第3話 レッドタスク族の集落 (後編)
やがて広場は、再び夕食の騒がしさを取り戻した。雑役たちは木の盆を運び始める。ブラッドマウの死体も、森に潜む怪物の話も、そのまま食事の話題へ加えられた。
ルークは働き手たちの間へ座り、自分が持ち帰った鹿の生肝を一切れ受け取った。口へ入れる。
食感そのものは悪くない。いつか香草を添えて、表面だけでも焼いて食べたいものだ。
だが今ここで、自分の分だけ火を通せと言い出すわけにはいかない。断るのも同じだ。どちらも余計な注目を集める。
ルークは黙って生肝を食べた。
焚き火が低くなるころには、集落の半分が西の森には恐ろしい怪物が潜んでいると信じていた。残りの半分は、もう興味を失っていた。
ルークにとっては、そのどちらでも構わない。自分が殴り殺したと思われなければ、それでいい。
ブラッドマウの解体が終わると、ルークは自分の取り分を受け取った。
傷のない骨板が四枚。ひびの入ったものが二枚。
すべてを片腕で抱え、寝床へ向かう。
集落を横切る道は、木柵の内側に沿って続いていた。
その途中。一人の老オークが、柵の丸太へ背を預けて座っている。
片腕がない。歯もほとんど残っていなかった。
残された手は、ひび割れた木の棍棒の上に置かれている。だが、その棍棒が持ち上げられるところを、ルークは一度も見たことがない。
レッドタスク族は強さを重んじる。同時に、一族のために強さを失った戦士には、最低限の敬意を払った。
だからこそ、この老オークは今も集落の中で生きていられる。
ほかの一族なら、追放されていたかもしれない。森へ置き去りにされ、そのまま死ぬのを待たされていたかもしれない。
レッドタスク族は、老オークにも食事を与えている。
だが、敬意はそこまでだった。
話しかける者はいない。何かを頼む者もいない。
ルークは記憶のある限り、毎日のようにここで老オークを見ている。
それでも。
名前すら知らなかった。
ルークは足を止めず、その前を通り過ぎた。
さらに進むと、解体場の裏にある骨捨て穴が見えてくる。二人の雑役が、穴の中へ溜まった腐肉や汚れを掻き出していた。
臭いのひどい仕事だ。だが、誰かがやらなければならない。
二人は、ルークが通っても顔を上げなかった。ほかの働き手たちも、まるでそこに誰もいないかのように横を通り過ぎていく。
働ける年齢になった幼子は、まず雑役に回される。ルークも同じだった。
最初に命じられた仕事の一つが、この骨捨て穴の掃除だった。
雑役は、一族の中でもっとも低い位置にいる。
まだ狩りへ出られない若者。戦うには小さすぎる者。ほかの役目を勝ち取れるほどの力を持たない者。
強い者たちが触れたがらないものを運び、汚れを落とし、糞や腐肉を片づける。そうして雑用を引き受ける。
多くの若いオークは、やがて力を示し、雑役から抜け出していく。
手仕事を覚え、鍛冶や皮なめし、肉の解体を担う働き手になる者。狩人になる者。
生まれつき並外れた力を持つ者や、祖霊の加護へ目覚めた者は、すぐに戦士として選ばれることもある。
だが、運の悪い者は。
いつまでも雑役のままだった。
殴られるわけではない。笑われるわけでもない。
ただ、見られない。
雑役より一つ上にいるのが、ルークのような働き手だ。
狩りや採集へ出られるだけの力がある。集落の作業も任される。だが、戦士として扱われるほどではない。
少なくとも、今のルークはそこに置かれていた。
働き手同士なら、すれ違えば頷く。同じ火を囲んで食べることもある。
敬われてはいない。
それでも、存在は認識されている。
骨捨て穴の先には、働き手たちの寝床が集まっていた。毛皮を張った天幕が、決まりもなく並んでいる。
いくつかの天幕は共同の焚き火を囲み、狩りから戻った者たちが肉を食べながら言い争っていた。通り過ぎるルークへ、何人かが軽く頷いた。
その中に、トクがいた。
肩幅の広い、見張り役の戦士だ。
共同の火のそばに座っていたトクは、ルークの顔ではなく、その腕に抱えられた骨板を見た。片方の眉が、わずかに上がる。
ルークは何も言わなかった。トクも声をかけてこない。
視線だけを背中に感じながら、ルークは歩き続けた。
育児穴は、集落の中央近くにある。名前の通り、地面を浅く掘った窪地だ。
底には何枚もの毛皮が敷かれ、周囲を低い丸太の柵が囲んでいた。歩けるようになったばかりの幼子が、焚き火や作業場へ入り込まないためのものだ。
その中には、何人もの小さなオークがいた。
まだ這うことしかできない者。互いに噛みつき合っている者。毛皮の上で重なるように眠っている者。
三人の女オークが、その間を動き回っていた。
一人は赤子へ乳を与えながら、別の女と言い争っている。
次の襲撃へ参加するべきか。それとも集落に残り、幼子たちへ乳を与えるべきか。
声を抑えるつもりはないらしく、周囲の幼子が何人か目を覚ましていた。
やがて赤子が乳首から口を離す。乳を与えていた女は、言い争いを止めることなく、その赤子を三人目の女へ渡した。
受け取った女も、特別な反応は見せない。赤子を片腕へ抱える。膝の上で眠っていた幼子を横へずらす。
それから年長の幼子たちへ、骨を割って髄を取り出す方法を教える作業へ戻った。
誰も、どの子が誰のものかを気にしていない。
先ほどまで一人の女から乳を飲んでいた赤子は、今では別の女の腕で揺られている。
一人の女の腕を引いていた幼子は、返事がなければ隣の女へ移った。そちらから干し肉を一切れ受け取ると、それで満足して走り去る。
クラグも、この育児穴で育った。集落にいるすべてのオークがそうだ。
自分を産んだ女が誰なのか知っている者もいる。知らない者のほうが多い。
どちらでも変わらない。
たとえ女のほうが覚えていても、その幼子だけを自分のものとして扱うことはなかった。
母親が何の種族かも、重要ではない。
オークの女から生まれようと。人間の女から生まれようと。エルフの女から生まれようと。
完全なオークとして生まれた幼子は、一族のものになる。
混血の幼子だけは別だった。
レッドタスク族は、混血を育てない。だが、殺しもしない。
旅をするオークの集団が集落へ立ち寄るまで、食事だけは与える。そして、欲しがる者へ渡す。
半オークを好んで受け入れる一族も存在した。
レッドタスク族は違う。
彼らをレッドタスクとは認めない。
それだけだった。
育児穴の隣には、捕虜檻がある。
太い木を組んだ檻。床は踏み固められた泥。雨が降れば、上から毛皮を引いて覆うことができる。
近くには二人の見張りが座り、武器を研いでいた。中にいる者には、まるで興味を示していない。
木の格子の向こう。
一人の人間の女が、柱へ背を預けて座っていた。
破れた服の下で、腹が大きく膨らんでいる。両手は、その腹の上へ力なく置かれていた。
指を広げている。
まるで、その中にあるものが自分とは無関係であるかのように。
ルークが前を通っても、女は顔を上げなかった。
目は開いている。だが、何も見ていない。
見張りも。集落も。自分の手すらも。
呼吸だけをしていた。
それ以外には、何もしない。
かつて人間として生きていた男なら。育児穴を冷酷だと感じただろう。捕虜檻を、おぞましいものだと思っただろう。
今のルークには、どちらも見慣れた光景だった。自分も、この集落で育てられた。
これは人間のやり方ではない。
だが。
ルークも、もう人間ではなかった。
足を止めずに通り過ぎる。
ルークの寝床は、木柵の内側へ寄りかかるように作られていた。毛皮と細い木を組んだ、小さな片流れの小屋だ。
ほかの働き手三人と共有しているが、今は誰もいない。まだ仕事をしているか。どこかの焚き火で寝ているのだろう。
ルークは入口の毛皮をめくり、中へ屈んで入った。
奥にある緩んだ石を持ち上げる。その下へ、ブラッドマウの骨板を一枚ずつ滑り込ませた。
いつか役に立つ。
鎧にできるかもしれない。何かと交換できるかもしれない。あるいは、まだ思いついていない使い道があるかもしれない。
今は隠しておく。
それでいい。
ルークは毛皮の上へ仰向けになった。低い天井を見つめる。
外の焚き火は、もう赤い炭だけになっていた。言い争う声も減っている。
育児穴のほうから、赤子の泣き声が聞こえた。女の誰かが世話をするだろう。
いつもそうしている。
ルークは目を閉じた。
◇◆◇◆◇◆
集落の反対側。
族長の大屋の近くで、モルグは自分の寝床の前に座っていた。焚き火の光を受けながら、ゆっくりと小刀を研いでいる。
砥石を滑る刃が、一定の音を繰り返した。
だが、モルグの目は刃へ向いていなかった。
木柵のそばにある、ルークの小屋を見ている。
長い間。
ただ黙って、見つめ続けた。
やがてモルグは視線を落とした。再び小刀へ砥石を当てる。
何も言わなかった。




