みんなでご飯
「今日はありがとうございました。ほんと助かりました」
ルミナがゴン達にお礼を言っている。たしかに三人はよく働いてくれた。お陰で家の中はピカピカだ。塵一つないとはこの事を言うのだろう。
「こちらこそありがとうございました。憧れの人と話すことができて嬉しかったです」
いやぁ、ルミナに憧れるなんてほんといい子達だな。でも惚れちゃだめだよ。と心の中で思ってしまっていた。
「俺からもお礼を言わせて。ほんとにありがとう。お腹空いたでしょ? 一緒に昼飯食べに行かない? おごるよ」
掃除を頑張りすぎて、昼御飯も食べずにいたので誘ってみると、
「えっ、いいんですか? やったぁ」
他の二人も喜んでいるようだ。喜ぶ姿を見ているとほんと子供だなと感じる。
「えっ、ルクスが奢ってくれるの? じゃあ一杯食べよ」
「いや、ルミナさんは自分で払ってね」
「むぅー。けちぃ」
そういって頬を膨らます。何度もこの仕草見るけどいつもかわいい。
ちなみに俺達はご飯を外で食べるときは自分の分は自分で払うルールだ。割り勘ってやつね。クエストの報酬は二人で割るので当然だろう。はじめの方は俺が出すよと言っていたが、明らかにルミナの方が多く食べるし、もし割り勘にしたらルミナが俺の払う分を気にして食べられなくなるので今のルールとなった。
何が食べたいか聞くと、肉が食べたいというのでステーキ屋に連れていった。
「さぁ、好きなもの頼んでいいよ」
と言うと、皆必死でメニューを見ている。
「じゃあ僕は牛の二百グラムでお願いします」
「僕もそれで」
「私は百五十グラムでいいかな」
「じゃあ私は、牛の一、五キロにするわ」
さぁ、どれがルミナのメニューでしょう。他の三人がルミナの方を驚きの表情で見ている。
ゴンが隙を見て小声で俺に聞いてきた。
「ルミナさんはいつもこれぐらい食べているのですか?」
「あぁ、もっと食べるときもある。もしかしたらおかわりがあるかもしれない」
「えっ!」
ゴンは絶句してしまった。
「なに二人でこそこそ話しているの。早くルクスも決めなさい」
「あっはい。じゃあ俺は三百グラムで大丈夫です」
「相変わらず少食ね。じゃあ注文するね。店員さーん」
ルミナは手を挙げて、大声で店員を呼びつけた。
むしろ俺はこの年では食べるほうなのだが……ルミナに比べると誰でも少食になってしまう……
ルミナが呼んで暫くすると、「お待たせしました」と言いながら若い女性の店員さんが来た。
「注文いいかしら」
「はい、どうぞー」
「じゃあ全部牛のステーキで、百五十グラムと二百グラムを二つと三百グラムと一、五キロの五つでお願いします」
「え?」
「えっ? じゃないわよ。もう一度言うわよ。全部牛のステーキで、百五十グラムと二百グラムを二つと三百グラムと一、五キロの五つでお願いします」
「は、はい。かしこまりました」
店員さんは一度キッチンへメニューを伝えに行ったようだが、すぐに戻ってきた。
「すいません、もう一度確認してこいと言われて。最後のステーキは一、五キロですよね? 千五百グラムってことですよね?」
「そうですけど」
ルミナもうんざりするように答えている。店員さん、俺を見ないで……俺が食べるわけじゃないんだから。
「では、全部はお皿に乗らないので五百グラムのステーキを三つ用意させていただきます」
「それでいいわ」
ルミナがそう言うと店員さんはまたキッチンへ戻っていった。
少し待つとステーキが運ばれてきた。予想通り俺の前に五百グラムのステーキが置かれた。ルミナのだと伝えると驚いた顔をして、皿を移動させていた。ほんと色々とごめんね、店員さん……
ルミナの前にステーキの塊が三つ並んでいる。ゴン達三人のそれを見る目はもはや憧れではなくなっていた気がする……
「じゃあ皆揃ったわね。では、いただきます」
皆一斉に勢いよく食べ始めた。一口食べてみると口の中で溶けるくらいに柔らかい。これはうまい。さすが王都だね。食べ物も一流のようだ。その分値段も高いのだが……もう一度メニューを見てみると百グラム当たりの五千ピアと書いている。掃除の報酬払うよりも大分高くなるね。まぁ、昨日グレイブさんから二百万ピア貰ったからいいか。しかし、ルミナ……この一食で七万五千ピアも払うのか……もったいない……
食事が終わろうとしたころ、奥の席で男がなにやら騒いでいる。
「おいこら、さっき肉の上にゴキブリが乗っていたぞ。どうしてくれるんだ。えぇ!」
「おい、あんまりアニキを怒らせないほうがいいよ。なんせB級の冒険者だからね」
あーあ、どこにでもいるものだね。ああいうの。しかしこの高級そうな店の肉の上にゴキブリが乗っているわけないだろう……バカなんだな。
先ほど俺達の接客をしてくれた店員がどうしていいか分からずパニックになっている。回りもB級と聞いて何もできずにいた。迷惑かけたし助けてやるか。
「ルミナちょっといってくるね」
と言ってルミナの方を見ると口いっぱいにステーキをいれて首を縦に振っていた。あ、邪魔してごめんね。
「ちょっと止めろよ。お店の人が迷惑しているだろ」
「なんだ、ガキか。痛い目に会いたくなかったら黙っていな」
「あっアニキ……こいつ昨日ギルドで赤き竜を追い返した奴ですよ……」
「なっ! まじか」
「おい、店員さんに謝れ!」
「いや、でもほんとうにゴキブリが……」
「あぁ!」
最後に殺気を込め睨むと、すいませんでしたと謝って金を置いて出ていった。
ふぅと、一息ついて席に戻ろうとしたら、カサッと音が聞こえた。音がした方を見ると一匹のゴキブリが床を走っていた。俺は今、何も見なかったことにした。
皆、食事を終えたところでゴンたちと解散した。結局ルミナは五百グラム追加して十万ピアを支払っていた。俺は皆に奢っても四万ピアちょっとだったのに。
日常回が、続きましたが次話で少し進展があります。お楽しみに。