決心
「ルミナ、このテーブル、ここでいいか?」
「うん、いいよ! あとクロスも掛けておいてね」
「はいよ」
そんなやり取りを交わしながら、俺たちは新しい家の中に家具を配置していった。
本来なら何人もがかりで運ぶような大型家具も、俺たちの常人離れしたステータスとボックスの存在があれば、大掃除に比べれば赤子の手をひねるより簡単だ。
昼食の後、俺たちは街の家具屋や雑貨屋を巡り、生活に必要な家財道具を一通り買い揃えていた。俺があまりこだわりがないのをいいことに、インテリアのほとんどはルミナの趣味で選ばれたのだが……それもまた新鮮で悪くない。
必要な家具や生活用品をすべて配置し終えた頃には、すっかりあたりは夜の闇に包まれていた。
「ふぅ……すっかり遅くなっちゃったね。そろそろ夜ご飯にする?」
「そうだな。身体も動かしたし、お腹も減ったな。外に食べに行くか?」
「ううん! 今日は私が家で作るわ!」
「えっ、本当!? じゃあ楽しみに待ってるよ!」
思わぬ申し出に心が躍った。
やった! 久しぶりにルミナの手料理が食べられるぞ! 彼女は実家にいた頃にも何度か料理を振る舞ってくれたのだが、食べるのが大好きなだけあって、作る方の腕前もプロ級なのだ。
「そんなに期待しないでよね?」
なんて言いながら、ルミナはどこで買ってきたのか可愛らしいエプロンを身につけ、嬉しそうに台所へと向かった。
トントンと心地よい包丁の音や、ジューッと食材を炒める香ばしい音が居間まで届いてくる。
……エプロン姿で台所に立つ彼女の後ろ姿を見ていると、なんだか新婚夫婦にでもなったような甘い錯覚に陥ってしまう。
(……でも、本当にそろそろ自分の気持ちをちゃんと伝えないとな)
いつまでもはっきりしない態度で待たせていたら、ルミナだって他の男に恋をしてしまうかもしれない年頃だ。
(よし、決めたぞ! 今日……今日絶対に伝えるんだ! 勇気を出せ、俺……ッ!)
万が一断られたら、始まったばかりの同棲生活が地獄のような空気になってしまうという恐怖が頭をよぎるが、すぐに振り払う。ダメだ、絶対に逃げちゃダメだ!
俺が脳内で決死の覚悟を固めていると、台所からルミナが料理を運んできた。
「あっ、俺も手伝うよ!」
「いいの、いいの! ルクスは座って待ってて!」
テーブルの上に、次々と豪華な料理が並べられていく。
……えっ、ちょっと待って? これ豪勢すぎないか……!? 外で食べるより圧倒的に高くついている気がするのだが……!
テーブルの上には、厚切りの牛肉の塊や、プリプリのエビ、巨大なカニを使った料理まで所狭しと並んでいた。一体いつの間にこんな高級食材を買っていたんだ? あ、そういえば買い出しの最中、別行動を取った時間があったな。あの時か!
すべての料理を並べ終えると、席についたルミナが、どこかわざとらしく「コホン」と小さく咳払いをした。
「今日は、ルクスの十六歳の誕生日です! だから、お料理頑張ってみました! ……誕生日おめでとう、ルクス!」
ルミナは満面の笑みを浮かべ、パチパチと可愛らしく手を叩いた。
「えっ……!? あ、そうか……今日、俺の誕生日か……ッ! 完全に見落としてた……!」
「も〜、そんなことだろうと思ったわよ!」
「いや……本当にありがとう、ルミナ。めちゃくちゃ嬉しいよ……!」
「ふふっ、良かった! 喜んでくれて。じゃあ冷めないうちに食べましょう!」
完全なサプライズだった。
まさかルミナが俺の誕生日を覚えていて、密かに準備をしてくれていたなんて。今度は俺も、ルミナの誕生日に最高の祝いをしてあげないと。
「ルクス、食べないの? お腹空いてない?」
「いや……ごめんごめん。なんだか、少し感動しちゃってさ」
「もう、しょうがないわねぇ……。はい、あ〜ん」
ルミナがフォログラムのように輝く肉料理をフォークに刺し、俺の口元へと差し出してきた。
あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらも、意を決してパクッと口に含んだ。
「どう? 美味しい? 今日は特別なんだからね!」
「う、美味い……!流石ルミナだ。今すぐ高級料亭のシェフになれるよ……!」
本心から言った言葉だったが、恥ずかしさのあまり本当は味が半分くらいしか分からなかった。
「ふふふっ、ありがと!」
大満足の夕食を終え、食後のコーヒーを飲んで一息ついていると、ルミナが『ボックス』から何かを取り出した。
「はい、ルクス。これ、私からのプレゼント!」
渡されたのは、綺麗なリボンで包まれた小さな化粧箱だった。
「えっ、プレゼントまで用意してくれてたのか……!? ありがとう、ルミナ。開けてもいいか?」
「うん、いいよ。気に入ってもらえるか分からないけど……」
箱の蓋をそっと開けると、中には繊細な意匠が施された銀色のネックレスが入っていた。先端には、三日月をモチーフにしたチャームが揺れている。
「ありがとう、ルミナ! 一生大切にするよ!」
俺はさっそくネックレスを取り出し、首に装着した。
「どうかな……? 似合ってるか?」
「……うん! すごく格好いいよ、ルクス! すごく似合ってる!」
ルミナは自分のことのように嬉しそうに目を細めた。
間違いなく、今まで過ごしてきた十六年間の人生(転生を含めれば千年以上)の中で、最高の誕生日だった。
◇
その後、協力して片付けを済ませ、順番にお風呂に入った俺たちは、それぞれの部屋へと戻った。
(や、やばい……ッ!!)
買ったばかりの布団に転がり込みながら、俺は頭を抱えて悶絶していた。
今日絶対に告白すると誓ったのに、気づけばこんな夜遅くになってしまっていたのだ。
今からルミナの部屋へ行くか? いやでも、同棲初日の深夜に男が押し掛けるなんて正気の沙汰じゃないだろ……。
(……うぅ、今日は仕方ない! 誕生日サプライズで胸がいっぱいだったんだ! 明日にしよう、明日に……!)
情けなく自分に言い訳をし、布団にくるまって目を閉じかけた——その時だった。
コンコン。
昨日と同じく、静かなノック音が部屋に響いた。
「ルクス、まだ起きてる……?」
ガバッ!!! と跳ね起きた。
まさか……今日も向こうから来てくれるなんてッ!?
「お、起きているよ! どうぞ!」
ガチャリと扉が開き、ルミナが入ってきた。お風呂上がりで少し火照った肌と、ほのかに漂う甘い香りが部屋に広がる。
「どうしたんだ、ルミナ?」
「あのね……ちょっと話したいことがあって……」
下を向き、もじもじと指先を弄ぶルミナ。
なんだろう……もしかして、ルミナも俺と同じことを考えていたんじゃないか……!?
部屋にはまだ届いたばかりのベッドしか存在しないため、俺はルミナにベッドの端へ腰掛けてもらった。
「あのね、ルクスに……聞いてほしいことがあって……」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに上目遣いで俺を見てくる。
間違いない。これは絶対にあっちも同じ気持ちだッ!
「ルクス、私ね——」
「ちょっと待ってくれ! 先に俺に言わせてほしい!」
「えっ……!?」
女の子に告白をさせるわけにはいかない! 男なら、俺から言うべきだッ!
俺はルミナの前にすっと跪き、彼女の澄んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。
「俺はルミナが好きだ! 大好きだ! ……俺の恋人になってください!」
「へぇっ!?」
ルミナは聞いたこともないような変な悲鳴を上げて、一瞬で顔をゆでダコのように真っ赤に染め上げた。
「えっ……あ、あの……ちょ、ちょっと待ってね!?」
あまりの動揺に、ルミナはパニックになって部屋の中をキョロキョロと見回し始めた。そして深呼吸を繰り返して、必死に心を落ち着かせようとしている。
(……あれ……? なんか反応が思ってたのと違わないか……?)
「……もしかしてルミナも、同じことを言いに来たんじゃないのか……?」
「ち、ちがうわよーっ!!」
げ、げぇぇぇぇッ!? まじでぇぇぇッ!?
盛大な勘違いだった!! だが、一度口から飛び出た言葉はもう引っ込められない!!
「ご、ごめん……変なフライングして……」
「い、いえ! 別に変なことじゃないわよっ! ただ……まったく予想してなかったからびっくりしただけで……! ち、ちょっと待ってね……すぐ落ち着くから……!」
「すー……はー……」と深呼吸を繰り返すルミナ。
二人の間に、恐ろしいほどの沈黙が流れる。
時間にして一分も経っていないはずなのに、俺にとっては数時間にも感じられるような拷問のような沈黙だった。冷や汗が止まらない。
やがて、ルミナはゆっくりと息を吐き出すと、意を決したように真っ赤な顔を上げて俺の目を正面から見つめ返してきた。
「……うん。もう大丈夫。……ちゃんと、返事しないとだよね」
中途半端でごめんなさい。明日の朝には続き更新します。仕事です…すいません。




