それは既に繋がっている
第9話をお読みいただきありがとうございます。
激しい戦いを越えた先で、ユウミが触れる“静かな時間”を描いています。
ほんの少しだけ、肩の力を抜いて読んでいただけたら嬉しいです。
静寂の月。
森には何の音もしない。
優しい光が、二人のもとを静かに照らしている。
ユウミと白い虎は岩の上に座り、その柔らかな光を見つめていた。
「こうして岩の上に座っていることが、嘘みたいだ」
夜空を見上げながら、ユウミは呟いた。
「うむ。思えば、こんなにもゆっくりと月を見るのは久方ぶりだ」
魔物との戦いでは鬼のような形相をしていた白い虎も、今は穏やかな瞳をしている。
「助けてくれてありがとう」
ユウミは夜空を見上げながら、白い虎へ感謝を伝えた。
「……我は九頭龍神の遣い。役割を果たしていただけだ」
「そっか」
二人の間に沈黙が流れる。
「……小僧。お前はあの時、ただ助けたかったと言ったが、あれはどういう意味だ」
沈黙を破るように、しかし月光のように静かに言葉が落ちる。
「ボロボロの身体を引きずっても、大事なものを守ろうとする君が、格好良く見えたんだ」
ユウミは少し笑って続ける。
「あとさ、翼が生えた白い虎が目の前で傷ついてて、自分なら助けられるとしたら、普通助けるでしょ」
「答えになっておらぬわ。……まぁ良い。我も小僧に助けられた。礼を言う」
「こんなに綺麗な虎を見れたんだから、助けて良かったって思うよ」
「小僧。先程から我のことを虎と言っているが、無礼千万だ」
「え?虎でしょ?翼が生えた」
「違う!我は聖獣ティガロン。虎のような下等な魔物と一緒にするな」
「ティガロンって固有名詞?種族名みたいなものか。ドラゴンみたいな?」
「戯けたことを申すな!我はこの世界の頂点に立つ存在。ドラゴンなど比較にならぬわ!」
「そうなんだ。ごめんごめん」
(ドラゴンって凄く強いイメージだけどな……)
「して小僧。お前はこの世界のものではないな」
「……わかるの?」
「うむ。魂の根源が我と同じだからのぉ」
「魂の根源?」
「魂は神の御魂の欠片を与えられ、人なら人の、ティガロンならティガロンの元となる魂が混ざり合い形となっている」
「その御魂の欠片が俺と君のが同じってこと?」
「うむ。九頭龍神様の御魂を分け与えられておる。魂は共鳴する」
「出会ったあの時の、“お前は龍に選ばれている”は、そういうことだったのか」
「いや、共鳴したことで魂がわかったと言っただけだ。龍に選ばれているというのは、お前が洞窟に入ってきたからだ」
「なんで洞窟に入っただけで、そうなるの?」
「あの洞窟には結界が張られている。運良く見つけられたとしても中に入ることは……普通はできぬのだ」
ユウミは、あの時感じた“呼ばれた感覚”を思い出す。
「でも、一つ気になってたんだけど」
「悪魔のことであろう」
「うん。入って来れたことと、あんなのにやられたこと」
「ふん!あんなのにやられたのには理由がある。それは悪魔族の中に魔眼を持つものが現れたことに起因する」
ドクンッ。
(……魔眼?俺の龍眼と何か関係があるのか……)
「魔眼は万物を見通す。言わば千里眼なのだ。洞窟の結界を破った方法は見ておらんのでわからぬが、奴らは我に毒を盛って対抗してきたのだ」
「ちょっと待ってよ。結界突破と毒も魔眼が関係してくるの?」
「左様。魔眼は求める全ての答えを見つけ出す。それで結界を破る方法を見つけ、我をも殺せる毒を作り出したのだ」
「百歩譲ってその魔眼が関係してるとして、なんで君がそれを知ってるの?」
「悪魔どもがそう言っておったのよ」
(なるほど。なら間違いないか。でも、話からすると魔眼は最近現れた……まるで俺の転生に合わせたように……)
白い虎は考え込むユウミを見て、刀へと視線を移す。
「して小僧。身体は大丈夫なのか?オロチの災厄に触れたのであろう」
ドクンッ。
その言葉に、八岐の大蛇の成れの果てが脳裏をよぎる。
「……断片的に、だけどね。でも身体の方は大丈夫だよ。ちょっと重い感じはあるけど」
「そうか。あれだけの魔物の軍勢と相見えたのだ。それだけで済んだのは幸運というものだ」
「君も無事で良かった」
――背後。
広大な草原を埋め尽くす魔物の死体。
千や二千では到底追いつかない数。
月の光が、それらを静かに照らしていた。
「刀、この不知夜をどう思う?」
「……災厄の気配はない。封印が効いているのだろう」
「不知夜と話したことある?」
「刀と、か?」
「うん」
「いや、ないな。小僧は話したのか?」
「うん。力を貸すって言われたよ」
「それはオロチの……」
「俺も最初はそう思った。でも違うと思う。何の気配もなかった」
「……ふむ。何にしても気をつけることだ。その刀、不知夜には化け物が宿っている」
淡い水色の瞳とコバルトブルーの瞳が交差する。
「……あのさ」
「ん?」
「君は、これからどうするの?」
「ふむ。刀を守り抜く使命は終わった。これからは――」
言葉を探すように、月へ視線を向ける。
「我の好きなようにするだけよ。何せ八百年もの間、この森から離れることはなかったからのぉ」
その言葉に、ユウミの表情がわずかに曇る。
だが、迷いを振り払うように顔を上げる。
「……良かったらさ」
少しだけ照れながら、それでも真っ直ぐに。
「俺の初めての友達になってよ」
「……友達……」
白い虎は、その言葉を噛みしめるように繰り返す。
沈黙。
白い虎はユウミを見つめる。
「刀の主が現れた時、我の役割は終わった」
ユウミは少し寂しそうに笑う。
「そっか」
「だがな」
ユウミは顔を上げる。
「これからの我の役割は、不知夜の所有者であるお前を助けること。九頭龍神様から託されておる」
そして。
「だが、それだけではない」
一拍。
「我は――お前を気に入った」
静かに告げる。
「なってやろう。友達とやらに」
ユウミの表情が明るくなる。
「ありがとう。嬉しいよ」
「ふん。さて、もう小僧とは呼べぬな。ユウミと言ったか?」
「うん」
「ではユウミ。我には名がない。故にユウミが我に名を付けよ」
「名前!?」
「我は聖獣ティガロン。この世界の頂点に君臨する存在である。心してつけよ」
「いや、急すぎるって!」
「早く決めよ」
「ちょっと待ってよ……!」
「早くせぬか!」
ユウミはしばらく悩み、そして顔を上げた。
「……よし、決めた」
夜空を背に。
まっすぐに。
「君の名前は――」
第9話を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回はこれまでとは少し違い、穏やかな時間の中でのやり取りを中心に描きました。
戦いの中では見えなかった関係性や感情が、少しでも伝わっていたら嬉しいです。
そして――次回はいよいよ、“名前”に触れていきます。
引き続き応援いただけると励みになります。
ブックマークや評価もとても力になっています。
今後ともよろしくお願いいたします。




