それは既に温もりの中にある
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
激しい戦いを越えた先で、ユウミたちが辿り着いたのは、穏やかで温かな時間でした。
張り詰めていた心が、少しずつほどけていく――そんなひとときを描いています。
大きな出来事はなくとも、確かにそこにある「大切なもの」。
今回はそんな一話になっています。
どうぞ、ゆっくりとお楽しみください。
『カムイ、これ飲んで。』
『……これは……』
『回復薬だよ。拾い物だけどね』
『かたじけない。』
ユウミは小瓶をカムイの口元へそっと添え、ゆっくりと飲ませる。
『おぉ……だいぶ楽になり申した。』
『ユウミの方は大丈夫なのか?』
オリオンが声をかける。
『うん。多分大丈夫。不知夜が、災厄を抑えてくれてるみたいだから』
『……不知夜か』
オリオンは思案するように呟いた。
『坊や……いえ、ユウミ。それからオリオン様にカムイ。この度は改めて、本当にありがとう』
玉藻は三人へ深く頭を下げる。
『玉藻様!お顔を上げてください!そのようなこと、配下の者ならば当然でございます!』
『それに、相手が悪魔なら俺たちにも関係があったしね』
『うむ。あ奴らは恐らく――復活させようとしているのだ』
『――魔王を――』
『魔王?悪魔の王様ってこと、オリオン』
『そうだ』
『オリオン様。魔王は八百年前に討たれ、どこかに封じられたと聞き及んでおります。その封印場所をご存じなのですか?』
『……わからぬ』
『ユウミの刀と願いの尾。それが魔王の復活に必要ということよね』
玉藻は九本の尾のひとつにそっと触れながら言う。
『刀で封印を壊して、願いの尾で魔王の力を全盛期に戻す……ってことかな』
『流石ね、ユウミ。賢いわ』
玉藻は嬉しそうにユウミの頭を撫でる。
『いや……そんなことは……』
照れながらも、ユウミはどこか嬉しそうだった。
『オリオン様、魔王とは先程のドラゴンよりも強いのでござりまするか?』
『いや、個としての力ならドラゴンの方が上であろう。だが――真に恐れるべきは……』
その言葉に、全員の視線がオリオンへと集まる。
『悪魔族をはじめとする、すべての魔物を動かす力であろうな』
『魔物の軍勢……』
ユウミは、これまで戦ってきたゴブリンやオークの群れを思い出す。
『オリオン。悪魔たちは、すでに軍勢を動かしていたよね。あれは魔王の力の一部って可能性は?』
『無きにしもあらず。だが、可能性は低い。あれは単に悪魔が格下の魔物を操ったに過ぎぬと我は見ておる』
『なるほど……確かにアスモデウスも魔法で動きを止めようとしてきたし、やろうと思えばできそうだ』
パチンッ、と手を打つ音が響く。
『はいはい。難しい話はここまで。夕食の用意ができる頃よ』
魔王という不吉な話題を、玉藻がやんわりと断ち切る。
『そう言えば、お腹減ったな』
『うむ。我も腹ペコだ』
『ふふふ、たくさん作らせたから、お腹が破裂するまで食べてね』
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夕食後
『ゴロゴロゴロ……』
オリオンは満足そうに腹を上に向け、ユウミの足元で寝転がっている。
(くすくす……大きいニャンコだ)
ユウミは窓辺の椅子に腰掛け、夜空を見上げていた。
『今日は……緑色の月なんだね』
誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。
(不知夜の力を借りた時の、あの全能感……でも、それと同じくらい――底の知れない不安は、なんなんだろう)
鞘のない、むき出しの刀身。
夜の光さえも吸い込んでしまいそうなその刃は、美しくも妖しい。
(不知夜がなければ、今の俺はここにはいない)
災厄に呑まれ、意識が闇に沈んだあの時を思い出す。
(ドラゴンの瘴気を吸い込んで……もし中の災厄が完全に目を覚ましたら……俺は……)
ユウミはこれまでの出来事を、頭の中で辿る。
(異世界に来る→刀を引き抜く→身体を奪われる→龍神が封印→力を借りる→再び力を借りる→瘴気を吸収→また奪われる→再封印→そして今……)
(順番が正しいのかも、もう分からない……)
思考が絡まり、答えは見えない。
『ユウミ』
『あっ……お母さん』
『どうしたの?難しい顔をしていたわよ』
玉藻が隣に腰を下ろす。
『うん……ちょっと考え事をしてて』
ふわり、と。
ユウミは玉藻に抱きしめられた。
『ずっと一人で……いっぱい考えて、いっぱい戦って……ここまで来たのね。偉いわ。本当に偉いわ、ユウミ』
その言葉が、心の奥に静かに染み込んでいく。
凍えた心を、優しく温めるように。
『今まで……何もしてあげられなくて……ごめんね……』
『もう謝らないでよ、お母さん』
ユウミは静かに言う。
『この世界に来て、お母さんに出会えた。それだけで、俺は嬉しいんだ』
『ユウミ……』
『俺は、お母さんに笑っていてほしい』
玉藻は涙を拭い、優しく微笑んだ。
『ところでユウミ。身体は本当に大丈夫なの?』
『うん。平気だよ』
『そう?なんだか身体が強張っているように見えるのだけれど』
『ああ……確かに、筋肉痛になる前の張る感じはあるかも』
『いずれにせよ、休息は必要ね。良いところに連れていってあげるわ。さあ、いらっしゃい』
『え?ちょっと……どこに……』
ユウミは玉藻に手を引かれ、屋敷の外へと連れ出された。
『ゴロゴロ……むにゃむにゃ……ん……ユウミ……?』
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『うわぁ……これは凄い……!』
『ふふふ。温泉よ』
岩場の一角に広がる透き通った泉。
水面には色とりどりの花が浮かび、淡く光を放っている。
幻想的な光景に、思わず息を呑む。
(異世界に来て……ちゃんと風呂に入るの初めてかも)
『この温泉には癒しの効果があるの。さあ、入りましょう』
『え、ちょ……』
玉藻は当然のようにユウミの服へ手を伸ばす。
『自分で脱げるから大丈夫だよ!』
『家族なんだから恥ずかしがらなくていいのよ』
『いや、そういう問題じゃ――って、えぇ!?』
気づけば、玉藻はすでに入浴の準備を終えていた。
『い……一緒に入るの!?』
『当たり前でしょ。家族なんだから』
ちゃぷん――
『ユウミも早くいらっしゃい』
困惑しながらも、ユウミは湯へと足を踏み入れる。
ざぷん――
『あぁ……すぅ……はぁぁ……』
肩まで浸かり、力が抜ける。
(気持ちいい……)
身体の芯から温まっていく感覚。
(溶けちゃいそうだ……)
『ユウミ、こっちに……』
――その時。
ザッパァァァン!!
『なに!?』
『何者じゃ!』
ぷくぷく……じゃぷ
『……我だ』
『オリオン!?びっくりしたなぁもう』
『ずるいではないか!我を差し置いて湯浴みとは!』
『気持ちよさそうに寝てたじゃないか』
『馬鹿者!我は湯が大好きなのだ!』
『猫は風呂嫌いって聞くけどなぁ』
『我は猫ではない!!』
バシャ!バシャ!
『こら二人とも!静かに入りなさい!』
笑い声が、夜に響いた。
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『ねぇ、お母さん』
『なぁに?ユウミ』
『お母さんとオリオンって、どんな出会いだったの?』
『そうね……この世界に来た時、助けてもらったの』
ユウミは、ふと胸がざわつく。
(やっぱり……)
その時――
『あの時は大変であったぞ』
『オリオン様!?まだいらしたんですか!?』
『まだとは無礼である』
『ユウミよ。教えてやろう』
『ちょっとオリオン様!それは――』
『玉藻はのぉ――』
一拍。
『滅ばしたのよ』
『……え?』
『滅ばした!?』
20話「それは既に温もりの中にある」を読んでいただき、ありがとうございました!
これまで戦い続けてきたユウミたちにとって、ようやく訪れた安らぎの時間。
その中で描かれる関係性や空気感を大切に書いてみました。
そして、この温もりの時間は――
次の旅立ち、そして別れへと繋がっていきます。
玉藻との関係、そしてユウミが受け取る“想い”。
次話以降も、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。
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引き続き「龍眼の転生者」をよろしくお願いします!




