ルミナとの出会い
背後から切羽詰まった甲高い声が響き、俺とアルスは同時に振り返った。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
年齢は俺と同じくらいか、ほんの少し上に見える。腰まで伸びた艶やかな金髪を綺麗なツッコミどころのないツインテールに結い上げ、俺よりもわずかに背が高い。人形のように可愛らしい顔立ち立ちをしている。
だが、街の普通の少女と決定的に違っていたのは――その腰に使い込まれたショートソードを差しており、その瞳に「なにかを覚悟した強い光」を宿していることだった。
「連れて行って、って……どうしたんだい、お嬢ちゃん?」
アルスはその眼差しに含まれた尋常ではない気迫を感じ取り、いつものおちゃらけた雰囲気を消して真剣な声で問いかけた。
「私はルミナと申します。昨日、ギルドであなた方が『オアシスのゴーレム討伐』を受けると話しているのを耳にし、ここで待たせていただきました。……お願いです、私にもそのクエストを手伝わせてください!」
「手伝うって言っても、これはC級クエストだぞ。相手は先動隊を行方不明にさせるほどの怪物だ。大怪我をするかもしれないし、最悪死ぬ可能性だってある。理由もなしに子供を危険な現場へ連れて行けるわけがない」
アルスは毅然とした態度で彼女を厳しく突き放した。
それも当然だ。見ず知らずの幼い少女をわざわざ死地へ連れて行く愚かな大人など、どこにもいない。アルスもそこまで分別がないわけではないのだ。
ルミナは一瞬だけ悔しそうに口唇を噛み締め、視線を落とした。しかしすぐに顔を上げ、絞り出すような声で理由を打ち明け始めた。
――オアシスへ向かったきり戻らない『国内唯一のC級パーティー』。その中に、ルミナの父親がいること。
――出発してからすでに三日以上が経過しており、失敗して生存している可能性が極めて低いこと。
――たとえ生きていなかったとしても、せめて父の遺体を家に持ち帰り、ちゃんと弔ってあげたいこと。
――そして何より、この国を守ろうとした父の誇りある意思を継ぎ、自分が代わりにクエストを達成したいこと。
「……だから、お願い、しますっ……!」
最後のほうは耐えきれなくなったのか、大粒の涙をボロボロと溢れさせながら訴えかけてきた。
家族を想う悲壮な決意。付いていきたいと願う彼女の切実な気持ちは痛いほどよく伝わってくる。俺がチラリと隣の父親に視線を向けると――
「うっ……ううっ……そうか、そうだったのかぁぁッ! 辛かったなぁルミナちゃぁぁん!!」
当のアルスは、当事者であるルミナ以上に滝のような涙を流して号泣していた。……泣き虫すぎるだろ、この三十路親父。
「ぐすっ……でもな、本当に危ないんだよ。気持ちは分かるが、ルミナちゃんはその腰の剣を使えるのかい……?」
「私、これでも『C級冒険者』です! 必要なら、今ここでステータスもお教えします……! 絶対に足引っ張りにはなりません!」
「「えっ!?」」
俺とアルスの声が見事にハモった。
「ち、ちなみにルミナさん、お幾つですか……?」
俺は思わず、演技も忘れて素のトーンで年齢を尋ねていた。
「十三歳ですが……」
十三歳……!?
絶句した。この世界で冒険者登録ができるのは十二歳からだ。つまり彼女は、冒険者になってわずか一年足らせずでC級まで駆け上がったことになる。
俺も昨日C級になったばかりだが、これは過去九十九回の全ステータス引き継ぎというバカげたチートがあってこそだ。それがなければ、普通の人間なら血の滲むような努力を重ねて数年かかっても届かない領域である。
アルスもその事実に目を見張り、ルミナの熱意と真摯な覚悟、そして確かな実力を考慮した結果、長考の末に同行を許可したのだった。
◇
砂漠の過酷な道のりの中、年が近いこともあって俺とルミナは色々な話をした。
彼女の母親もかつて冒険者だったが数年前に病気で亡くなっていること。
父が討伐へ向かった日、彼女は運悪く高熱を出して寝込んでしまい、一緒に行けなかったこと。
そして、剣の稽古と同じくらい『料理を作ること』が大好きなこと――。
その間、アルスも楽しそうな子供たちの会話に入りたそうにソワソワしていたが、甘酸っぱい若者同士の雰囲気に割り込む勇気が出ないのか、後ろでつまらなさそうに指をくわえて歩いていた。
道中、信頼の証としてルミナから提示された彼女のステータスを確認させてもらったのだが……俺はその数値を見て、密かに正真正銘の衝撃を受けていた。
【ルミナ】
LEVEL:51
HP:2010
MP:800
攻撃力:620
防御力:620
魔力:620
俊敏性:650
運:60
(……な、なにこれ。本物の『天才』じゃん……!!)
十三歳でレベル51。ステータス全体のバランスも美しく、B級冒険者として即戦力で通用するレベルの規格外な数値だ。アルスのように実力S級並みの怪物と比べるのは酷だが、一般的な人類の成長速度を遥かに超越しすぎている。
ちなみに俺は、自分のステータスを『運』以外すべて二十分の一(レベル36程度に見える偽装値)に抑えて教えた。手加減した数値とはいえ、十二歳の新人としては十分すぎるほど優秀な数字だ。
ルミナにも十二歳ですでにC級になっている俺に驚いていたが、すでに百回目の人生なのである。
……そして、一つだけ悲しい事実がある。
俺はこの世界に転生してから、ただの一度もレベルが上がっていない。
まあ、レベル728にもなってゴブリンやスライムを数千匹倒したところで、経験値の足しにもならないのだから当然なのだが。
(目の前に本物の天才がいるのに、俺自身にはやっぱり才能なんて微塵も無かったんだな……)
血統の良さに一瞬期待した自分が馬鹿らしくなり、俺は心の中で小さく苦笑いを浮かべたのだった。
――だが、この時の俺はまだ知る由もなかった。
この砂漠で出会った少女・ルミナとの巡り合わせが、その後の俺の『平凡に生きたい人生』を大きく狂わせ、そして世界を揺るがす運命へと巻き込んでいくことになるということを。




