それは既に歪められている
いつもお読みいただきありがとうございます。
第29話は、物語が大きく動き出す“違和感の始まり”となる回です。
順調に見えた冒険者としてのスタート。
しかしその裏で、確実に何かがおかしい。
消える依頼。食い違う記憶。
そして、忍び寄る“見えない敵”。
ユウミが感じた小さな違和感が、やがて大きな確信へと変わっていきます。
ぜひ最後までお楽しみください。
翌日。
ユウミとオリオンは、再び冒険者ギルドを訪れていた。
『おはようございますユウミさん!登録プレート、できていますよ!』
受付嬢のマルシェが明るく声をかける。
『どうぞ、こちらです』
差し出されたプレートを、ユウミはオリオンの分と共に受け取った。
シルバーブルーに輝くそれには、名前とランクが刻まれている。
『マルシェさん。少し質問いいですか』
『もしかして……ランクのことですか?』
『ええ。ランクは下からF〜Sでしたよね?なら、俺は一番下のFのはずでは?』
『え、えぇ……普通はそうなんですが……』
マルシェは少し言いづらそうに続ける。
『実は、お二人の登録について昨日、ギルド内で会議がありまして……』
『会議……ですか……』
(ジョールノとかいう人……余計なこと言ったんじゃないだろうな……)
『鑑定師のジョールノさんがですね……』
(やっぱりか……)
『鑑定結果から、お二人は熟練冒険者以上の実力があると強く主張されまして……書類の内容も尋常ではなかったため……』
『Bランクになったんですね』
『はい……。あそこまで譲らないジョールノさんは、初めて見ました……』
ふと、カウンターの奥から視線を感じる。
ユウミがそちらを見ると、扉の隙間からジョールノがこちらを見ていた。満面の笑みで、なぜかグーサインをしている。
『あはは……どうも……』
『新規登録でBランクは前例がありません。シルザさんでもCランクからでしたので……』
(シルザ……馬車で会ったあの人か)
ユウミは軽く頭を掻いた。
『では、簡単に冒険者についてご説明しますね』
『はい。お願いします』
マルシェの説明は簡潔だった。
ランクに応じて受けられる依頼は、基本的に一つ上まで。だがBランクともなれば、ほぼ全ての依頼が受注可能になる。
また、Cランク以上には更新免除や、宿屋・武器屋などでの優遇もあるという。
説明を聞き終えたその時だった。
一人の中年女性が、ふらつくようにギルドへ入ってくる。
装備はなく、明らかに一般人だった。
『……私の子供は、まだ見つからないかい』
『……申し訳ありません。まだ報告は上がってきておりません……』
『……そうかい……』
女性は俯いたまま、静かにギルドを出ていった。
その背中が、やけに小さく見えた。
『あの方は……』
『行方不明になったお子さんの捜索依頼を出された方です。他にも依頼はあるのですが……手掛かりが少なく、受ける冒険者も少なくて……』
ユウミは無言で掲示板へ目を向けた。
行方不明の依頼書が並んでいる。
――その中の一枚が、剥がされていた。
『いなくなるのは夜……か。どう思うオリオン』
『わからぬ。だが……夜は悪魔どもの時間だ』
2人はギルドを後にした。
――次に向かったのは城。
城門の兵士に、功労賞の金プレートを見せる。
『エルネマーニュ様への謁見をお願いしたい』
兵士は頷き、そのまま取り次ぎに向かった。
しばらくして戻ってくる。
『お引き取りを。エルネマーニュ様は、あなた方を知らぬと仰せだ。これ以上しつこい場合は拘束するよう命じられている』
ユウミとオリオンは、無言で顔を見合わせた。
そして何も言わず、その場を後にする。
大通りを歩きながら、ユウミが呟いた。
『……どういうことだろう』
『わからぬ。薄情な娘ではなかったはずだ』
『危険だから遠ざけた……か、あるいは――』
『悪魔の仕業、か』
『うん。その可能性が高い気がする』
ユウミは少し考え込む。
『いずれにしても、子供は攫われ続けてる。エルネもおかしい。……悠長にしてる時間はないね』
『どう動く、ユウミよ』
『奴らの時間まで待とう』
『ふむ。尻尾を掴み、引き裂くしかあるまいな』
宿へ戻ると、ハーブの香りが迎えた。
『おかえりなさい!』
リリスが笑顔で駆け寄ってくる。
その瞬間――
胸の奥が、わずかにざわついた。
(……まただ)
(なんなんだ……この感覚……)
『どうしたのお兄ちゃん?』
『あ、いや……なんでもない。ただいまリリス。今日も夕食お願いできるかな』
『うん!任せて!』
笑顔で走っていくリリスを見送りながら、ユウミは小さく息を吐いた。
――夜。
2人は街へ出る。
昼とは別の顔を見せる街。
光が消えただけで、まるで異界の底に迷い込んだような感覚になる。
『子供の頃は、夜が怖かったな』
『当然だ。力なき者が夜に動けば狩られる。本能が恐れを刻むのだ』
路地裏へと足を踏み入れる。
奥へ進むほどに、空気が淀んでいく。
『夜に潜むのは、飢えた魔獣と……碌でもない連中だ』
その言葉の直後。
『ぐへへへ……』
『いい女が二人でこんなとこ、危ねぇぞ?』
暗闇から、男達が現れた。
前に六人、後ろに五人。
逃げ場を塞ぐように囲む。
『最近は“上”がうるせぇからよぉ……夜は特に気をつけろよ?』
薄笑い。
粘つく視線。
『……碌でもない連中の方ね』
『仲良くしようぜぇ……!』
『殺さないでね、オリオン』
次の瞬間。
――決着はついていた。
ユウミは前方の男達を蹴り飛ばし、
オリオンは後方を殴り飛ばす。
男達は何が起きたかも理解できず、地面に沈んだ。
その後も夜を歩いたが、異常は見つからなかった。
――そして翌日。
再びギルドへ。
掲示板を見る。
『……また減ってる』
剥がされた跡が、確かに増えていた。
『マルシェさん、少し聞きたいことが』
『はい。なんでしょう?』
『行方不明の依頼ですが……一昨日は七件あったはずなんです。でも今は五件。これは、解決したということですか?』
『……え?』
マルシェが首を傾げる。
『ユウミさん、勘違いでは?最初から五件ですよ』
その瞬間――
視界が、わずかに揺らいだ。
『……いや、確かに七件ありました。確認してもらえますか』
『わかりました。少々お待ちください』
マルシェは奥へ消える。
『どうしたのだ、ユウミよ』
『……ちょっとした確認だよ』
だが、その声はわずかに硬かった。
オリオンは何も言わず、ユウミの瞳を見つめる。
やがてマルシェが戻ってくる。
『お待たせしました。確認しましたが……やはり最初から五件です』
『…………』
(……おかしい)
確かに見た。
数えた。
なのに――
『掲示板は依頼も多いですし、見間違いでは?』
『……そう、ですか。ありがとうございます』
ユウミはギルドを後にした。
外へ出た途端、胸騒ぎが強くなる。
『ユウミ。何かあったな』
『……ああ』
ギルドでの出来事を説明する。
『記憶と記録が食い違う……か』
『何者かが街全体に精神操作をかけているとしか思えない』
『そんなこと、可能なの?』
『通常は不可能だ。継続となれば、莫大な魔力が必要になる』
『じゃあ……それができる存在か、あるいは――』
『それを可能にする“何か”があるか、だな』
しばしの沈黙。
その時だった。
ユウミはポケットに手を入れる。
指先に、触れた瞬間――
微かに、冷たい脈動を感じた。
『……この指輪』
黒い指輪を取り出す。
『これも……悪魔の作ったものなのかな』
『その可能性は高い。その指輪からは、悪魔の匂いが濃い』
ユウミの瞳が鋭くなる。
『オリオン。この指輪と同じ気配を辿れないか?』
『ほう……』
『もし同じものがあるなら……それが――』
『精神操作の源である可能性がある、というわけだな』
『ああ』
オリオンは不敵に笑う。
『面白い。狩りの時間だ』
2人は、即座に動き出した。
第29話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は一気に“謎編”へ突入する回でした。
・消えた依頼の真相
・エルネマーニュの異変
・街全体に及ぶ可能性のある精神操作
・そして、ユウミの持つ指輪
それぞれがバラバラに見えて、少しずつ繋がり始めています。
ここからは「誰が敵なのか」「何が起きているのか」を探る展開になっていきますので、ぜひ注目していただけると嬉しいです。
そして次回――
ユウミとオリオンは“気配”を追い、ついに核心へ近づいていきます。
引き続き応援いただけると嬉しいです!




