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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
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No.47 愛おしい人との距離~王子様の愛しい珍獣


<サンエーリside>


姉上や父上とのお茶会が終わると、私はリーフと一緒にティアをある場所に誘った。

お城のすぐ横ある森の奥まった場所にある、私とリーフがよく気分転換するターコイズ色の泉。

ティアがこちらに来てから、時々沈んだ様な表情を浮かべていた。

一番嬉しそうだったのが、父上との会話だなんて悔しいじゃないか。

父上と叔父上の話をするティアは、沈んでいた表情が嘘の様に微笑みを浮かべていた。

でも叔父上の話が終わると、時おり見せる沈んだ様な戸惑った表情をするティア。

リーフも気がついたらしく、この泉を案内したらどうだと言ってきた。

ティアはターコイズ色の泉を眺めて、小さな溜め息をつく。

やはり、表情はどことなく暗い。


「どうしたのかな、私達のお姫様は?」


「えっ、と…何でも」


「何でもない、は無しな。ティアの不安は、俺達が拭ってやりたい」


ティアの言葉をぶった切ったのは、有無を言わせない笑顔のリーフ。

躊躇い気味のティアに、私達は笑顔で促す。

少ししてティアは、言葉を探して口にする。


「当たり前なんだけど、セレーネと違う国なんだって…」


「もしかして、エメラル国が怖くなったか?」


「…怖い?……そうなのかな……」


リーフの問いかけに、自答自問したティアは俯いてしまう。

俯くと青銀色の髪が、壁のようにティアの表情を隠してしまう。

私はその壁を越えたくて、ティアの髪を撫でる。


「人は知らないモノに恐怖を覚えるんらしいよ。ティアは、エメラル国に来たのは初めてだよね?」


「うん。先生に故郷の話は聞いていたし、見てみたかったはずなのに…」


「先生って、あのスノーリー様だよな?」


「゛あの゛?」


リーフの発言に、ティアは顔を上げて難しい表情になる。

サッと空気が冷たくなる。


「ティア、誤解しないで?叔父上は、王子の私ですら、数回しか会った事がないんだ。叔父上が、伝説級になってしまうのも仕方ないんだよ」


「伝説って…」


国の中で叔父上の存在は薄いのは、事情が事情だけに誰も責められない。

私の知っている叔父上は、いつも穏やかに微笑んで話を聞いてくれた。

ティアの中の叔父上は、私の知っている叔父上と少しだけ違う気がしているけど。

冷たい空気が霧散したティアは、また俯いてしまう。

青銀色の壁が戻ってしまったのを見て、私は話を変える事にした。


「じゃ、この国の話をしよう。今の王様より四代前の、血に塗られた王様の時代の」


話ながら、地面にハンカチをひいてティアを座らせる。

ティアを挟む形で座りながら、私は父上や兄上に何度も聞いた話をなぞる。


四代前の王様には、四人の妃と六人の王子がいた。

最初はどこの国にでもある、ごく普通の王族だった。

それが崩れ始めたのは、第二王子の十三才の誕生日。

毒を盛られて亡くなった事から、次々と王子達に不幸が押し寄せてきた。

落馬して命を落とした第三王子。

背後から斬り捨てられていた第四王子。

呪い殺された第五王子。

行方不明知れずになった第六王子。


王子達が不安定になると、後宮も本性を出した妃達が醜い争いを始めた。

毒を持ち出す者、暗殺者を雇う者。

黒魔女を雇う者まで現れる始末。

笑顔の裏で女の争いは、加速度を上げて行く。

王様は何もしなかった。

いや、出来なかった。

愛情を知らない王様に出来たのは、ただ見続ける事だった。

そして、二年後。

第一王子が留学から帰ってきた時には……

妃達と兄弟の姿はなかった。

病に倒れた王様だけが、ただ静かに迎えてくれた。

王様は今までの事を包み隠さずに話すと、第一王子にこう告げた。


『悲劇の根源は私だ。誰も愛そうとしなかった。これは、私の罪であり罰だ』


『血に塗られるのは、私の代で終わりする。王、及び王太子は、一夫一婦制にする』


これは、エメラル国では魔女の呪い以降に滅びた法の一つだ。

そうして始まった王や王太子の一夫一婦制。

決まって代々の王や王太子は、他国から嫁とりをする。

なぜか?

それは簡単。

自国で探そうにも、女性が少ない中で身分など性格や相性を考慮すると、劇的に困難になる。

そのため、王太子は留学と称して他国に渡り、隣に立ってくれる戦友を探した。

愛せない呪いがかかっている彼等でも、大切にする戦友や相棒ぐらいは探す事可能だったから。

そうして、一緒にいることで石の色が段々と薄くなっていく事もあるとか。

それが愛情なのか、友愛でなるのかは不明だけれども。


血に塗られた四代前の王様の思いと決断は、今の平和なエメラル国をつくった。

無用な争い事で、また血が流れないように。

家族が不幸にならないように。

王族として父として、願いを込めた法なんだと。

その法が出来たのを境に、エメラル国は繁栄を始めた。

国土も広がり、ずっと豊かになった。

王族もそれなりに、穏やかな時間を家族で過ごしている。


「こうして、エメラル国は変わったんだ。だから代々、第一王子が王太子になるから、私みたいに第二王子は継承権を放棄する事が多いんだよ」


「無用な争い事の種は、刈っておくに限るからな~?祭り上げられても、面倒だし」


そうなんだよね。

継承権放棄しているのに、今だに私を祭り上げようとしている人間もいるからね。

本当に迷惑でしかないよ。

私は兄上の右腕になれたら、と思っているのに。


「王太子様は一夫一婦制なんですよね?じゃ、王子様達は?」


顔を上げてコテンと首を傾げるティアが小動物みたいで、青銀色の髪を撫で回す。


「私の他に弟は一人だけど、同じく継承権放棄しているから、一夫一婦制には当てはまらないんだよ」


「陛下の場合が例外なんだ。だからスノーリー様は、セレーネ王国に静養という形で継承権を放棄したんだ」


そう、父上の邪魔にならないようにと。

体の弱かった叔父上の、精一杯の愛情だと父上は笑っていた。

私もそうだと思う。

父上の負担が減るように、無用な波風を立てないように。

家族と離れて暮らす事を選んだ叔父上の選択は、間違えていなかったと思う。


「先生は家族の話はしなかったの……でも、週に一度届く手紙を楽しみにしてたんだ。私は楽しげに手紙を読む先生を、眺めるのが大好きだった……」


ポツッとこぼしたティアの言葉を聞けば、叔父上の選択は正解だったんだと感じる。

叔父上は、セレーネ王国でかけがえのない時間を過ごした。

ディルやフェリオス王、そしてティアとの時間は、優しく穏やかだったはず。

手紙を読む叔父上と、それを幸せそうに眺める小さなティア。

なんて微笑ましいんだろう。


「ティアは、叔父上が大好きなんだね」


「うん、大好き。五年間、私の一番の味方は先生だったの。だから大切な宝物。先生に恥じない生徒でありたい。今もこれからも」


ティアの瞳は、綺麗に輝いている。

叔父上に負けるのは悔しいけど、これからの時間で追い越せばいい。

ティアに一番になれるように。


「俺達もスノーリー様に負けないように、ティアを大切にするから」


「……本当に?」


急に不安げに揺れるティアの瞳に、私はギュッと横から抱き締める。

包み込むように、優しく体温を伝えるように。

リーフもティアの頬を撫でて、安心させるように頬笑む。


「不安なら何度も言うよ?ティアを愛しているんだ。短い間だけど、ティアを見て一緒に過ごして。そのままのティアが愛おしいよ」


「俺もこれからの時間を一緒に。優しいティアも、寂しがり屋のティアも大切にしたい」


ティアは言葉を聞くと、ボッと顔を真っ赤にさせる。

頬を染めて頷くティアに、私達は目を奪われる。

可憐な野花が風に揺れる姿に、よく似ている気がする。

その野花が一瞬、瞳が不安げに揺れて呟く。


「…もう、見送るのはイヤ……」


いつも凛としてるティアの、たった一つこぼした本音。

だからこそ、胸を締め付ける。

ティアが本気で見せてくれた、本音は小さな小さな可愛い願い。


「もう……一人はイヤなの……」


ティアの頬を伝う一筋の涙に、愛しさが募る。


「ティアを悲しませる事はしないよ。一緒に長生きしようね」


「一緒にいれる時間を、大切にしよう?悔いの残らない様に、なぁ?」


一回り小さな体を抱き締めて、一緒にいられる幸せを噛み締める。

リーフは濡れた頬に、軽くキスをして頬笑む。


「涙も弱音も全部、俺達が受け止めるから」


「等身大のティアを愛してるよ」


私達の答えに、ティアは泣き笑いで小さな声で呟いた。


「ありがとう…」


温かいお礼の言葉に、胸が温かくなる。

胸を締め付ける心と、愛しさで一杯になった。

少し縮まったティアとの距離。

こうして、エメラル国のお忍びは終わりました。




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