それは既に侵されている
いつもお読みいただきありがとうございます。
第25話では、物語が静かに、しかし確実に次の段階へと進んでいきます。
これまで積み重ねてきたものが、少しずつ形になり始める——そんな回になっています。
ユウミ達の歩む先に、どんな出会いと変化が待っているのか。
ぜひ、最後までお楽しみください。
エルネマーニュが門番と話をしている。
ユウミとオリオンは、それを少し離れた場所から見守っていた。
やがて話がついたのか、エルネマーニュは小走りで戻ってくる。
『遣いを出し、城から迎えを呼ぶよう伝えましたので、しばしお待ちください』
『エルネ、俺たちも城に行くの?』
『もちろんです!ユウミとオリオン様には命を救っていただきました!ささやかではありますが、どうかお礼をさせてください!』
胸に手を当て、真っ直ぐに懇願するエルネマーニュ。
ユウミとオリオンは顔を見合わせ、静かに頷いた。
『わかった。じゃあ、お邪魔することにしようかな』
『ありがとうございます。ご足労をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします』
『でも俺たち、その……王族とか貴族のマナーとか全然わからないからさ。無礼なことするかもしれないけど、大丈夫?』
『そのようなことはお気になさらないでください。言葉遣いも振る舞いも、そのままで問題ありません』
『そっか。なら安心だ』
程なくして、豪華な馬車が門の前に到着した。
ユウミとオリオンはそれに乗り、城へと案内される。
——フェルナンド王城。
通されたのは、豪奢な客間だった。
磨き上げられた床。重厚な調度品。
そして、どこか息の詰まるような静けさ。
紅茶が運ばれ、二人は席につく。
『オリオンはさ、こういう城に来たことある?』
『あるわけがなかろう。ユウミと共にいなければ、死ぬまで人間との関わりなどなかっただろうな』
『そっか。でも、椅子にしてもテーブルにしても……なんかやっぱり、住む世界が違うって感じがする』
『うむ。玉藻の屋敷の方が居心地は良かったな。あそこには、良き風が吹いておった』
オリオンは紅茶に口をつける。
ユウミもそれに倣う。
『……うん、美味しい』
コンコン……
『失礼いたします』
メイドが静かに入室する。
『ユウミ様、オリオン様。贈呈式の準備が整いました。謁見の間へご案内いたします』
二人は立ち上がり、メイドの後に続いた。
——謁見の間。
最奥の王座は、空席だった。
だが、その右にはエルネマーニュ。
左には、まだ若い男と初老の男が立っている。
そして、両脇には整然と並ぶ兵士たち。
『やっぱり……仰々しいね』
『うむ』
メイドの指示に従い、赤い絨毯の上を進む。
やがて、指定された位置で足を止めた。
視線が——集まる。
その全てが、値踏みするように二人へ向けられていた。
『余はフェルナンド王国第三王子、フェルナンド・ゲールドである』
冷たい声が響く。
『其方らか。姉上を助けたというのは』
感謝の色は、そこにはなかった。
『たまたま通りがかっただけだよ』
『ほう……たまたま、ね』
ゲールドの口元がわずかに歪む。
その声には、どこか不自然な揺らぎがあった。
『たまたまで、この国の王女を救ったと申すか』
値踏みするような視線。
『貴様は何が言いたいのだ』
オリオンが低く言う。
『姉上を救っただけでは不服だとでも?』
『ゲールド』
エルネマーニュが静かに制した。
『私の恩人に対して、無礼はやめて』
『……ふん』
ゲールドは鼻を鳴らす。
『まあよい。此度は、フェルナンド王国第二王女エルネマーニュ・フェルナンドの救出に対し、褒美を与える』
淡々とした声。
『金貨二百枚。功労賞の称号。そして——黒牙の指輪』
『以上だ。下がれ』
吐き捨てるように言った。
ユウミは答えず、ただ静かにゲールドと、その隣に立つ男を見つめる。
——視界の奥で、歪んだ気配が揺れた。
『……なんだ?不服か』
『……いや、何でもない』
ユウミは踵を返す。
オリオンもそれに続いた。
二人はそのまま、メイドの案内で謁見の間を後にする。
廊下を歩きながら。
『ユウミよ。あのゲールドという男と、隣にいた奴……』
『ああ。ゲールドは操られてる』
『横の男……あれは人間じゃない』
『やはり気付いておったか』
『うん。でも、それだけじゃない』
ユウミの目は前を見据えたまま。
『この城の下——瘴気が渦巻いてる』
『……どうする。今すぐ潰すか』
オリオンの声音が僅かに低くなる。
『いや、動くのはまだ』
『なぜだ』
『情報が足りない。それに——』
少しだけ視線を上げる。
『見ただろ?王座が空いてた』
『ふむ……』
『娘が助かったのに、王が出てこないなんて、おかしいと思わない?』
『確かに……』
『王がいない。王子は操られてる。悪魔の気配。地下に瘴気』
一つ一つ、言葉を並べる。
『……これ全部、繋がってるよね』
『うむ。碌でもないことが起きておるのは間違いないな』
二人は客間へと戻る。
やがて褒美が運ばれてきた。
金貨の入った袋。
功労賞の純金プレート。
そして——黒牙の指輪。
小さな赤い箱の中で、それは静かに光っていた。
タッタッタッ……!
ガチャリ!
『ユウミ様!オリオン様!』
息を切らし、エルネマーニュが飛び込んでくる。
『この度は大変申し訳ございませんでした!弟の無礼、そして報奨の内容も……』
『エルネ』
ユウミが静かに言う。
『そんなことはどうでもいい。そこに座って』
『……は、はい』
状況が掴めぬまま、エルネは椅子に腰掛けた。
『いくつか聞きたいことがある』
『はい……』
『まず、王様はどうした?』
『……現在、病に臥せっております』
『いつから?』
『三ヶ月前です』
『じゃあ、ゲールドが変になったのも同じ頃?』
『なぜ……それを……』
『いいから答えて』
『……はい。その通りです』
『最後に——この城の下には何がある?』
エルネの顔色が変わる。
『なぜ……そのようなことを……』
『嫌な気配がするから』
しばしの沈黙。
『……地下牢がございます』
ユウミとオリオンは視線を交わす。
『なるほどな』
ユウミは小箱を手に取る。
『この指輪、どこで手に入れたかわかる?』
『いえ……それは私にもわかりません。弟がなぜこれを選んだのか……』
『そうか。ありがとう。十分だ』
ユウミは立ち上がる。
オリオンもそれに続いた。
エルネの横を通り過ぎる瞬間——
ユウミは小さく囁く。
『……ゲールドの隣にいる男には、気をつけて』
エルネの心臓が、大きく跳ねた。
振り返る。
だが——
そこには、もう二人の姿はなかった。
第25話をお読みいただき、ありがとうございました。
ここから物語は、少しずつ「外の世界」へと広がっていきます。
これまでの修行や出会いが、これからどのように繋がっていくのか。そしてユウミ自身も、まだ知らない自分と向き合っていくことになります。
新たな出会い、そして新たな波乱——次話以降も、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。
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今後ともよろしくお願いいたします。




