黒龍と白龍
「主よ、客人をつれてきました」
「通せ」
低く凄みのある声が穴から響いてきた。中に入るとひんやりしており寒気がするほどだった。決して寒いわけではないが、これがドラゴンの主のプレッシャーというものだろうか……
奥へと進むと、二匹のドラゴンが並んでいた。で、でかい……先ほどのドラゴンが子供に見えるほど大きかった。いやそれよりも暗くてよく見えなかったが、よく見ればこの二匹のドラゴンの色は黒と白だった。しかし白いドラコンは怪我をしているようにも見える。
「まさか、黒龍と白龍……」
俺はつい口から溢してしまった。
「ほう、我々の存在を知っているか……ん? お前達、その後ろの剣どこで手にいれた?」
しまった! この剣は黒龍と白龍が絶命したときにできる鉱石で造られている。このままでは俺達が仲間の仇と思われても仕方ない。どうする……
俺が返答に困っているとルミナが、
「プラシアの武器屋の店主から貰ったのよ」
と正直に答えてしまった。まぁそう答えるしかないか……
「ほう。プラシアの武器屋の店主か……懐かしいな。まだ元気にしておるか?」
意外な返事が返ってきた。このドラゴンは武器屋の店主と知り合いだというのか。
「はい、元気にしていますよ。知り合いなんですか?」
「あぁ、昔ちょっとあってな……その時の礼に我々の鉱石を渡したのだ。我々の先祖の魂とも言える鉱石を渡した人間は彼だけだったのでな」
何をしたんだ、あの店主……プラシアに戻ったときに聞いてみよう。しかし困ったな……最近剣が小さくなってきたので早く造り直して欲しかったのだが。ルミナもそうだろう。だが、先祖の魂とか言われたらくれとも言えないし、この人達を今ここで倒すわけにもいかない。うーん……
「あのぉ、私達この剣をもっと大きくしたいので鉱石を譲ってくれませんか?」
空気の読めないルミナがあっさり言ってしまった。
「はっはっは、そう簡単にはやれんよ。先程も言ったが先祖の魂だ。知っているのだろう? 我々が死んでしまったときにしか手に入らないと。君達はそれを頼みにきたのか?」
やっぱりね…とりあえず今は本題を優先しよう。
「いえ違います。最近この山でドラゴン同士で喧嘩して近くの町が不安がっているので見に来たのですが……何かあったんですか?」
「なるほど。迷惑をかけてすまなかった。実は……」
その時だった。黒龍が理由を言いかけたところで外から轟音が鳴り響いた。
「また来おったか。すまん、ちょっと待っていてくれ。あいつらが騒動の理由だ」
そう言うと黒のドラゴンは外にでた。待てと言われたが、気になって俺達も後を追った。
外に出ると金色に輝くドラゴンと銀色に輝くドラゴンがそこにいた。黒龍よりもさらにでかい。
「よう、黒いの。引導を渡しにきたぜ」
金色のドラゴンが話している。声的にまだ若いドラコンのようだ。
「この前決着はついたはずだが?」
「あぁ、前は不覚をとったが、再戦しちゃいけねぇてルールはないよな。だから今日来てやったぜ。白いのはどうしたよ」
「白龍はまだ前の傷が癒えておらん。今日は戦えん。あとにしろ」
「はぁ? そんなの知らねぇよ。待つわけがないだろう。あんた一人で戦えよ」
なんの話をしているのだろうか……ただの決闘ではないようだが……
「黒龍さん、どうしたんですか?」
「ドラゴンの世界では強い者が主となる。最近こいつらが主の地位を求めて挑んでくるのだ」
なるほどね。しかし相手は二匹、サイズも相手がデカイ……さすがに厳しいのでは。
「おいおい、まだ人間と仲良くしているのか。やっぱりあんたに主は任せられない。俺が主になって、人間など滅ぼしてくれる」
「そんなことはさせん。人間は悪い者もいるがほとんどが心優しき者達だ。絶対に手は出させんぞ」
おいおい、この金色ものすごいこと言っているぞ。こんな奴を勝たせて主にするわけにはいかない。
「なぁ、そこの金色の。俺も混ざっていいか? これで二対二だろ。それとも一対二で勝って卑怯者って言われていいの?」
「はーはっはっはー、人間一人入って何ができるというんだ。死んでもしらんからな。おい、お前相手してやれ。片付いたらすぐ俺をフォローしろ」
銀色のドラゴンは頷いた。このドラゴンは話せないのだろうか。
「お、おい。ドラゴンと戦うと言うのか。あいつらは人間相手でも手加減なんてしないぞ。お前がどれだけ強いかしらないが、あいつらは見ての通り亜種だ。普通のドラゴンの上位種、人間のレベルにしたら三百は越えるぞ」
三百!? それは聞いていてよかった。今のルミナには戦わせられない。
「まぁ大丈夫でしょ。黒龍さんはあの金色止められますか?」
「あぁ。でも一対一ならの話だ」
「じゃあ大丈夫です。やりましょう。ルミナは下がって見ていてね」
「うん。さすがに私じゃ力不足だよ」
人間とドラゴンの亜種との戦いが始まる。