それは既に語りかけている
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
第8話では、これまでの戦いを経た後の“静けさ”と、その裏に潜む変化を描いています。
手にした力、背負うもの、そしてこれから向き合う現実――ユウミの内面にも、少しずつ影が差し始めます。
穏やかな時間の中で、確かに動き出しているもの。その気配を、感じていただけたら嬉しいです。
それでは、第8話をお楽しみください。
白い毛並みの温もりに包まれながら、ユウミはゆっくりと目を覚ました。
「……気がついたか、小僧」
穏やかな声だった。かつての棘のある響きはなく、そこには一目置くような落ち着きがある。
「……ここは……」
白い虎の背に身を預けたまま、ユウミは上体を起こした。
「翼も、お前の傷も――龍神が癒したようだ」
その言葉に、ユウミは自分の身体を確かめる。確かに、あれほどの傷が嘘のように消えていた。
「それと、災厄だが……一時的に刀へ封じられている」
「一時的に、ってことは……」
「完全ではない。いずれまた、牙を剥く」
短く告げる白い虎の言葉に、ユウミは静かに息を吐いた。
視線を前へ向ける。
そこには――地面深く突き刺さったままの刀があった。
ゆっくりと歩み寄る。わずかに躊躇いながらも、ユウミは柄へと手を伸ばした。
――抜ける。
手応えもなく、あっさりと刀は引き抜かれた。
「……何も、起きない?」
安堵と同時に、不安が残る。
「問題はないか」
背後から、白い虎の声。
「ああ……たぶん」
だが、確信はない。
――その時だった。
地鳴りのような音が、大地を震わせる。
「来るぞ」
魔物の群れが、再びこちらへ向かって進軍してきていた。
「……悩んでる暇はない、か」
刀を握り直し、ユウミは走り出す。白い虎もまた、並走するように駆けた。
迫るハイオークの大振り。横薙ぎに振るわれた一撃を、ユウミは軽やかに躱す。
そして、そのまま――
逆袈裟に、斬る。
「……っ」
違和感。
手応えが、ない。
斬った、というより――ただ、通過した。
だが、確かに敵は両断されていた。
「……なんだ、これ」
そのまま、二体、三体、四体。
止まらない。
身体が、軽い。動きが、見える。全てが、遅く感じる。
――そして、この斬れ味。
「いける……!」
心が高揚する。
「このまま、一気に……!」
斬ってやる。
全てを。
皆殺しにしてやる――
「……え?」
一瞬の静寂。
自分の思考に、僅かな違和感が走る。
次の瞬間――
「ゔっ……!」
心臓を、鷲掴みにされたような圧迫感。
呼吸ができない。
――余を出せ。
「……っ!」
どす黒い感情が、内側から溢れ出す。
――その身体を、差し出せ。
魔物が迫る。だが、身体は止まらない。
刀は振るわれ続ける。
視界が、赤黒く染まる。
「殺してやる……」
気づけば、その言葉は――自分の口から漏れていた。
「目に見えるもの、すべて……!」
グォォォオオオオ!!!
その時――
遠くから、咆哮が響いた。
「――――!」
一瞬で、何かが断ち切られる。
「チッ……」
舌打ちのような気配と共に、重圧が消えた。
呼吸が戻る。
視界が、元に戻る。
「はっ……はぁ……」
「小僧、大丈夫か」
白い虎の声に、ユウミは荒い呼吸のまま頷いた。
「……危なかった」
また、乗っ取られるところだった。
「やっぱり、この刀は……」
――使え。
「……っ?」
静かな声。
先ほどのものとは違う。
――刀を使え。
「……災厄の気配は、ない……」
「誰だ、お前」
――災厄は龍神により封じられている。これ以上、お前に手出しはできぬ。
「……なら、お前は……!」
――我は、お前が今手にしているものだ。
「刀……?」
――安心しろ。
――我は、お前の味方だ。
ユウミは眉をひそめる。
気配は、ない。だが確かに、その声は刀から響いている。
――力を貸そう。
嫌な感じは、しない。
だが――信じきるには、何かが足りない。
「……どうする」
その間にも、魔物は迫る。
素手でいなすしかない状況。
――龍神より、お前を託された。
その一言で、迷いがわずかに晴れる。
「……っ」
ユウミは、刀を振るった。
一閃。
それだけで――周囲の魔物ごと、斬り裂かれる。
「……これは……」
――これは、お前の力だ。
ドグンッ――
鼓動が、大きく脈打つ。
六体。
十三体。
三十八体。
斬るたびに、数が増えていく。
「……これが、俺の力……」
――小僧、やるではないか。
白い虎の声が重なる。
「敵はもう僅かだ。一気に攻めるぞ!」
「ああ……任せて」
その声には、確かな自信が宿っていた。
二人は疾風怒濤の勢いで、残る魔物を蹂躙していく。
やがて――
最後の一体が、崩れ落ちた。
静寂。
長い戦いが、終わった。
「……終わった、か」
気づけば、刀からの声は消えていた。
「……?」
ガクン、と膝が揺れる。
「小僧、どうした」
「……いや、ちょっと疲れただけだよ」
そう答えながら、ユウミは手にした刀を見つめる。
(……この刀があれば)
(負けることはない)
「俺は――強い」
ドグンッ――
心臓が、深く、重く、鳴り響く。
それはまるで――
自分のものではない何かが、内側で脈打っているかのようだった。
第8話を読んでいただき、ありがとうございました。
これまでの激しい戦いとは少し違い、今回は“静”の中にある変化を描きました。
ユウミが手にしたものは、力だけではありません。それと同時に、見えない何かも背負い始めています。
そして、物語はここからさらに動き出していきます。新たな出会い、そして避けられない流れ――。
少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、とても嬉しいです。
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次回もよろしくお願いします。




