帰り道
馬車にのって、サンドラを出発した。
来たときとは違って、ルミナが隣に座っている。プラシアまでは三日間の長旅だ。男だけの旅と違って華がある。男だけ? アルスの他にも誰かいたような…
「…………」
あっ、思い出した! 商人さんだ! 名前も聞いてなかったけど、帰りに護衛する約束していたんだ。どうしよう……
「……………………」
まっ、いいか。今から戻るのも面倒だし。ごめんね、商人さん。次会うことあったらタダで護衛してあげるから。
何事もなく、馬車は進んでく。サンドラからある程度離れ、暑さも和らぎ楽になってきた。馬車が揺れる度に、ツインテールの髪の毛が揺れて良い匂いがしてくる。アルスが隣にいると汗臭いから、それに比べたら天国だ。アルスはというと、反対側の席でグーグーイビキをかいて寝ている。王宮へ行く為に、慣れない早起きをしたからだろうな。
しかし、ほんとにお尋ね者とかなってないよな? 父親が犯罪者なんて絶対嫌なのだが。
「ねぇ、ルクス」
「ん、どうしたの」
「ルクスはお母さんいるの」
「いるよ。お母さんも昔は冒険者やっていたらしいんだ。戦う姿はみたことないけどA級冒険者らいよ」
「A級!すごいね。女性の人でA級ってあんまりいないんじゃないかな。」
確かに全冒険者の中でも1%未満しか存在しないA級、さらに体格で劣る女性であるなら、さらに少なくなるだろう。
「でも私のお母さんも強かったんだよ。同じC級でもお父さん全く敵わなかったんだから」
あの国はB級以上のクエストがなかなか無いので、もしかしたら実力はB級以上あったのかもな。
「でもルミナもすごく強いじゃないか。同世代の中だったら誰にも負けないんじゃないかな」
「まだまだだよ。もっと強くならなきゃ……それに同世代って、ルクスがいるじゃない。私の力じゃいくら足掻いても勝てないよ」
「俺は反則技みたいなものだから……」
「え、どうゆうこと?」
とルミナが聞き返してきたところで、馬車が急に止まった。
馬車の窓から顔を出して覗いてみると、馬車の先に十人ぐらいの人間が武装して立っていた。
「死にたくなければ、馬車と荷物と金全て置いていきな。そしたら見逃してやる」
うわぁ。どっかで聞いた事のあるセリフだ。何もなく着くことのほうが多いんじゃなかったの……。これのせいか。この状況でもグーグーと目の前でイビキかいて寝ているこれの運のせいか。この状況でも全く起きる気配もない。やれやれと呆れながら、馬車を降りる。
「私も行く」
と馬車を降りようとしたが、何故かルミナが震えている。もしかして盗賊が怖いのか? ルミナのレベルだったら楽勝だろうに……
「中で待っていていいよ。すぐ終わるから」
と心配して出てくるのを止めた。俺一人でも十分だからルミナには無理してほしくない。
「えっ。じゃあ待っているね。気を付けてね、怪我しないでね。油断しちゃだめだよ」
「大丈夫だよ。たかが盗賊でしょ」
ルミナが盗賊ごときにやけに心配してくる。こんなのより、昨日のゴーレムの方が数倍危ないだろうに……
「ごちゃごちゃと話してるんじゃねぇ」
と言って盗賊の1人が切りつけてきた。
俺はルミナを見ながらも、その剣を二本の指で挟んで止めてみせた。
盗賊は怯えたような表情で必死に指から剣を抜こうとするが、びくともしない。すると剣を諦め、逃げるように仲間達の元へ戻っていった。
「ふざけやがって、ガキのくせに。皆でやっちまえ」
と盗賊団のリーダーのような奴が指示した。十人もの盗賊が武器を持って襲ってきた。
さぁどうやって懲らしめてやろうか。
右手を前に出し唱える。
「ライトニング!」
上空から激しい音と共に雷が落ち、盗賊全員に直撃する。盗賊達は断末魔を上げバタバタと崩れさる。決着は一瞬だった。盗賊達はピクリとも動かない。
「お疲れ様でした。さすがだね」
ルミナが馬車を降りて労ってくれた。
「お疲れ様って言うほど疲れてないけどね。たかが盗賊に心配しすぎだよ。雑魚ばっかりなんだから」
俺がそう言うと、ルミナは一瞬表情が曇った気がしたが、すぐにいつもの笑顔になり、
「そうだね。ルクスからしたら盗賊なんて楽勝だよね。さっ、そろそろ出発しましょう」
と言うので、それ以上気にしなかった。
「じゃあ行きますか」