表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
62/66

No.62 珍獣=お花の姫様~優しく愛しい人


<サンエーリside>


庭に案内されている間、私が考えていた事はティアの事。

ティアが断りなく外出したと聞いて、一瞬頭が真っ白になった。

先日の脳筋騎士が暴走して、ティアを殴ったり罵倒したり。

ケガまでさしてしまった。

嫌になって里帰りか、旅に出たっておかしくない。

現に母上には、逃げられる確率八十%と言われてしまっている。

焦っていた私に、ベルーナは申し訳なさげに膝を折り頭を下げた。


「きっと妹はティア様に構って頂きたく、単身で乗り込んで来たのかと……ティア様の優しさに甘えたのでしょう。どの様な処分でも、受ける覚悟は出来てます」


神妙な面持ちのベルーナに、報告に来ていたハーツ殿はケラケラと笑いだす。

私達が首を傾げるなか、ハーツ殿は゛考えてみて~゛と前置きして言葉を続ける。


「送って行くって決めたのはティーちゃんで、サンちゃん達に心配かけるって分かってて行ったのよ?それって、ティーちゃんの意志って事よ~説教も覚悟のうち。それに、説教はしてもいいけど全否定したらティーちゃんの人格は?自由は?意志は?束縛と心配は別ものよ~」


ハーツ殿はよく分かっている。

ここでベルーナに罰を与えることは、自発的に動いたティアの優しさを否定することになる。

私達はそのままのお人好しで、優し過ぎるティアに惚れたんだから。

惚れた弱味だけど、ティアの優しさや在りかたを否定したくない。

大切な私達のお姫様だから、そのまま変わらないでいて欲しい。

心配したことについては、ちゃんと話をすればいい。

ティアの手を握りながら、新たに考え直す。

歩いて三、四分。

真っ赤な薔薇の綺麗な庭に案内された。

赤を中心にピンク、黄色、紫の薔薇が迎えてくれる。


「ここが、妻の庭にございます。ここの薔薇は、セレーネ産が多くございます。気分もほぐれるでしょう。まず、お席の用意が出来ていますので」


「ありがとうございます。えーと……ベルーナさんのお父様ですよね?」


ペコリと頭を下げたティアに、シークは神妙な面持ちでティアの目の前に膝を折り、胸に手を当てて深々と頭を下げる。

横にはベルーナも一緒の動作で、深々と頭を下げる。


「この度は、うちの娘が申し訳ありません。身勝手な振る舞い、我が儘な行動。なんと言われても言い訳は出来ません!」


「ティア様の思うままの罰を。とおに覚悟は出来ています。厚かましいお願いですが……罰は僕だけでご勘弁して頂ければ」


「何を言う!キートス家は、私が当主であり責任者。罰を受けるのは私が妥当だろう」


「当主であるからこそ、父上は自身を大切にして欲しいのです!」


「私の忠誠は陛下へ。しかし、愛情の全てはルルーやベルーナ。シャンに渡したいんだ」


「素敵な家族ですね。なんだか、幸せのお裾分けをもらえた気分です」


フフッと微笑んで二人を見ていたティアは、私の手を離れると膝を折っている二人の前にティアも膝をつく。

そしてベルーナに視線を合わせる。


「ねぇ、ベルーナさんは…すっごくご家族に愛されているんですよ。ベルーナさんは、必要な人なんです」


「僕は必要とされていたのに、気がつかなかったんですね…」


ポソッとこぼしたベルーナの言葉は、安堵が混ざっていた気がした。

ベルーナの呟きを拾って、難しい顔をしたのがシーク。


「ベルーナのお父様、言わないと伝わらない事があるんですよ?誤解したりすれ違ったり。愛は一番尊くて、一番厄介なんですから」


「そうですな……愛を伝えるのは難しいもの。私の愛が息子に伝わっておらんとは……ベルーナ、寂しい思いをさせてすまなかったな」


「父上……そんな。僕は父上の息子でいられる事を、今も昔も誇りに思います」


「私もベルーナやルルーが、自慢の子供だと思っている。して、ディアティア様。厳罰も子供達のためなら、私が被る覚悟も出来ております」


また頭を深く下げるシークに、ティアは少し考える素振りを見せてベルーナを見て私を見る。


「サンエーリ様、リーフ様。私が罰を決めてもいい?まずいかな?」


「いいんじゃねーか?被害者はティアだしな?」


「そうだね。ティアに任せるよ」


リーフの言葉に、ティアの目が光った気がした。

私は考えるまでもなく、ティアに頷いて賛同する。

二人の目の前に膝をついたまま、ティアはにっこり微笑む。


「では、ベルーナさん。三日に一回は自宅に帰宅して、家族と対話する事。シークさんは、ベルーナさんが根をあげるまで愛情と言葉を伝えて下さい」


「ディアティア様……それが私達の罰だと?」


「はい、家族は一緒が素敵なんです。幸福は数倍に、悲しみは半分以下に出来るのが家族なんですよ?それに、ベルーナさんはお父様にソックリなんですね」


シークは顔をくしゃっとして、頭を深々と下げる。

ベルーナも同じく頭を深々と下げると、近くにいたティアの手を握る。

あれ?なんだか嫌な予感がするけど……。

止める間もなく、ティアの手首にベルーナがキスをする。

手首のキスは欲情。


「出会ってまだ日も浅いです。でも、いとも簡単に僕の数十年の悩みを解決してくれて……真っ直ぐに物事を考える強さ、包み込む優しさ。ティア様の全てに魅了され、恋い焦がれる。僕をティア様、貴女のモノにしてください」


「おぉ、やっとベルーナ。お前のお姫様が見つかったんだな」


感動の展開を広げている二人に、私とリーフは慌てる。

まさかこんなに早くベルーナが動くなんて……想像すらしてなかった。

ちょっと強引にティアを立たせると、私とリーフはティアを抱き締める。


「ベルーナ、他で探せばいい。ティアは私とリーフのものだよ」


「五人までは、合法ですよ?ティア様は僕ではどうしても嫌ですか?」


「えっ……あの…」


ポッとティアの頬が染まる。

口ごもりながらも、ティアなりに一生懸命言葉を探しているのが分かる。


「ティア様の心が欲しいです。今まで僕の心を動かしたのは、ティア様……貴女だけなんです。返事は今すぐでなくてもいいです。僕の心はもうティア様にだけに。僕は待つのも、忍耐力もあるんですよ?」


パチッとティアにウィンクしたベルーナに、私とリーフはため息を吐き出す。

ティアはピシッと固まって、ベルーナを見つめてる。


「俺をこんなにヤキモキさせるのは、ティア。俺の可愛いお姫様だけだぜ?」


「そうだね…ティアの魅力に気がつくのは、私達だけでいいのにね。ベルーナは厄介な…」


私とリーフの呟やきは、熱烈なベルーナの言葉の前ではティアには、届いていないらしい。

今も耳や首まで赤く色を染めて、視線を泳がせ始めている。

いっぱいいっぱい。

そんな言葉がピッタリなティアの体を、私とリーフはギュッと抱き締めた。

私達の前からいなくならない事を願って。

シークは一連の流れを見て、何故かやたらと嬉しそうだった。

一瞬、嫌な予感が過った気がしたけど……本当に一瞬で意味が分からなかった。

この嫌な予感が分かるのは、数日後だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ