No.63珍獣は考え中
小鳥のさえずりと一緒に起きて、侍女さんやメイドさんの来る前に着替えてしまう。
侍女さん一人に、メイドさんが二人。
小ぢんまりとしてても、やっぱり苦手。
侍女さん、メイドさんごめんなさい。
「慣れないんだよね~」
イマイチな言い訳にしろ、事実だから仕方ない。
今までが今までだから。
諦めてもらった方がいいと思う。
でもそれが出来るのも、今までの着回しが許されているから。
これがサンエーリ様とリーフ様の婚約者として、正式に御披露目された後になると……きっと難しいよね。
「何処で誰が見てるか、吟味されてるか分からないもんね?」
質素ながらも工夫を凝らしたワンピースやら、シンプルなドレスはお気に入りなんだけど。
セレーネでは、毎日がこんな感じ。
もちろんハーツモデルのドレスも好きなんだよ?
ただ毎日はちょっとしんどい。
今はサンエーリ様とリーフ様の優しい配慮から、ハーツの目を盗んでは着飾るのを回避している。
つい昨日も、違うドレスで帰宅した私を叱ったのはハーツ。
ドレスをちゃんと持って帰宅したのに、ハーツからこんこんと説教タイム。
心配させてしまった事を、サンエーリ様やリーフ様にお詫びしたのは……帰宅してから数時間後。
サンエーリ様もリーフ様も、苦笑いしながら『心配なのは愛するティアだからなんだよ?』と言って、頭を撫でてくれた。
心配させてしまったのは反省。
ちょっとだけ嬉しかったのは、秘密にしておこうと思う。
ベルーナさんの晴れやかな笑顔も、なんとなく気分よし!
ワンピースに着替えて、クルッと回って変な所がないか確認して椅子に 。
時間を空けずに、コンコンとハーツとハルクが顔を出す。
「俺の姫君はご機嫌いかがかな?」
「おはよー♪あら、今日はシンプルね~?もう!着飾るのだって女の子の特権じゃない~!」
ハルクの見慣れない衣装は、私の筆頭になった証の制服だ。
軍服もどきみたいなデザインは、決して私の趣味じゃない。
もろハーツの趣味だ。
ハーツだって上着の裾が長めではあるものの、大まかな形はユーリやジェニーと一緒。
ただ制服は私の自室や軽い散歩くらいなら、上着を脱いでる場合が多い。
ガチガチに着飾るのは、夜会やお偉い方達の訪問などなど。
普段は上着を脱いでいる。
シャツスタイルになると、シンプルで控えめな正装みたいに見えるから不思議。
これは、顔面偏差値の成せる技か?
「おはよう。今日は薬草を見に行く予定だから、コレでいいかな~って」
そう、今日はサンエーリ様とリーフ様が近くの森に連れて行ってくれると、昨日提案してくれたから。
薬草から離れてまだ2日なのに、なんだかしっくりこなくなってたから、素直に嬉しかった。
国での働きがエメラル国では求められないから、いたたまれないような……落ち着かないような?
なんて性分なんだとか思いつつ、私だから仕方ないと思う。
「んもうっ!ティーちゃんは、もっと女の子を楽しむべきよ。ドレスに宝石にお花。お買い物にお茶会に恋話♪」
「楽しんでるよ?薬草も魔法も大好きだし。買い物だって、自作出来るモノで間に合ってるし?お茶は里の葉っぱが好きだよ」
「姫君、お茶とお茶会は違うぞ~?まぁ、だから姫君なんだけどね!」
「ダメじゃないっ!もっともっと女の子を楽しみましょうよ~。婚約者も出来て、幸せ真っ只中なんだから」
うむ、意見の相違。
私は今のままで、結構幸せなんだけどね。
今さら女の子を楽しむのは、かなりハードルが高い。
キラキラ女子はこの国にはマリーン様始め、カリーナ様にルルーさん。
うん、間に合ってるよね。
「幸せだよ?だから、今のままでいいかな~って。エメラル国の女性は、皆綺麗だし。私の担当は珍獣枠だからね?」
そう、声を大にして言いたい。
私は珍獣枠であって、美少女枠でも美女枠でもない。
言ってしまえば、サンエーリ様とリーフ様に選らばれた奇跡の珍獣枠。
「ティーちゃんも顔は美少女よ?ちょっと控えめでフワッとした女の子なだけで。そもそも、ティーちゃんの周りの人達が、顔面偏差値が高いのよ!お兄様やお父様は月の化身と言われてるし、サンちゃんもリーフ君もキラキラのイケメンだし!」
「確かにサンエーリ様なんて、女装も美女になりそうだもんね~。ベルーナさんもか!リーフ様は、本当の騎士さえかすむ美しさだもんね」
「姫君……それ、本人聞いたら泣いちゃうレベルだぞ?」
三人で盛り上がっていると、コンコンとノックで話が中断する。
「ハーイ♪どちら様かしら~?」
ハーツの軽快な足取りでドアを開けると、そこには軽装でありながらキラキラ眩しいベルーナさんがいらっしゃいました。
「ティア様はいらっしゃいますか?」
「もちろん。中でくつろいでいるわ~♪どーぞ、お入り下さいな」
ハーツに一礼して、私の目の前に来たのは目を潰す勢いの笑顔のベルーナさん。
私は、はて?と考えてしまう。
今日来るはずの人は、サンエーリ様とリーフ様である。
ベルーナさんは流れる動作で膝を付くと、フラッシュなみの笑顔で説明してくれた。
「サンエーリ様とリーフ様が、急遽外せない公務が出来てしまい、今日はご一緒出来ないと……なので、僕が違う場所をご案内致します」
「いえいえ、ベルーナさんは王太子殿下の筆頭でご多忙ですよね?私なら、適当にフラフラしときますよ?」
毎日多忙なベルーナさんを、私の暇潰しで振り回してはいけません。
薬草がのびたのは残念だけど、公務なら仕方ないしね。
サンエーリ様は王子様で、リーフ様は筆頭なんだもん。
「僕では役者不足ですか?僕は今日、代休なんです。是非、僕にティア様のご案内さして頂けませんか?」
「代休なら、休んだ方がいいんじゃ……」
「代休だからこそ、ティア様に会いに来たんです。僕にティア様の時間を、少し分けて頂けませんか?」
深々と頭を下げるベルーナさんに、私はお手上げ。
逃げようにも、八方塞がりでどうしましょう。
このまま行っても、ベルーナさんの引く気ゼロな気がするよ。
「後悔させません。僕と過ごしてくださいませんか?僕はもっと、ティア様を知りたいし、僕を知って欲しいです」
グイグイ来るね~。
逃げ道は無しですよ。
これは仕方ないよね。
基本NOが苦手なんだよね。
「えーと…あの…私でよろしければ?」
「ありがとうございます!では、まずは……お城の案内から始めましょうか?ティア様は、本が好きだとうかがいました」
「あ、はい。本は好きですね。趣味程度ですが、なんだか本を読んでと夢中になって、寝食忘れてしまうんでハーツやユーリに怒られるんです」
「それはすごい集中力ですね。では、筆頭の皆様に心配かけないように、僕がお目付け役をしましょう」
スッと手を差し出されて、反射的に手を乗せてしまいます。
その時のベルーナさんの笑顔が眩しくて、私は圧に負けて手を引っ込めずにいた。
「素敵な休日にしましょうね。僕なりに精一杯、ご案内をしたいと思います。よろしくお願いしますね?」
キラキラ眩しい笑顔の押される形で、私は愛想笑いをしながら゛乗りきれるかな……゛なんて考えました。
心臓持つかな……頑張れ私の心臓!
内心気合いを入れ直して、ベルーナさんに笑顔を向けた。




