それは既に心の内にある
いつもお読みいただきありがとうございます。
第7話「それは既に心の中にある」をお届けします。
これまでの戦いの中で、ユウミが抱えてきたもの。
そして、彼の内側で確かに“何か”が変わり始めています。
力とは何か。
守るとは何か。
その答えは、すでに彼の中にあったのかもしれません。
少し静かで、けれど大切な一話です。
ぜひ最後までお楽しみください。
暗がりの夕焼けが、現実との境を消していた。
赤く染まる大地。
それは光の散乱のせいなのか、それとも死を匂わせる流血のせいか。
意識が闇から戻ってくる。
――戦いは、まだ終わっていない。
『……地獄の闇を落としてやる』
歪んだ笑みで、ユウミが呟く。
『……それには血が足りぬ』
魔物の返り血が混ざり合い、ユウミの体は赤紫に染まっている。
『……怨み……憎しみ……怒り……喰らわせろ』
でたらめな構え。
意志を持つかのように動く刀。
その刀身からは、粘りつくような血が絶え間なく滴り落ちていた。
魔物の軍勢はその姿に怯え、初めて進軍の速度を緩める。
『……お前達に逃げ場などない……あるのは闇の底だ……あはははははは』
白き虎は、災厄の気配を垂れ流すユウミを見据えていた。
そして静かに目を閉じ、
次の瞬間、力強く見開く。
『覚悟は……とうにできている!』
白き虎は走り出す。
遠い昔――龍の神と交わした会話が蘇る。
「主ある時は、その者をどうか助けておくれ」
(その言葉に頭を下げた光景は、800年以上経った今でも鮮明に思い出せる)
『あの時は、主として我がその者に仕える。そう思っていたが――』
白い光の珠が身体から溢れ出す。
次第に身体そのものも白く輝き始めた。
『神の御魂の欠片……我の命を差し出そう』
歪んだ笑みが、白き虎へ向けられる。
――ガバッ!!!
聖なる光が一気に放出される。
後ろ脚で地面を蹴り、両前脚を振り上げ、ボロボロの翼を目一杯広げて、白き虎は災厄へ襲いかかろうとした。
(――待ちなさい)
心の奥から、言葉が響いた。
それと同時に、ユウミの身体からも白い光が発せられる。
まるで白き虎の光に呼応するかのように。
『ぐぅぅ……目障りな……その光を向けるなぁぁぁ!!!』
虎はなおも聖なる光を放ち続け、威嚇を止めない。
『……ぐ……ぁ……ぅ……この……身体は……渡さぬ……終わらぬ……!!』
災厄の気配が、刀へと吸い込まれていく。
やがて、その気配が完全に刀へと移った瞬間――
ユウミの手から刀が離れた。
ザクッ!!!
刀は地面に突き刺さり、刀身は完全に地中へ沈む。
鍔から下だけが、地上に残されていた。
『ユウミに記憶を見せていただけじゃ。
貴様まで表に出るでない――愚か者めが』
ユウミの口から発せられたのは、ユウミでも災厄でもない、神聖で、どこか懐かしさすら感じる声だった。
おそらく、この声を知る者など、この世界には存在しないだろう。
――神を除いては。
『……なんと……お久しゅうございます……九頭龍神様……』
白き虎は、深く頭を垂れる。
『ティガロンよ。よくぞ私の願いを全うしてくれましたね。感謝します』
『……も……勿体なきお言葉』
『たくさん……ケガをさせてしまいました。ごめんね』
『……滅相もない……』
『その刀は浄化せねばなりません。それはユウミに託しました。ユウミをお願い』
九頭龍神はそっと、左手を翼に、右手を額に触れた。
すると、ボロボロだった翼が美しく再生し、身体の傷も綺麗に癒えていく。
『……これは……』
『頼みましたよ。ティガロン』
その一言を最後に、ユウミの身体はガクンと崩れ落ちた。
白き虎は、倒れるユウミの身体の下へ素早く潜り込み、支える。
ユウミは、ゆっくりと目を覚ました。
『……あれ……モフモフして気持ちいい……』
『やっと戻ったか、小僧』
だが、その安堵は長くは続かなかった。
生き残った魔物たちは、災厄の気配が消えたことで、再び士気を取り戻しつつあった。
数多くの謎。
災厄が封印された刀。
そして、目の前に迫る魔物。
――立ち止まることはできない。
第7話をお読みいただき、ありがとうございました。
ここまで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
少しずつではありますが、ユウミの内面や変化を丁寧に描いていけたらと思っています。
戦いの激しさだけでなく、
“心の在り方”にも焦点を当てていくことで、この物語に深みを出していきたいです。
もし少しでも「続きが気になる」と感じていただけたら、
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次回もぜひ、お付き合いください。




