それは既に示されている
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
第26話では、舞台はいよいよ王国の街へ。冒険者ギルドでの登録を経て、新たな事件へと足を踏み入れていきます。
相次ぐ子供達の失踪。共通する“夜”という時間。そして、どこか歪められた記憶――。
これまでとは少し違う、“不穏さ”が滲む回となっています。
ユウミとオリオンが感じた違和感。その正体に、ぜひご注目ください。
それでは、第26話。お楽しみいただけますと幸いです。
フェルナンド王国城下、南部の街。
石畳の道を歩くユウミとオリオン。
『ユウミよ。どこへ行くのだ?』
『まずは宿を探そうと思ってさ』
『うむ……じゃが、この良き匂い……まずは腹拵えをしようぞ、ユウミよ』
オリオンの鼻が、通りに漂う香ばしい匂いにぴくりと反応する。
『あはは、わかったよ。金もあるし、どこか入ろうか』
二人は近くの酒場へと足を踏み入れた。
看板には——マキシマムフレア。
カランッ——
『いらっしゃいませ!お好きな席へどうぞ!』
明るい声が店内に響く。
酒と笑い声が混ざり合う、活気ある空間。
ユウミとオリオンは空いている席へ腰を下ろした。
テーブルの上のメニューを手に取る。
『今日のおすすめは……ホーンシープのステーキだって』
『ふむ。我はそれを所望する』
『じゃあ俺もそれで』
店員を呼ぶ。
『ホーンシープのステーキを二つ。飲み物は水で』
『かしこまりました!』
店員は軽やかに厨房へと消えていった。
『水でいいのかよ?お姉ちゃん達』
横から声がかかる。
振り向くと、ジョッキを片手にした女性が、いつの間にか隣に座っていた。
『ここは酒場だぜ?飲まないなんて損してるよ』
『あなたは?』
『あたしはシャルロッティ。猫人族のD級冒険者だ』
三毛猫の耳。茶髪のセミロング。
腰には二振りのショートソード。
『俺はユウミ。こっちはオリオン。D級冒険者って何?』
『は?そんなことも知らないのか?』
『今日この街に来たばかりなんだ』
『……男!?』
シャルロッティは目を見開く。
『悪かったね、てっきり……』
『よく言われるよ』
『我はお姉ちゃんで構わぬぞ』
オリオンはすでに厨房の方を見つめている。
『あんたらどこから来た?』
『玉藻山だよ』
『……は?』
空気が一瞬止まる。
『冗談だろ……あそこは妖狐の化け物が棲む場所だぞ』
(お母さんのこと……だよな)
ユウミは小さく苦笑した。
『お待たせしました!』
香ばしい香りと共に料理が運ばれてくる。
『おお!美味そうではないか!』
オリオンは迷いなく手で掴み、かぶりついた。
『オリオン、それナイフとフォークで食べるやつだからね』
『我はこれで良い。むしゃむしゃ……』
『ははっ、豪快だなぁ』
シャルは笑いながら酒をあおる。
『シャル、冒険者ってどんな仕事なの?』
『ギルドの依頼を受けて、魔物倒したり素材集めたりして金を稼ぐのさ』
『ランクがあるんだよね?』
『上からS、A、B、C、D、E、Fって感じだな』
『面白そうだね』
『面白いけど——死ぬこともある』
『死にかけたのも、片手じゃ足りないけどな』
ユウミは真剣な目で頷いた。
『シャル、この街って最近何か変わったことない?』
『変わったこと?』
『城のこととか』
『……ああ』
シャルは少し考え、
『ここ最近、行方不明者が増えてる』
『いつ頃から?』
『三ヶ月くらい前だな』
(……同じだ)
『それ以外は?』
『あとは——王妃が消えたって話』
『王妃も……』
ユウミの思考が繋がる。
『ありがとうシャル』
『気にすんな』
『その代わり——これ』
ユウミは店員を呼ぶ。
『この人におかわりを』
『え!?』
『情報のお礼』
シャルは思わず抱きついた。
『いい奴じゃん!』
――その後。
ユウミはこの世界について様々な話を聞く中で、
一つの言葉に反応した。
『教会でステータス確認できるの?』
『ああ。レベルもスキルも称号も全部な』
『行く』
即答だった。
――サンピシャロ教会。
純白の建物。
静寂が支配する空間。
ステンドグラスから差し込む光が、神像を照らす。
音すら、吸い込まれるような空気。
『……ここか』
『あら、シャルじゃない』
奥から現れたのは、穏やかな老シスター。
『鑑定をお願いしたいんだ』
『ええ、もちろん』
石像の前へ案内される。
そこには——虹色の水晶。
『ここに手を』
ユウミはそっと触れる。
次の瞬間。
光が溢れた。
『……!?』
柔らかな光が、次第に強くなる。
『こんな光……初めて……』
シスターが息を呑む。
視界が白に染まる。
意識が沈む。
――ユウミ。
声が響く。
(……神様)
――よくここまで来ましたね。
優しい声。
だが、抗えない重みを帯びている。
――あなたに、更なる加護を与えます。
(……ありがとう……)
――上手に使いなさい。
(オリオンと……お母さんをくれて……)
――ふふ……あなたは本当に優しいですね。
――その心を、忘れないで。
光が消える。
ユウミは目を開けた。
シスターが、目の前に立っている。
その顔は——
真っ青だった。
唇が、震えている。
『……そんな……まさか……』
掠れた声。
そして——
何かを見たまま、動かなくなった。
第26話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は物語の転換点として、“街編”の導入を意識して描いています。
これまでの修行編とは違い、人の中に潜む違和感や、見えない敵との対峙が中心になっていきます。
エルネの態度の変化や、記憶の違和感。そして夜に現れた“影”。
少しずつ、裏で動いているものの輪郭が見え始めています。
ここから物語は、さらに深く、そして危険な領域へ――。
引き続き、ユウミ達の物語を見守っていただけたら嬉しいです。
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。




