それは既に身に付けている
【前書き】
いつもお読みいただきありがとうございます!
第33話
『それは既に身に付けている』
今回は、ユウミとシルザの装備更新回です。
山で戦っていたユウミが、少しずつ冒険者としての姿を手に入れていくお話でもあります。
そして、相変わらず自由過ぎるシルザも大暴れしておりますので、楽しんでいただけたら嬉しいです!
それでは本編をどうぞ!
――翌日
ユウミ、オリオン、そしてシルザの3人は、王国でも指折りの高級武具店『ブランド・オブ・ミスリル』を訪れていた。
昨夜、ユウミとシルザの戦いの後。
2人は近くの服屋へ向かい、閉店後にも関わらず無理を言って店を開けてもらい、適当な服を購入していた。
全裸の男2人が突然押しかけてきたのだから、店主が腰を抜かしそうになるのも当然である。
だが、その内の1人がシルザだと気付いた瞬間、店主の顔色は別の意味で青ざめていた。
その後、翌朝に酒場マキシマムフレア前で待ち合わせる約束を交わし、一旦別れた経緯があった。
『ここが俺行きつけの武具屋だ。値段は手頃だし、モノも悪くねぇ。』
チリンッチリンッ――
シルザは軽く説明しながら扉を開け、中へ入る。
『いらっしゃ――……』
店主は挨拶の途中で言葉を止めた。
『また来てやったぜオヤジ。ちょっと防具を見せてくれや。』
『……ッ』
店主の顔がみるみる青ざめていく。
店内には他にも客がいたが、シルザの姿を見るなり、誰もが一目散に店を飛び出していった。
一瞬にして静まり返る店内。
ユウミは妙な空気を感じながらも、シルザの後について歩き、棚に並ぶ武器や防具へ視線を向ける。
煌びやかな装飾。
磨き抜かれた刀身。
見るからに高級品ばかりだ。
(……手頃?)
ふと目の前にあった美しいハンターナイフを手に取る。
(……金貨200枚!?)
先日、王城で受け取った褒美が金貨200枚。
つまり、目の前のナイフ1本で全財産が吹き飛ぶ計算だった。
『ん?どうしたユーミー。ナイフなんか必要なのか?』
背後から、シルザがぬっと顔を出す。
ユウミは慌てて小声になる。
『ちょっとシルザ……どこが手頃なんだよ。ナイフ1本すら買えないんだけど……』
『なぁに心配いらねぇよ。俺がいりゃ問題ねぇ。必要なもん選べ。』
嫌な予感しかしない。
だが、来店時にシルザが普通に店主へ話しかけていた辺り、流石に盗賊の類ではないのだろう。
恐らく、少々……いや、かなり怖いAランク冒険者というだけだ。
それに、ギルドでも高ランク冒険者は割引を受けられると言っていた。
きっと、その類なのだろう。
……多分。
『……そうなのか?でも俺、防具には詳しくないんだよね。何を選べば良いのか全然わからない』
『そういやユーミー、防具らしい防具を着けてなかったもんなぁ』
ユウミは現世で通っていた高校の白い学ラン姿のまま、この世界へ転生した。
転生場所も山の中。
防具など必要になる機会すらなかった。
『よし!お前の戦闘スタイルに合う装備を俺が選んでやる!任せとけ!』
そう言うとシルザは、店中を歩き回りながら次々と装備を選び始める。
『……おいおいシルザ。本当にそんなに必要なのか?それに金だって――』
『何度も同じ事言わせんなユーミー。装備も金も俺に任せとけって。』
シルザは防具から目を離さないまま返答した。
その後も装備選びは延々と続き、気付けば昼近くになっていた。
『ユーミーとオリオンは外で待っててくれや。すぐ済むからよぉ。』
『え?でも、俺の分の支払いは――』
『だから気にすんなって。ここは高ランク冒険者に優しい店なんだよ。』
シルザに背を押される形で、ユウミとオリオンは店の外へ出された。
ちなみに、オリオンの防具も見ようかとユウミが聞いたところ、
『いらぬ』
の一言で終わった。
ドサァッ!!
店内カウンターへ、大量の装備品が積み上がる。
『オヤジィ。会計頼むぜ。』
『……は……はい……』
店主は震える手で商品を確認していく。
『え、えぇと……合計で……金貨……8689枚に――』
そこで店主の言葉が止まった。
シルザが、眉間に深い皺を寄せながら店主を見下ろしていた。
『オヤジよぉ』
『ひっ……!』
『前にも言ったよなぁ?俺はAランク冒険者として、この国を守ってやってんだぜぇ?』
低く響く声。
店主の肩がビクリと震える。
『ゴブリンやオーク狩ってる連中とは訳が違ぇんだ。その金額にはよぉ……俺への敬意が感じられねぇんだが?』
『ひぃぃっ!!』
『まさかとは思うが……他の奴らと同じ扱いしてねぇよなぁ?』
『い、いえぇっ!計算に……計算に間違いがありましたぁ!!少々お待ちくださいぃぃ!!』
ガチャガチャと慌てて計算をやり直し始める店主。
数分後――
チリンッ!チリンッ!
『おぉ!待たせたなユーミー、オリオン!会計終わったから着替えようぜ!』
何事もなかったような笑顔でシルザが店から顔を出した。
ユウミは少し不安を覚えながらも、購入した装備を受け取り、試着室へ向かう。
先に試着室から出てきたのはシルザだった。
黒い高襟インナーの上から、銀と深紅を基調とした軽装甲を纏っている。
重装騎士のような鈍重さはない。
肩当てと胸部装甲は必要最低限。
その代わり、シルザの怪力と爆発的な踏み込みに耐えられるよう、高い耐久性と機動力を両立していた。
装甲には炎のような深紅の紋様。
その上から羽織る深紅のロングコートは、翻るたびに燃え盛る焔のような威圧感を放つ。
まさに、“攻撃を受ける前に斬り伏せる”ための装備。
炎のような激情と、獣のような機動力を体現した軽装戦闘装備だった。
『よし。前より動きやすくて良い。』
続いて、ユウミが試着室から姿を現す。
白を基調とした高襟仕様のロングジャケット。
腰下まで伸びる白い外装布は軽く、歩くたびに蒼い裏地が揺れる。
黒いインナーには、蒼いライン装飾。
風属性魔力の流れを整える特殊ミスリル繊維が使用されている。
左肩には小型の銀色の肩当て。
最低限の防御のみを目的とした極軽量仕様。
ユウミの戦闘は、“受ける”のではない。
見切り、避け、斬る。
そのため、防具は極限まで軽量化されていた。
黒と銀を基調とした前腕ガード。
細身の脚甲。
風属性魔力を流しやすい戦闘用ブーツ。
静かな威圧感。
神秘的な存在感。
まるで、白き龍が風を纏い空を舞うようだった。
山で戦っていた頃とは違う。
初めて、“冒険者になった”気がした。
『凄くカッコいいけど……ちょっと派手過ぎないかな?』
少し照れながら呟くユウミ。
『ユーミーもBランク冒険者なんだ。こんくれぇ装備してなきゃ舐められるぞ!』
『でも、これ相当高かったんじゃ――』
その瞬間、店主が物陰からビクッと反応した。
『くどいぜユーミー。もう一度言うが、ここは高ランク冒険者に優しい店なんだよ。なぁ?オヤジィ?』
『ひぃっ!!』
店主は慌てて姿を隠した。
『オリオン。どうかなこれ』
ユウミは少し照れながらオリオンへ視線を向ける。
『うむ。良いではないか。以前よりも気品が増したように見えるぞ、ユウミよ』
『本当?オリオンがそう言うなら良いか。ありがとうシルザ』
満足そうに笑うユウミ。
その姿を見たシルザは、少し顔を赤くしながらそっぽを向く。
『べ、別に大したことしてねぇよ……』
3人はそのまま店を後にした。
『我は腹が減ったぞユウミよ』
『もう昼だからね。マキシマムフレアで昼食にしようか』
『おっ!良いねぇ!あそこは飯も酒も旨ぇからなぁ!』
3人は酒場マキシマムフレアへ向かい、昼食を取りながら今後について話し始める。
『昨夜の怪しい影について整理するけど、オリオンが匂いを辿った結果、そいつは王城へ向かっていた』
『だが、流石に警備が厳重過ぎた。王城には入れなかった』
『誘拐された子供達は、恐らく王城で監禁されている可能性が高い。でも問題は、どうやって侵入するかだ。俺とオリオンは既に警戒されてる』
『俺も王城には入れねぇ。前に騎士50人半殺しにしてから出禁食らってっからな』
『えぇ!?なんでそんなことになったの!?』
『まぁ、長くなるから今度話してやるよ。つうかよぉ。許可なんざ求めず、力づくで入れば良いじゃねぇか』
『それは流石にマズイだろ……下手したら国中から追われることになる』
『じゃあ門番の身包み剥いで成り代わるか?』
『もっとダメだろそれ……』
ユウミは深くため息を吐き、顎に手を当てる。
『お待たせしました!アーマーディアのロースステーキです!』
『待っておったぞ!!』
オリオンは店員から皿を奪うように受け取ると、そのまま豪快に肉へかぶりついた。
『それにしても……オリオンの食い方は豪快だな……』
シルザが苦笑する。
『我が人間に合わせるのは姿だけで十分だからのぉ。むしゃむしゃ……』
『そういや、ユーミーとオリオンってどこで知り合ったんだ?』
シルザは小指を立てながらニヤニヤと笑う。
『オリオンはユーミーの“これ”なんだろ?』
『いや違うよ。オリオンは俺の相棒。そうだな……オリオンとは――』
――その瞬間だった。
ドォォォォォオオオオンッ!!!
地響きを伴う轟音が街全体を揺らした。
店内の食器が激しく震える。
『なんだ!?』
『何かぶっ壊れたぞ!!』
『むひゃむひょひゃ!?』
オリオンは肉を咥えたまま目を見開く。
ユウミとシルザは即座に立ち上がり、店の外へ飛び出した。
その瞬間。
――胸の奥がざわついた。
まるで、何かが始まる前触れのように。
言いしれぬ不穏な気配が、静かにユウミの心へ波紋を広げていくのだった。
【後書き】
第33話をお読みいただきありがとうございました!
今回は戦闘回ではありませんでしたが、ユウミとシルザの新装備お披露目回となりました。
個人的には、シルザが店主さんに圧を掛けながら「高ランク冒険者に優しい店」と言い張る場面がお気に入りです。
また、ユウミも少しずつ冒険者らしい見た目になってきました。
これまでの山籠もり生活から一歩進み、仲間達と共に新たな戦いへ向かう準備が整いつつあります。
そして最後に響いた大轟音。
次回からは王国編が大きく動き始めます。
引き続き『龍眼の転生者 〜内なる龍が目覚める時〜』をよろしくお願いいたします!
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