No.66 魔法と珍獣の空元気
薄幕の奥で眠らされていた二人を見て、顔色が悪くなくて安心する。
忘却の魔法は、副作用を伴うモノが多いから。
微かに甘い残り香が、リアルに魔法だと実感させる。
ベルーナさんは、黙って成り行きを見ている。
チラッと見ると、柔らかい微笑みが返ってくる。
それに、安堵を覚えてしまう事に苦笑いが浮かぶ。
ありがとうの気持ちを込めて、頭を下げてからサンエーリ様達に向き合う。
「まずは、何処からの記憶があるかの確認からよね?家族との記憶とかティーちゃんを覚えてるかよね?」
ハーツの視線は、横になっているサンエーリ様とをとらえて、先のビジョンを並べる。
私は二人を見て、何とも言えなくてただただ黙って見つめる。
「…何だかちょっとおかしいね。昨日までは、普通に笑いあってたのに…」
「本当にすまない…我々が油断したばかりに…」
椅子に座りながらも、深く頭を下げるシリーさんに私は左右に首を振る。
だってシリーさん達が悪い訳じゃない。
「大丈夫ですよ?私って図太いですから!まずは、二人を起こしましょう」
「そうね。まずは、現状を見なきゃね!大丈夫よ、私達筆頭はティーちゃんの味方よ☆」
「ありがとう。じゃ、起こしますか」
私はサンエーリ様とリーフ様の肩を揺する。
まぶたがピクピク動いた二人は、すぐに目を開ける。
「…私はどうしたんだろうか?」
「俺もサッパリ…あれ?君は……何処かで会った事あるような…」
リーフ様はおもむろに私を見て、首を深く傾げる。
サンエーリ様は、私をじっと見て不思議そうな顔でいる。
「私達にも分かるように、詳しく説明してもらえないだろうか?」
サンエーリ様の言葉に少し考えて、私は精一杯優雅に見えるように一礼。
私は魔法を解くために呼ばれた魔導師。
軽く深呼吸をして、二人を見て口上を述べる。
「お二人の忘却の魔法の解読のために派遣されて来た、一級魔導師ディアティア・セレーネです。以後お見知りおきを。これから少しの間ですが、よろしくお願い致します」
「私はディアティア様の筆頭・賢者ハーツよ。さぁ、サクサク解読してスッキリするわよ~!」
サンエーリ様は私を見て、本当に不思議そうな顔して質問してくる。
「君はなぜこの依頼を受けたの?特に得もないし、セレーネって事はディルの妹でしょ?お姫様がする事じゃないよ」
私は自分の中にある気持ちが込み上げそうになって、グッと手を握って微笑む。
「私って、珍獣なんです。お姫様らしくとか、似合わないんですよ。知ってましたか?珍獣に損得はありません。あるのは、自分の道独走なんです。簡単に言えば、自己満足ですよ」
そう、きっとこれは私の自己満足だ。
もしも…なんて奇跡にしがみつきはしないけど、それでも思い出してくれたら…。
柄にもなく内心センチな気分を、心で『私は大丈夫』と唱える。
私には筆頭達もいてくれるじゃないか。
「君は自己満足で人を助けるのかい?」
サンエーリ様の瞳には、私はどう映っているんだろう。
いつもの温かい瞳が嘘のように、温度を感じない。
沈みそうになる気持ちを、空元気で乗りきってやると決める。
「だから、珍獣なんです。私は自分が姫に相応しいとは、全く思っていません。でも王族として、人を守れる人間でありたいんです。誰かを守れる人間でいたい。王族は守る側にいなきゃダメなんですよね」
「…うっっ」
私は笑顔で言い切るのと同時に、サンエーリ様とリーフ様が唸って膝を着く。
慌てて私がサンエーリ様の前に膝をついて、顔を覗き込みます。
苦しそうに頭痛みたいなものに耐えてる二人に、私は無意識に頭に手をかざしてヒールを使う。
「…どうして…っ」
「効き目があると良いのだけど……」
私は痛みが引くように願いながら、魔力を二人にまんべんなく注ぐ。
いっぱい、いっぱいの私は、サンエーリ様の声は届かない。
ただ二人の苦痛が取れるのを精一杯お願いした。




