この世界ではお金で生きています二章3
二章住み着いた魔物3
「ここは、何処でしょうか」
目が覚めると女の子は見知らぬ天井が視界に入り、起き上ると辺りを見渡す。そこは自分が知らない部屋であるが、棚に収納されている本のタイトルから子供部屋であることは理解した。
どうして自分が見知らぬ部屋にいるのかを理解するために、女の子は覚えている記憶を思い出す。
◆◆◆◆
私はもう一度、人類として来世を生きるためにゲームに参加した。街の人々から話しを聞き、おそらくこの世界に誕生した魔王を倒すことがゲームクリアとなると判断した私は、魔王を倒す準備を行った。だけど、依頼の受付嬢アスハさんから、Bランク指定の魔物が森の出口付近を縄張りとしているために、現在封鎖状態となっていると知らされた。
だけど先に進むためにはその魔物を倒さないといけない。何時来るのかわからない冒険者を待つ余裕がない以上、私が討伐しなければならない。そう判断した私は、次の日アスハさんが来る前に書置きとメンバーズカードを残し、門番さんの居ない時間帯を狙って森の中に侵入した。
そして、森の出口付近にいる魔物を発見し、短剣を片手に討伐に出た。
これは所詮ゲームだ。いくら見た目が恐ろしい魔物であっても何も怖くない。昔プレイしたことのあるハンターのゲームと同じにすれば良い。
そう思っていたけど、画面越しにゲームをプレイするのと実際に魔物と闘うのではまるで勝手が違った。
ゲームであるのに痛みを感じ、傷付いていく自分の姿に私は恐怖を感じた。次第に魔物が恐ろしい存在に思え、私はその場から逃げ出したが、縄張りに侵入された魔物は怒り、私を追って来た。
そして逃げている最中に意識が遠のいたのを最後に、私の記憶はそこで途切れている。
◆◆◆◆
あの状況から自分が生きている訳がない。だとすると、意識がなくなった後に誰かが自分を助け、ここまで運んできたことになる。
「いったい誰が私を助けてくれたのでしょうか」
ベットから立ち上がり、部屋に置かれている鏡を見ると女の子は驚きの表情をした。
「うそ、あれだけの傷が何処にも見当たらない」
あの魔物との戦闘で負った傷が何処にもないのだ。普通なら考えられないことであるが、ここがゲームの世界であることから、回復魔法やアイテムで直してもらったのだろう。
「目が覚めたんだ。元気なようでなによりだよ」
扉が開かれたと同時に青年の声が聞え、女の子は扉の方を見る。背丈は自分よりも高く、年齢もおそらく自分と同じぐらいの青年が戸当たりに右手を置き、体重を預けて立っていた。
「貴方が私を助けてくれたのですか」
「うん、そうだよ。俺は霧雨勇樹、森であのでっかい魔物に襲われているところを見て、君が気を失っている間に俺があの魔物を誘導して離れた場所に連れて行った後に、ここまで運んだ。傷だらけだったから街の女性に頼んで傷薬を君に塗ってもらったんだよ」
勇樹は柔らかい声で女の子に事情を説明する。
「そうでしたか。助けてくれてありがとうございます。…………ですが、いったい何が目的なのですか」
女の子は一度お礼を言うと鋭い視線を勇樹へと向け、語気を強める。
まさか助けておいて警戒されるとは思っていなかったのだろう。勇樹は女の子の言葉に驚きの表情を見せる。
「目的って別に何もないよ。ハァ、ハァ、俺が助けたいと思ったから助けただけだし、それ以上のことはハァ、ハァ、求めないから」
「それは嘘ですね。人間は他人を助ける際、何らかの見返りを心の奥底で求めています。見返りを求めないで人助けをするような人は純粋な幼い子供ぐらいですよ」
女の子の反応に勇樹は困ったと思った。だけど彼女の気持ちも分からなくはない。命の危険がある中助けられたんだ。何か裏があると考えてしまうのも無理もない。
「わかりました。命を救ったお礼として私の身体を要求するつもりでしょう。そして、命を救ってもらった身である私はそれを拒む権利はなく、いやいやながら身体を差し出さなければならないような展開を求めているのですね。エロ同人みたいに」
女の子は閃いたのか、手をポンと叩くと部屋の隅に移動し、勇樹から距離を置く。
いやいや、エロ同人って何だよ。おじさんその意味が分からないって。
エロ同人と言う単語の意味が分からないが彼女のセリフから、エッチな何かであることは分かる。だが、勇樹はそのような展開を求めてはいないし、純粋に女の子を助けたかった。
誠実にあの時自分の思っていた事を伝えれば、彼女は分かってくれるはず。
そう思い、勇樹は女の子に近づくが、女の子は悪い妄想が頭から離れないのか、身体を震わせている。
「息を荒らくしているのが何よりの証拠。いや、来ないでください!」
「ハァ、ハァ、いや、これは……君が考えているようなことはしない。ハァハァ……俺の話を聞いてくれ」
彼女に伝えるべく言葉を頭の中で整理するが、上手く思考が働かず、セリフが纏まらない。
取り敢えず、彼女に逃げられては自分は変態のレッテルを貼られてしまう。
逃げられないように勇樹は女の子の肩を掴んだ。その刹那、勇樹の意識は遠のき、女の子にもたれかかるようにして倒れた。
「やっぱり、私の身体が目的じゃないですか…………って、熱い」
勇樹の体温が平熱ではない事を感じた女の子は、直ぐに勇樹の額に手を当てると熱があることに気付く。
「貴方凄い熱じゃないですか。だから息が荒かったのですか。誰か、誰かいませんか」
この家に誰か他にも人が居るかもしれない。そう思った女の子は大声で助けを呼ぶと、勇樹を自分が眠っていたベットに横たわらせる。
「おい、どうした。大声が聞こえたから駆け付けたが」
階段を駆け上がる音が聞こえるとスキンヘッドの男、ガルドが部屋に入って来た。
「この人、凄く熱があるんです。早く治療をしないと」
ベットで横たわっている勇樹を見て、ガルドは溜め息を吐くと勇樹に近付いた。
「遂にぶっ倒れたか。こいつは森で魔物に襲われていたお前さんを助け、背負ってこの家まで運んで来たが、こいつ自身も相当な高熱に浮かされていてな。だけど、自分自身よりもお前さんの治療を優先して、一晩中看病をしていた。お前さんが目を覚まして気が抜けてしまったんだろうな」
女の子は窓の外を見る。外は夜になっており、夜空には沢山の星が輝いていた。
こんな時間になってまで、自分の体調よりも他人を優先して看病をし続けた。
本当に見返りを求めている人間が、こんなになるまで尽くし続けれるだろうか。
もし、自分が彼の立場だったら他人よりも自分の体調の方を優先するだろう。
本当に見返りを求めないで人を助けようとするなら、余程のお人好しか、唯のバカだ。
「あの、今度は私が彼を看病します。助けてもらった恩を仇で返す訳にはいきませんので」
「そうか、なら洗面器に水を汲んでくるから頼んだ」
そう言うとガルドは部屋を出て行く。
この人が本当に善意で自分を助けたのか分からない。見返りを求めないで親切心で行動する人間は少ないのだ。
親切心で行動をする人の心には裏がある。そのようにしか考えられない環境で暮らしていた自分にとっては、彼の言葉が信用できないでいる。
だけど、善意で自分を助けたと言う彼の言葉を信じたくない気持ちの中に、僅かながらも彼を信じてみたいと思ってしまった自分がいるのも事実。
この気持に決着を付けたい。彼のお世話をすることによって、彼がどう言う人間なのか判断できそうな気がした。
下に降りたガルドが洗面器一杯に入った水と、タオルを持って戻ってくると女の子の横に置く。
「それじゃ、後は頼んだ。何かあったら隣の部屋にいるから呼んでくれ」
ガルドが部屋を出て行くと女の子はタオルを洗面器の水に浸け、絞ると勇樹の額の上に置いた。
一時間後、勇樹は額に冷たいものが当たった感触を感じ、目が覚めた。
「あ、目が覚めましたか」
女の子の声が聞え、勇樹は声の聞えた方へと顔を向けると女の子は椅子に座りながら勇樹を見ていた。
「俺、倒れてしまったのか」
勇樹は上体を起こそうとすると額にズキズキとした痛みが走り、額を抑える。
「まだ熱が高いのですから、寝ていてください」
女の子は勇樹の背中に手を添えるとベッドに寝かせる。
「ありがとう。だけど君も無理をしないで早く休んでくれ、君はあの魔物と闘って酷い怪我をしていたのだから」
「はい、話しは全部あのスキンヘッドの男の人から聞きました。風邪を引いて意識がはっきりとしていない中、助けてくれてありがとうございます。ですが榛名は大丈夫です。御心配をなさらないでください」
「榛名?それが君の名前なの」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。こんな形で自己紹介をすることになりましたが、私の名前は霧島榛名と言います」
榛名は礼儀正しく頭を下げ、自身の紹介を行う。
「そうだ。霧島さんは休む場所はあるの」
確かガルドの家は二部屋しかない。この子供部屋と隣の寝室だ。ガルドが霧島さんに看病をお願いしている以上、彼女が寝る場所を提供しなければならない。
「確かあの人は何も言ってはいませんでしたね」
「気の利かない師匠だ。待っていてくれ、直ぐにガルドに寝場所を提供するように言って来るから」
横になったばかりの身体を再び起こし、床に足を付けると勇樹は立ち上がる。
「何しているのですか。寝ていないといけないじゃないですか」
「女の子を硬い床の上で寝させる別けにはいかないだろう」
「では、榛名が訊いて来ます。なので貴方は身体を休めてください」
そう言い残すと榛名は隣の部屋に向かって行った。この場に取り残された勇樹はベッドに横になると彼女が戻ってくるのを待つ。
数分経過すると榛名が部屋に戻って来た。彼女は布団を抱きかかえており、布団で前を塞がれいるせいか歩く歩幅が狭く、ゆっくりと勇樹に近づくと床に布団を置く。
「お布団を借りてきました。丁度お客様用の布団を探していたようで、押し入れの中を覗いていましたよ」
にこやかに笑みを浮かべると榛名は敷布団を敷いてその上に掛け布団を乗せ、枕を置くと就寝の準備を終えた。
「これで就寝の準備はバッチリです。だから安心しておやすみになってください」
「わかった。なら、お言葉に甘えて眠らさせてもらうよ」
きっと自分が眠りに就かない以上、彼女自身も身体を休ませることができないだろう。今日中に終わらせておくべきことは色々あった。だけど風邪を引いてしまった以上、別の日に変更をしなければならない。明日以降に伸ばさないためにも今はしっかりと身体を休ませ、熱を下げないといけない。
勇樹は両の瞼を閉じると再び眠りに就いた。




