No.60 困惑する珍獣と美少女
花柄の壁紙が可愛らしく、家具や調度品も白とピンクの女の子らしい部屋。
私はアメジスト色の、シンプルな体にそったラインのドレスを着せられて……薄く化粧までされている。
メイドさんがワラワラ群がると、あっという間に脱がされて磨かれた。
拒否も出来ないまま、流れに流されてフラフラ。
ぐったりした私を待っていたのは、先日ぶりのベルーナさんの妹さん。
「ふふっ、やっぱりディアティア様は素敵ですわ♪皆さんにお見せするのが、とっっても楽しみですわ!」
「……そう、ですか……はは」
どうして、私が彼女と一緒にいるのか……それは、押しに弱い私のせいに他ならない。
思い返して頭を抱えてしまう。
ーーーー太陽が眩しいお昼前。
私はノルお義兄様に頂いたブローチを着けて、ハーツと緑の宮を散歩していた。
歩く足を止めて、硝子にうっすら写った自分を見る。
今日は金色の月のブローチに合わせて、紺色のドレスを着て、スカートもボリュームを持たせた地味ながらも可愛らしい装い。
ハーツモデルが、全部ダメになったのが悔しかったのか…ハーツは渾身の力で、一週間で新たなドレスを仕上げた。
レースでスカートにボリュームを持たせ、私の淡い色彩に合う紺色という斬新なアイデアで作られたドレスだ。
「ブローチにピッタリね~♪ティーちゃんを月に例えるなんて、ノル王太子様もなかなかね!」
「じゃ、水晶はハーツ達?一、二、三、四、五、六、七?筆頭は、四人だよ?他は……??」
硝子からハーツに顔を移して、眉間に指を当てて考える。
ハーツは少し考えて、ポンッと手を叩いて私を指差す。
「サンちゃんとリー君じゃない?あ、でも一つ多いわね?…………あっ、もしかしてベルーナさんじゃないかしら!」
「いやいや、待って!私はまだ返事してないし、第一ノルお義兄様が私が求婚されてるの知らないと思うよ?」
「もし、知ってるとしたら?ベルーナさんの背中を、バシバシ押しまくってるとしたら?」
私はボッと熱くなった顔を、両手で隠して俯く。
今は顔を上げるのはよそう。
絶対っ、ハーツは私の反応をオモチャにするから。
今だって、柱に寄り掛かりながら肩を揺らしている。
ツボッたらしい……今だに、ハーツのツボは謎に満ちている。
私はハーツを睨みたい気持ちを堪えて、顔の熱を下げるのに集中する。
そこへ、聞きなれない足音に反射的に振り返った。
緋色の髪を綺麗に結った、赤い目の儚げな美少女が一人。
私を見て駆け寄って、数センチの距離までくると……抱きつかれた。
身長的には、私の方が少し高いから不思議な状態なう。
「会いたかったですわ……私の王子様」
「えっ??……あの、ベルーナさんの妹さんですよね??」
一瞬、体を離すと驚いた顔をして、すぐに嬉しさに染まった顔でギュッとまた抱き付いてきた。
甘い香りに包まれて、美少女の柔らかさにドキドキしてしまう。
「嬉しい!光栄ですわ~ディアティア様に、覚えて頂いていたなんて……ルルーです。ルーとお呼び頂けたら嬉しいですわ」
はにかむ美少女に、抱かれている珍獣。
なんてシュールな……。
先日の事で美少女を、戦闘力も危険性もないと判断されたのか、ハーツは止めもせずにただただ傍観スタイル。
助けろよ、筆頭魔導師!
「あの、ルルーさん?」
「はいっ♪なんでしょうか、王子様?」
「いやいや、王子様はノルお義兄様やサンエーリ様ですよ?!私は、あの…ただの通りすがりの珍獣で!」
「ぷっ!!」
私があたふたしていのを見て、吹き出すハーツ。
うん、あの筆頭魔導師。
やっぱり後で殴り倒す!
心でガッチリ決めた時、私を抱き付いていたルルーさんが顔を上げて綺麗な笑顔のまま
「王太子殿下は、素敵な紳士ですわ。奥様とも仲がよろしくて。でも、二番目はクズ!紳士なんて言葉は、彼の辞書には載ってないわ。か弱い女の子を、石コロでも見るみたいに!態度だって、冷たいし!」
石コロって。
マリーン様も、そんな事言ってたけど。
サンエーリ様もリーフ様も、女の子に冷たい対応してなかったけど??
イマイチ、ルルーさんやマリーン様が言った事が理解できない。
「お二人とも、優しい方達ですよ?」
「うーん、そうですわ!これから、私の家に来ていただけませんか?」
「いえ、私はサンエーリ様やリーフ様の許可がないと。心配させてしまいますから」
一瞬にしてシュンとしょげたルルーさんに、私は頬をかきながら 模範的な無難な返事を考えているとふっと、怪しい表情を浮かべる。
「…………フフッ、さてディアティア様問題です。私は誰と此処にきたでしょうーか?」
しょげてたはずのルルーさんが、にっこり嘘くさい笑みをのせる。
嫌な予感がする…、のは気のせいかな?
ヒシヒシ感じる嫌な予感。
「も、もしかして、お一人様じゃないですよね?」
ハハハッ、と乾いた笑いを浮かべる私に、ルルーさんは無言の笑顔。
イエスと言っている。
まさかのイエス!?
「いやいや、まずいでしょ?!可憐な美少女は、護衛の二人や三人付けて歩かないと!ベルーナさんが、狙われやすいっていってましたよ!?」
「だって、お兄様は帰って来てくださらないし…それに何より、王子様であるディアティア様にお会いしたくて…ディアティア様は、私を嫌いですか?」
「いえ、嫌いと言うほど知りませんし……って、なんでお一人様なんですか~」
「会いたくて必死だったんです。旦那様方は、今のお城は危険だ、の一点張りで。私の意見なんて、聞いてもらえなくて、だから!」
目を潤ませているルルーさんは、儚げな容姿も相まって可憐な美少女が一生懸命に会いに来た図になってます。
が、考えてくださいませよ。
先日、正にこの付近で襲われていた人物は誰か??
うん、旦那様方の意見が正しい。
美少女・ルルーさんには危険すぎる。
「帰りましょう?きっと旦那様方も、心配していますよ?心配をかけてはいけませんよ?」
「一人では嫌です!ディアティア様、私の王子様。一緒にいらしてくれるのなら、今すぐに帰宅しますわ」
「え……と、先程も申し上げた通り、私が勝手に留守にする訳には」
「じゃ、帰りませんわ!」
ぷいっと、顔を背けてしまったルルーさんに、私はもはや諦めの境地。
無視するのは簡単だけど、このままルルーさんを放置出来るかと言えばNO。
お人好しと言われようが、儚げな美少女をスルーするなんて出来ない。
ちょっと変わった子であっても、狙われているのは美少女で危険度MAX。
考えるまでもなく、答えは出てしまう。
「ハーツ、私は彼女を送って行きます。サンエーリ様とリーフ様には、心配しないで下さいと伝えて。彼女を送ったら、すぐ帰宅しますから」
「ティーちゃんなら、そうなるわよね~。世界一のお人好しなんだから!」
「ルルーさん、私が送って行きます。旦那様方が、きっと心配してますよ?」
「大好きですわ、ディアティア様!」
ギュッと抱きついてくるルルーさんに、私はお手上げですよ。
我が強いのは、誰に似たのやら……。
こうして、私はベルーナさんの妹である美少女に連行されてきた。
その後は、お察しの通り。
ワラワラのメイド。ぐったりする私。
現在進行形で、魂が飛んじゃいそうです。
「ディアティア様のドレスは、そのまま保存しているので安心してくださいませ♪」
ご機嫌なルルーさんに、私は引きつった笑顔で一応一安心。
これでドレスを無くしたら、ハーツがいじけるかキレるか。
うん、キレて手に負えなくなる。
「お嬢様、お時間です」
「分かったわ。ディアティア様、行きましょう?」
控えめに一礼して言ってきたのは、茶褐色の髪の可愛いメイド。
メイドちゃんの言葉に、ルルーさんは私を引っ張って部屋を出る。
連れられるまま案内される私。
そして、内心あたふたしていた私が連れてこられたのは……
「…お花の集まり?」
そこには、思い思いに着飾ったお嬢様方がテーブルを囲んでいました。
場違い、マジで今すぐに回れ右をして逃げ出したいです!
キラキラ、フワフワ。
みんな色々な赴きの美少女に、怖じ気づきます。
私の気持ちをスルーするように、ルルーさんは私の手を引っ張って、自分の横に導きます。
一気に、注目を浴びて顔が引きつります。
「私のお茶会に来て頂いて、すごく嬉しいですわ。皆さんが気にしている、素敵過ぎるお花のお姫様ですわ!」
皆さんの反応は、半々でうっとり眺める人と、キッと睨む人。
あー、これ面倒くさい感じになるな…。
「フフッ、これがお花ですって!とってもユーモアがおありですのね!」
波打つ金髪に緑色の瞳の美女が、扇で顔を隠して爆笑している。
瞳には、侮蔑の色を見せて。
それに続いて、クスクス笑うのが数名。
今、現在進行形で安心しているのは、筆頭達が傍にいない事。
ルルーさんは、一瞬悔しそうな表情をしたかと思うと、すぐに寒いくらいの笑顔を浮かべている。
あー、やっぱりこれダメだ。
私は遠くを眺めながら、とりあえず無になることにした。




