 その鞄は勇樹が通う学校の鞄であり、持ち手には高速駆逐艦、島風のキーホルダーが付けてあった。


 この鞄は幼馴染のもので間違いがない。


 勇樹は周囲を見渡すと一匹の黒猫が前を横切り、住宅街の路地裏へと歩いて行く。不安を感じ、その黒猫が歩いて行く方向へと顔を向けると、勇樹は顔を青ざめ、呆然と立ち尽くした。


 視界に入ったのは血まみれの姿で横たわっている幼馴染の姿と彼女から遠ざかって行く男の姿だった。


 直ぐにスマホを取り出して警察と救急車を呼べば良かった。だが、勇樹は恐怖で身体が思うように動かず、たまたま近くを通りかかった知り合いが二人を見つけ、通報してくれたのだった。


     ◆◆◆◆


「俺、あの時凄く怖かった。目の前で大事なものが失われつつある現実が、そして……何もすることができない自分に苛立ちも覚えた。だから……だから」


 勇樹はあの頃の気持ちを思い出しているのだろう。両の目からは涙の滴が頬を伝い、床へと落ちていく。


「だから、俺はあの時誓った。もう二度とあんな思いをしないために、自分にできることがあるのなら、全力を出して人を…………命を助けようと……だから、榛名を救いに走った。本当は怖かったさ、何度も逃げ出したいと思った。だけど……そんなことをしたら、あの時の俺の気持ちに嘘を吐いたことになる。だから怖い思いを我慢した。ごめん、本当にごめん……俺、俺」


 今にも溢れそうな涙を、勇樹は瞼を閉じて必至に抑え込もうとする。すると、勇樹は頭が包み込まれるかのような感触を覚えた。


 榛名は勇樹の頭に腕を回すと自身の胸に押し付け、彼の頭を優しく撫でた。


「がんばりましたね。怖かったですよね。でも大丈夫、貴方のお陰で榛名は命が助かりました。勇樹さんはとても立派な方です。誇ってください。喜んでください。だって、勇樹さんは過去の自分を乗り越えることができたのですよ。だから、自分を責めるようなことはしないでください」


 榛名の胸から心臓の音が聞こえ、その音を聞くと安らぎと安心感を覚えた。まるで赤子の頃に戻ったかのように彼女のぬくもりを感じる。


「わっごめん」


暫くして我に返った勇樹は恥ずかしくなり、榛名から離れる。


「榛名もすみませんでした。気が付いたら、身体が勝手に動いていて」


 実際に行動に出た榛名自身も恥ずかしかったのだろう。頬を朱色に染め、顔を俯かせている。


 暫く沈黙が流れ、気不味い雰囲気が辺りを覆った。


「そ、そうだ。お腹空いていない」


 この空気をどうにかしようと、勇樹は話題を振り、榛名に訊く。


「そう言えば満腹度が減っていたような気がします」


「それなら下に降りようか。この時間はガルドは集会場にいるけど、何か用意してくれているかもしれない」


「それでは下のキッチンに向かいましょう」


 二人は部屋を出ると階段を下りてキッチンに向かう。

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