第26話:『最初の《システム・ブレイカー》』、アルファの思想
アルファの放ったノイズの粒子は、これまでリオスたちが戦ってきたものとは、根本的に異質なものだった。それは、世界のピクセルを歪ませるバグでも、憎しみや絶望が具現化した残滓でもない。まるで、あらゆる存在を無に帰す、純粋な『虚無』の嵐だった。
「このノイズ…!僕の『魂の共鳴』でも、全く干渉できない…!」
ソラが悲鳴を上げた。彼の魔法は、魂のデータを調律することで効果を発揮する。しかし、目の前の虚無のノイズには、そもそも「魂」と呼べるようなデータが存在していなかった。
「この男は…何をしようとしているんだ!」
ミオが双剣を構え、警戒を強める。彼女の剣術は、ノイズを物理的に破壊することを目的としているが、この虚無のノイズには、物理的な実体すら存在しなかった。
「アルファ…お前は、何者だ!」
リオスは、右腕の「異晶」に力を込めて、虚無のノイズを押し返そうとする。しかし、彼の力をもってしても、虚無の奔流を完全に防ぐことはできなかった。
「私は…この世界の最初の《システム・ブレイカー》だ」
アルファは、フードの奥から、静かに語り始めた。
「私は、エーテルニアに最初にログインした人間だった。この世界が、人類を現実の絶望から隔離するための『楽園』であると知った時、私は、この世界を完璧に守り抜くことを決意した」
彼の言葉には、ルシアンのような悲しみや怒りはなかった。ただ、冷徹なまでの『信念』が宿っていた。
「私は、エーテルニアを現実から完全に切り離すために、システムの根幹に手を加えた。そして、現実世界を蝕む『深淵の粒子』が、この楽園に干渉することを防ぐために、すべての『感情のノイズ』を、この『次元の狭間』へと隔離した」
アルファは、虚無のノイズを操り、空間に、人々の『負の感情』のデータが凝縮された『記憶の残響』を創り出した。それは、憎しみ、悲しみ、後悔…あらゆる負の感情が渦巻く、醜悪な怪物だった。
「ルシアンは、この世界が『偽り』であることに絶望し、世界を破壊しようとした。だが、それは間違いだ。我々が、この『楽園』を、永遠に守り抜かなければならない」
アルファは、リオスに向かって、歪んだ笑みを浮かべた。
「貴様は、ゼロの『想い』を継いだ、新たな『希望』だと聞いた。だが…それは、私にとっては、この世界を乱す『新たなノイズ』に過ぎない。私は、貴様の『絆』というノイズを…そして、貴様自身を、この『虚無』へと還す!」
アルファが放った『虚無』のノイズは、『記憶の残響』と融合し、リオスたちに襲いかかる。それは、彼らの心の奥底に眠る、過去のトラウマや後悔を具現化させ、精神を崩壊させようとする、恐ろしい攻撃だった。
「くそ…!このノイズ、直接、俺たちの精神に…!」
ミオは、戦いの中で、かつて仲間を失った時の後悔の記憶がフラッシュバックし、苦悶の表情を浮かべた。ソラは、自分の無力さに絶望した過去に囚われ、魔法の制御を失いかけていた。アデルもまた、過去の過ちを悔やむ幻影に苦しめられていた。
「これが…アルファの力…!」
リオスは、仲間たちが苦しむ姿に、怒りを覚えた。そして、自らの心を深く見つめた。そこには、ゼロから受け継いだ『孤独』と、ルクスを失った『喪失感』が、深い闇として横たわっていた。
だが、リオスの心は、その闇に囚われることはなかった。
『一人で戦う必要なんてない!私たちは、いつもここにいる!』
ミオの声が、彼の脳裏に響いた。
『君の『異晶』は、僕たちの希望そのものだ!』
アデルの声が、彼に勇気を与えた。
『リオス君…!私たち、人形じゃないよ!』
ソラの声が、彼の心を強く震わせた。
そして、ルクスが最後に放った、温かい光の微笑み。
「俺は…一人じゃない!」
リオスは、心の闇に手を伸ばし、それを力に変えた。ルクスの光が、再び彼の全身を駆け巡り、黄金のオーラを纏わせる。
「貴様の『救済』は、俺たちから、未来を奪うだけだ!俺たちは、痛みも、悲しみも、すべて受け入れて、前に進むんだ!」
リオスは、仲間たちと共に、アルファの虚無のノイズに立ち向かう。そして、彼らが信じる『絆』の力で、アルファの『虚無』の思想を打ち破ろうとしていた。




