それは既に溢れ出している③
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
積み重なってきた違和感や感情が、少しずつ形になり始めています。
そして――戦いもまた、一段と激しさを増していきます。
守るための力。
抗うための意志。
それぞれの想いが交錯する中で、ユウミが何を選ぶのか。
ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。
『……なんだ、今の!?』
ユウミはすぐに外の方へ顔を向ける。
『門の方からです!』
『敵襲だ。悪魔どもの臭いが風に混じっている。』
オリオンが匂いで敵の情報を伝える。
『悪魔……不知夜を奪いに来たか!』
『奴らがここを攻めるのは、これが初めてではありませぬ。なぁに、某一人でこと足りまする。では、参る!』
灰狼は門の方へ走り向かう。
『ユウミよ、我らも向かおう!』
『わかった!』
ユウミはオリオンの後を追おうとした。
『……坊や!……母と……こっちへ……』
玉藻の声が、ユウミの背中に触れた。
ドクンッ
ユウミは、思い切り踏み出した足を止める。
付き人の魔物が、玉藻を奥の部屋へ避難させようと促している。
しかし玉藻は、ユウミを見つめたまま動こうとしない。
ユウミは、ゆっくりと振り向く。
『……大丈夫だよ』
玉藻の目が大きく開く。
その一言だけを告げると、ユウミは風のように外へ駆けていった。
ユウミが、灰狼とオリオンの元へ到着する。
大きな門は無残に破壊され、炎が上がり、周囲の地面は抉られていた。
その上空には、黒く異形な存在が五体。こちらを見下すように顔を向ける悪魔たち。
『貴様ら!いい加減にせぬか!』
灰狼が悪魔に向かって怒鳴る。
『これは失礼。門を軽く叩いただけなのだが、壊れてしまった。』
中央にいる悪魔が口を開いた。
他の悪魔とは一線を画す、異質なオーラを纏っている。
『グゥゥゥ……』
灰狼は威嚇するように唸る。
『まぁ、そんなことはどうでも良い。妖狐の尾を渡せ。』
(……妖狐の尾?)
『貴様らなんぞに渡すわけがなかろう!』
『なるほど。あ奴らの狙いは、玉藻が持つ“願いの尾”であったか。』
『オリオン、それって何なんだ?』
『ユウミにはまだ言っていなかったか。玉藻の持つ九つの尾――その一つ一つには力が宿っている。中でも“願いの尾”は、その名の通り、願いを叶える力を持つ。』
『先日、我らの同胞と駒であるゴブリンの軍を殺したのは、お前だな聖獣。』
『アスモデウス様。あの者もそうでございます。』
別の悪魔がユウミに向かって指を差す。
『ん?その刀は……もしや……』
アスモデウスと呼ばれた悪魔は、ユウミとオリオンを交互に見ながら思案する。
『なるほど。刀守りの聖獣が洞窟ではなく、ここにいる訳だ。』
その視線だけで、重力が増したかのような圧が場を支配する。
三人は、無意識に身構えていた。
『刀を手に入れた後は、ここを潰して尾を奪うつもりだったが……手間が省けて良かったではないか、ブエルよ。』
『はっ!』
『だが、妖狐を潰す為のゴブリン軍を予定外に失ったのは、いただけんなぁ。』
アスモデウスは、ブエルへと手をかざす。
『ア……アスモデウス様……お許しください!吾輩がこ奴らの首を――』
ズブッ!
シャッ!
黒い炎の剣が現れ、ブエルの胸を貫き、そのまま頭部まで斬り裂いた。
『そ……そんな……アスモ……』
『仲間を見捨て、軍を失い、己だけ無傷で戻るなど――私にはできんな。』
その光景に、ユウミたちは言葉を失う。
『どうした?何を驚いている。』
アスモデウスは、わずかに口角を上げる。
『ただの余興ではないか。……それとも、貴様らは違うのか?』
その言葉に、ユウミの胸に嫌悪が広がる。
『では、取引といこう。妖狐の尾とその刀を渡せ。そうすれば、命までは取らん。』
ユウミは、真っ直ぐにその目を見据えた。
『どっちも渡さない。――それに、お前はここで俺が仕留める』
『フハハハ、結構。――行け。』
その瞬間、三体の悪魔が同時に動いた。
灰狼が尾を振るい、一体へと向かい撃つ。
悪魔はそれを躱し、地面に着地する。
その体躯は他よりも大きく、棘の生えた巨大な金棒を担いでいた。
『名をジミマイ。楽しませろよ、狼。ギヒヒヒ』
もう一体へは、オリオンが爪を振り上げて飛び掛かる。
しかし悪魔はそれを大斧で受け止めた。
『名はバフォメット。今までの悪魔と同じと思うな、聖獣』
そして最後の一体は、黒い槍を出現させ、鋭い突きを放ちながらユウミへ突進する。
ガキンッ!
不知夜を抜き放ち、その一撃を受け止める。
『名はサタナキアだ。足掻いて見せろよ、小僧』
――こうして、悪魔との戦いの火蓋が切って落とされた。
四体の悪魔は、これまでユウミたちが倒してきた敵とは、明らかに格が違う。
そして――
アスモデウスだけは、空から戦場を見下ろしたまま、動こうとしない。
この戦いで、守れるのか。
――それとも、何かを失うのか。
第13話をお読みいただき、ありがとうございました。
ここまで来て、“力”と“心”のズレや揺れを少しずつ描いています。
戦いの中で見えるものと、戦いの中でしか見えないもの――その両方を大切にしたいと思っています。
次回はいよいよ、さらに核心へ。
溢れ出したものが、どこへ向かうのか。
引き続き、見守っていただけたら嬉しいです。
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