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死線

 穏健派の旗艦バーミリアのブリッジにはただならない緊張感が走っていた。

 強行派の艦隊に現在位置を特定され、その艦隊全ての戦力でこのバーミリアを沈めようと接近している。

 穏健派の戦艦は1隻。搭載されているグラディオンの数は10機。それに対して強行派の艦隊は4隻。搭載されているグラディオンの数はおよそ40機と予想している。単純計算で戦力差は4倍だ。普通に戦っても勝てる見込みは無い。しかし、彼らは戦うしか無い。 「まもなく敵艦隊と接触します!」

 バーミリアのオペレータ、ミリアが叫ぶ。

 「よし、グラディオンを全機出撃させろ!無理に敵を撃破する必要は無い。衛星兵器が起動するまでの時間が稼げればいいんだ。とにかく今はアスティを信じるしか無い!・・・みんなでクレストルニアへの帰還を果たすぞ!」


 指揮官クレイアが叫ぶ。

 「全グラディオンを出撃!穏健派をここで沈めるわ!」

 強行派の艦隊から大量のグラディオンが出撃される。それと同時にバーミリアからもグラディオンが出撃した。

 そして、両軍はクレストルニア上空にて衝突した。




 その頃、地上では衛星兵器のコントロール施設の電源復旧に全力を注いでいた。

 「マリアン、状況はどうですか?」

 「もう少しかかりそうです。こことここを接続すれば・・・あとはここを接続して・・・あ、アスティ様、そのケーブルを接続して頂けますか?」

 「これですね。はい、できました。」

 アスティはマリアンに言われた通りに複雑に絡まったケーブルを接続する。

 「これで大丈夫のはずですが・・・スイッチを入れてみますね。」

 マリアンは壁に取り付けられた大きなレバーを下ろした。バチバチッと電気がはじける音と共に、部屋の中に明かりが灯り、部屋の中の大量の機材にも明かりがついた。モニターにも明かりが灯った。そこには何やら意味不明なメッセージと思われる文字が浮かび上がっている。

 「これで・・・うまくいったのですか?」

 「はい、これで電源は復旧できたはずです。ようやく一歩前進しました。」

 「ありがとうございます、マリアン。あなたのおかげです。」

 アスティはマリアンの手を握りしめる。しかし、マリアンは表情を変えずアスティの顔を眺め話を続ける。

 「しかし、衛星兵器の使用にはまだ調整が必要です。まだ安心は・・・」

 そこまで話したところでケネスからインカムを通じて会話に割り込んできた。

 『アスティさん!敵の例の人型機動兵器の姿が!』

 「何ですって!?数はいくつですか!?」

 『数は・・・10体です!』

 突然の敵の出現でケネスの緊張と焦りが声からアスティ達に伝わってくる。とりあえず焦るケネスを落ち着かさせなければならない。

 「わかりました、王子。私もすぐにそちらに向かいます。マリアン後はお願いできますね?」

 「はい、こちらは私にお任せください。アスティ様はケネス様と一緒に施設の防衛に当たってください。」


 アスティは大急ぎで施設を出てグラディオンに戻るとケネスに話しかける。

 「敵の目的は施設の破壊と思われます。こちらから敵の方へ移動し迎え撃ちます。いいですね?」

 『う、うん。大丈夫・・・です。』

 ケネスは未だに緊張していた。無理も無い。初めての実践なのだから。アスティ自身も初めての戦闘は同じような状況だった。そして、実際に戦闘に入ると何も覚えていなかった。それくらい精神的には極限状態となっていた。ケネスも今はそのときと同じ状況なのだろう。

 「大丈夫です。王子ならやれます。機体の性能を信じてください。」

 そう伝えてグラディオンを敵部隊へ向けて発進させた。ケネスのエターナルブレイドもそれに続く。




 エレマからも目視でグラディオンの姿を確認出来た。1機は見覚えのある機体。先日自軍のグラディオンを2機を撃破され、自分自身も反撃を試みるも勝機は無いと判断し、逃げて帰って機体だ。その機体の姿は絶対に忘れない。

 そしてもう1機は見たことの無い機体だった。大きさは通常のグラディオンより大きめであり、背中に大きな片刃のソードを背負っている機体だ。

 「敵は2機だ!囲んで一気に潰すぞ!」

 最初に仕掛けたのはエレマ自身だった。あの新型には通常の武器は通用しない。そのため出撃時にビームライフルを持ち出してきていた。そのビームライフルを因縁のグラディオンに向けて発射する。


 「えっ?敵のビーム兵器!?」

 アスティはエレマが搭乗する青いグラディオンから発射されたビーム兵器を紙一重でかわす。

 アスティも青いグラディオンに向けてビームライフルを発射。しかし、簡単にかわされてしまう。気がつくとアスティは5機のグラディオンに囲まれていた。四方八方から銃撃されるアスティ。その攻撃をかわしつつシールドで敵の攻撃をかわし、ビームライフルで対抗する。しかし、目標が定まらないためか、攻撃が当たらない。

 「落ち着いて・・・この間だってやれたんですから!良く狙って撃てば!」

 アスティは1機のグラディオンに標準をロックした。それと同時にビームライフルのトリガーを引く。アスティのビームライフルは敵グラディオンに命中した。そのグラディオンは操縦不能となり地上に墜落、爆発を起こす。

 それでも止まない敵の銃撃。それに加えて青いグラディオンからのビーム攻撃。アスティはスラスターを巧みに操って攻撃をかわし、ビームライフルで1機づつ狙っていく。次々と落とされていく敵のグラディオン。


 ケネスのエターナルブレイドも敵のグラディオンに囲まれ銃撃を受けていた。ケネスは大きな片刃の剣を盾としてその銃撃を受け止める。

 「これが実戦・・・このままじゃ・・・こうなったら一か八か!」

 ケネスは剣を振りかざし、敵の銃撃の直撃を受けるのを覚悟で敵のグラディオンに向けてブースターをふかし一気に距離を詰める。そして、間合いに入った瞬間に大きな片刃の剣を振り回す。その一撃で敵のグラディオンは真っ二つとなり、その場でグラディオンは墜落、爆発した。

 それよりも驚きなのはエターナルブレイドの頑丈さだった。これだけの銃撃を直接受けても各部には異常なし。この事実に敵だけでなくケネス自身も驚くほどだ。

 だが、敵の攻撃は止まない。銃撃が効かないと分かった敵はバズーカ砲を取り出しケネスのエターナルブレイドに向けて発射した。その弾はエターナルブレイドの頭部に命中する。

 すぐ側で起こった爆発に一瞬怯むケネス。しかし、それでもエターナルブレイドは無傷だった。

 「でもこんなの大量に喰らったら・・・!」

 敵のグラディオンはそれでもバズーカ砲を打ち続ける。ケネスはその砲撃を全て喰らってしまう。いくら頑丈に作られているエターナルブレイドでも集中砲火を喰らってはひとたまりもない。その衝撃でバランスを崩し、エターナルブレイドが地上へ向けて落下する。


 アスティは敵の攻撃をかわす時にその姿を確認していた。すかさずインカムを通じてケネスに話しかける。

 『王子!しっかりして下さい!落ち着いて1機ずつ狙っていくのです!エターナルブレイドの破壊力はすさまじい物があります。機動力を生かせば勝機はあります!』

 その声を聞いてケネスは機体の姿勢を整える。地面衝突の寸前だった。

 「敵の動きをよく見て・・・!」

 敵のグラディオンは再びエターナルブレイドに向けてバズーカ砲を発射する。ケネスは巨大な片刃の剣を振りかざし、目の前まで飛んできたバズーカ砲の弾を切り裂く。ケネスの目の前で爆発する砲弾。敵のグラディオンからは爆炎でエターナルブレイドの姿は消えていた。おそらくこれであの巨大なグラディオンが撃墜できたと考えていたと思うだろう。

 だが、爆炎の中から現れる大きな機影。猛スピードで敵グラディオンに向かって飛来してくる。エターナルブレイドだった。急接近したエターナルブレイドは巨大な片刃の剣を振りかざし、一気に3機のグラディオンの機体を横に真っ二つに切り裂く。

 敵のグラディオンは残り4機。


 「くっ、このままこいつらを相手にしてられるか!直接コントロール施設へ向かい施設を破壊しろ!」

 エレマの声に応じて残りのグラディオンはアスティとケネスの2機を無視して猛スピードでコントロール施設へ向かっていく。

 「いけない!」

 アスティもその行動に気がつき、機体を反転させてビームライフルを発射させようとする。しかし、背後から強力な衝撃が伝わる。エレマの搭乗する青いグラディオンだった。エレマはアスティの機体の背後にブースターを最大限にふかしてキックを入れてきたのだ。

 「貴様の相手はこの俺だ!」

 アスティのグラディオンは一瞬バランスを崩すもののすぐに立て直し、青いグラディオンへ振り向く。

 「王子!あのグラディオンをお願いします!」

 「わかりました!」

 インカムから聞こえてくるアスティの声を聞いたケネスは衛星兵器のコントロール施設へと向かうグラディオンの後を追いかける。相手がブースターをフルにふかしていたとしてもエターナルブレイドの最大速度の方が遙かに上だ。

 エターナルブレイドは3機のグラディオンとの距離を一気に詰め、巨大な片刃の剣を振るう。その一閃で3機のグラディオンは真っ二つに切り裂かれ、爆発した。


 アスティは直ぐさまエレマに向けてビームライフルを発射する。エレマは素早くスラスターを動かし放たれる光を巧みにかわす。それと同時にエレマもビームライフルをアスティに向けて発射する。

 「貴様だけは俺が落とす!」

 「なんてしつこい!」


 そのような攻防が続いているさなか、アスティの耳にインカムを通じてマリアンの声がする。

 『衛星兵器の準備が整いました!』

 「わかりました!」

 アスティは直ぐさま通信を入れる。

 「アスティからバーミリアへ!」

 『こちらバーミリア!』

 聞こえてきたのはオペレータのミリアの声だった。その向こう側から聞こえる声が騒がしい。しかし、今のアスティにはそのような事を気にしている暇は無い。

 「衛星兵器の準備が整いました!攻撃対象のポイントをデータ端末に転送して下さい!」

 『艦長!衛星兵器の準備が整ったそうです!』

 『よし、ターゲットのポイントを転送しろ!最後に一泡吹かせてやる!』

 聞こえてきたのは艦長ファルボの声だった。そしてさらに別の声が聞こえる。

 『艦長!グラディオン隊全滅!さらに本艦の被弾率が50%を越えました!このままでは危険です!』

 アスティはその声で今バーミリアが置かれている状況を理解した。

 バーミリアは今敵艦隊と戦っている。しかも、状況は圧倒的にこちら側、穏健派が不利な状態だ。バーミリア自体も沈もうとしている。

 「ミリア、ファルボ艦長!大丈夫ですか!?きゃあっ!」

 その瞬間、エレマの放ったビームライフルがアスティに命中する。しかし、その攻撃は間一髪シールドで防ぐことが出来た。しかし、今の一撃でシールドは使い物にならないほどにビームの熱で溶け、使い物にならなくなってしまった。

 『大丈夫か?アスティ!』

 通信から聞こえるファルボの声。

 「シールドがやられましたが大丈夫です!」

 『そうか。すぐにターゲットの座標を転送する。こそにめがけてでかいのをぶちかましてくれ!』

 「了解しました!」

 そう言って通信は切れた。

 「マリアン、データ端末に座標は届いていますでしょうか?そこに向けて発射して下さい!」

 『はい、ターゲットの座標を確認しました。すぐに発射準備に取りかかります。』

 「私もこの戦いに決着をつけます!」


 エレマはビームライフルのエネルギーを使い果たしたのか、ビームライフルを捨て、ビームソードを取り出した。そして、アスティのグラディオンに向かって突進してくる。

 「これで終わりだ!」

 「私はまだここで終わる訳にはいかないんです!」

 アスティはビームソードを構えた青いグラディオンの突撃を紙一重でかわす。そして、青いグラディオンをやり過ごし、すかさず背後からビームライフルをエレマに向けて発射する。ビームはエレマの搭乗する青いグラディオンの右腕に命中した。

 「まだです!」

 完全にエレマの機体をロックした。アスティはビームライフルのトリガーを引く。エレマも機体を反転させ次の一撃を加えようとするが、それより早くアスティのビームライフルから発せられる閃光は青いグラディオンの機体を貫通した。その瞬間、青いグラディオンは空中で爆発した。

 その爆発を眺めるアスティ。敵のグラディオンは全て撃破できた。たった2機で。改めてこの機体の性能の高さを改めて思い知る。パイロットはまだ搭乗して間もない素人パイロットのはずなのに。




 一方、上空では。

 「衛星兵器のターゲットのポイントをデータ端末に転送完了しました!」

 オペレータのミリアが叫ぶ。艦内にはサイレンが鳴り響く。爆発音も艦内から聞こえてくる。

 「総員、退艦の準備をしろ!衛星兵器の発射を見届けてからこの艦を放棄する!脱出用のシャトルに乗れ!」

 「艦長!もうこれ以上持ちません!艦長も退艦して下さい!今すぐに!」

 「まだだ、もうちょっといさせてくれ!」

 「駄目です!まだ私たちには艦長が必要なんです!」

 ブリッジクルー全員でファルボを脱出用シャトルへと無理矢理連れて行く。

 「シャトルの用意は!?」

 ミリアがファルボを引きずりながら叫ぶ。艦内の爆発音もすぐ近くまで来ている。

 「あとはあなたたちだけです!早く乗船を!」

 「了解!」

 ミリアはファルボを脱出用シャトルに乗せた後、直ちにシャトルをバーミリアから脱出させた。その直後、戦艦バーミリアは大爆発を起こす。まさに間一髪だった。あと少し遅れていたらシャトル自体が爆発に飲まれて全員ここで死亡していたかもしれない。

 ミリアはほっと一息つき、シャトルから窓の外を見る。

 「ファルボ艦長!あれ・・・!見て下さい!」

 ファルボも窓の外を見る。

 そこには衛星兵器から照射される緑色の閃光が見えた。それが一つだけでは無い。一つの衛星兵器からいくつもの閃光が、そして、その近くにある衛星兵器からも緑色の閃光が照射されていた。それらが網目のように張り巡らせて照射されている。

 その中にいた強行派の艦隊は逃げ場も無く緑色の閃光が貫く。そして、次々と爆発を起こしていった。戦艦に搭載されたグラディオン達も同様だ。逃げ場の失ったグラディオンも緑色の閃光が照射され、次々と爆発を起こしていった。




 そして、その様子は地上からでも確認出来た。

 『アスティさん!空を見て下さい!』

 インカムを通じてケネスがアスティに話しかける。

 アスティは空を見上げた。

 緑色の閃光は見えない物の、空には次々と光っては消える景色が見えた。

 「・・・衛星兵器がうまく機能したようですね。」

 それよりも心配なのはファルボやミリア達、バーミリアのみんなの安否である。アスティは先ほどからバーミリアへ通信接続を試みているがいっこうにつながる気配は無い。

 (お願いです、みんな無事でいてください・・・ファルボ艦長、ミリア・・・。)

 『・・・ティさん!アスティさん!聞こえますか?』

 その声に我に返るアスティ。ケネスの声がインカムを通じて聞こえた。

 「あ、す、すいません、王子。」

 『とりあえずマリアンと合流しましょう。先にコントロール施設へ向かいますね。』

 「分かりました。私もすぐにそちらに向かいます。」

 アスティはグラディオンを飛行形態へ変形し、ブースターをふかせて最大出力で衛星兵器のコントロール施設へと向かった。


 施設の前ではマリアンが待っていた。その側にはケネスが搭乗するエターナルブレイドの機体も見える。アスティはグラディオンを飛行形態から人型に変形してその近くに着陸する。

 そして、グラディオンのコックピットのハッチを開き、外に出ようとしたところ、グラディオンに搭載された通信機から雑音が聞こえた。

 「アスティさん、どうしました?」

 「ちょっと・・・待って下さい!」

 アスティはその雑音を注意深く耳を傾ける。誰かが誰かを呼びかけているようだ。そしてその声は次第に鮮明になっていく。

 『・・・ティ、アスティ・・・してください・・・。』

 その声は聞き覚えのある声だった。

 「ミリア!その声はミリアですね!バーミリアは、みんなは無事ですか!?」

 『アスティ!よかった・・・やっとつながって・・・残念だけどバーミリアは沈んでしまったわ。生き残った人達は脱出用のシャトルでクレストルニアに向かっているわ。正確な着陸ポイントは出せるかしら。』

 『よう!ちょっと遅れたが良くやってくれた。』

 ミリアの声の後に聞こえたのは戦艦バーミリアの艦長ファルボの声だった。

 『これから着陸ポイントの座標を伝える。すまないが回収しに来てくれないか?こちらには食料も水もある。・・・わずかだけどな。』

 「わかりました。」

 そして彼女はケネス達に向かって叫ぶ。

 「みなさん、私たちの仲間がクレストルニアに向けて着陸しようとしています。一旦みんなと合流しましょう。」

 ケネスとマリアンはうなずき、3人はミリアから指定されたミリア達の着陸ポイントへと向かった。


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