それは既に呼ばれている
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
第10話「それは既に呼ばれている」。
静かな時間の中で、ユウミの内側にある“何か”が、少しずつ形を持ち始めます。
そして――新たな出会いが、物語に大きな意味をもたらしていきます。
わずかな違和感と、確かに存在する変化。
その先にあるものを、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。
『どうしたのだユウミよ。』
『なんかさ、朝起きたら、身体が重くて、痛くて、立てないんだよ。』
首から上だけは動かせるようで、身体は仰向けのまま、顔だけを横にして話すユウミ。
『なんでそんなことになっておるのだ。』
『ん〜、多分筋肉痛だと思う。』
『キンニク2とはなんだ?』
『あ、いや、簡単に言うと、強くなる前の準備段階みたいなもんかな。』
『まったく人間は面倒なことだ。』
『治るまでここで休んでて良いかな?』
『それはいつ治るのだ?』
『多分、明日には治ると…』
『そんな悠長なことはしていられんな。』
『え!あ!ちょっと!』
カプッ!
ヒョイッ!
ユウミは首元を咥えられ、白い虎の背中の上へ投げ飛ばされた。
大きい背中はまるで白い毛でできた布団のようだ。
『あ〜、このモフモフ最高。』
『治るまで我の背中にいろユウミ。』
『ああ、ありがとう。』
対の翼でユウミを挟み込み、落ちないようにしてくれている。
『そう言えばさ』
『なんだ?』
『名前気に入った?』
『ふ、ふん!そんなもの……まぁまぁよ。』
『やっぱり気に入ってるね』
『まぁまぁだ!』
昨晩の月明かりの下。
「ではユウミ。我には名がない。故にユウミが我に名を付けよ」
「名前!?」
「我は聖獣ティガロン。この世界の頂点に君臨する存在である。心してつけよ」
「いや、急すぎるって!」
「早く決めよ」
「ちょっと待ってよ……!」
「早くせぬか!」
(んんん……白い虎……翼があって……ティガロン………ん~………)
『まだか!?』
『もうちょっと!』
(えーっと……ホワイトタイガー………タイガー……白虎………強い………目立つ………偉そう……ん~……)
ユウミは空に顔を上げる。
(ん〜………。あれ?あの星ってオリオン座?へぇ〜、異世界にもオリオン座ってあるんだ。)
ユウミは瞳を大きくした。
『おい!まだ……』
『決まったよ。』
『おお。ようやくか!して、我の名は?』
『君の名前は――
オリオン。』
『オリオン………か。』
『前の世界では、とても強い戦士の星座のことなんだ。それに――』
ユウミは静かに白い虎の瞳を見る。
『人々にとってその星座は、夜の目印だったんだ。だから、この世界では俺の行く道の目印になって欲しい。』
白い虎は、瞳を大きく開けて、ユウミの瞳を受け入れる。
『グォォォオオオオ!!!』
夜を、闇を引き裂くような、力強い聖なる咆哮が轟く。
『良い。良い名だ。我はオリオン!お前を導く友となろう!』
『ははは。よろしく頼むよ。オリオン。』
モフモフとした背中の上で、名前を気に入っている様子のオリオンを見て、ユウミは満足気な表情を浮かべていた。
『オリオン。』
『なんだユウミよ。』
『何でもないよ。』
ニコニコとした顔で悪戯にオリオンの名を呼ぶユウミ。
しかし、名前を呼ばれるオリオンも満更ではない様子。
『オリオン。』
『だからなんだと申すに
。』
『今どこに向かってるの?』
『玉藻山の魔物どものところへ行く。』
『魔物?まさか戦いに行くの?』
『そうではない。ちと知り合いに挨拶してから、旅立ちたいと思おての。』
『へぇ、知り合いか。でも、オリオンて800年この山から出てないんでしょ?なのに別の場所に知り合いがいるの?』
『うむ。1000年以上前にな。』
『1000年前!?』
『左様。哀れな女狐を救ってやったことがあってな。』
ドクンッ!
(あれ?……今、注連縄を巻いた大きな岩が見えたような。)
『其奴の顔を見てから、旅立とうと思うておるのだ。』
(これって……あの時の感覚に似てるような……)
ドクンッ!
(大きな……狐……怒りながら……泣いてる……)
『おい。』
(家……いや、屋敷?……燃えて……)
『おいユウミよ!』
ビクッ!
『……呼んだ…!?』
『我の話を聞いておるのか?まったく。何を呆けておるのだ。』
『ごめんごめん。で、なんだっけ?』
『玉藻山の主は、心を病んでおるのだ。恐らくまだ、我と子供以外とは話ができぬだろうから、ユウミは我の背中にいれば良い。』
『ああ…わかったよ。でも、なんで心を病んでるの?オリオンと子供は話せるっていうのは、どういこと?』
『詳しくは我もわからぬ。だか、どうやら実の子を亡くしてしまったようなのだ。』
『子供は話せるってことは、子供は複数いて、その中の1人を亡くしてしまったってこと?』
『まぁ…そんなところだ。行けばわかる。』
『そうなの?ちなみにその山はここから近いの?』
『1日も歩けば着く。』
ドクンッ……ドクンッ……
謎の胸のざわめきが止まないことが気にかかる。
(でも大丈夫だ。俺はもう一人じゃない。何が起きても、そう。大丈夫だから。)
自分に言い聞かせるようにここの中で静かに呟くユウミ。
オリオンの上に仰向けとなって見えるのは、雲一つない晴天。
オリオンは一歩一歩、玉藻山へと進んでいく。
――シャリン
――シャリン
鈴の音が聞こえる。
『ここは……』
オギャー!オギャー!
『…出産?…女性?』
奇妙な光景だった。
朱色の立派な屋敷の一角で、1人の男の子が生まれていた。横には荒い息づかいだが、幸せそうに赤子を見つめる女が床に伏している。
しかし、その女には獣を思わせる耳が頭に付いていた。
――シャリン
場面が変わる。
冷たさと不穏が混ざり合う空気が流れている。
太刀を持った男達が女を囲って怒鳴り声を上げている。
しかし、その女にはその男達のことなど見えていない。
血の気が引いた鋭い瞳はただ一点のみを見つめ、女もまた半狂乱となって何事かを叫んでいる。
1人の男の足元には、先ほど生まれた赤子がおり、手には、抜刀された太刀が握られていた。
やがて男は、その赤子に太刀を突き立てた。
床には血が流れ、赤子はもう泣いてはいなかった。
それを見ていた女の瞳から光が消えた。
――シャリン
場面が変わる
怒り狂った巨大な狐が絶え間なく涙を流しながら男達を、侍達を蹂躙している。
しかし、一本の光る刀が、狐の胸に刺さった。
狐は倒れ、藻掻き、その隙に侍達は、とどめを刺そうと我先に太刀を振り上げて走り出す。
太刀の刃が狐に届く前に、おびただしい光が狐を包み込み、そこにいる者は目を開けていられなかった。
次に狐を視認した時には、狐の姿はなく、代わりに大岩が一つ転がっていた。
――シャリン
――シャリン
ユウミは目を覚ました。
辺りの景色は既に夕日に染まっていた。
『ここは……』
『ユウミよ。ここが玉藻山の主の住処よ。』
オリオンの言葉で顔を前に向ける。
立派な屋敷の門。
その向こうには、1人の女性がこちらを見つめて立っていた。
ドクンッ!
『っ!?』
ユウミはその顔を見てハッとする。
(さっきの女性だ。)
オリオンは何やらその女性に声をかけながら門をくぐる。
オリオンの背が心地良く揺れながら、女性が近付いて来る。
ドクンッ!ドクンッ!
鼓動が激しくなる。
オリオンに向けられていた視線は、ゆっくりとユウミの方へと移る。
目が合った。
ぼーっとした目がカッと見開かれ、その目から涙が溢れ出す。
『わ……私の……私の坊や!!!』
女性は強い力でユウミにしがみついた。
しかし、そのしがみつく手には、日の光のような温かさが感じられたのだった。
第10話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回はユウミの内面の変化と、新たな存在との出会いが描かれる回となりました。これまで積み重ねてきたものが、少しずつ“繋がり始めている”のを感じていただけたら嬉しいです。
ここから先、ユウミの力や在り方はさらに変化していきます。そして物語もまた、大きく動き出していきます。
少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。
引き続き『龍眼の転生者』をよろしくお願いいたします。




