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龍眼の転生者 〜内なる龍が目覚める時〜  作者: 小川 俊


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20/35

それは既に温もりの中にある

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


激しい戦いを越えた先で、ユウミたちが辿り着いたのは、穏やかで温かな時間でした。

張り詰めていた心が、少しずつほどけていく――そんなひとときを描いています。


大きな出来事はなくとも、確かにそこにある「大切なもの」。

今回はそんな一話になっています。


どうぞ、ゆっくりとお楽しみください。

『カムイ、これ飲んで。』


『……これは……』


『回復薬だよ。拾い物だけどね』


『かたじけない。』


ユウミは小瓶をカムイの口元へそっと添え、ゆっくりと飲ませる。


『おぉ……だいぶ楽になり申した。』


『ユウミの方は大丈夫なのか?』


オリオンが声をかける。


『うん。多分大丈夫。不知夜が、災厄を抑えてくれてるみたいだから』


『……不知夜か』


オリオンは思案するように呟いた。


『坊や……いえ、ユウミ。それからオリオン様にカムイ。この度は改めて、本当にありがとう』


玉藻は三人へ深く頭を下げる。


『玉藻様!お顔を上げてください!そのようなこと、配下の者ならば当然でございます!』


『それに、相手が悪魔なら俺たちにも関係があったしね』


『うむ。あ奴らは恐らく――復活させようとしているのだ』


『――魔王を――』


『魔王?悪魔の王様ってこと、オリオン』


『そうだ』


『オリオン様。魔王は八百年前に討たれ、どこかに封じられたと聞き及んでおります。その封印場所をご存じなのですか?』


『……わからぬ』


『ユウミの刀と願いの尾。それが魔王の復活に必要ということよね』


玉藻は九本の尾のひとつにそっと触れながら言う。


『刀で封印を壊して、願いの尾で魔王の力を全盛期に戻す……ってことかな』


『流石ね、ユウミ。賢いわ』


玉藻は嬉しそうにユウミの頭を撫でる。


『いや……そんなことは……』


照れながらも、ユウミはどこか嬉しそうだった。


『オリオン様、魔王とは先程のドラゴンよりも強いのでござりまするか?』


『いや、個としての力ならドラゴンの方が上であろう。だが――真に恐れるべきは……』


その言葉に、全員の視線がオリオンへと集まる。


『悪魔族をはじめとする、すべての魔物を動かす力であろうな』


『魔物の軍勢……』


ユウミは、これまで戦ってきたゴブリンやオークの群れを思い出す。


『オリオン。悪魔たちは、すでに軍勢を動かしていたよね。あれは魔王の力の一部って可能性は?』


『無きにしもあらず。だが、可能性は低い。あれは単に悪魔が格下の魔物を操ったに過ぎぬと我は見ておる』


『なるほど……確かにアスモデウスも魔法で動きを止めようとしてきたし、やろうと思えばできそうだ』


パチンッ、と手を打つ音が響く。


『はいはい。難しい話はここまで。夕食の用意ができる頃よ』


魔王という不吉な話題を、玉藻がやんわりと断ち切る。


『そう言えば、お腹減ったな』


『うむ。我も腹ペコだ』


『ふふふ、たくさん作らせたから、お腹が破裂するまで食べてね』


---


夕食後


『ゴロゴロゴロ……』


オリオンは満足そうに腹を上に向け、ユウミの足元で寝転がっている。


(くすくす……大きいニャンコだ)


ユウミは窓辺の椅子に腰掛け、夜空を見上げていた。


『今日は……緑色の月なんだね』


誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。


(不知夜の力を借りた時の、あの全能感……でも、それと同じくらい――底の知れない不安は、なんなんだろう)


鞘のない、むき出しの刀身。


夜の光さえも吸い込んでしまいそうなその刃は、美しくも妖しい。


(不知夜がなければ、今の俺はここにはいない)


災厄に呑まれ、意識が闇に沈んだあの時を思い出す。


(ドラゴンの瘴気を吸い込んで……もし中の災厄が完全に目を覚ましたら……俺は……)


ユウミはこれまでの出来事を、頭の中で辿る。


(異世界に来る→刀を引き抜く→身体を奪われる→龍神が封印→力を借りる→再び力を借りる→瘴気を吸収→また奪われる→再封印→そして今……)


(順番が正しいのかも、もう分からない……)


思考が絡まり、答えは見えない。


『ユウミ』


『あっ……お母さん』


『どうしたの?難しい顔をしていたわよ』


玉藻が隣に腰を下ろす。


『うん……ちょっと考え事をしてて』


ふわり、と。


ユウミは玉藻に抱きしめられた。


『ずっと一人で……いっぱい考えて、いっぱい戦って……ここまで来たのね。偉いわ。本当に偉いわ、ユウミ』


その言葉が、心の奥に静かに染み込んでいく。


凍えた心を、優しく温めるように。


『今まで……何もしてあげられなくて……ごめんね……』


『もう謝らないでよ、お母さん』


ユウミは静かに言う。


『この世界に来て、お母さんに出会えた。それだけで、俺は嬉しいんだ』


『ユウミ……』


『俺は、お母さんに笑っていてほしい』


玉藻は涙を拭い、優しく微笑んだ。


『ところでユウミ。身体は本当に大丈夫なの?』


『うん。平気だよ』


『そう?なんだか身体が強張っているように見えるのだけれど』


『ああ……確かに、筋肉痛になる前の張る感じはあるかも』


『いずれにせよ、休息は必要ね。良いところに連れていってあげるわ。さあ、いらっしゃい』


『え?ちょっと……どこに……』


ユウミは玉藻に手を引かれ、屋敷の外へと連れ出された。


『ゴロゴロ……むにゃむにゃ……ん……ユウミ……?』


---


『うわぁ……これは凄い……!』


『ふふふ。温泉よ』


岩場の一角に広がる透き通った泉。


水面には色とりどりの花が浮かび、淡く光を放っている。


幻想的な光景に、思わず息を呑む。


(異世界に来て……ちゃんと風呂に入るの初めてかも)


『この温泉には癒しの効果があるの。さあ、入りましょう』


『え、ちょ……』


玉藻は当然のようにユウミの服へ手を伸ばす。


『自分で脱げるから大丈夫だよ!』


『家族なんだから恥ずかしがらなくていいのよ』


『いや、そういう問題じゃ――って、えぇ!?』


気づけば、玉藻はすでに入浴の準備を終えていた。


『い……一緒に入るの!?』


『当たり前でしょ。家族なんだから』


ちゃぷん――


『ユウミも早くいらっしゃい』


困惑しながらも、ユウミは湯へと足を踏み入れる。


ざぷん――


『あぁ……すぅ……はぁぁ……』


肩まで浸かり、力が抜ける。


(気持ちいい……)


身体の芯から温まっていく感覚。


(溶けちゃいそうだ……)


『ユウミ、こっちに……』


――その時。


ザッパァァァン!!


『なに!?』


『何者じゃ!』


ぷくぷく……じゃぷ


『……我だ』


『オリオン!?びっくりしたなぁもう』


『ずるいではないか!我を差し置いて湯浴みとは!』


『気持ちよさそうに寝てたじゃないか』


『馬鹿者!我は湯が大好きなのだ!』


『猫は風呂嫌いって聞くけどなぁ』


『我は猫ではない!!』


バシャ!バシャ!


『こら二人とも!静かに入りなさい!』


笑い声が、夜に響いた。


---


『ねぇ、お母さん』


『なぁに?ユウミ』


『お母さんとオリオンって、どんな出会いだったの?』


『そうね……この世界に来た時、助けてもらったの』


ユウミは、ふと胸がざわつく。


(やっぱり……)


その時――


『あの時は大変であったぞ』


『オリオン様!?まだいらしたんですか!?』


『まだとは無礼である』


『ユウミよ。教えてやろう』


『ちょっとオリオン様!それは――』


『玉藻はのぉ――』


一拍。


『滅ばしたのよ』


『……え?』


『滅ばした!?』


20話「それは既に温もりの中にある」を読んでいただき、ありがとうございました!


これまで戦い続けてきたユウミたちにとって、ようやく訪れた安らぎの時間。

その中で描かれる関係性や空気感を大切に書いてみました。


そして、この温もりの時間は――

次の旅立ち、そして別れへと繋がっていきます。


玉藻との関係、そしてユウミが受け取る“想い”。

次話以降も、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。


もしよろしければ、感想やブックマークで応援していただけると励みになります!


引き続き「龍眼の転生者」をよろしくお願いします!

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