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龍眼の転生者 〜内なる龍が目覚める時〜  作者: 小川 俊


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19/35

それは既に溢れ出している⑨【届いた声】

第19話をお読みいただき、ありがとうございます。

これまで戦いの中で力を得てきたユウミですが、今回は少し違う側面――

彼の内側にある「孤独」と「想い」に触れる回となっています。

強さとは何か。守るとは何か。

その答えに、少しだけ近づく物語です。

どうぞ最後までお楽しみください。

大岩の穴から光輝く軌跡が飛び立つ。


ドラゴンは口にエネルギーを収束させ溜めている。


そのエネルギーはどんどんと大きくなり、ドラゴンの頭部の三倍は膨れ上がっていた。


『あのエネルギー……災厄の瘴気と同じ気配だ』


『うむ。だが濃さは比較にならぬ』


ユウミとオリオンは真っ直ぐにドラゴンの頭部へ飛翔する。


カッ!!!!


溜まった瘴気のエネルギーが一瞬発光し、世界から色が抜けた。


ブバァァァアアアアンァァァアアア!!!!


直後、とんでもない大きさの闇が放たれる。


世界から音が消えた。


色も音もない世界で、光の軌跡が突き進んでいく。


小さな光が膨大な闇と衝突した瞬間、闇はみるみる霧散していく。


ユウミの刀の切っ先が闇を拡散させ、オリオンのオーラがそれを浄化していく。


ユウミとオリオンの勢いは止まらない。


そのままドラゴンの頭部へ到達する。


(不知夜、次はあれだ)


——使え。斬れ。


ユウミの瞳が黒く光る。


『ユウミ!行くぞ!』


『行っけーーー!』


光は一直線にドラゴンの口内へと突き刺さる。


ズッギューーーンッ!!!!


そのまま肉を、鱗を貫いた。


空を舞うユウミとオリオン。


ドラゴンはなおも後ろを振り向く。


『まだだ!先に行く!』


ユウミはオリオンの背から飛び降り、風とともに走る。


『ユウミ!』


ドラゴンはユウミを捉える。


ゴォォォオオオオ!!!


巨大な片翼がユウミを叩き落とそうと振り下ろされる。


『うぉらぁぁああ!!!』


ジャギィィイイン!!!!


斬り裂かれる翼。


ユウミは止まらない。


ブゥゥウンッ!!!


だが、次はドラゴンの右腕が襲いかかってきた。


翼を斬って一回転した体勢は、まだ追撃に備えられていない。


ガブリッ!!!!


疾風のオリオンが噛みつき、ドラゴンの右腕をユウミから遠ざける。


『斬れ!ユウミ!』


『ナイス!オリオン!!』


障害の消えた前方を、凄まじい速さで進む。


ドラゴンは最後の足掻きと言わんばかりに、再び口にエネルギーを収束させ始める。


ユウミは空中で居合の構えを取る。


『それはもういいよ』


居合一閃。


刀がドラゴンの首を斬り裂く。


ギヂギヂギヂギヂヂヂ……


『なに!?』


刀は確かに鱗を裂き、肉を断つ。


だが、喉の奥まで刃が届かない。


『くそっ!刃が進まな——』


『グォォォオオオ!!!』


ガシィィィンッ!!!!


飛来したオリオンが、自らの翼で刀を押し込む。


『うぉぉおおおおおお』


『グォォォオオオオオ』


ジャギ……ジャギジャギ……


『ギャォォ……』


ドシュゥゥゥウウウ!!!!


二人はそのまま地面へと突っ込んだ。


 


その直後、ドラゴンの巨体が落下する。


しかし——


地面に触れる寸前、その身体は黒い煙へと変わった。


煙は一直線に、あるものへと向かう。


ユウミの握る刀。


すべてが、そこへ吸い込まれていった。


 


ドラゴンVSユウミ&オリオン。


軍配はユウミたちに上がった。


 


『……ん……ドラゴンが……余が……負けた?そんなことは……あり得ぬ!』


煙が消えると、その中心からサタナキアが現れる。


『……終わらせん……このままでは……』


 


『ユウミよ。一人で向かうとは無茶をしたものだ』


『………』


返答はない。


『だが、やっと終わ——ユウミ?』


様子がおかしい。


片側の顔。


片目が真っ黒に染まり、口角が歪に吊り上がる。


身体は震え、刀を持つ腕をもう片方の手で押さえつけている。


『ぐゥ……へへ……ぅ……あは……』


半身が、勝手に動こうとしている。


やがて震えは止まり、手は腕を離した。


『大丈夫か……ユウミよ』


『あははは………』


オリオンが身構える。


『グォォォオオオ!!!』


聖なる咆哮が響いた瞬間、ユウミの半身が一瞬だけ元に戻る。


『コロし……コロす……』


『オリ……オン……離れろ……コロす……』


『グォォォオオオ!!!』


咆哮が重なる。


『ユウミ!呑まれるでない!!』


『……ぐゥゥ……やめ……ろ………』


『ユウミィィィ!!!』


『アヒャヒャヒャ!!!!』


ブゥンッ!


ユウミは刀を振り下ろした。


オリオンは後退し、それを避ける。


『殺す……皆殺す……八つ裂きだ……呪いだ……怨念を……』


地獄のような言葉を呟きながら、ユウミは刀を振り続ける。


その姿は、かつて災厄に呑まれた時と同じだった。


歪んだ笑み。狂気。闇。


 


(あぁ……心地良い……)


(このまま身を任せたい……この闇に……堕ちてしまいたい……)


 


意識の奥で、ユウミは闇の中にいた。


それは決して、ユウミ自身の闇ではない。


誰かの手の中にある闇。


 


『ユウミィィィ!!!』


(あぁ……オリオンが呼んでる……戻らないと……)


 


——坊や——


 


(この声は……!!)


 


——やめろ。


 


ユウミは、その瞬間我に返った。


 


見れば、オリオンが両後脚で立ち、両前脚を広げてティガロンオーラを放ち、咆哮を上げている。


 


『……オリオン』


『……戻ったか、ユウミよ』


瞳に安堵が宿る。


『もう大丈夫なのだな』


『あぁ、もう……』


 


——坊や——


 


ユウミは振り返る。


遠くに見える人影。


安堵が胸に広がる。


 


『良かった……無事で……』


 


『そこにいたか!!!』


 


怒号が空から落ちる。


上空に悪魔。


 


『サタナキア……生きていたか……』


 


手をかざし、呪文を紡ぐ。


その先には——玉藻。


 


(くそっ!)


 


魔法陣が展開される。


 


『やめろぉぉおお!!!』


 


ビュンッ!!!


 


ユウミは刀を投げた。


 


一直線に飛ぶ刃。


 


玉藻は息を呑む。

それは魔法陣にではない。


迫る刀。


 


ピシッ


 


心の奥で音がした。


 


ズバッ!


 


刀は魔法陣を斬り裂く。


 


サタナキアは即座に接近する。


手には魔法の剣。


 


振り上げる。


 


玉藻の瞳が固まる。


 


ピシッ


 


再び、乾いた音。


 


『願いの尾を……』


 


ピシッ……ピシッ……


 


殺気が心を砕いていく。


 


『寄こせぇえ!!!』


 


振り下ろされる刃。


 


バッ!


 


血飛沫。


 


世界が遅くなる。


 


顔に血が触れる。


 


ピシピシピシッ!


 


ユウミが、割って入っていた。


 


バタ……


 


『……良かった……お……母……さん』


 


その声が届いた瞬間——


 


バリィィィンッ!!!


 


何かが、完全に砕けた。


 


紫が溢れる。


紅い瞳。


膨れ上がる身体。


 


人ではなくなる。


 


バチバチバチッ!!!!


 


『な……なんだ……これが……』


 


ぐちゃっ……


 


アスモデウスだったものが、音もなく潰れた。


 


『グゥゥ……コォォォオオオン!!!!』


 


九つの尾。


淡い藤色の毛。


剥き出しの牙。


 


屋敷すら見下ろす巨体。


 


残骸を、何度も何度も引き裂き、噛み砕き、焼き尽くす。


 


『コォォォオオン!!!!』


 


紅い涙が止まらない。


 


グシャァッ!!!!


グァブシュッ!!!!


ゴゥゥゥン!!!!!


 


『コォォォオオン!!!!』


 


絶望と悲しみの咆哮が山を震わせる。


 


『…………お母さん……』


 


動きが止まる。


 


ゆっくりと振り向く。


 


その瞳に、玉藻が戻る。


 


ふわりと、紫の光。


 


目の前に現れる。


 


ユウミは立っていた。


オリオンが傍にいる。


 


足元には空の小瓶。


 


『……坊や………』


『……お母さん………』


 


玉藻は強く抱きしめた。


 


『……ごめんね………痛かったでしょ……ごめんね………』


『……大丈夫だよ……その……お母さんこそ……大丈夫?』


 


『……ええ。全部……思い出したわ』


 


『昔……何があったのか……』


 


ユウミは寂しい笑みを浮かべる。


 


『あの時、私は大事なものを奪われた。でもね——』


 


『その子が、世界を越えて……また私の元に戻ってきてくれた』


 


『ユウミは私の子よ。……わかるの、この魂が……そう言ってるの……』


 


ユウミの瞳が揺れる。


 


『……寂しい思いをさせて……ごめんね』


 


涙が溢れる。


 


『……俺……』


 


『……寂しくて……誰もいなくて……』


『家にも……どこにいても……ずっと……』


再び抱きしめる。


 


『……大丈夫。もう大丈夫よ』


 


『これからは、お母さんが傍にいるわ』


 


ユウミは笑った。


 


自然な笑顔だった。


 


オリオンも静かにそれを見守る。


 


『……た……玉藻様……』


 


傷だらけの灰狼が歩み寄る。


 


『カムイ!』


 


抱きしめる。


 


『……その名は……』


 


『あなたの名前よ』


 


『私はずっと、心の中でそう呼んでいたの』


 


『記憶を隠す靄があった。でももう消えたわ』


 


『あなたはずっと、私を守ってくれていた』


 


『ありがとう』


 


『……もったいなき……お言葉……』


 


『あなたの名前は——カムイ』


 


『オオォォォォン!!』


 


歓喜の遠吠え。


 


『さぁ、皆。屋敷へ』


 


『傷の手当てをして……たくさん話をしましょう』


 


玉藻の笑顔は、すべてを包み込むように温かかった。


 


その光は、ユウミたちの心を優しく照らしていた。

第19話「届いた声」をお読みいただき、ありがとうございました。

ユウミの中にあった“言葉にならなかった想い”が、ようやく形になった回でした。

そしてそれを受け止める存在がいること――それが彼にとって、どれほど大きな意味を持つのか。

静かな回ではありますが、物語の芯に触れる大切な一話です。

次回は、少し空気が変わります。

新たな日常と、これからの旅への準備が動き出しますので、そちらも楽しみにしていただけると嬉しいです。

引き続き応援いただけると励みになります

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