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龍眼の転生者 〜内なる龍が目覚める時〜  作者: 小川 俊


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それは既に溢れ出している

第11話「それは既に溢れ出している」をお届けします。


静かな時間の中で、少しずつ浮かび上がる想い。

言葉にできない感情が、確かにそこにあると気づく瞬間。


そして――

それは、もう止められないところまで来ているのかもしれません。


どうぞ、最後までお楽しみください。

何がそうさせたのか。


卵は孵り、未熟な命は生まれる。


だがその命は、力を求めて、再び殻へと還る。


そして――


次に陽を浴びる時。


その羽は、遠くで眠る嵐を呼び醒ます。




『私の坊や……ごめんね……ごめんね……ずっと……一人にして……ごめんね……』


ドクンッ


(鼓動が……)


ユウミは、自分にしがみつきながら謝り続けるその女性から、目を離せずにいた。


(ああ……そうか……この鼓動は……俺の音か……)


その瞳から、温度が消えていく。


まるで、何かを切り捨てるように。




――玉藻の屋敷内――


『左様でございますか。名持ちとなられたのですね。では、これからはオリオン様とお呼びいたします』


灰色の毛並みをなびかせた狼が、丁寧に頭を下げる。


『しかし悪いのぉ。ただ挨拶に寄っただけだったのだが』


『いえいえ。遠慮なさらず、今夜はごゆるりと身体を休めていってください』


ユウミとオリオンは、灰狼の計らいにより、この屋敷に泊まることとなった。


それは同時に、主である玉藻の様子を案じた判断でもあった。


『して、灰狼よ。玉藻の具合はどうなのだ』


『……はい。先程までは、以前と変わりなく――しかし……』


灰狼は、静かに視線を外へ向ける。




満開の梅の大木。


夜に咲く花弁は淡く光を帯び、


シャボン玉のような粒子が、ゆらゆらと宙を漂っている。


幻想的な“夜梅”の庭。


その長椅子に、ユウミと玉藻は並んで座っていた。




『坊や、母にお顔をよく見せておくれ』


『………』


『どうした?具合でも悪いのかい?』


『………』


『こんなに大きくなって……母はずっと、会いたくて――』


『……もう、やめてくれ』




低く、押し殺した声。




『……坊や……ごめんね……一人ぼっちにさせて……でも、これからは――』


『やめろって言ってるんだ!!』




夜の静寂を裂くように、声が響いた。




オリオンと灰狼が駆け寄る。




『ユウミよ、どうしたのだ?』


『……くっ……』




歪む表情。




『……坊や……ごめんね……母はこれからずっと――』


『……あなたは……』




わずかな沈黙。




『……あなたは、俺の母親じゃない』




ドクンッ




その言葉を受けてもなお。


玉藻は、悲しみを湛えながら、


すべてを受け入れるような眼差しでユウミを見つめていた。




『……止めよ、ユウミ』


『玉藻様。ユウミ様はお疲れなのです。どうか今宵は――』




『オリオン。俺を部屋に連れて行ってくれ』


『う、うむ……相わかった』




ユウミはオリオンの背に身を預け、


白い毛並みに顔を埋める。




『坊や……ごめんね……坊や……ごめんね……母を……許して……』




その声は、いつまでも耳に残り続けた。






ドサッ。




部屋に戻るなり、ユウミはベッドへと倒れ込む。




『……らしくないではないか、ユウミよ』


『別に……普通だよ』


『そうは見えぬな。何を怒っておる?』


『怒ってる?冗談じゃない。俺は怒ってなんかいない』




『……そうか』




静かな声。




『ユウミよ』


『……何』




ぶっきらぼうに返す。




『では、なぜ泣いているのだ』




『……え……?』




頬に触れる。




濡れていた。




(……なんだよ、これ)






しばらくの沈黙。






『……俺には、誰もいなかった』




『血の繋がった家族なんて、最初からいなかった』






小さく、息を吐く。






『だから――』






わずかに言葉が詰まる。






『誰かに「おかえり」って言われることが』


『ずっと、羨ましかったんだ』






視線を落とす。






『育ての親はいた』






『でも――』






『あの人が見ていたのは、俺じゃない』






静かに、しかし確かに。






『“才能”だけだった』






それ以上、言葉は続かなかった。






ただ、






止まっていたものが、






確かに溢れ出していた。

第11話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は大きな戦闘ではなく、心の動きに焦点を当てた回となりました。

ユウミの内側にあるもの、そしてそれを受け止める存在。


静かな中で“溢れ出していくもの”が、今後どう繋がっていくのか。

ここから先の展開も、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。


もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。


これからもよろしくお願いします。

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