No.53 奇跡の花と王様と珍獣
夜会をチェルシーさんに任せて、現在父様の執務室なう。
正面に父様とシリーさんにお兄様。
左右にサンエーリ様とリーフ様。
侍女がお茶を置いて退室すると、父様がおもむろに口を開く。
「シリー、説明してくれるね?もし、大変な事態だったら……ティアの行く時期を変えなくてはならないからね」
真面目な父様の言葉に、シリーさんは左右に首を振って否定する。
「今から説明するし、小さなお姫様がヒドイ事になることはないよ?むしろ、英雄扱いされるかも?」
「小さなお姫様じゃなくて、ディアティアだ。そして、説明になってないぞ?」
「ティアな。あ、説明か~。簡単に言うと、国花が満開に咲いた」
サクッとした説明に、私とお兄様、父様はきょとん。
国花は、書いて字のごとく国を代表する花。
どの国にもあるはずだ。
それが満開に咲いたから、どうした?
イマイチ話が分からない。
小説の最後まで読んでいたら、もっと簡単に話が通じたかもしれないけど……今の私には無理だ。
父様は眉間をもみながら、投げやりに言葉をこぼす。
「花は国花だろうと、季節が来たら咲くだろう?それとも、ティアの溢れた魔力で狂い咲きでもしたか?」
「狂い咲きじゃなくて、ティアの魔力に反応して……数百年ぶりに満開に・満開に咲いたんだ!ずっと、俺達やうちの魔導師等が魔力を注いでもまっっったく、反応すらしなかったのに!」
興奮気味のシリーさんを横目に、サンエーリ様とリーフ様を見ると詳しく教えてくれる。
『満開に』が二回なのは、大切だからだろうか?
「花が五つ咲いたのが、五年前で……その時の魔力が叔父上のだったんだ。でもその花も、六日で散ってしまった」
「なんで、先生の魔力だって分かるの?魔力持ちは、そっちの国では多いでしょ?」
至極まっとうな疑問を口にしていた。
今回だって思ったけど、私の魔力だとは半信半疑だもんね?
お兄様も同じ気持ちなのか、小さく頷いている。
サンエーリ様は、小さく笑いながら衝撃の事実を教えてくれる。
「魔力には個人差があるんだよ。分かる人は、味や匂いなんかも分かるらしいよ?まぁ、父上は魔力の軌跡を辿って現れたんだけどね」
「魔力が心地よくてそのまま、フラフラとな。ほっこりするような感じ?味は甘そうだよな~」
味は確かに氷上ウルフが、チラッと甘味だとか言われた気がするけど…なんか食材の気持ちになってしまうのは、仕方ないよね。
味に匂いだし。
「魔力の軌跡って?」
「そのままの意味だよ?魔力を辿るんだ。ティアが使う失せ物探しの、サーチに近いかもしれないね」
魔力の判別をして持ち物の残留魔力を辿る私と、魔力そのものから辿るシリーさんの魔法は近いかもしれない。
ただ、決定的な違いは…魔力を直接見れるかだ。
私は残っている魔力を、かき集めて魔力を探す。
正確さも格段に、シリーさんの魔法の方が高い。
「きっとここにノルがいたら、匂いが分かると思うぞ?」
「ノル兄上は魔力がずば抜けて高くて、魔力の匂いだけでも相手を判別出来るんだよ」
「ノルレッテ様はティアと同じで王太子でありながら、魔道具の研究もしている変り者だったりしてな」
誇らしげに語るサンエーリ様とリーフ様に、私は首を傾げてしまう。
うん、何が同じなんだろう?
私は王太子でもなければ、魔道具の研究もしていない。
必要に迫られて、製作が出来る様になっただけ。
変り者、だけは……不承不承ながら納得しとこう。
「気軽に暗躍や魔道具を作れちゃうティアは、きっとうちの国にすぐ馴染めると思うよ」
「そうだと良いな……」
サンエーリ様の言葉に、私のちょっと弱気な言葉がこぼれる。
今までが今までなだけに、他人との距離感が難しい。
筆頭達だって何だかんだで、彼等から壁を飛び越えたり、ぶち壊したりしてくれていた。
イエスと言うまで、ストーカーよろしくに付きまとったハーツ。
外堀から埋めて、抜かりなく筆頭に入ったユーリ。
筆頭にならなきゃ生きている意味がないと、真面目に過激に懇願したジェニー。
そして、ノリと勢いに負けてしまったハルク。
みんな私の一枚も二枚も上手で、私は翻弄されつつ同じ景色を見て、同じ時間を過ごすうち、日に日に信頼と情が積もっていった。
「間違いなくノル兄上には、ティアを気に入ると思うよ?兄上とティアは、似ているからね」
「あー、分かる!我が息子ながら、地味な事が好きでな~?趣味は実験と研究だし……誰に似たのか、色々と不器用なヤツなんだよ」
シリーさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
でもその瞳は、慈愛のこもった優しい目であるのが羨ましい。
私がシリーを眺めていると、ガチッと目が合ってしまう。
「父様って、可愛く呼んで欲しいな~♪」
「えっ!?」
シリーさんから反らせない目に、内心あたふたしてしまう。
突然なんのフラグですか?!
可愛くない私に、可愛くなんて要望が無茶振りなんだから。
フリーズ。そんな言葉が、今の私にはよく似合う。
「まだ、息子の嫁じゃないのに図々しい!ティアの父様は、私だけだからな」
「良いじゃん!お前なんて、毎日ティアに父様って可愛く呼ばれているんだろが!俺だって、娘に呼ばれたいの!」
「孫までいるじじいの戯言だな。ティアの父様は、私だけだからな。お前はお義父様とでも、呼ばれるがいい!」
「イ・ヤ・だ。父様の方が、親近感あるじゃん。ティアはイヤかな……嫌なら嫌われたくないから、泣く泣く諦めるけど……」
「シリー、お前セコい!」
「え、あの……」
ぎゃぁぎゃぁ言い合う父様とシリーを、途方にくれて見ていると…お兄様とサンエーリ様が話しかけてくれる。
「ティア。心配しなくても、この二人は年は違えど親友だから大丈夫なんだよ」
「先生がうちの国に来たのも、父上とシリー様が仲良しだったからなんだから、今のもじゃれあいも気にしなくて大丈夫」
「そうなんですか…ちょっと羨ましいです。同性の言い合いが出来る仲って……私には無理だから」
苦笑がもれてしまう。
珍獣・呪われ姫・魔女・平凡姫なんて人間に、避けるか犬猿される。
いつも筆頭の誰が一緒にいてくれるから、寂しくはないけど。
「きっとカリーナ姉上は、ティアが来てくれるの待ってると思うよ?」
「カリーナ様はパワフルだから、きっと手厚い歓迎をうけるだろうな~。念願の妹だし」
あぁ、何となく想像出来ちゃう。
前に会った時も、カリーナ様のペースに乗せられていた気がする。
嬉しいような、何とも言えないような……複雑な気持ちになってしまう。
「うちの奥さんも、楽しみにしてたよ~♪女の子大好きだし、母様と呼ばれたいって言ってたな」
「母様、ですか?」
困惑してしまう。
実母ですら゛母゛と呼んだことないのに。
悲しいかな、私の世界に母は遠過ぎて、未知指数感半端ない。
前世の記憶でも、家族の記憶はうっすらしていてイマイチ、ピンとこない。
それの戸惑いを感じ取ったのは、お兄様だ。
「大丈夫だよ。あの人が特別で、きっとサンの家族と仲良くなれるよ。だってティアは、僕の自慢の妹だからね!」
「お兄様も、私の自慢のお兄様ですよ。ずっと私の自慢のお兄様でいて下さいね?」
「ちょっとティア、父様は?」
「もちろん、自慢の父様ですよ?お兄様も父様も、大好きです」
「うん、可愛い!よし、ティア…やっぱ婿をとろうか!今からでも遅くない、何となく私の宝物が……苦労する行く末が見える!」
父様のとんでも発言。
婚約披露の夜会を終わらせたばかりなのに、婿とりしようなんて…冗談にしてもキツいです、父様。
他国に行けば、多少の苦労は覚悟してるつもり。
まぁ、自国で培った図太さがあるし、筆頭達だって同行出来ると聞いているし……きっと大丈夫。
でもちょっと、父様が心配してくれているのがくすぐったい。
慌てたのは、サンエーリ様とリーフ様。
なぜか二人は、シリーさんを睨んでいますよ。
何故だろう??
「父上は、邪魔をしに来たのですか?私はティアしか、生涯愛せないのに…母上に報告させて頂きますから」
「ちょっ、誤解・誤解!俺は本当に満開になったから、魔力を辿っただけだって!久々に、心地いい魔力に興奮したけど…」
「あ、また陛下失言。興奮とか言ったら、皆ドン引きするでしょ。陛下は、俺達を一生独身にしたいのですか?」
「ごめん、ごめん。でも、魔力の相性も大切だし?絶対、ティアをゲットしろよ!俺はティアがいい」
シリーさんが言い切ると、ティースプーンが宙を舞う。
父様がシリーさん目掛けて、魔力で飛ばしたみたい。
シリーさんは、ティースプーンを魔力で弾く。
「変態が!シリー、お前にはやらんからな!」
「俺には奥さんいるし!ティアがいいのは本当だけど、娘にするならだからな?!」
「父上の言い方が悪いですね。私達がフラれたら、母上の餌食になってくださいね?」
「それはイヤだ……。穏便に行こう?俺、泣きそうなんだけど。サンだってリーフだって、ティアの魔力好きだろう?」
「陛下。魔力も、です。全てを愛してますから。何より陛下、話がズレてますよ」
一生懸命な訂正が、墓穴を掘る典型的なパターン。
でも憎めないのがシリーさんなのかもしれない。
リーフ様が、話の機動修正する。
サラッと愛している発言に、ときめいたのは秘密。
あ、と思い出した様に、シリーさんは話を戻す。
「色々と省いて説明すると……研究に力を貸して欲しい!もちろん、サンやリーフにも協力してもらうけど」
「研究、ですか?」
「なぜ、ティアの魔力で咲いたのか。何時まで咲き続けるか。ティアの魔力が何処まで影響するのか。大丈夫、無理はさせないから……頼む!」
シリーさんは、真剣に説明してくれる。
人体実験されないよね?!
おかしなフラグが立ちそうで、軽く目まいだよ。
なんにしろ、王様のお願いを無下に出来る訳もなく……小心者なんだよ、私は!
「わかりました!出来る範囲でなら。それでも、良いですか?」
「あぁ、ありがとう!父様って呼ぶのは、宿題ね?」
お茶目にウィンクしたシリーさんに、私は苦笑をもらしてしまう。
そんなシリーさんを、苦虫を潰した様に見ている父様。
「大丈夫だ、フェリオス。無理はさせないし、俺達もお前の大切な姫様を守ると誓うから」
「当たり前だ!ティアが泣かしたって報告受けたら、すぐに連れ戻すからな!」
「お前が迎えに来そうで怖い!ティア、些細な事でも相談してね!?俺が殺られそうで怖い!」
ねっ!と強く言うシリーさんと、鋭い視線を向ける父様。
父様が私やお兄様、ブロッサムさん以外に、こんな感情を出すなんて珍しい。
本当に仲が良いみたい。
呆れ顔のお兄様とサンエーリ様、リーフ様。
私は笑えてきてしまう。
他国に行くのは不安はある。
でも、こんなに心配してくれている父様とお兄様がいて。
変わらず支えてくれる筆頭達も一緒。
そして……視線を向ければ微笑んでくれる、サンエーリ様とリーフ様がいてくれて。
ちょっと賑やかなシリーさんがいてくれる。
どうしてだか、笑顔を浮かべる。
私は、あと二日で旅立つ。
少しの不安とほんの少しの期待を持って。
フラグを折っていたら、優しい父様とお兄様が傍にいてくれた。
フラグ折りが空回りしていたら、素敵な婚約者様方に出会えました。
確実にフラグは折れなかったけど、大切なモノが増えた。
だから、今は……この光景を目に焼き付けよう。
そしたら、何かあっても頑張れる気がするから。




