No.64 図書室デート~殿下の側近は甘やかな時間に身を委ねる
<ベルーナside>
握った手の温もりに、ドキドキと甘やかなトキメキがあって。
二十年間の中でも、女性をエスコートした事は何度もあった。
隣国の美姫や、貴族の美女もいた。
でもその時には、なんの感情も沸かなかった。
無関心、そんな言葉がぴったりくる。
なのに、数日前に出会ったばかりのティア様には…不思議と寄り添いたいと思う空気に包まれる。
特別美姫でも美女でもない。
言うなれば、ふわっとした素朴な美少女。
本人は珍獣だと言っているけど磨けば光るし、今だって十分可愛らしい。
戸惑いながら控えめに微笑む姿は、どんな姫より愛らしいのに、本人は無自覚なのはすごい。
まぁ、育ち方を聞くと納得出来たりはするんだけどね…。
そんな控えめなティア様の笑顔を見るために、悩んだ結果図書室に行く事にした。
外の四季を感じながら読書が出来るテラスは、ノル様の憩いの場所だ。
そこをノル様の許可を得て、ティア様を案内する。
「わぁ~、素敵ですね!読書しながらお庭も堪能できるなんて贅沢です!」
「では本を選んで、ここで読書しましょうか?あ、安心して下さいね。ノル様には許可は頂いてますから」
「はいっ!楽しみです♪あの…ところで、私が見てもいい魔導書なんてあらますか?」
目をキラキラさせる姿は、子供が宝物でも見つけた時の視線だ。
抱き締めてしまいたい感情を、上手く隠せているだろうか?
微笑ましい、なんて思いながら頷きます。
「あると思いますよ。エメラル国は、魔法の先進国です。きっと、ティア様のお探しの魔法も見つかると思いますよ?」
「本当ですか!では、是非お願いします!」
「はい、では探しに行きましょうか?」
「楽しみです♪ベルーナさん、ありがとうございます」
「まだお礼は早いですよ?さぁ、お手をどうぞ花の姫様」
「恥ずかしいので、花の姫様は禁止です!あまりからかわないで下さい…」
ポッと頬を染めて、ティア様は僕をじと目で見てきます。
なんだろう、この可愛らしい生き物は!
染まった頬もじと目も、ただただ可愛らしいだけで。
「からかってませんよ?ティア様は、僕にとって花の姫様なんですから。さぁ、ご案内しますね」
「もうっ!姫様ではありませんから…よろしくお願いします」
ふわっと、手を添えたティア様の手をギュッと握る。
ほのかにまだ頬を染めているティア様を連れて、魔導書の並ぶ区域に案内する。
綺麗に並べ替えられた本達を見て、ティア様の顔には笑顔が浮かぶ。
「これ、全部読んで良いのですか?」
もう視線は、並ぶ本棚に注がれている。
本当に本が好きらしい。
握られてる手をそのままに、本の吟味は始まったらしく目は真剣だ。
視線を巡らせて少しすると、パッとティア様の表情が花の様な笑顔を乗せる。
かなりの厚みのある魔導書だ。
「この本が良いです!ベルーナさんはどうしますか?」
「僕は読みかけの本がありますから。では、戻りましょう。重いでしょ、僕が持ちますよ」
「大丈夫ですよ!気持ちだけ頂きますね。ありがとうございます」
ティア様が、パチッと指を鳴らすと粉雪みたいなチラチラと魔力が見えて、本の周りを包み込む。
厚みのある本を、軽々と抱えて微笑む。
「ねぇ?私は珍獣枠なんですよ」
クスクス笑うティア様に、意表をつかれてしまう。
自ら珍獣枠だなんて笑えるまでに、どんな時間を過ごしたのか。
清々しい表情からして、本人は気にしていなくても僕は心の隅で切なくなってしまう。
それでも、ティア様が笑っているのなら…深く追及するのは辞めよう。
悲しい顔はしてほしくないから。
「ではでは、愛らしい珍獣姫様。お席にご案内します」
「お願いします、王太子殿下の忠実な魔導師様」
ティア様の言葉に驚く。
一度も僕はティア様に、魔導師だとは名乗ってない。
見た目は、背が高いものの筋肉質な訳でもなく文官よりだ。
宰相候補であるが魔力もそれなりにあった僕に
、ノル様は一緒に魔法の勉強をしないかと誘ってくれて。
光属性のノル様程ではないにしろ、火と風が使えた僕は見事魔導師の免許取得。
ノル様に遅れる事二年の十五歳で、魔導師になれた。
でもその事を知っているのは、ごく近い一部の人達だけ。
「なぜ、分かったのですか?」
本当に疑問でティア様をエスコートしながら聞くと、コテッと首を傾げるとさも当然のように呟く。
「えーと、魔力が見えるから?あとは、勘なんですけど」
「ティア様は、魔力視力をお持ちなんですね」
「そうみたいです。魔力を見れる様になったのは、先生のおかげなんですけどね。最初は調整出来なくて怖くて、先生やお兄様に迷惑かけたんです」
懐かしいそうに苦笑するティア様。
『今よりは可愛げはあったかも?』なんて、冗談まじりに言ってクスクス笑う。
僕は微笑ましく思いながら、ティア様を席までエスコート。
「エスコートありがとうございました」
「光栄です。では、ゆっくり読書時間を楽しんで下さい」
「はいっ!ありがとうございます♪」
厚い魔導書をめくり始めたティア様を、本を片手に観察してみる。
ページをめくり始めて数秒。
「あっ……、これ…先生の字。文字の止め跳ねの癖も、文章の癖まで一緒だ…」
文章を撫でるティア様の表情は、嬉しいような寂しいような不思議な表情。
確かに著作者名に、“スノーリー ・エメラル”と書かれている。
「本当にスノーリー様の事が好きだったんですね」
「きっとスノーリー先生は、私の初恋の人なのかもしれません。優しくて、穏やかで、温かくて。私もあんな人になりたいです。まだまだ、足りませんけど」
「十分だと思いますよ?ティア様の傍は、温かくて優しくて。僕は今のティア様が、とっても素敵に思えます」
「いえ、そんな…私はまだまだですから!」
左右に顔を振るティア様に、僕は笑ってしまう。
照れた表情も焦ったような言葉も、どれも魅力的で。
ティア様は、自然体で人を寄せ付けるのかもしれない。
「あの…この本、貸し出しは出来ますか?」
「僕が借りて、ティア様に貸すことは可能ですよ。ティア様は、まだ正式に婚約を発表されていないので、立ち位置が微妙なんです。今は内密に、サンエーリ様とリーフ殿の婚約者候補が、正確な立場ですから」
「そうなんですね。では、その様にお願いしてよろしいでしょうか?」
「はい、お任せ下さい。その本だけでいいのですか?」
コクリと頷く姿が幼く見えるティア様に、僕は見とれながらも頷きます。
「ベルーナさん、よろしくお願いします」
「お願いされました。では、手続きを」
「ベルーナ様・ディアティア様、至急陛下の執務室までお出でください!」
バタバタ足音をさせながら、僕の言葉を遮るのはるのは、陛下の近衛騎士だ。
僕とティアは、首を傾げながらとりあえず了承する。
せっかくのティア様の時間だったのに!
それでも、近衛騎士を無視することは出来ずに、仕方なく手早く本を借りて陛下の執務室に急いだ。
次に誘うときは、城下町もいいかもしれない。
緊急事態なのに、頭の中はそんな事を考えていた。




