抜け出せない…
「じゃあそろそろ行きますね、また近くに来たら寄ります」
俺は黒龍達に別れを告げた。
「あっ、少しお待ちください」
黒龍はそう言うと洞窟の奥に入っていった。少しして黒龍が戻ってくると大きな二つの鉱石を持っていた。
黒と白の鉱石だ。それぞれの石は光沢があり、洞窟内の僅かな光でさえ、輝いていることが分かる。とても美しい鉱石だ。
「これを持っていってください。主達に必要なものなのでしょう?」
「えっ?必要ですけど…先祖の魂だって…」
「確かにこれは先祖の魂です。しかし新しいドラゴンの主に使っていただけるのであれば、先祖達も本望でしょう。それに主達にはドラゴンの危機を救っていただきました。我々の感謝の気持ちを受け取ってください」
「わかりました。ありがとうございます」
俺とルミナは黒と白の鉱石をそれぞれ受けとる。
黒龍にとってこの鉱石は人間の世界では遺骨と同じようなものだろう。それを他人である俺達にくれるなんて…大事に使わせて頂こう。一欠片も無駄にしないように…
「では、今度こそ失礼します。ほんとにありがとうございました」
やらなければいけないことが沢山ある。あまり長居はできないのだ。
「あっ、ちょっと待って」
「えっ!?」
今度は何かを思い出したかのようにルミナが声をあげた。
「私達はここを離れちゃうから主代理を決めたいと思います。主代理は金龍さん、副主代理はそこの赤いドラゴンがやりなさい。若い力でドラゴン達を引っ張っていくのよ。そして相談役に黒龍さんよ。今までの経験を活かしてサポートしてあげて」
主代理に副主代理、そして相談役…今までなかった役職が次々と決められていく…
しかし金龍はともかく、あの赤いのが副主代理?大丈夫かな…
「えっ!?ワシでっか?わてが副主なんて無理無理。そんなん周りのドラゴンも認めんとよ」
赤いのも動揺しているようだ。もはやどこの言葉を話しているのかわからない…
「大丈夫、大丈夫。私とルクスが保証するからっ」
ちょっと、初耳だよ?ってか保証?なんの?
「主がそこまで言ってくれるんやったらやってみてもええか…」
「うん、きっとやれるよ。がんばれ、赤ドラ」
赤ドラって…ルミナはこいつに何を期待してるんだろうか。
「じゃあ、今度こそほんとに失礼します。また会う日まで」
俺はドラゴンの役職問題がややこしくなる前に早く帰りたかった。それに早くここを離れないといつまでも居続けることになりそうだ、と思い始めたその時だった。
「きゅーーーー」
と、かわいい音が聞こえてきた…まさか。音の聞こえた方を見るとルミナがお腹を押さえて赤い顔をしていた。
「ルクスーお腹空いちゃったよー」
それを聞いた金龍が待ってましたと言わんばかりに声をあげた。
「おぉーお腹が空いたんですか。これでも私料理が趣味でして、主達が帰ったあと一品作ろうと思ってたんですよ。食べていきますか??」
嘘だろ…ドラゴンのくせに料理が趣味?ありえない…やばい、これは本気でやばいと俺の防衛本能が作動する。早くここを去らなければ。
「いえ、俺達は急ぐので…」
「いいんですか!!是非ごちそうしてください!!」
俺の声をかき消してルミナが即答した。
「ル、ルミナ。さすがにもう帰らないと…グレイブさんも待たせてるし…」
「もう夜だしご飯食べて、一泊してから帰りましょう。こんな暗い中帰るなんて危ないわ、怖いわ」
うそつけ…ただご飯食べたいだけだろう…俺のライトの威力を知ってるだろ…それにしてもドラゴンが食べるものを俺達が食べれるのか…
その心配は無用だった…結局ルミナに説得され料理を作ってもらうことになったのだが、金龍は手際よくデカイ肉の塊をデカイナイフで切っていく。デカイ鍋のような物をとりだし、大人一人が包めるようなデカイ緑の葉っぱを細かく切って、切った肉と一緒に入れ、それに水と様々な木の実を磨り潰して入れる。最後に鍋に蓋をして、口から火を吐いて鍋の底に敷き詰めている木々を燃やして煮込んでいる。鍋がコトコト揺れ、いい香りが漂ってくる。
正直、俺も腹は減っていた。なんせドラゴンに会ってから今まで何も食べてなのだ。いつしかその食欲をそそる香りに我慢できなくなっていた。
「お、おい金龍。そろそろできたんじゃないか?」
「何いってるんですか。これからじっくりコトコト煮込んでいくんです。あと一時間は待ってください」
俺は愕然として、暇潰しにその辺にある木の枝でいじけるように地面に絵を描いて料理ができるのを待つのであった。ルミナはというと、
「ご飯できたら起こして」
と言って金龍が準備を始めたときから寝ていた。俺もこんなに待つくらいなら寝ておけばよかったな…