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三人での食事と揉め事

「ね、ねぇ。ルミナさんもういいんじゃないかな?」


「え、何がですか?」


 ルミナは捕ってきた猪を、捌いて次から次に焼いていく。普通ならば八人前はありそうな量ができあがっていた。


「何がって……あっそうか。村の人にも配ってあげるんですね」


 シャルルちゃんは手をポンと叩き、一人で納得していた。シャルルちゃん、ルミナの爆食は知らなかったんだな……おもしろいから黙っておこう。


「シャルルさん、さっきから何言ってるんですか? 三人の分に決まってるじゃないですか」


「えっ!」


 驚くシャルルちゃんを尻目に、ルミナの得意料理……いや、ルミナの一番の好物料理の分厚い猪のステーキが次々に俺達の前に並べられていく。シャルルちゃんの前には二枚、俺の前には三枚、ルミナの前には五枚の肉が置かれた。


「あのぉ……」


 シャルルちゃんがドン引きして何かを言おうとしていたが、ルミナがそれを遮る。


「さぁ、いただきましょう。冷めると固くなっちゃうし、早く食べましょう」


 ルミナの勢いに押されてか、シャルルちゃんは諦めたように肉の塊を小さく切って口に運ぶ。


「…………おいしい」


 不安げだったシャルルちゃんの表情が一気に明るく輝いた。


「よかったぁ。シャルルさんの口に合うか心配だったんです」


 ルミナはよほど嬉しいのか、胸の前で両手を握り拳にしてガッツポーズしている。


「ほんとおいしいです。私、猪って苦手だったんだけど、これならむしろ好きになれそう。どうやって作ったんですか?」 


「じゃあ今度教えますね。もう一緒のパーティーだから、之から何度も猪を食べる機会もありそうですし」


 確かに何度もあるだろうな……基本俺達が野営するときの食事は決まって猪である。俺のサーチがあれば、どんな場所でも猪は見つかってしまうのだ。


「楽しみにしてます。でも私は一枚で十分ですよ。ルクスさん食べます?」


「いや、俺も三枚で限界かな。たぶんルミナが食べてくれるよ」


「えっと……ルミナさん、すでに五枚あるんですけど……」


 シャルルちゃんは恐る、恐るルミナを見る。俺もルミナの皿を見るとすでに三枚になっていた。いつの間に食べたんだ?


「大丈夫ですよ、シャルルさん。もしかしたら多いかもって私の分少なめにしたので」


 ルミナはそう言いながら、シャルルちゃんの皿からヒョイと一枚のステーキ肉をとり、自分の皿に移した。


「ルミナさん、そんなに食べて太らない?」


「大丈夫、大丈夫。ルミナはいくら食べても太らない体質らしいし」


 ルミナは口一杯に肉を含んでいて話せないようなので、俺が代わりに答えた。


「そ、そうなんですか……」


 まだ信じられないといった表情で残ったステーキを少しずつ食べている。


 …………


「やっと食べ終わったぁ」


 俺はもはやノルマと化した食事を平らげ、ベットに横になった。


「……ほんとに全部食べちゃった」


 シャルルちゃんは狐につままれたような顔でぽかんとしている。


「そのうち慣れるよ」


「う、うん」


 それにしても日に日にルミナの食べる量が増えていっている気がする。将来どうなってしまうのだろうか……


「ちょっとルクスー。いつまでもゴロゴロしてないでお皿洗うの手伝ってよー」


「は、はい!」


 俺は重い腰を起こして立ち上がる。


「ふふ、もう尻に敷かれてるんですね」 


「ち、ちがうよ。ほら同じパーティーなんだし家事は分担しないと」


「はい、はい、分かりました。じゃあ私も同じパーティーになったので手伝いますね」


 三人で食器を片付け終わると、外から叫び声が聞こえてきた。何事だ? 俺達がテントの外に出ると、そこにはエドゥーが立っていた。まだ居たのかこいつ……王都に行くんじゃなかったのか。エドゥーの向かいには十メートルぐらい離れてバルトが立っていた。


「いい加減諦めろ! 俺達は王都へ行くんだ!」


「ふざけんな! 俺は早くプラシアに帰って彼女とイチャイチャしたいんだ」


 どうやら二人は今後の行き先について揉めているようだ。


「俺だって、嫁を残してきてるんだ」


「あんな不細工と一緒にするんじゃねぇよ」


 その一言に、エドゥーの周りに怒りの炎が覆った気がした。


「お前こそ、あんな下品な女のどこがいいのか全く分らんな」


 バルトの周りにも同じように炎が覆った気がした。もはやお互いの女の悪口を言い合っているだけである。しかし良いことを聞いた。二人にはすでに相手がいる。ということは、シャルルちゃんはどちらとも付き合ってはいないのだ。


「もはや戦うしかないようだな、エドゥー。今のお前になら楽勝で勝てそうだぜ」


「ふん、はじめからこうしておけばよかったのだ。こんな怪我ハンデにもならん。覚悟しろ」


 お互い上半身の服を脱ぎ去り、筋肉の厚みを積み重ねた体が現れる。筋肉だけみれば互角に見えるが……


 そして何も合図がないまま、お互い武器を持たず素手で殴り合った。


「はぁ……また始まった……」


 シャルルちゃんは頭を抱えて溜息をつく。


「またって?」


「二人は揉めるたびに、こうやって殴り合いを始めるんですよ。さすがに武器を持つとエドゥーがいつも勝っちゃうんで、素手なんですけどね」


 確かに二人の戦いを見ると、全くの互角に見える。ん? そういえばシャルルちゃんバルトに向かって弱すぎるって言ってたよね? あれを弱すぎるって言えるのならシャルルちゃんはどれほど強いんだ?


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