それは既に潜んでいる
いつもお読みいただきありがとうございます。
第28話をお届けいたします。
王国の街へと辿り着いたユウミ達。
新たな一歩として訪れたのは――冒険者ギルド。
そこで目にしたのは、奇妙に重なる“子供の行方不明”の依頼。
そして、どれも共通しているのは――夜。
街に潜む違和感。
消えていく記憶。
見えない何かが、確かに“そこにある”。
静かに、しかし確実に進み始める新たな脅威。
その正体に、ユウミ達は迫ることができるのか――
ぜひ最後までお楽しみください。
『さっきの子供を助けた身のこなしなら、絶対に冒険者登録した方がいいよ!』
『どうして?』
『刀を持ってるってことは戦えるんでしょ? 魔物と戦ったことは?』
『うん。まぁ、多少はね』
『魔物を狩れば金になるのさ。ユウミはこれまでどんな魔物と戦ったんだ?』
『ゴブリンとかオークとか……トロール……それにサイクロプスあたりかな』
『はっ? ゴブリンやオークならまだわかるけど、トロールとサイクロプスってD級とC級の魔物だぞ!』
『そうなの?』
『まぁいいわ。それが本当なら、なおさら登録しときなよ。きっとユウミなら金に困ることはない』
『お金になるのはありがたいけどね』
『じゃあ決まり! ほら、ちょうど着いたわ!』
シャルロッティは気兼ねなく、冒険者ギルドの扉を開いた。
三人はそのまま中へと入る。
ユウミは視線を巡らせた。
中には、冒険者と思しき人間や獣人が大勢いる。
剣、弓、大盾、杖――実に様々な武器が目に入った。
シャルロッティに手を引かれ、カウンターへ向かう。
オリオンは周囲を鋭く睨みながら、ユウミの後ろを歩いていた。
『こんにちは、シャルロッティさん。本日はどのようなご要件でしょうか?』
受付嬢が穏やかな声で尋ねる。
『よっ、マルシェ。この子たちのギルド登録をお願いしたいんだ』
受付嬢はユウミとオリオンに視線を向けた。
『かしこまりました。新規登録ですね。では、こちらの手続き書にご記入ください』
用紙を受け取るユウミ。
『オリオンの分も俺が書くよ』
『うむ。我は任せる』
手続き書には、名前、性別、年齢、出身地、職業、スキル、称号といった項目が並んでいた。
(出身地か……玉藻山って書いたらまた騒ぎになりそうだけど、他に書ける場所もない。嘘をつくのも気が引けるし……そのまま書くか)
ユウミは自分の分を書き終え、続けてオリオンの分に取りかかる。
(出身地は同じでいいとして……年齢は……千年以上か。でも見た目は若いし、二十歳にしておこう。職業は……拳闘士でいいかな)
『なぁオリオン。スキルと称号って何かある?』
『知らぬ』
(だよね。……まぁいいか)
書き終えた用紙を受付嬢へ渡す。
『ええと……ユウミさん。こちらのスキルと称号の欄ですが……』
『はい?』
『……嘘を書いても、あまり良いことはありませんよ』
(あっ……しまった)
(聖獣ティガロンの主と妖狐玉藻の子、そのまま書いてしまった……)
『あはは……すみません』
該当部分だけを書き直し、再び提出する。
『あ、あの……ユウミさん……』
『は、はい……』
(まだ何かあるのか……?)
『本当に……嘘はありませんか?』
『ありません!』
(オリオンのは完全に嘘だけど……)
『そう……ですか。では少々お待ちください』
マルシェは用紙を持って奥へと消えた。
待っている間、ユウミは周囲に視線を向ける。
やがて、クエスト掲示板が目に入った。
近づいて覗き込む。
ゴブリンやオークの討伐依頼、薬草や宝石の採取依頼――様々な紙が貼られている。
『へぇ……こんなに依頼があるんだ。……ん?』
その中で、ある依頼に目が止まった。
『行方不明者の……捜索依頼……』
『九歳の男の子……突然姿を消した……場所は自宅……時間は……夜、か』
さらに探すと、同様の依頼が七枚。
『自宅……庭……店先……南部、東部、西部……場所はバラバラ……でも、消えたのは全部夜』
ユウミはわずかに眉をひそめた。
『ユウミさーん!』
呼び声に振り返る。
カウンターには、マルシェと、眼鏡をかけた中年の男が立っていた。
『私はこのギルドで鑑定師をしております、ジョールノと申します。ユウミさん、記載内容の確認のため、鑑定をさせていただいてもよろしいでしょうか?』
『ええ、構いません』
『では、失礼します』
ジョールノがユウミの目を覗き込む。
次の瞬間――左目が青く光った。
視線が流れる。
何かを“読んでいる”。
やがて。
額に汗が滲み始め、顔色が変わる。
一歩、二歩と後退り。
目を見開き、息を乱した。
『ジョールノさん。何を見たのかは知りませんけど、俺の友達と母親のことは――他言無用でお願いしますね』
『は……はい……畏まりました……』
『あの……それで、結果は……?』
マルシェが恐る恐る尋ねる。
『ユウミさん……いえ、ユウミ様の記載内容に、偽りはありません』
それだけ言うと、ジョールノは逃げるように奥へ去っていった。
『ユウミさん! 疑ってしまい、大変申し訳ございませんでした!』
『いえ、大丈夫です』
『登録プレートは明日お渡しできますので、その際に改めて説明をさせていただきます』
『わかりました。お願いします』
ユウミたちはギルドを後にした。
シャルロッティとはそこで別れた。
『宿を探そうか、オリオン』
『うむ。我は柔らかい寝床を所望する。それと、美味い飯だ』
『ふふ……相変わらずだね』
再び大通りへ。
並ぶ店を眺めながら歩く。
『この紫の首飾り、お母さんに似合いそうだな』
『ユウミよ、あっちの店から良い匂いがするぞ』
『回復ポーションか……いくつか買っておこうかな』
『このモジャラケボアの肉、気になるぞ』
『……って、こんなことしてる場合じゃないね。オリオン、急がないと日が暮れるよ』
足を速めた、その時――
『や、宿を……お探しの方……いませんか……』
小さな声。
振り向くと、一人の少女が立っていた。
『美味しい料理……に……綺麗なベッド……を……』
どこか自信なさげに言葉を紡ぐ。
『こんにちは。宿を探してるんだけど、二人でも大丈夫?』
ユウミはしゃがみ、目線を合わせる。
『は、はい! ありがとうございます! こちらへどうぞ!』
少女はぱっと表情を明るくした。
二人はその後を追う。
大通りから外れ、静かな通りへ。
『……ここです』
案内された宿は、オレンジ色の屋根とレンガ造りの落ち着いた建物だった。
扉が開く。
ふわりと、ハーブの香りが漂う。
『おばあちゃん! お客さんだよ!』
『あらまぁ、いらっしゃい』
『リリスが連れてきたんだよ!』
少女――リリスは誇らしげに笑った。
『えらいねぇ、リリス』
『えへへ』
ユウミのポケットの中で、黒い指輪が――ほんの僅かに、反応した。
しかし、そのことをユウミが知る由もない。
『あの、二人なんですが』
『はい、大丈夫ですよ。一泊一人、銀貨一枚になります』
『じゃあ三泊で』
『かしこまりました』
鍵を受け取り、部屋へ向かう。
室内にはベッドが二つ。
小さなテーブル。椅子。
窓辺には、クローバーの花が飾られていた。
オリオンはすぐにベッドへ飛び乗る。
ユウミは刀を外し、腰を下ろした。
『さて……まずはこれだけど』
黒い指輪の箱をテーブルに置く。
石は――まるで“目”のように、こちらを見ていた。
『俺たちを試してるのかな』
『気味の悪い褒美よな』
『タイガーアイ……じゃなくて、デビルアイってところか』
『その指輪、呪われておる』
『ああ……悪意しか感じない』
『生気を奪い、瘴気に変える類いのものだろう』
指輪から、かすかに揺れる瘴気。
それを、不知夜が静かに吸い込んでいく。
――まるで、呼吸するように。
ユウミは無言で、それを見つめていた。
第28話をお読みいただきありがとうございました。
今回は物語の転換点となる「街編」の本格スタートです。
これまでの“修行編”とは違い、
人の営みの中に潜む異変や違和感、
そして“見えない敵”との駆け引きが中心になっていきます。
ユウミ自身もまだ気づいていませんが、
今回の出来事は今後の大きな展開へと繋がる重要な伏線となっています。
そして――少しずつズレていく「記憶」と「現実」。
ここもぜひ意識して読んでいただけると嬉しいです。
次回はいよいよ、夜の偵察と“影”との接触へ。
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それでは、また次回でお会いしましょう。




