No.48 妹と妹の違い~お兄様の悩み事
<ディルアルside>
父上の執務室で報告した帰り道。
自然と溜め息が出てしまう。
父上の事を思えばなおさら。
報告とは、最近ティアの周りが騒がしい事と放火の事。
サンの指輪の行方。
ハルクの力を借りて、調べてみれば……怪しい人物はいつも同じ。
ローズニアだ。
母が見え隠れするのに、痕跡がローズニアでいつも途切れてしまう。
でもそこは、クレッシェンド家の子息。
放火の黒幕は母だと掴んできて、捕まえたクズ達に聞けば無言。
ただ、肩がビクッとしたのは見逃さなかった。
ハーツの魔法の力を借りて、クズ達の記憶を読んで魔石に移した時。
ハーツの瞳が笑ってなかった。
ティアへの悪口や悪質な命令を、目に耳にしてしまったから。
室内温度が、急激に降下したのはいわずもなが。
十年の歳月で培ったティアとハーツの絆は、僕にも分からないくらいに濃密だ。
ティアの最初の筆頭が、ハーツなのは紛れもない事実。
ハイエルフの気まぐれと、当時は噂されていた。
順にユーリ、ジェニー、ハルク。
ティアの周囲は、信頼できる仲間で少しずつ賑やかになっていった。
サンやリーフが加わり、更に賑やかになった中での出来事だけに頭が痛い。
やっとティアの中で、スノーリー先生以上になりえそうな有望な二人に出逢えたのに。
サンやリーフだって、今まで以上に幸せそうだ。
それを邪魔し、自分がティアに成り代わられると思うローズニアの図太い神経と無神経さは、誰に似たんだろう。
「もう少し賢ければ……」
何度となく同じ事が、頭を過っていく。
なぜ、彼女は自分が一番だと思っているのか?
ティアを見下し、父上や僕を操れると本気で思っているだなんて……頭が悪すぎる。
僕にしても父上にしても、ティアみたいな優しさで出来ていない。
切るときは、身内だろうと容赦しない。
呟いた言葉が空気に溶けたのと同時に、カツカツと靴の音と薔薇の香水が辺りを包み込む。
強すぎる香りに、辟易してしまう。
「ごきげんよう、お兄様。お父様にご用でしたの?」
赤い口紅が口角を上げて微笑んでいるはずなのに、絡め取られるような錯覚を感じてしまう。
この妹だけには感情を読まれない様に、僕は悠然と頬笑む。
「僕は近況報告と、夜会についてちょっとね」
嘘は言ってはいないよ?
ただ、ちょっと付け足したり…言葉を濁しただけ。
素直に言う必要性を、微塵も感じないしね。
「あら、中止かしら?サンエーリ様も、本当に相応しい人間が誰か分かったのね」
パチッと手を合わせて頬笑むローズニアは、やっぱりバカなんだと思う。
サンの気持ちは、ティアにしか向いてないのに。
それにリーフを無視するのも、対応として間違っている。
身分が上ならなおのこと、対人関係を考慮して行動しなければならない。
自身の身分に溺れず、慎重に戒めて生活を送らなくては。
王族は国の見本でなければ、ダメなのに。
そう教育されてきたはずなのに、この駄目人間っぷりは誰のせい?
「披露宴は予定通りだよ。三人とも今頃、打合せでもしてるんじゃないかな?そうだ、僕も顔を出して進行状態を確認しようかな♪」
こんな所で実のない会話をするよりも、ティア達と打合せの方が精神衛生上にも良いはず。
ティアを困らせられながらも、くすぐったいような微笑ましい光景を作り出している、サンとリーフをからかうのも良いかもしれない。
僕がニッコリ微笑めば、ローズニアが手を握りしめて唇を噛む。
「そ、そんな事…!お兄様は良いのですか?あの珍獣がエメラル国に嫁いで、飽きられて捨てられることが!」
怒気を混ざったローズニアの言葉は、自分こそと言わんばかりにギラギラな目をしている。
゛選ばれるのは珍獣じゃなく私!゛
目がそう語っている。
あの言葉もどう言い訳しても、ティアをバカにしてると言うよりは…サンやリーフ、エメラル国を敵に回している。
それに気がつく頭が無いのが、王女として残念過ぎる。
「ティアなら大丈夫。それに、今更サンやリーフが離さないよ。帰還と一緒に連れていくって決めたのも、サンとリーフだし」
当たり前の事実を突き付ける。
素朴な野の花だけれど、サンとリーフはティアを選んだ。
少しずつインクが紙を染める様に、花びらが風に揺られて降り積もる様に。
サンとリーフは、当然の様にティアに惹かれていった。
ティアも戸惑いながらも、最後には二人の押しの強さに落ちた。
乙女の表情をしたティアに、いっぱい幸せがありますように。
めでたし、めでたし、のはずだったのに。
「ワタクシは認めませんわ!きっとサンエーリ様の気まぐれ…気の迷い。目が覚めれば、ワタクシを選んで下さいますわ」
「恋は気まぐれから始まったんだよ。君が認めなくても、父上の了承とエメラル国の王の了承があればOKなんだよね。そして、双方とも了承は取れてる」
エメラル国の王は、大変喜んでいるらしい事は書簡からもうかがえる。
ティアを知っているから、余計に不思議な縁に喜んでいるのかもしれない。
「お兄様っ!今からでも遅くありませんわ!サンエーリ様の隣は、美しいワタクシを推して下さいませ!」
バサッとスカートを翻して、オーバーアクションのローズニアに苛立ちを覚える。
本気で図々しい。
だから、君を選ばないのに!
まだ気がついてないんだからね。
「美醜だけで決められない事はいっぱいあるんだよ。サンやリーフは外見より、ティアの内面に惹かれたんだよ」
「内面になんの意味がありますの?姫は美しくなくては、意味がないのでしょう?」
「内面の美しさがないと、君が姫でも王子様は現れないだろうね。僕もごめんだね、外見だけなら人形で十分だ」
肩を竦めて鼻笑いしてみせた僕に、ローズニアは爪を噛みキッと睨み付けてくる。
その表情は、名だけの母にそっくりだ。
髪や瞳の色だけじゃなく、間違いなくローズニアは母に似ている。
頭の回転以外は。
母はローズニアを可愛がっていながら、一定のラインで線を引いているように思える。
自分の身を守るように。
無意識か確信犯かは、全く分からないけど。
ギリギリでいつも、痕跡が途切れるのが証拠だ。
これが確信犯なら、かなり悪どいし質が悪すぎる。
「ワタクシの方が美しいのに!ワタクシの方が、誉められてきたのに!お兄様もお父様も珍獣ばっかり!珍獣なんて…消えてしまえばいいのに!」
わなわな震えて言い切ると、クルッと背中を向けて鈍い足音を立てながら去っていってしまう。
ヒールの音が遠のいていくのと同時に、ハァァァァと溜め息を吐き出す。
言葉が噛み合わないって、本当に鬱陶しいししんどい。
捨て台詞からして、僕の意見は全く理解されてないみたいだし。
「……言葉を理解しない人と会話すると、虚しくなるのは何でだろうね…」
分かりやすく伝えたはずなのに。
この虚しさをどうしてくれよう…。
教師が違えば、双子であっても全然違う成長をするのか?
はたまた、単にローズニアの周囲が頭の足りない人間の集まりだったのか?
ローズニア本人に、学ぶ姿勢がなかったのか?
考えれば考えるほど、気持ちが沈んでいく。
鬱々とした気持ちを振り払う様に、頭を左右に振る。
動作と一緒に乱れた髪を手ぐしで治して、気持ちを切り替える。
「やっぱり、会いに行こう。どうせ休憩の時間だし…いいよね?」
何となく聞き返しながら、ティアの作業部屋に方向転換する。
今頃、きっとサンもリーフも一緒にいるず。
殺伐とした空気に当てられたんだから、癒されたっていいはず。
一人頷いて歩き出す。
幸せのお裾分けをもらいに。




