No.46 ドレスとお出掛け2
ズルズル引っ張られる様にして連れられてきたのは、木々に囲まれた静かな場所だった。
花束と種を渡すと、すごく喜んでくれたので一安心。
セレーネの花は、色も豊かで大輪。映える事から他国の人にとても喜ばれる。
そして美女は白いティーテーブルにつくと、無邪気にニッコリ笑たまま私の自己紹介を聞いてくれた。
その後に、私に頬笑みながら返事をしてくれる。
「わたくしは、カリーナ・エメラル。王太子のお嫁さんしてます♪リーナお姉様と呼んで欲しいわ~ティアちゃん、でいいかしら?」
「あの…お好きな様に呼んで下さい」
しどろもどろになったのは、あまりにすんなり受け入れられたのと…美女に免疫がないのでテンパったから。
ハーツやユーリはそこらの女性より綺麗だけど、やっぱり男だし。
ジェニーは美女だけど、中身を知ってると美しさより、男前な性格に思考がいってしまう。
サンエーリ様もリーフ様も色気だだもれだけど、男性らしさの方が勝ってる。
母とローズニアは論外。
私は柔らかな美女が好きで、ギラギラな美しさは遠慮したい。
「ふふふっ、可愛らしい子。綺麗な青銀色の髪も、金色の瞳も月と太陽みたいで綺麗~♪で、私の可愛い義妹ちゃんは、どんなお願いがあって来たのかしら?」
「カリーナ姉上にしか頼めないのですが、四、五日でティアの夜会用のドレス作り上げたいんです」
「六日後にセレーネ王国で婚約披露の夜会があるのですが、ティアの夜会用のドレスが全て破かれてしまったみたいで」
「あら、それは大変!ドレスは女性の戦闘服だものね。分かったわ、今すぐドレスのデザイン決めましょう!」
「アタシも参加していいかしら?今までティーちゃんのドレスは、アタシのフルオーダーメイドだったの!だから、私にも役に立てると思うのよ!」
「貴方の耳…あ、噂のセレーネの賢者様ね!じゃ、一緒に一番素敵なドレス作り上げましょうね♪」
暑苦しく語るハーツのノリと、リーナ様のノリは同じに感じるのは気のせいであって欲しい。
この話題になると、私はほぼ無言だ。
だって分からないのだから!
「ほどほどでお願いします!」
私の要望はコレだけ。
後はハーツに任せておけば、間違いなしで文句なしのドレスが出来がる。
芳しい紅茶に手をかけながら、ウキウキしているリーナ様とハーツを眺める。
「やっぱり、サンやリーフの色使いたいわね~♪サンの空色をメインにして、差し色にリーフの金色を入れちゃう?」
「良いわ~♪そうだ!金色で刺繍いれたら、動きに合わせてキラキラするの!素敵じゃないー?」
「じゃ、私とリーフはティアの色を身につけたらいいよね」
「青銀色って難しいけど、ちょっと腕の裾に青銀色の糸で刺繍してもらえばいいよね」
「そうだな。腕の裾だけなら、優秀な侍女達なら数時間で仕上げるだろうしな」
私を抜きにして、楽しげに会話が繰り広げられてます。
急にリーナ様がパチパチと手を叩くと、四人の侍女が素早く並びます。
「形ははどうなさいますか?」
「そうね…この体系をいかしたいわ!腰から何枚もの重ねたフリルなんてどうかしら?」
「それなら、リボンをつけましょうよ~♪可愛いさと美しさの共演!素敵じゃない~?」
「良いわ~!フリルの部分に刺繍入れましょう~きっと映える!」
楽しげなリーナ様とハーツ。
派手なドレスにならない事を、切に願う私。
二人の意見を聞いたダークブラウンの髪の侍女が、サラサラと紙にデザインを描いていく。
慣れているのか迷いなしの職人芸に、私は見とれてしまう。
「カリーナ姉上、ティアの意見は聞かなくては」
「私はいつもハーツに任せているから、お気になさらず?」
「ほら、ティアちゃんは任せてくれるって!サンもティアちゃんには優しいのね~♪私にも優しくして欲しいわ」
「兄上を敵に回したくないので遠慮します。あぁ見えて、兄上は焼きもち妬きなんですよ」
サンエーリ様はリーナ様を見て、苦笑します。
仕方ないな~ぐらいの雰囲気に、なんとなく胸にモヤモヤが募る。
意味不明なモヤモヤに、眉間にしわが寄ってしまう。
「あら、ティーちゃんったらブスになってるわよ~?」
「もとからです!もう、ハーツ無駄口禁止です!」
「あら、それは横暴よ~!」
顔が平凡なのは分かっているし、眉間にしわを寄せていたらブチャにもなるけど…そこは、そっとしていて欲しかった。
フテ気味の私の正面では、デザイン画が着々と完成に近づいているらしい。
腰にから段々になっているフリルは、絶妙なバランスでボリュームも出して私の地味さまで、カバーしてくれそうだ。
「フリルには金色で刺繍を入れます。祝の花なんかがよろしいかと」
「じゃ、夏だし~お祝いにふさわしい、ネリなんてどうかしら?セレーネでは花嫁さんの象徴なのよ~♪」
「ネリ!あの花は青色で、幸せを呼ぶって言われているのよね~。私も旦那様が誕生日にプレゼントしてくれるのよ♪」
「あら、素敵な旦那様ね♪花を贈るなんて粋じゃない~!」
「仲のよろしいのは国も安泰なのですが、今はティアのドレスの話にもどしましょう」
リーナ様の話をバッサリ切ったのは、ちょっと呆れ顔のサンエーリ様。
その間にも、デザイン画は完成していく。
可愛さと美しさの中間にある様なドレスは、なけなしの乙女心をくすぐる。
「どうかしら?地味過ぎるかしら?」
腰から段々になっているフリルに、綺麗なネリの刺繍が描かれている。
きっと動きの加減で、キラキラ光って綺麗なんだろうな。
ちょっとフテ気味の気持ちが、浮上して見いってしまう。
「ティアちゃん、どうかしら?」
「素敵だと思います。私が着るのが勿体ないくらい」
本当に勿体ない!
最高級のドレスが出来上がるに、違いないだろうね。
着るのが私で、申し訳ないです。
「じゃ、決まりね!これで直ぐに製作にはいれるわ!じゃ、最短でお願いね」
「承知いたしました、王太子妃様。早速ご膳失礼致します」
サァーと機敏に去っていく侍女達と入れがわりに、一人の男性が笑顔で入ってきた。
青色の髪に緑色の瞳の、父様と同年代の秀麗な人。
その顔立ちが、どことなく先生に似ていて懐かしさに胸が痛くなる。
無意識にドレスごしにネックレスを握ていた。
先生の形見は、光が当たると暖かいオレンジ色に見える不思議な石がついている。
その色は優しい先生に、似ていて私の宝物だ。
「久方ぶりだねディアティア姫。フェリオスにもなかなか会いにいけないし、俺王様辞めちゃおうかな…」
「……久方ぶり、ですか?」
「そうだよ?覚えてないかい?」
私は頭をフル回転させて、昔からの記憶を探る。
探れど探れどかすりもしない記憶力に、焦りと申し訳なさが込み上げてくる。
本当に誰だっけ?!
そんな私の様子を楽しむように見つめている。
「兄上の愛おしい小さなお姫様って言えば、思い出すかな?」
バッと十歳の真夏に記憶が巻き戻る。
虫の鳴き声と照り付ける太陽に、死者への弔いの香。
さんざん泣いて泣いて、泣き腫らした目の私。
先生が故郷に帰る日。
迎えに来ていた先生に雰囲気が似てる人は、私の頭を撫でて『兄上は幸福だったんだよ。ありがとう』と言った。
私はその言葉に、余計に泣けてきて人目をはばからずにまた号泣した。
「先生を迎えにいらした方?」
「正解。俺は、シリー。泣き腫らした目をした可愛い可愛い小さなお姫様は、今は立派なレディーでプリンセスだね。小さなお姫様とは呼べないのは、ちょっと残念だな」
「もう十五歳でから。あの時は、泣いてばかりですいませんでした。最高にブサイクで、本当に申し訳ありませんでした……」
ハハハッと乾いた笑いを向ける。
あの時は、先生が亡くなった事しか考えられなくて…悔しさと寂しさ悲しみが、グルグルになっていて、涙腺が崩壊していた。
あの父様が心配して、一日中側にいたぐらいは…私は壊れていた。
亡くなった初日は、泣いて、疲れて寝て、泣いてのエンドレス。
お兄様も心配して、朝まで一緒にいてくれた。
「可愛かったし、綺麗だと思ったよ?ずっと兄上のためだけに、本気で悲しんで涙を流していたんだから。俺は嬉しかったし、羨ましかったよ」
「羨ましかった、ですか?」
なぜなのか分からない私は首を傾げてシリー様を見ていると、シリー様は私の側に寄ると顔を近づけて破顔する。
「あの涙はただ純粋に兄上の事だけを思って、流した綺麗なモノだったからな。それがどんなに、尊いことか…だから、兄上は最高に幸せ者だよ」
「私も先生と過ごした時間は、幸せでいっぱいでした。暖かくて優しい時間でした…あっ!」
私は自分の首からネックレスを外して、シリー様に差し出す。
宝物だけど、きっとシリー様が持っている方が自然な気がして。
「これは…」
「先生の最後の手紙と一緒に、同封されていたんです。先生の形見です。やっと返せます」
透明の中に光を浴びて、オレンジ色になる石は、本当に綺麗で先生に似ている。
私を支えてくれた宝物。
差し出したネックレスをマジマジと見たシリー様は、私のネックレスを持っている方の手に手を重ねてギュッと握る。
「君は本当に、兄上の最愛のお姫様だったんだね。証拠に、石が透明になってる。これは、君が持っているといい。兄上だって、きっと同じ気持ちだと思う」
「…私が持っていて良いのですか?」
半信半疑でシリー様を見つめる。
本心を見つける様に、じっと。
シリー様は本当に嬉しそうに、目を細めて一つ頷く。
「兄上は、君に持っていて欲しいと思うよ?やっぱり兄上には敵わないな~、短い時間で君みたいな子と出会えたんだから」
「そんな。私は普通の人間ですよ?先生がいてくれたから、今の私があるんです。ワクワクと穏やかな時間が、私を育んでくれているんです」
「兄上も同じだったんだよ。手紙にはいつも、小さなお姫様の話がいっぱい出てきてたよ。それはそれは嬉しそうに」
私は言葉にならない。
先生は本当に、私を驚かせるのと喜ばせるのが上手だ。
空の上から、私達を見て笑っているかもしれない。
あの大好きな優しい笑顔で、『やっと気が付きましたか?私の小さなお姫様は、ちょっと鈍いですよね』なんて、言われていそう。
「私も家族の誰より、先生と一緒の時間が長かくて…いっぱいの初めては、先生と一緒でした。きっと今の私があるのも、先生がいてくれたから」
「相思相愛だね。今度、兄上からの手紙見せてあげるよ」
「本当ですか?楽しみです!」
五歳からの五年間。
先生は常識や知識だけじゃなく、人の優しさや温かさを教えてくれた。
忙だった父様やお兄様に代わって、私を包む様に優しく見守ってくれた。
それを知らなければ、私は無意識に歪んでしまっていたかもしれない。
私は小さく笑って、シリー様を見上げる。
握られた手をそのままに笑い合っていると、グッと体が引かれて腕に包まれる。
「父上、何時まで彼女の手を握っているのですか?母上に言いつけますよ」
「陛下、ただのスケベ親父になってます」
私を抱き締めていたのはサンエーリ様で、私の手をネックレスごと握っているのはリーフ様。
勝手に頬が染まるのを感じながらシリー様を見ると、ニマニマしながらサンエーリ様とリーフ様を見てひと言。
「兄上に勝てるといいな~?」
「勝ちます。生きてティアからの゛大好き゛と゛愛してる゛を勝ち取りますから」
「俺達はこれからを積み上げていくんだから」
「精々頑張れ~。こんな可愛い娘が出来るのは賛成だ!馬鹿息子逃がすなよ?」
「逃がしませんよ。私達の唯一ですから」
ポンポン言い合いする三人に、私は苦笑してしまう。
私は逃げられないみたいです。
まぁ、逃げる気なんてないけど。
「もう、サンったらティアちゃんの独りいじめ禁止よ!さぁ、こちらでお茶にしましょう?お義父様も是非♪」
「いいな。私は濃い紅茶がいい」
「ティアは紅茶より、ハーブティーだよね?私もハーブティーで」
サンエーリ様とリーフ様が私を導いて、座らせてくれる。
ハーツとリーフ様は、私達の背後に佇んでいる。
私はネックレスをつけ直して、石の触れる感触に頬笑む。
「私達も用意しなきゃね。叔父上に負けないモノを」
「もちろん、もらってくれるよな?」
何時もより熱い視線のサンエーリ様とリーフ様に、私は言葉が見つからなくて頷く。
だって、こんな視線…今まで知らなかったから。
「フフフッ、これから色々楽しみね♪」
リーナ様の意味深な言葉に、何故か羞恥心が顔を出す。
こうして、私のエメラル国訪問はゆっくり時間が流れていきました。
大切な想いでを想いだしながら、新しい想いでも出来ました。




