それは既に燃え上がっている
皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。
今回のお話は、主人公ユウミ視点ではなく、Aランク冒険者『マグマハートのシルザ』視点のお話となります。
王国中にその名を轟かせる赤髪の男は、一体何を見て、何を考えていたのか。
そして、王国で起きている異変に対して、彼はどのように動いていたのか。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
※今回の回は、ユウミ視点ではありません。
フェルナンド王国において、一握りのAランク冒険者。
フレアデスドラゴンの牙から鍛えられた深紅の大剣を背に負い、筋骨隆々の体躯と、射抜くような眼光を持つ男。
赤髪をなびかせるその姿は、まさに――阿修羅の降臨であった。
強そうな男と見れば喧嘩を売っては叩きのめし、高ランクの魔物と見れば、大剣一つで燃やし斬る。
ある日のこと。
王国は、ついにその男を危険視し始めた。
治安維持を名目に、王国騎士五十人を差し向け、捕縛――あわよくば抹殺しようとしたのである。
結果は、言わずもがな。
死者こそ出なかった――いや、出さなかったと言うべきだろう。
五十人の騎士は、たった一人の男に敗北した。
冑に付けられた、正義と強さの象徴である長い赤羽根は無残にむしり取られ、王城の敷地へと投げ捨てられていた。
そして――城門は、深紅の炎を纏いながら、真っ二つに斬り裂かれていたという。
その炎は、この星の生血が噴き上がったかのような、禍々しくも美しい深紅。
それを目の当たりにした人々は、口々にこう言った。
フレアデスドラゴンの息吹――マグマハート――のようだ、と。
その逸話は瞬く間に広まり、王国中にその名が轟く。
そして男は、いつしかこう呼ばれるようになった。
――マグマハートのシルザ、と。
ドンッ!
冒険者ギルドのカウンターが軋む。
『テメーら、ふざけてんのか? この間まで、行方不明者の捜索依頼は七件あったはずだ。残りの三件はどうなった』
静かな声音。
だが、それゆえに空気は凍りつく。
『で……ですから……何度も申し上げている通り……行方不明者の捜索依頼は、もともと四件です。シ、シルザ様の……き、記憶違いでは……』
『ほう。俺が見間違えたと、そう言いてぇのか』
ギルド内には多くの冒険者や職員がいた。
だが――誰一人として、声を上げる者はいない。
『チッ……テメーらみてぇな阿呆に付き合ってられねぇ』
シルザは扉を蹴り飛ばし、ギルドを後にした。
(ふざけやがって……俺はこの目で七枚見てんだよ)
(連続して消えてるってことは、攫われてるに決まってる)
(だが手掛かりはねぇ……依頼書が減ってることにも、誰も気づいてねぇ)
(……一体、どうなってやがる)
その眼光は、やがて王城へと向けられる。
『何が王族貴族だ……偉いってんなら、一人でも攫われたガキを見つけてみやがれ』
吐き捨てるような独り言。
通りを行き交う人々は、その姿に怯え、小走りで離れていく。
(こうなりゃ……俺一人で探し出す)
(攫った野郎は……全員、血祭りだ)
シルザは、子供達が消えた時間帯――“夜”を待つことにした。
――夜。
東部の街を、当てずっぽうに歩き回るシルザの姿があった。
夜の裏路地には、チンピラや盗賊が跋扈している。
だが、シルザの姿を見た瞬間――その全てが闇へと溶けるように消えていった。
しかし。
逃げたところで、この男から逃れる術など――“一般人”には存在しない。
ドゴンッ!
胸ぐらを掴まれた男が、勢いよくレンガ壁へ叩きつけられる。
片手で押さえつけられ、呼吸すらままならない。
『な……なんだよ……あんたに逆らう気なんざ……これっぽっちも……』
『ガキを攫ってる奴を探してる。知ってることを吐け』
逃げ場などない。
そう言わんばかりの圧が、言葉の一つ一つに乗っている。
『し……知らねぇ……それだけは……』
『“それだけは”? どういう意味だ』
『ひっ……』
『言わなきゃ、そのまま心臓を握り潰すぞ』
『ほ、本当に知らねぇ……! ただ……』
『言え』
『攫った奴は知らねぇ……でも……あんたみてぇに、そいつを探してる奴なら知ってる……!』
『……誰だ』
『青髪を結った、女みてぇな男と……長ぇ銀髪の、背の高ぇ姉ちゃんの二人組だ……』
『青髪の男……なんでそんなことを知ってる』
『昨日の晩……同じこと聞かれたんだ……訳も分からねぇまま、ボコボコにされてよ……』
『他には』
『さ、さぁ……それ以外は……いや……そういや……』
シルザは、無言で続きを促す。
『“悪魔”がどうとか……言ってた気がする……』
(青髪の男……ユーミー、だったか)
(この異変に気付いてやがるとは……流石だ)
シルザが思考を巡らせている間に、男は気絶していた。
口から泡を吹き、力なく崩れ落ちる。
ドサッ。
シルザは無造作に手を離し、歩き出す。
『神様よぉ……俺をユーミーに会わせてくれや』
『ガキどもは――俺が必ず救ってやる』
雲に覆われた赤い月が、ぼんやりと夜空に浮かんでいる。
――その時。
ビュンッ!
何かが、空を裂いた。
視界の端を掠めた影。
その肩には――子供一人分の袋。
次の瞬間には、シルザの身体が動いていた。
気付けば屋根の上。
疾風のごとき勢いで、その影を追う。
背中の大剣へと手を掛ける。
間合いに入る――その刹那。
影は、王城へと進路を変えた。
(逃がすか……!)
ドカッ!!
『――!?』
視界が弾けた。
何かと――衝突した。
――そこにいたのは。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はシルザという人物を掘り下げる回でした。
乱暴で喧嘩好きな危険人物として知られている彼ですが、その一方で誰よりも行方不明の子供達を気に掛けており、自分一人でも救い出そうと動いています。
ユウミとは全く違うタイプの人間ですが、『救いたい』という根っこの部分はよく似ているのかもしれません。
そしてラストでは、ついにシルザが追っていた影と接触――と思いきや、まさかの衝突。
その相手とは一体誰なのか。
次回も楽しんでいただければ嬉しいです。
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それでは、また次回お会いしましょう。




