No.55 お茶会と王妃様と魔法樹
ハラハラ散る花弁に、私は目を奪われてしまう。
淡いパープルの花は、潔くそして清く美しい。
そして……私には懐かしい花だった。
春を知らせる花゛サクラ゛だ。
前世では近所の公園で家族や友達と花見をしたり、出会いと別れの季節の代表の花だった。
私は春が一番好きだった。
温かい風が花の香りを運んでくる、新たな旅立ちに涙したり、新たな出会いにドキドキしたり。
そんな私達を、サクラの花はいつも見守っていてくれていた。
今、目の前に色は違えどそっくりなサクラが、風に揺られながら花弁を散らし幻想的な風景を作っている。
「キレイ……この花好き、だな……」
自然ともれた言葉は、前世の私が頭の中でチラチラする。
家族の顔は忘れてしまったけど、なんとなく残っている記憶に胸がギュッとなる。
見上げたままいる私に、サンエーリ様は手を握ったまま頬笑む。
「この魔法樹が見れたのは、ティアのおかげなんだよ?」
「ティアの魔力に反応したのは、確実に間違いないしな。俺達も初めてみたけど……綺麗だな」
リーフ様も私の手を握って、微笑みを浮かべる。
少しの間、私は無言で綺麗な花に魅せられる。
「さぁ、温室に行きましょう?温室から見る魔法樹も、キラキラで綺麗なのよ」
立ち止まっていた私達を、マリーン様がクスクス笑いながら先を促す。
改めてマリーン様って、綺麗だな……なんて思っちゃう。
魔法樹と並んでも、霞まないマリーン様スゴい。
うっかり見とれそうになって、手を引かれて温室に行く途中だったのを思い出した。
行く途中にもチラチラと花が咲いていたけど、温室では淡い青の薔薇とピンクの薔薇であふれていた。
魔法樹も見えて、薔薇まで見れるなんてお得。
特に淡い青薔薇は、育てるのが難しいって先生に聞いたな~。
セレーネでは、庭師さん達が品種改良をして特産品を産み出してた。
淡い青薔薇も、セレーネの庭師さんの力作だったはず。
「さぁ、お座りになって。ここは、私の憩いの場なの。趣味の野薔薇を育てたり、この青薔薇ちゃんは旦那様からのプレゼントなのよ」
「二度目ですね、咲くの。父上もノル兄上も、毎回花ですよね…朴念仁も顔負けだと思います」
「俺達はそうならなきゃいいさ。まぁ、ティアは花も好きだからたまにならいいんじゃないか?」
「私と旦那様は花で良いのよ。私の趣味は園芸ですもの!旦那様は、私をよく見ててくれているのよ?」
「母上も父上を愛でているのだから、お互い様ですね」
「あら、旦那様は意外に可愛いのよ?どこかは、秘密だけれど」
柔らかく頬笑むマリーン様。
本当にシリーさんと仲良しなんだ。
なんだろう、この空気慣れない。
会話に上手く入れないし、夫婦仲良しに当てられた?
そもそも、うちの家族全員揃うのは……舞踏会ぐらいだったし。
母と妹との会話は、蔑まれるか無視か。
かなり歪な家族だ。
だからか、現在進行形で場違いな気がしてならない。
けれど…静観しかないよね?
割って入る勇気なんてないし。
「仲良し家族は羨ましいわね~?」
ハイエルフの猛者がいた。
空気をぶち破る様に、フフッと笑ってる辺り確信犯。
二百年は伊達ではないみたいで。
ハーツの顔には、゛空気読めよ!゛と書かれているのは間違いない。
確かに、事実上の母と妹を見送ったのは最近だけど。
「ハーツ、心配ありがとう。でも、威嚇はダメだよ?」
「威嚇なんて気のせいよ~♪純粋に羨ましいな~って思っちゃっただけよ?セレーネでは、一部殺伐としてたでしょ~家族なのに!ビシバシ殺気に暗殺・毒殺上等だったでしょ?」
「ハーツ、お口縫い付けるよ?すみません、うちの筆頭が……」
「私達こそごめんなさい。私達だけで会話を楽しんじゃってて……」
もう、余計に居たたまれなくなる。
ハーツはどこ吹く風で、私の背後に立っている。
軽い威圧感を出して。
敵認定されてないだけマシか?
ハイエルフは、人の好みがハッキリとしている種族だから…嫌われると挽回は難しい。
少なくても私は、ハーツの嫌いが好きに変わるのを目撃したことはない。
「いえ、私こそ慣れなくて……すいません」
「いいのよ!すぐに環境に慣れるだなんて、無理でしょう?私だって不安だったもの。でも、案外慣れるもんよ?」
フフフッと頬笑むマリーン様に、曖昧な笑顔を向ける。
確約出来ない事は、秘技・笑って誤魔化せ。
私の今までの環境からして、エメラル国の方々に馴染むまでには壁高し。
今更ながらに、おじけつきそう。
紅茶でため息を飲み込んで、笑顔を張り付ける。
「ねぇ、ディアティアちゃんの事聞いていいかしら?」
「えぇ、どんな事でしょうか?」
「ディアティアちゃんが、白魔女ちゃんって本当?」
キラキラ目を輝かせて、何を聞いてくるかと思えば……答えに困った。
白魔女と呼ばれていたのは本当。
だけど、本当の意味で白魔女になれているか基準が分からない。
医局長や父様、お兄様はそう呼んでくれていた。
「基準がないので曖昧ですけど、父様とお兄様の中では白魔女だったみたいですよ」
「重体の騎士に治癒魔法をかけて、室内全員にヒールをばらまけるのはティアだけだよ?白魔女で珍獣で平凡姫。暗躍が得意な魔導師で、ディルの自慢の妹。色々な顔があって魅力的でしょ?」
「あらあら、フフフッ。ディルアル王子と兄妹仲良しなのね♪その勢いで、サンとリーフともっと仲良くなって欲しいわ~孫は女の子だと嬉しいわ!」
「・・・。」
飛躍し過ぎる会話は、反応が返せないのが分かりました。
頬をほんのり染めるマリーン様は、かなり美しい。
見とれたまま流してもいいかな?
婚約したばかりで、孫の催促って……ちょっと怖い。
固まった私に気がついたのか、サンエーリ様が眉を下げて私を見てくる。
「ごめんね。ティアの意思を無視したり、強要なんてしないからね?」
「あ、はい。そうですよね!すみません、お二人を信じます」
「あら、ディアティアちゃん。男は狼なのよ?私だって、ノルが授かって分かったのは挙式の四日前よ?」
バチンッとウィンクするマリーン様。
その話は、秘匿すべきでは?
息子の前で婚前には食べられていた宣言。
他人の情事を聞かされるって、どんな羞恥プレイ。
何からツッコムべきか、むしろこれこそスルーすべき?
もう頭が疑問でいっぱいで、顔が若干引きつるし再度固まる。
「母上っ!ティアを怖がらせないで下さい。私達は父上みたいに、暴走しないように努力してみせますよ」
「嫌われたら終わりだもんな。あと、マリーン様。ティアにあまり生々しい話は、ダメです。俺達を拒否したらどうするんですか」
「逃がさないために、がっちり掴まえとくの!心も体もね♪大丈夫よ、サンもリーフもこの国では五本の指に入るいい男だから」
嬉々として話してくれているマリーン様は、少女みたいで可愛い。
熟した美しさと少女みたいな可愛さを持つマリーン様を見ていると、ふつふつと疑問が沸いてくる。
「……私で良かったのかな…」
ポロッと本音がこぼれる。
あっ、と思った時には、美しい人達からの視線の集中砲火。
つむじに感じる冷たい視線は、ハーツからだろうな。
あからさまに、ハーツのため息まで聞こえてくる。
でも言ってしまったものは仕方ない。
でも、かなり気まずい。
くるっと、背後に立つハーツを見て助けを求める。
小さく肩を竦めると、ハーツは私の横で膝を折るとマリーン様に頭を下げる。
「王妃様、主が思いのほかポンコツ疲労しているので、下がらせ頂きたく」
「それはいけないわ。ゆっくり休んでちょうだい。部屋への案内は必要かしら?」
「いえ、大丈夫です。ポンコツな主ですが、臣下の魔力は辿れますから。お気遣いありがとうございます」
「もし、お医者様が必要なら手配するわ。遠慮せずに言ってね」
「ありがとうございます。では、お先に失礼します」
優雅になるように一礼して、逃げるように温室を去る。
今の精神状態は、ちょっと普通じゃない。
慣れなきゃと思いつつも、今までが今までだけに距離感が分からない。
会話に参加出来ないのは、致命的だ。
しかも逃げてしまった。
いたらなさに落ち込みつつ、部屋へ急ぐ。
ハーツは軽く頭を撫でてくれた。
ハーツなりの慰め。
ねぇ、父様・お兄様。
私はこの先頑張れるでしょうか?




