第25話:『真実の断片』、彷徨える魂
『次元の狭間』に現れた《システム・ブレイカー》の亡霊を浄化したリオスたち。しかし、彼の深い絶望と憎悪の記憶は、リオスの心を重く圧迫していた。ルシアンの部下だった男は、ただ絶望に囚われた魂だったのだ。そして、この街の至る所には、同じような絶望のノイズに侵食された、無数の亡霊たちが存在していた。
「リオス君、大丈夫?」
ソラが心配そうにリオスの顔を覗き込む。亡霊たちの感情を浄化した反動で、リオスの表情は青ざめていた。
「ああ…大丈夫だ。ただ…この街のノイズは、想像以上に深い。システム由来のものじゃない。現実世界の…人の心が発する絶望そのものだ」
リオスは、ルクスの力を通じて、そのノイズの根源を感じ取っていた。それは、エーテルニアのシステムが完璧な仮想世界を構築したにもかかわらず、なお、人々が抱え続けていた「負の感情」の具現化だった。
「もしかしたら、この街…いや、この『次元の狭間』は、エーテルニアが人々から切り離した、負の感情や記憶のゴミ溜めなのかもしれない」
アデルは、冷静に状況を分析し、一つの仮説を立てた。この街は、エーテルニアのシステムが作り出したものではなく、現実世界の脅威に対抗するために、人々が自ら生み出したものなのかもしれない。
その時、リオスの視界に、再びグリッチが走った。今度は、亡霊たちのノイズとは違う、別のデータだった。それは、ルクスがリオスと一つになる直前に、最後に送ってくれた、一つの座標情報だった。
『この座標は…現実世界の…どこかだ』
リオスは、その座標情報を仲間たちに共有した。それは、この『次元の狭間』の奥深くに存在する、ある場所を指し示していた。
「おそらく、この場所に、この世界の…いや、現実世界の真実に繋がる、何かが隠されている」
リオスは、その座標情報が、ルクスがリオスに託した最後のメッセージであると直感的に理解した。この座標の先には、エーテルニアのシステムが隠してきた、最後の秘密が隠されているのかもしれない。
「よし、行こう、みんな」
リオスは、改めて大剣を握りしめた。彼の心には、ルクスの残した座標への希望と、亡霊たちの深い絶望を救いたいという決意が満ちていた。
「ああ、行こう。リオス」
ミオは、リオスを信頼するように力強く頷いた。ソラは、リオスの後を追うように歩き始め、アデルは、未知の座標がもたらすであろうデータを解析することに心を躍らせていた。
彼らが目的地へと足を踏み入れた瞬間、ノイズの奔流が、一人の人物の姿を形作った。それは、全身を黒いフードで覆い、その顔には深い影が落ちている。リオスたちがこれまで戦ってきた《闇を視る者》とは違う、静かで、しかし不気味なオーラを放っていた。
「…よく来たな、『希望の光』よ」
男の言葉は、まるで世界の底から響いてくるかのようだった。
「私の名は…アルファ。エーテルニアに、最初にログインした者だ」
その言葉に、リオスたちは息をのんだ。彼らは、この男が、エーテルニアのシステムに深く関わる、最古の《システム・ブレイカー》の一人であると直感した。
アルファは、ルシアンとは違う、別の哲学をリオスたちに語り始めた。それは、エーテルニアという虚構の『楽園』を、現実の脅威から切り離し、永遠に人々を守り続けるべきだという、歪んだ『救済』の思想だった。
「この世界は、もう現実から切り離されなければならない。現実の絶望は、我々が知るべきではない」
アルファは、そう告げると、両手から、無数のノイズの粒子を放った。それは、リオスたちがこれまで見てきた、人の心を蝕むノイズとは比べ物にならないほど、強大で、そして、純粋な『虚無』のノイズだった。
「…来るぞ、リオス!」
アデルの叫びが、空間に響き渡った。
リオスたちの、真の敵は、ルシアンの絶望ではなかった。それは、この世界の最初から存在していた、歪んだ『救済』の思想だったのだ。




